メロディックなハイチの太鼓の秘密 アゾール [カリブ海]
昨日はあいにくの雨となってしまいましたが、ハイチ応援イヴェント第2弾
「ハイチの音を聴く ハイチの声を聞く ハイチの光を見る Vol.2」に大勢のお客さまをお迎えし、
大盛況で終えることができました。お越しいただいた皆様方、どうもありがとうございました。
北中正和さんとのレコード・コンサートでは、
ハイチ音楽の持つ豊かなクレオール性が浮き彫りとなるよう、
ヴードゥー音楽、シャンソン・クレオール、ビッグ・バンドによるメラング、
コンパ・ジレクト、コンパ、ミジック・ラシーンなど、
歴史を追いながらお聞きいただきましたが、いかがだったでしょうか。
ハイチの豊かな音楽遺産を語るには、1時間弱の持ち時間はあまりに短く、
説明が駆け足すぎてしまったかもしれません。申し訳ありませんでした。
そのかわり、というわけではありませんが、
今回はアゾールさんをお迎えしてハイチ音楽の貴重なお話を聞くことができ、
ぼくもいろいろ教わることが多く、大きな収穫となりました。
アゾールさんとのインタビューで一番驚いたのは、
なんとチローロと共演したことがあるということでした。
アゾールさんは1965年の生まれ。
チローロとは親子以上の年の差があるはずで、まさか共演経験があるとは予想だにしませんでした。
チローロはどんな人でしたかと訊ねてみると、
いかにも可笑しそうに含み笑いをするので、???と思ったら、
チローロはショウ・マンであったというのです。
チローロというと、天才的なヴードゥー・ドラマーというイメージが強くて、
エンタテイナーといった雰囲気を感じたことはなかったのですが、
ステージではかなりショウ・アップした演出もみせていたらしく、
意外なチローロの一面を知ることができました。
チローロは、ハイチ人なら誰でも知っている人間国宝級の人でありながら、
生年も没年も知られていません。
アゾールさんにも、いつ亡くなられたのかを聞いてみたところ、
う~ん、いつだったかなあ、だいぶ年も取っていたからねぇと、あいまいなお返事。
国が国なら、銅像があっても不思議のない音楽家ですが、
もちろんそんな碑のひとつも、おそらくハイチにはないでしょう。
偉大な音楽家が生前の偉業にふさわしい敬意を払われておらず、
人々の記憶にも残らずに忘れられてしまう、ハイチの貧しさの現実を垣間見たような気がしました。
次に、チローロばかりでなく、アゾールさんの太鼓にもいえることですが、
ハイチの太鼓は単にリズムを叩き出すというより、
メロディを奏でるようなドラミングを特徴としています。
それについてもアゾールさんに訊ねてみましたが、
メロディックであるということには、さして自覚的ではないご様子でした。
そのかわり、ヴードゥーの演奏では、
神々ごとにリズムを厳密に使い分けなくてはならないというお答えで、
そのリズム・フレーズこそに、メロディックな秘密があるようでした。
考えてみると、これはキューバのサンテリーア音楽の演奏にも共通していそうです。
実はイヴェントの始まる前、アゾールさんの太鼓を少しいじらせていただいたのですが、
意外だったのは、皮がとても薄いことでした。
キューバのコンガ(トゥンバドーラ)やアフリカのジェンベと比べても格段に薄く、
これなら高・中・低の3種類のトーンを叩き分けるだけでなく、
もっと多彩な音程を出すことも可能だと思えました。
じっさいちょっと叩いてみると、ミュートの加減を変えるだけで低音階が出ましたし、
叩く指の数を変えれば、ハイトーンの音階も自在に変えられそうです。
アゾールさんとのインタビューで、キューバのサンテリーアとの共通性を感じ、
あの太鼓の皮の薄さは、コンガやジェンベより、バタに近いことに思いが至りました。
太鼓の形が樽型のため、ついコンガやジェンベと比較しがちですが、
むしろ、バタやトーキング・ドラムに近い皮の薄さが、
あのメロディックなドラミングを可能とする秘密のようです。
Racine Mapou De Azor "RACINE MAPOU DE AZOR" Louis LR001317 (1994)
2010-05-24 00:25
コメント(4)
この度はお疲れさまでした。
お話、本当に興味深く解り易かったです。レコードをかけながら、こっそり小さく踊ってらした姿が印象的でした。Azorさんの歌と太鼓もとても心地よくて、初夏の雨と一緒にとても楽しめました。
お礼を含め、色々お話したかったのですが、場のサロン的な(?)雰囲気に妙に緊張してしまいまして早々に帰路についてしまいちょっと悔いが残っています。
またどこかでお会い出来ればと思います。
by たくと (2010-05-24 02:57)
お越しいただき、ありがとうございました。
3歳の頃からチローロの太鼓を真似して叩いていた身ゆえ、
ジッとしているのがとても苦手で、どうしてもカラダが動いてしまいます。^^
またあらためてお話ができるといいですね。今度、またぜひ。
by bunboni (2010-05-24 08:06)
この度は大変お世話になりました。
アゾール一行は25日に成田から無事出発しました。
当日は珈琲をいれ続けてて、レコードコンサートもインタビューもちゃんと聴けなかったのが心残りです。
太鼓のお話で、ハイチの人は形は同じでも山羊の皮を張ったものと牛の皮を張ったものを使い分けているみたいです。
もちろんアゾールは薄い山羊の皮を張ったものをいつも持ってきます。
一人でふたつ持ってきてたボンガ(ブークマンやララ・マシ-ンに参加してた)は両方を使ってました。
それをふたりで叩く時は牛の人がバッキング、山羊の人がソロっぽい役割になってました。
アゾールのラシ-ン・マポウ・デ・アゾーでは8人の太鼓が音色、リズム複雑に絡ませてアゾールはほとんど歌手で時々キメのフレーズを叩いたり、ソロを決めてました。
余談ですがボンガの言うにはチローロは腹上死だったんだよって言ってました。
by teshima@polepole (2010-05-27 12:17)
こちらこそ参加させていただき、貴重な機会となりました。
太鼓の皮が薄いなあと思ったのは、ヤギだったからなのですね。
ヤギ皮がソロ用、牛の皮がバッキングとのお話、納得です。
貴重な情報を教えていただき、ありがとうございました。
これからもよろしくお願いします。
by bunboni (2010-05-27 20:34)