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初期ライを味わいつくすCDボックス [中東・マグレブ]

THE POWERFUL SOUND OF RAI.JPGライのヒット曲を編集したコンピレはクサるほどあるので、
これもまた似たようなもんだろと思ったら、
とんでもなかったですね。
なんと、これまでなかなか
耳にすることのできなかった、
80年代のポップ・ライ成立直前の、
べルベル系音楽の色濃い初期のライが
4枚のディスクにたっぷりと詰め込まれた、
オドロキのボックスなのでした。

いやー、それにしてもびっくりしましたね。
初期のライがどんな音楽だったのかは、
ライの母シェイハ・リミッティから想像するくらいで、
なかなか実際の音で
聴くことができませんでしたからねえ。
エレキ・ギター、キーボード、ベース、
ドラムスなどの西洋楽器導入以前の、
ウード、ヴァイオリン、アコーディオン、
ベンディール、ダルブッカなどを伴奏にしていた初期ライというと、
ライのアンソロジーで数曲聴ける程度だったのが、
いきなりまとめて40曲の大盤振る舞いですから。

ぼくが初期ライをまとめて聴くことができたのは、
シェブ・ハレドが79年にアズワウに残した録音ぐらいのものです。
以前の記事にも書いたことがありますけれど、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2010-02-03
アコーディオンとパーカッションに、サックスもしくはヴァイオリン数台が加わる伴奏で、
電気楽器がいっさい入らないルーツ・ライのサウンドが新鮮でした。

しかしこのボックスを聴いたら、あのアズワウ録音なんて、もう聴けなくなっちゃいますね。
正直、アズワウ原盤の演奏はかなりショボく、録音もお粗末なものでした。
それに比べて、このボックスの原盤であるクレオパトラの伴奏陣の実力は、
アズワウとはケタ違いで、音質もこちらの方が極上です。
じっさい、シェブ・ハレドの録音を聴き比べてみれば歴然で、
このボックスに収録されたシェブ・ハレドのトラックはどれも素晴らしいものばかり。
シャバ・ザフアニアとのデュエット曲も最高です。

婆さん声でしか知らなかったリミッティの円熟した歌いぶりが聞けるのも、また聴きどころといえます。
数あるリミッティの逸話もなるほどと納得させる、
エロティックな艶女ぷりに圧倒されることウケアイです。
ほかにも、初期ライの重要人物といわれるムハメッド・ベルハヤティのベルベル色の濃い曲や、
アルジェリアン・シャアビにしか聞こえない曲まで、ルーツ・ライの多様性がてんこ盛り。
一方、ポップ・ライにもっとも近付いたサウンドを聞かせるのに、
シフ・ムハメッドやフワリ・ベンシュネットがいます。
オルガンやドラムスを使っていますが、ヴァイオリンを全面にフィーチャーしているので、
いわゆるエレクトリックなポップ・ライとはひと味違うサウンドが楽しめます。

クレオパトラ原盤のこれらの録音がどのようにして残されたのかを知りたいところですが、
英・仏・西・伊の4カ国語付きのライナーには、
ライの一般的な説明が書いてあるだけで、突っ込んだ解説はまるでなし。
ボックスらしからぬ破格の廉価盤なので、まー、仕方ないですかねえ。

『パワフル・サウンド』とかいい加減なタイトルが付いていて、
そうと知らなければ、ちらと横目にして無視してしまいそうなボックスですけど、
プレ=ポップ・ライ時代といえる初期ライを味わいつくせる上物です。
ライのファンばかりでなく、アラブ・アンダルース音楽に関心のある方にもぜひ。

V.A. "THE POWERFUL SOUND OF RAÏ" Membran Music 223696-356
コメント(2) 

コメント 2

アルバイテン

これ、本当にビックリしましたー!価格もさることながら、内容は更に凄かったです。近年のエレクトリックなポップ・ライくらいしかまともに聴いたことのない僕は、迷宮のようなマラケシュの街路に迷い込み、頭クラクラ。一周徘徊した末に「ライって何やったかな?」となりました(笑)。それはもう本当に素晴らしい酩酊。こんな音楽となら、一生かけて彷徨い続けたいです。そうそう、以前bunboniさんに教えていただいたコリントン・アインラも強烈でした。愛聴しています。ありがとうございます!
by アルバイテン (2011-06-30 08:35) 

bunboni

リミッティ・スタイルのルーツ・ライばかりでなく、
シャービやガルビなどいろんな音楽が渾然一体となったのが
ポップ・ライだったんだなと実感できるボックスですね。
ライがハイブリッドな音楽だったことの証明でしょう。
オラン製の粗製濫造なボロ・カセット時代の80年代録音と違って、
ちゃんとレコーディングされた録音だというところも魅力です。
by bunboni (2011-06-30 22:15) 

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