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お悔やみ 中村とうようさん [その他]

ラテン音楽入門.JPGまさかこんなに早く、
お別れをしなければならなくなるとは、
想像さえしませんでした。
4日前の月曜日、武蔵野美術大学で会期中の
「中村とうようコレクション展」を
見に行ってきたばかりで、
なんと言ったらいいのか、
胸がつまって言葉になりません。

ぼくは中村とうようさんに、
物心もついていないころから影響を受けていました。
ぼくばかりでなく、ぼくと父の親子二代で、
とうようさんのお世話になっていたのです。

昭和30年代のことです。ラテン音楽ファンだった父は、
とうようさん初の著書『ラテン音楽入門』を片手に、
ラテンのレコードを買い集めていました。
当時2歳だったぼくは父がかけるレコードが大好きで、
ソノーラ・マタンセーラやペレス・プラードにあわせて、
毎日夢中になって踊っていたのでした。
父は『ラテン音楽入門』に推薦盤として書かれていたチローロのクック盤も入手し、
小学校低学年の頃には、チローロのレコードに合わせて太鼓を叩くのが日課でもありました。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2009-06-14
そんな小学生なんて、全世界探したって、ぼくのほかに誰もいなかったでしょう。

そしてとうよう編集長の『ニューミュージック・マガジン』を読み始めたのは、
ようやく中学二年生になった72年の4月号からでした。
TBSラジオの「中村とうようのブルースの世界」も夢中になって聴きましたし、
ブルース・ブームを皮切りに、とうようさんの音楽の旅に誘われるように、
レゲエ、サルサ、サンバ、アフリカ音楽と、世界の音楽の扉を開け続けていきました。
音楽とは無縁な会社員となってからも、音楽への好奇心は止まることなく、
86年の名著『大衆音楽の真実』もどのくらいむさぼり読んだか、わかりません。

そんなとうようさんに初めてお会いしたのは、話は前後しますが、
大学生の時分、永田さんのお店ディスコマニアだったと記憶しています。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2009-10-12
その後勤め人となってからは、赤坂のトレビ、銀座のむとす、青山のかんかんといった
プリミティヴ・アート・ギャラリーで、
ちょくちょくとうようさんとすれ違うようになりました。
とうようさんもぼくも、アフリカの楽器や仮面が好きだったからなんですが、
とうようさんが狙っていた楽器を、
そうとは知らずにぼくが先に買ってしまったことがあったり、
そんな縁もあって、89年に季刊『ノイズ』第4号の
「楽器の美」というコーナーへ寄稿を依頼され、
ぼくにとって初原稿となった「アフリカの楽器に魅せられて」という記事を
書かせていただいたことも忘れられません。

あれから20年。はじめて書き上げた単行本『ポップ・アフリカ700』の書評を、
とうようさんにいただけるなんて、思いもよらないことでした。
とうようさんの書評をいただけるだけでも感無量なのに、
冒頭いきなり「これは他の追随をまったく許さない名著だ」の言葉を見つけた時は、
本当に卒倒しそうなほど、驚きました。
あの書評をはじめて本屋で読んだ時の、全身が震えるような感動は、いまも忘れられません。
「熱意と誠実さ」という言葉で拙著を表現してくださったのは、
ぼくの生涯の誇りとなりました。

父がバイブルのように大切にしたとうようさんの『ラテン音楽入門』は、
ぼくが高校生の時に譲り受け、今も大切に保管しています。
幼い頃ぼくがいたずらをして、カヴァーはなくなり、背ははがれ落ちているうえ、
色鉛筆でいたずら書きはしてあるわ、ページのあちこちが破れているわで、
ぼろぼろなんですけど、だいぶあとになって古書で見つけた美本よりも、
親子二代のかけがえのない思い出がこもった本なのです。

とうようさん、ほんとうにありがとうございました。どうか安らかにお眠りください。

中村とうよう 「ラテン音楽入門」 音楽之友社 (1962)
コメント(12) 

コメント 12

dai626ku

わたしも月曜日に武蔵美で、とうようさんに会ったばかりなので、なんと言って
いいのか判りません。ただウチとソトに沢山の種を蒔いてくれたことに感謝する
ばかりです。
by dai626ku (2011-07-22 07:59) 

bunboni

同じ日にいらしてたんですね。
まだ正直信じられなくて、呆然としています。
天寿を全うして欲しかった、それだけが残念でなりません。
by bunboni (2011-07-22 22:20) 

ペイ爺

かなり昔、真夏の夜、酷暑の広場で行われた河内音頭の河内家菊水丸のコンサートで、楽しそうに微笑む中村とうようさんを拝見したことがあります。

その時のとうようさんは、見目にも涼しげでお洒落な感じの白いパンタロンを穿いていました。

“MUSIC MAGAZINE” 誌上での、例えば1976年、当時の新作 Jeff Beckの“Wired”の高い評価など印象深いものでした。

1980年代半ばKing Sunny Ade“Synchro System”のライナーの結語は「『シンクロ・システム』が世界で正当な評価をうけるようであれば、われわれの時代の音楽は明るい未来を持っている。」でした。

とうようさんのSOUP RECORDS 、 Gapura の1984年リリース “Degung Instrumental"、大好きで今でも良く聴く愛聴盤です。
by ペイ爺 (2011-07-22 22:30) 

bunboni

とうようさんに導かれた音楽ファンおひとりおひとりに、
いろいろな感慨があるでしょうね。
by bunboni (2011-07-22 22:46) 

Niam niam

昨朝、日経新聞の社会面でこのニュースを知り絶句してしまいました。高校から大学にかけて世界中の聴いたこともないそれでいて心を揺さぶる音楽に触れるきっかけを作ってくれたのは全てとうようさんと言っても過言ではありません。当時田舎に住んでいた私はバイト代を貯めては上京し、銀座でとうようさん主催のDJを聴いてからレコード買って帰るのが楽しみでした。レコードの入手方法など田舎者の私に丁寧に教えて下さったこと今でも忘れません。心より御冥福をお祈りします。
by Niam niam (2011-07-23 05:37) 

bunboni

テクニクス銀座でしたっけ?
「とうようのレコード寄席」ですよね。
by bunboni (2011-07-23 14:24) 

t-42

ほんとうに衝撃的なニュースでした!
むかし、レコ・コレ誌のジャイヴ音楽特集で、
ジャイヴ音楽の対談をさせて頂いたときのことは、
いまも脳裏に焼きついております。

最後に電話でお話をしたのは半年ほど前だったでしょうか。
「あ、中村です・・・」というお声が今も聴こえてきそうです。
心からご冥福をお祈りします。
by t-42 (2011-07-23 16:25) 

bunboni

レコード・コレクターズ第4号の「ジャイヴ・ミュージックの研究」ですね!
対談で出てきたレコードを、ぼくもずいぶん探したものです。
あの対談は本当に勉強になりました。
by bunboni (2011-07-23 16:39) 

ケンジキエン

とうようさん、凄く影響を受けました。オーディブックとかとうようさんのプロデュースのコンピレ、ほとんど買って聞きこみました。今でも、クロンチョン入門とかよく聞きます。個人的に声をおかけする機会はなかったけど、聴きに行ったパレスチナ支援コンサートで某〇橋氏のパフォーマンスをやじり倒す人がいたので、誰かと思ったらとうようさんだったり、一度だけお邪魔したニューミュージックマガジン社の編集部で、一人黙々と何か書いていらっしゃいました。自分で自身の人生に自分の意思でけりをつけたっかたのでしょうか?私たちの偉大な水先案内人だったとうようさん、ご冥福をお祈りします。
by ケンジキエン (2011-07-24 01:28) 

bunboni

そうですね。ご自分の最期もご自分で始末をおつけになりたかったのだと思います。

by bunboni (2011-07-24 08:06) 

ケンジキエン

今日、ミュージックマガジンの最後のとうようずトークを読みました。思った通り、ご自身の生を自身でけりをつけるための最後だったようですね。とうようさんらしいとも思う一方で、やはり、どこかにわりきれぬ悔しさも残ります。だって、世界にはまだこんなにも素晴らしい音がたくさんあるじゃないですか。とうようさんは僕等とは比べることもできないほど、色々な音楽に接していたに違いありません。だからと言って、それらに飽きた、もう必要ない、そんな気持ちには絶対なっていなかったと信じたい。だとすれば、どうしてこうした音がとうようさんをこの世に引き止めなかったのか。
もう少し、とうようさんのことを考え続けたいとおもいます。
by ケンジキエン (2011-08-24 21:22) 

bunboni

こんなにおだやかで、柔らかな語り口のとうようズ・トークは、初めてじゃないでしょうか。
読むまでは気持ちがずいぶんと身構えていたんですけど、
読みながらとうようさんがご自分の人生に満足していたことが実感できて、
やっとホッとできたというか、ようやく自分の心が落ち着けられたように思います。
by bunboni (2011-08-24 22:03) 

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