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疑惑の回転数 [北アメリカ]

Robert Johnson THE CENTENNIAL COLLECTION.JPG

噂のロバート・ジョンソンの『ザ・センテニアル・コレクション』、
ついに買っちゃいました。
リマスタリングのたびに買い直してたらキリがないんで、
ワタシャ、最初の90年のコンプリート集ボックスで十分と思ってたんですが、
「旧版と音がぜんぜん違う!」の評判に負けてしまいました。

で、皆さんがおっしゃるとおり、ほんと、これはぜんぜん違いますね。
まるで目の前でロバートが歌っているような生々しさに、カンゲキしちゃいました。
SPからおこしてるのに、なんでこんなに音質を改善できるんでしょうか。
LP時代のメタル・マスターが発見されたとか聞きましたけど、それを使用したんですかね。

さて、もうロバートに関してこれ以上のオドロキはあるまいと思っていたら、
音質改善どころでない大事件が発覚。
なんとこれまで聴いていた録音の回転速度は正しくなく、
速回しでピッチの高くなったロバートの歌を聴いていたという話が出てきたのです。
そこで回転数を修正したというサンプル音源を聴いてみて、びっくり。
たしかに、こちらの方がはるかにリアルです。

この事実を発見し、ウェブ・サイト「戦前ブルース音源研究所」で
さまざまな音源を発表されているのが、山本俊さんと菊地明さんのお二人。
このサイトでは、ロバート・ジョンソンばかりでなく、
ブラインド・ウィリー・マクテルやハーレム・ハムファッツなどの修正音源も
聴くことができるのですが、どれも耳からウロコ(?)の驚愕もの。
長年「鼻にかかった甲高い声」なんて形容されていたマクテルの修正音源には、
ガクゼンとするほかありません。

お二人はSP盤の溝のひとつひとつを数え、
(マクロで盤面を撮った写真を、フォトショップで画像拡大して数えるという地道な作業!)
溝と溝の幅(トレイス・ピッチ)から本来の音程を計測するという、
気の遠くなるような作業を経て、検証されているのだから頭が下がります。
お二人の研究成果によると、本来の78rpmで録音されていなければならないところ、
72rpmから90rpmまでの誤差で録音されている事実が明らかにされています。
ちなみに4.5rpm違えば半音近い誤差が生まれるというのですから、
なるほど、これじゃ「疑わしきソプラノ・ブルース」となるのも当たり前の話です。

お二人の画期的な偉業といえる研究のおかげで、
途端にぼくの積年の疑問が湧き上がってきてしまいました。
というのは、戦前録音のジャズ、カリプソ、ビギンなどの録音で、
明らかにピッチがおかしいものがたくさんあることです。
すぐ思い浮かぶだけでも、シドニー・ベシェ、
アッティラ・ザ・フン、アレクサンドル・ステリオの録音で、
速回しとしか思えない不自然なものが多くあります。

トレイス・ピッチ可変の研究が進めば、ブルースに限らず、
多くの戦前録音の本当の音を聴くことができる日も近い。
これは、ドキドキ、ワクワクでっす!

Robert Johnson "THE CENTENNIAL COLLECTION" Columbia/Legacy 88697 85907 2
コメント(7) 

コメント 7

ZawaJawa

そうだったんだ。びっくりしました。
写真でも、カラーチャート写し込んで撮影、更に調整されたモニターで現物を見較べながらPhotoshopでカラーチャートの値と目視で調整してData作りますが(物等の時)、それでも最後は人間の記憶色で修正されるし.........。
我が家もカーチャンに頼んで買い替えか(謎) 
DJ用のCDターンテーブルだと再生ピッチ変えらのかな? そしたらそれでも良いのかな?
何かご存知ですか?
by ZawaJawa (2011-07-26 09:32) 

bunboni

正しいrpmがわからないことには、可変式のターンテーブルやPCソフトがあったところでダメでしょう。
まだお二人が取り組んでおられるのも、仮説の段階だから、
今後の研究が進むことを期待して待ちたいものです。
菊地さんの実証にかける熱意には、ほんと頭が下がるばかりで、
ここ十年くらいで、ぼくがいっちばん興奮した音楽研究であることは間違いありません。
by bunboni (2011-07-26 21:19) 

ZawaJawa

なるほど。
でも、こうゆう仮説からの過去の研究面白い。
とても勉強になりました。



by ZawaJawa (2011-07-26 23:12) 

Niam niam

雑誌で記事を読んだ時はふーんって感じだったのですが、実際に聴いて見てホントにびっくり。この音の生々しさだけでも仮説が正しいことを十分実証している様に思います。音響機器の少ない時代だったからこそミュージシャン達は自分の耳を頼りに正確にチューニングしていたと思いたいですものね。何年先になるか分かりませんが、またまたコンプリート盤を買い直さなければならない日が来るかもしれません。楽しみです。
by Niam niam (2011-07-29 06:16) 

bunboni

そうなんです。実際に聴くと、びっくりですよね。
お二人はブルースにしか興味がないようですけど、
あらゆるSP録音が疑惑なわけで、ぼくにとっては大事件です。
by bunboni (2011-07-29 06:42) 

ナックル

戦前ブルース音源研究所 なんてサイトがあることじたい知りませんでした。
で、実際聞いてみると、これは大変ですね!
ギターが切り込むタイミングの妙、歌声、特に語尾の繊細さ、まったく別物じゃないですか!
修正版を聞いてしまうと、現行の音源が捨て鉢な音楽に聞こえてしまいます。
ソプラノ歌謡曲にソプラノジャズ、いわれてみればSP音源はほとんど疑わしいですね。
もうわけ分からなくなってきました。
by ナックル (2011-07-30 00:27) 

bunboni

この研究、趣味のレヴェルにしておくにはもったいなさすぎで、
学位論文になる内容だと思うんですが。
もっとも、ご本人にそんなアカデミックな興味はないのかもしれませんが。
by bunboni (2011-07-30 00:44) 

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