典雅な息づかい 陳潔麗 [東アジア]
アルバム出だしの第一声で、魂を持っていかれてしまう歌手がいます。
去年出会ったヴェトナムの女性歌手ハ・ヴィがそうでしたけど、
今度は陳潔麗(リリー・チェン)という中国の女性歌手にヤラれてしまいました。
戦前上海歌謡のトップ・シンガー周璇(チョウ・シュアン)をカヴァーした、
09年のアルバム『儂情』での、つぶやくようなそのひそやかな歌声。
歌い込むことをまったくせず、柔らかな美声でアルバム1枚通して歌ってのける才能は、
まさしく彼女が天才肌の歌手であることを示しています。
周璇というより、テレサ・テンに匹敵する典雅な歌いぶりに、思わず息を呑みました。
周璇のカヴァーといえば、1月に林寶の新作を話題に取り上げたばかりですけど、
『上海歌姫』より2年も前に、こんなアルバムが出ていたんですねえ。
林寶の『上海歌姫』がノスタルジック趣味を強調した企画作だったのに比べ、
こちらは本格的な歌謡アルバムとして淡々と力の抜けた歌唱を聞かせ、トロけさせられます。
「永遠的微笑」では、卵白を泡立てたメレンゲを見るような、
キメ細かなツヤのある気泡を思わせる歌声に、ただただ溜息が出るばかり。
ピアノ伴奏の「四季歌」やハープ伴奏の「沿途愛」での発声の息づかいなど、
目を閉じ、全神経を集中して聴かずにはおれない美しさです。
アルバム名義で陳潔麗よりも前に名を連ねる香港の名アレンジャー、
鮑比達(クリス・バビダ)によるコンテンポラリーなプロダクションもセンス良く、
ミュート・トランペットをフィーチャーし、アフタービートで軽やかに仕上げた「何日君再来」や
ボサ・テイストの「夜上海」のアレンジなど、イヤミなくサラリと仕上げています。
陳潔麗の新作はテレサ・テンのカヴァー集と聞き、
さっそくオーダーしてみました。
正直言って、テレサをカヴァーした女性歌手の曲を聴いて、
これまで気に入ったためしなど一度たりともなく、
この人ならと見込んだってわけですが、
いやあ期待どおりというか、まいりました。
ピアノ、ギター、ベース、ドラムスのジャズ・カルテットを
バックに歌っているんですけど、
テレサ・テンの曲を真正面から取り組んで
感心させられたのは、これが初めてです。
『儂情』のライヴ盤2枚組DVDと
カップリングのスペシャル・エディションで、
ライヴの歌声も聞かせてもらいましたが、
その歌いぶりはスタジオ録音と寸分違わないんですね。
抑制の利いた歌いぶりが
完全にコントロールされたものであるとわかり、舌を巻きました。
すごいシンガーです。
それとライヴで印象的だったのが、彼女のMC。
落ち着いた歌声に比べ、地声が小鳥のさえずりのような愛らしいハイ・トーンだったのは意外でした。
鮑比達×陳潔麗 「儂情」 Passion Music PM09801-2 (2009)
陳潔麗 「LILY SINGS TERESA : LIVE IN HONG KONG / 儂情演唱會」 Passion Music PM09803-5 (2011)
2012-03-26 00:00
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