マジメが倒錯したエキゾチシズム ニッポンジャズ水滸伝 [日本]
こりゃスゴイ!
戦前インディーズ洋楽ポップを集大成した、画期的な復刻4枚組の登場です。
昭和初期の洋楽録音を、大手レコード4社以外のインディ・レーベルの音源から集め、
①ジャズソング②ジャズバンド③「ダイナ」カヴァー④書生節系ジャズソング
⑤端唄・民謡のジャズ化という5つのテーマで編集しているんですね。
やたら「ジャズ」の名が出てきますけど、もちろん北米黒人音楽のジャズを指すものではなく、
アフリカン・ポップスでおなじみ「ベンベヤ・ジャズ」「TPOKジャズ」「シラティ・ジャズ」と同義の、
「舶来音楽」という意味です。
すでにCD化された『日本のジャズソング』でも和製ジャズソングスを楽しめますけど、
こちらはジャズソングにとどまらず、タンゴ、ルンバ、ブルース、フォックストロット、パソドブレなどと、
より幅広に舶来音楽を吸収した曲を聴けるのが魅力です。
当時こんな舶来音楽で社交ダンスに興じたのは、都市の一部エリート層だったんでしょうけど、
より大衆好みなところでは、書生節や端唄、民謡と和洋折衷した曲も多数収録されています。
108ページに及ぶブックレット含め、今年のベスト・リイシュー・アルバムはこれに決まりでしょう。
それにしても感じ入るのは、演奏技術の高さと、職人気質を思わせる演奏ぶり。
歌手のほとんどが音楽学校の発声法なのは、この時代らしいところですけれど、
なかには素性知れずの歌手が抜群にスウィンギーなスキャットを聞かせたりと、あなどれません。
ニットーリズムボーイズの「戀人がほしい」など、「山寺の和尚さん」と双璧のスキャット名演です。
和洋合奏のインスト演奏にもコミカルな味わいがあって、
なおかつ、あっけらかんとした表情が同時に味わえるところが妙味ですねえ。
民謡とジャズを折衷しようとしているところなんて、日本人のマジメさがよく出ているというか、
メロディは一所懸命まねてるんだけど、リズムがまるっきりグズグズというアンビバレンスが面白い。
マジメが倒錯して、無意識・無防備なままにエキゾチシズムがさらけ出されているというか。
昔は単純に、「だから日本人はリズムがダメ」みたいな理解をしていましたけど、
洋楽と邦楽の越えがたい溝に、今は面白味が感じられるんですよね。
三味線とアコーディオンによるウエスターン三味線アンサンブルが演奏する
「私の青空」「おゝスザンナ」「ダイナ」なんて、リズムの稚拙さを越えた妙味があります。
和洋折衷で「洋」への傾き度合いが強くなるほど、
リズムが弱く、頭でっかちな演奏に聞こえますけど、
「和」への傾き度合いが強くなると、今度はぐっと奔放な自由さをみせるようになります。
その代表例が演歌師とジャズバンドの共演で、
東一聲が歌う「アラビヤの歌」「青空」のアナーキーぶりは驚愕もの。
石田一松の「濱邊の唄(ハレルヤ)」も、強烈の一語に尽きます。
和洋折衷のさまざまな実験が繰り広げられていた、ユニークなインディ録音が満載で、
ここには収めきれない名演名唱の数々も、まだまだあるんでしょうねえ。
輸入音楽を日本人はどのように受容してきたのかという歴史を知り、
またその受容の程度にさまざまな味わいがあることを教えてくれる、
聴きどころ満載のアンソロジー、ぜひとも続編を期待したいです。
美空ひばりの「チャルメラそば屋」や生田恵子の「バイヨン踊り」をカヴァーした、
キウイとパパイヤ、マンゴーズのリーダー廣瀬拓音さんにも、ぜひ聴いてもらいたいなあ。
きっといいアイディアが、このアンソロジーから見つかると思いますよ。
V.A. 「ニッポンジャズ水滸伝 天之巻」 華宙舎 OK3
2012-05-25 00:00
コメント(2)
聴きます!!
先日はCDR有り難う御座いました!
by たくと (2012-05-27 01:34)
KPMのレパートリーにできそうなネタ集としてだけでなく、たくとさんの含蓄の深い和魂洋才のアンテナにひっかかるアイディアがいっぱいあると思います。
by bunboni (2012-05-27 09:46)