グローカルでないポップスをめざして モリ・カンテ [西アフリカ]
幇間(ほうかん)と呼ぶのが、ぴったりだなあ、この人は。
美女を前に呆けたような顔をみせるモリ・カンテ。
女性礼賛というマジメなテーマの新作で、こういうC調なジャケットをあしらうところに、
モリの芯の通った芸人気質のようなものを感じます。
モリ・カンテがグリオ出身であることはよく知られていますけれど、
一口にグリオ出身の歌手といってもいろいろで、
マリのカッセ・マディのような教訓や道徳を語る、威厳に満ちた神聖な音楽家タイプのグリオもいれば、
モリ・カンテのような太鼓持ちの芸人タイプもいます。
あ、勘違いしないでくださいね。
カッセに比べてモリを見下してるわけじゃなく、タイプの違いを言ってるだけのことですからね。
モリが87年の「イエ・ケ・イエ・ケ」で、アフリカン・ポップス史上初のミリオン・セラーを上げたのは、
そんなパトロン(お客さま)第一主義の芸人根性があったからこそで、
プライドが高いタイプのグリオじゃできない芸当だったってことです。
「イエ・ケ・イエ・ケ」のディスコ・ヴァージョンに顔をしかめたアフリカ音楽ファンも、
04年のアクースティックな伝統回帰作“SABU” には絶賛を惜しみませんでしたが、
華やかなホーンに彩られた1曲目から
躍動感いっぱいのマンデ・ポップが飛び出す本作も、歓迎されそうです。
コラやバラフォンのほか、ジェンベやドゥンドゥンなどのパーカッションの生音をいかしたところなど、
かつてのエレクトリック過多なワールド・ミュージック時代のサウンドとは大違いで、
レゲエやラテンをさらりと溶け込ませた手腕にも、マンデ・ポップの深化を感じさせます。
パリの敏腕プロデューサー、フィリップ・アヴリルが手がけた、メジャー感溢れるきらびやかなサウンドに、
こういう王道ポップなアフリカン・ポップスをもう何年聴いてなかっただろうと、
思わず考えこんじゃいましたね。これほどハイ・クオリティの作品でなくても、
こういうフツーのアフリカン・ポップスが姿を消してしまったのは、どういうことなんでしょうか。
一部の特殊な音楽ファンだけではなく、一般の音楽ファンが非西欧のポップスを普通に楽しむ、
ワールド・ミュージックの時代がもはや遠い過去のものとなり、
非西欧のポップスは、グローカルなもののみピン・ポイントで
スポットを当てられるだけのものになってしまいました。
アフリカン・ポップスがまたしても、好事家相手の音楽へと後退してしまったように感じてなりません。
モリのヒット曲で世界中の若者がディスコで踊ったなど、今からは夢のような話で、
いまや話題を呼ぶ欧米制作のアフリカン・ポップスは、貧困と障害を強調した作品ばかりという、
アフリカン・ポップスの売り方のイビツさを感じずにはおれません。
アフリカン・ポップスの王道は、貧乏グローカルなんかじゃなく、
モリの新作のように、中間層の大衆音楽であるはずなんですけどねえ。
[蛇足的余談]ところで日本盤タイトルの『ラ・ギネーニャ』って、何語ですか???
フランス語読みなら、『ラ・ギネエンヌ』だと思うんですけど。
ついでに、英語読みで「ギニア」と書くのもやめましょうよ。
「ギネア」はフランス語圏なんだから。
Mory Kanté "LA GUINÉENNE" Discograph 6149842 (2012)
2012-07-18 00:00
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