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インプロヴァイズするギター・ピッカー ケリー・ジョー・フェルプス [北アメリカ]

20120722_Kelly Joe Phelps_Western Bell.JPG

ラップ・スライドのスタイルでカントリー・ブルースを歌う
フォーキーなシンガー・ソングライター、
そんなケリー・ジョー・フェルプスのイメージががらっと変わったのは、
前作の“WESTERN BELL” でした。

それは全編即興という、アクースティック・ギター・インスト・アルバムで、
アヴァンギャルドな音使いを交えたそのギター・ソロは、
ジョン・フェイヒーを思わすユニークなもの。
美しいメロディにアブストラクトな音が散りばめられ、
実験的ともいえる演奏を繰り広げていたのには驚かされました。

この人、一体どういう人なんだろ?と思ったら、
80年代にはジャズ・ベーシストとして、
オレゴンのポートランドでフリー・ジャズを演奏していたのだとか。
ところがその後カントリー・ブルースに興味をもち、
90年代にギターに転向したんだそうで、
フリー・ジャズから、カントリー・ブルースや
マウンテン・ミュージックへと関心が跳んだというのも
ずいぶんユニークな話ですけど、そのフリー・ジャズ時代に修練したと思われる
インプロビゼーション表現の豊かさが、この人の強みとなっていますね。

ラルフ・マクテルやブルース・コバーンを思わせる名人芸級のフィンガー・ピッキングが
硬質なリリシズムを溢れさせ、さらにそこに不可思議な不協和音が入りまくり、
これまでに聴いたことのない世界へとリスナーをいざなうんですね。
この感覚はちょっと比類のないもので、
ラルフ・タウナーやエグベルト・ジスモンティが苦手なぼくでも、
ケリーのギターの美しい響きと、あらぬ展開をみせる即興には、静かな興奮をおぼえました。
ケリーの即興は、フリー・ジャズというより、
インドのラーガに近いものを感じるんですけど、どうでしょう。

20120722_Kelly Joe Phelps_Brother Sinner And The Whale.JPG

このアルバムを知った後に来日していたことを知り、ありゃ残念と思っていたんですが、
新作のプロモーションで3年ぶりに、また日本へやってきてくれました。
新作は古いブルースやフォークをベースとした歌ものアルバムで、
レヴァランド・ゲアリー・デイヴィス、ブラインド・ウィリー・ジョンソン、
ミシシッピ・ジョン・ハートのスタイルを借りたギター・ピッカーぶりが楽しめます。

一時期弾くのを止めていたスライド・ギターをたっぷり演奏しているのも、
今作の聴きどころですね。
サム・ピックやフィンガー・ピックを使わず、指の腹でギターの弦をはじく、
やわらかいタッチのケリーのプレイを間近に観てきましたけれど、
繊細で熟達したプレイが鮮やかでした。
ずっと目をつぶって歌っていて、シャイな人なのかなあ。渋いヴォーカルも味があります。
曲のタイトルを紹介する以外はただもくもくとギターを弾き語る、
ケリーの寡黙な人柄が伝わってくるステージでした。

Kelly Joe Phelps "WESTERN BELL" Black Hen Music BHCD0053 (2009)
Kelly Joe Phelps "BROTHER SINNER AND THE WHALE" Black Hen Music BHCD0070 (2012)
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コメント 2

ホシナ

前回の来日時に観たときは、下を向き頭を揺らし「ん~ん、ん~ん」と唸りながら演奏するので何かの儀式に参加しているかのようでした(笑)今回もこのような感じだったのでしょうか?

ライヴではアレンジを随分と変えているので初めは何を演奏しているのか分からないのですが、途中から「あぁ、これね...」といった状態で、そこが癖になり、ずぶずぶと引きずり込まれる恐ろしい魅力を放つ方でしたから、今回観られなかったのは残念で仕方ありません。
by ホシナ (2012-07-27 23:12) 

bunboni

あ、まさにそういう感じでした。自分の演奏に没入するタイプの人ですね。
神経質な人なのかも。
by bunboni (2012-07-27 23:19) 

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