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舶来の薫りに交じる父の追憶 [日本]

戦前モダン・ミュージック集 VOL.1 -瀬川昌久秘蔵コレクション-.JPG

洋楽に影響された戦前日本のポピュラー音楽の掘り起こしが、本格的に進んできましたね。
舶来音楽の戦前インディーズ録音を編纂した『ニッポンジャズ水滸伝』の
続編『地之巻』も大労作でしたけど、今回取り上げたいのは、こちら。

瀬川昌久さん秘蔵のコレクションを蔵出ししたという編集盤なんですが、
これが選りすぐりの曲を揃えていて、聴きどころ満載なんです。
どちらかといえば『ニッポンジャズ水滸伝』が曲そのものの魅力より、
その曲が録音された時代背景に興味をかきたてられる内容であるのに比べ、
こちらはストレイトに、音楽そのものに惹き付けられるコンピレとなっているんですね。

コロムビア・オーケストラを中心に、コロムビア専属のミュージシャンによる演奏を
選曲しているんですが、あらためて当時の彼らの音楽水準の高さにうならされます。
冒頭のヴィック・マックスウェル楽団という変名で録音した
ラファエル・エルナンデスの「ルンバ・タンバ」なんて、
レクオーナ・キューバン・ボーイズのオリジナルを凌ぐんじゃないでしょうか。
この曲や「マリネラ」での服部良一のアレンジは、当代随一でしょうねえ。

ワイキキ・セレネーダスによるアンドリュー・シスターズの「素適なあなた」も、
スウィンギーなスティール・ギターのソロに、ノックアウトをくらいました。
スティール・ギター奏者の山崎彰彦は、灰田晴彦の弟子だとのこと。
戦前日本のハワイアンは、ほんとにレヴェルが高かったんですね。

ハワイアンといえば、カルア・カマアイナスを聞けるのが、個人的にちょっと面映いかな。
主要メンバーが華族の師弟という上流階級のおぼっちゃまバンドで、
アマチュア学生によるハワイアン・バンドとして、当時一世を風靡したんですが、
実はメンバーの芝小路豊和さんと原田敬策さんが、父と親しかったんです。

父と学校は違ったものの祖父の関係で知り合い、学年が一緒だったかで意気投合し、
たしか父がウクレレを教わったのも、原田敬策さんだったはず。
戦後も付き合いは続き、ぼくはお二人のほかカマアイナスの他のメンバーとも、
何かの集まりでお会いしてるようなんですが、残念ながら覚えていません。

カルア・カマアイナスの思い出話は父からいろいろ聞いただけに、
他人のような気がしないんですよねえ。
ここでの選曲がハワイアンでなくタンゴというのはユニークで、
スティール・ギター入りの「エル・チョクロ」が聴けるのは、なんとも珍味です。

そして今回の選曲で一番嬉しかったのは、
日本のエディ・ラングとぼくがみなしている、角田孝をフィーチャーしていること。
「スペインの女」のバンジョーも聴きものなんですけど、なんといってもスゴいのが、
チャーリー・クリスチャンばりの単弦ソロを聞かせる「東京ブギウギ」。
こればかりは戦後の53年録音ですが、戦前からのスター・プレイヤーである角田が弾いた
「東京ブギウギ」のインスト・ヴァージョンがあったなんて知りませんでした。カンゲキです。

また、「ブギウギ」と「バップ」の混成語を曲名と歌詞に織り込み、
スキャットをフィーチャーした「東京ブパッピー」も痛快です。
流行歌にバップを取り入れようとした先取りセンスは、さすが服部良一ですねえ。
もっとも先を行き過ぎていて、当時のリスナーには理解されなかったようですが、
新し物好きの胃袋の強さにほとほと感心させられます。

V.A. 「戦前モダン・ミュージック集 VOL.1 -瀬川昌久秘蔵コレクション-」 ブリッジ/コロムビア BRIGE216
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