50年代のゼキ・ミュレン [西アジア]
ここ数年、トルコ古典歌謡サナートの女性歌手が次々とデビューし、
ちょっとしたブームになっていますね。
古典声楽のスタンダードばかりでなく、新作古典も多く書かれ歌われているところに、
サナートが時代とともに更新され、息づいていることを実感します。
最近の女性歌手の愛聴盤がよりどりみどりあるとはいえ、
サナートで一番深い満足感を得られるのは、やっぱりゼキ・ミュレンですね。
ゼキを聴いていると、基本のキに戻れるような安心感を得られます。
日本に初めてゼキ・ミュレンのCDがどどっと入ってきたのは、90年のことでした。
顔のデカいおっさんが女装しているという不気味ジャケが強烈で、
これがトルコの大歌手なのかとビビりながら聴いたもんでしたが、
当時入ってきたCDはほとんど晩年のものだったので、あまり好きにはなれませんでした。
歌がめちゃくちゃ上手いのはわかるんですけど、大スター然とした下世話な歌い方が、
イヤらしくなった美空ひばりみたいで、カンベンしてくださーいという感じ。
そんなゼキの印象が一変したのは、
初期のSP録音を編集した“BIR TATLI TEBESSÜM” がきっかけでした。
このCD、ジャケットは後年の女装姿の写真をあしらっていますけど、
内容はもっと若い二十代の時のもので、そのみずみずしい美声にびっくり。
繊細なコブシ回しとソフトな歌いぶりにいっぺんで魅了されました。
いやあ、若い頃のゼキって、こんなに良かったんだあ、とすっかりマイってしまい、
それからまたゼキのCDをずいぶん買ったんですが、
結局50年代の初期録音はこれ1枚しか見つからず。
トルコには博物館が建てられているほどの大歌手だというのに、
もっとも素晴らしかった若い時の録音がまともにCD化されていないとは、
なんだかこんなところも美空ひばりと似てますね。
そんなわけで長くこの1枚だけで、ゼキ・ファンを名乗っていましたけど、
02年にカランがリリースした2枚組の“1955-63 KAYITLARI / RECORDINGS” は、
長年の渇きを癒す絶品でしたね。古典スタンダードをたっぷりと歌った芸術性高いゼキの歌声は、
後年の芸能人ぽい派手な歌いぶりとは、まるで別人でした。
その後、ゼキの若い頃の写真をあしらった編集盤がいくつか出て、
そのたびに買ってはみたんですが、
中身は晩年の70年代のものだったりという騙しジャケが多く、アタマにきます。
そんななかで、ホンモノの50年代録音を集めた
“ZEKI MUREN ’DEN SEÇMELER : TRT ARŞIV SERISI 1” が5年ほど前に出たんですが、
日本に入ってきていないので、ご存じない方は多いかも。
ブック形式のCDで、若き日のゼキの写真などもたっぷり入っています。
初期ゼキ・ミュレン・ファンなら必聴です。
Zeki Müren "BIR TATLI TEBESSÜM" Coskun CD008
Zeki Müren "1955-63 KAYITLARI / RECORDINGS" Kalan CD254-255
Zeki Müren "ZEKI MUREN ’DEN SEÇMELER : TRT ARŞIV SERISI 1" Ulus Müsik no number
2014-05-23 00:00
コメント(0)
コメント 0