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緑萌ゆるヴェトナムの水田 ファム・フォン・タオ [東南アジア]

Phạm Phương Thảo  CHÚT TÌNH EM GỬI  CD.jpg

デビュー作を聴いて、再挑戦する気になった
ヴェトナム、ザンカーのトップ・シンガー、ファム・フォン・タオ。
最新作の第12集を聴いてみました。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-04-30

完璧。
カ・ン・ペ・キですよ、この歌唱力。無敵といってもいいのかも。
パワフルに歌いすぎると感じていた、語尾を伸ばすところも、
見事にコントロールされていて、
くどい、しつこい、うるさい、みたいな印象はなくなりました。

胸がよく開いて、無理なく出る豊かな声量はほれぼれとするほどで、
ブレス・コントロールも見事なら、音程も正確無比。
いやあ、国立音楽大学の声楽科で、
特任教授の席がお約束されてんじゃないかってくらいの高い技量ですよ。

だけども、これ、果たして愛聴するかなあというと、疑問ですねえ。
雑味、ゼロ。
完璧すぎる歌唱力は、人の気持ちが入り込む余地を奪っているともいえそうです。
ヴェトナム音楽の美意識は、「ゆらぎ」にあるのに、
ファム・フォン・タオの強力なヴォーカルには、ゆらぐようなところがまるでありません。

Phạm Phương Thảo  CHÚT TÌNH EM GỬI  DVD.jpg
クラシックならこれでもいいんでしょうけど、
ザンカーいわば民謡がテーマで、
この歌唱はどんなものかという思いは拭えませんよねえ。
今回DVDも買ってみたんですが、
ヴィデオを観ると、
社会主義国家が民謡に期待するところを、
まざまざと示しているようで、
ちょっとばかり考えさせられました。
これは果たして、大衆音楽なんだろうかと。

というのも、目につくのは、
清く正しく生きる、田舎の青年ばかりなんですね。
親孝行をする娘だったり、
出稼ぎから故郷に帰ってくる真面目な若者だったり、
日々の労働に汗を流す姿であったりと。
恋人が兵士という役どころでは、
ああ、そうか、ヴェトナムには兵役義務があるんだっけと、
思い起こさせられたり。

そこには国が模範とする若者しか登場しないわけで、
社会主義国家建設に奉仕することをメタファーとしていることは容易に読み取れます。
バクニン地方で伝承されてきた青年男女のかけあい唄のクァンホや、
山岳地帯の少数民族の音楽や、ハノイのカチューなどのシーンが登場するのも、
古き良き伝統音楽を、国の文化遺産として尊んでいることを指し示すものでしょう。
社会主義国家では、民謡が大衆音楽として機能するという側面以外に、
道徳教育を含めた国民教育として利用されている側面があることを、
念頭に入れておく必要がありそうです。

そんなことを考えさせられたヴィデオですが、
ヴェトナム各地でロケされたDVDは、見ものです。
先ほどのカチューやクァンホといった場面のほかにも、
緑萌ゆる美しい水田や、わび・さびを感じさせる古寺は、
日本人の美意識によくなじみ、タイ、ラオス、ミャンマーにはない距離の近さをおぼえます。
それにしても、これほどまばゆいほどの緑に溢れた風景は壮観ですね。
ああ、また、ヴェトナムに行きたいなあ。

Phạm Phương Thảo "CHÚT TÌNH EM GỬI" Thăng Long no number (2014)
[DVD] Phạm Phương Thảo "CHÚT TÌNH EM GỬI" Thăng Long no number (2014)
コメント(2) 

コメント 2

イワタニ

失礼します。
なんだか最近はザンカーで考えさせられる事が多いですね。
大衆音楽をたくさん聞いてきたbunboniさんですら考えてしまうぐらいですから、私なんて疑問だらけですよ。
ザンカーの人達の声(歌い方)も疑問でしたが、届くCDのパッケージの豪華過ぎる作りなんかも疑問になる要因でした。
ザンカーは今後もっと全てに完璧な音楽(クラシック的)になっていくような気がして心配なんですが。それでもベトナムという国を考えれば、いくら完璧な音楽になっても、大衆音楽として受け取るべきなのかなー?なんてbunboniさんの記事やコメントを読みながら、素晴らしい音楽だと感動しつつ、なぜか不安になる疑問も一緒に付いてきます。
by イワタニ (2015-05-04 01:49) 

bunboni

CDパッケージが豪華なのは、ヴェトナム経済が上向きで、
制作スタッフの若い才能がどんどん現れている証拠で結構なことなんじゃないでしょうか。
ご心配の、ザンカーがどんどんクラシック的になるかどうかは、どうでしょうねえ。
新人コンテストのサオマイからデビューする新人を見ていると、
どんどんその傾向を強めている感はありますけど。
まあ、自分の好みのタイプを見つけていけばいいんじゃないですか。
そういえば、ハ・ヴィの新作、ちっとも出ませんねえ。
彼女みたいな、歌いこまない「ひそやか系」の歌手が聴きたくなりますね。
by bunboni (2015-05-04 09:19) 

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