ノルウェイの小さな町のシンギング シノヴェ・ブロンボ・プラスン [北ヨーロッパ]
オスロから北へ約300キロの中央部、
ノルウェイ東部の渓谷にある、オステルダレン地方の小さな町フォルダル。
人口1600人ほどという小さな町に生まれ育ったシノヴェ・ブロンボ・プラスンは、
ノルウェイ音楽アカデミー民俗音楽部門の修士課程に在籍する音楽家。
シノヴェはデビュー作の制作にあたって、フォルダルの伝統音楽に狙いを定め、
フィドラーだった曾祖父から幼い時に習った曲や、
古い音楽書、アーカイヴ録音から素材を集めたといいます。
全21曲、無伴奏によるア・カペラという内容なので、
地味なアルバムかと思いきや、リズミカルな曲が多く、
カラフルなメロディに、ノルウェイ民謡独特の味わいがたっぷり練り込まれていて、
すっかり夢中になってしまいました。
シノヴェは歌いながら床を踏み鳴らし、そのリズムが打楽器代わりになって、
ア・カペラに生き生きとしたビートを送り込んでいます。
そして、なにより心地よいのが、シノヴェの芯のあるナチュラルな発声。
上がり下がりの激しいメロディを歌っているんですが、めちゃくちゃ音程がいい。
歌いぶりも力強くて、胸をすきますねえ。
北欧の歌手はぼくの苦手な人が多くて、敬遠していた時期が長くありました。
ノルウェイの有名なシンガー、トーネ・フルベクモもその一人。
ハイ・トーンの芸術的なヴォーカルが、ぼくには受け付けられませんでした。
もっとニュートラルな発声で、土の香りのする歌を聴きたいと思っていたから、
シノヴェ・ブロンボ・プラスンの歌は、ぼくには理想的です。
この伝統的なシンギングは、ダンス音楽がベースとなっていて、
ハーディングフェーレやフィドルで演奏する器楽曲に、
ナンセンスな言葉をつけて声楽にしたものだそうです。
それが副題にある slåttetralling なんですね。
歌詞のある曲もあれば、リルティングのように言葉のない曲もあり、
バラッドや賛美歌とは、まったく性格が異なる音楽ですね。
そういえば、先に挙げたトーネ・フルベクモも、
オステルダレンの伝統的な歌唱をルーツとする人ですけれど、
彼女からこういう歌を聴けたためしはなかったなあ。
シノヴェが歌うア・カペラだって、それは十分に洗練されていて、
じっさいに村人が歌うような野良の歌とは、まるで違うんだろうけれど、
それでも彼女が真摯に伝統音楽を追及した本作は、
ケルト音楽を演出したり、過度に北欧色を強調した<ツクリモノ>とは無縁。
伝統を凝縮した純度の高さに、感じ入ります。
Synnøve Brøndbo Plassen "HJEMVE" Grappa HCD7373 (2021)
2022-12-11 00:00
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