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春到来のインスト・ロック 増尾好秋 [日本]

増尾好秋 Sunshine Avenue.jpg

今年の春の訪れは、早かったですねえ。
それを強く感じたのは、異例の早さだった桜の開花ではなくて、
増尾好秋の『SUNSHINE AVENUE』を、3月半ばに聴き始めたことでした。
このアルバムくらい、ぼくにとって Spring has come! を実感させるものはなく、
ぽかぽか陽気になるとヘヴィロテになる毎年の春の定番なんですが、
4月半ばころから聴き始めるのが常でした。

増尾好秋の異色作といえる『SUNSHINE AVENUE』が出た79年は、
まだフュージョンというタームのない、クロスオーヴァー全盛期でしたけれど、
本作はクロスオーヴァーの「ク」の字もない、ロック・アルバムなのでした。

冒頭、チャック・リーヴェルみたいなロック・ピアノのリフにのって、
増尾のストラトがうなりを上げる ‘Sunshine Avenue’ から悶絶。
♪ Hey! rock'roll! ♪という空耳シャウトが聞こえるかのような、
ゴギゲンなインスト・ロックンロールです。
最初聞いた時、これが増尾好秋の新作なのかと、度肝を抜かれましたよ。

クロスオーヴァー大流行の当時、キングが興したクロスオーヴァー専門レーベル、
エレクトリック・バードから出たレーベル第1弾が、
増尾好秋の『SAILING WONDER』でした。
当時大人気だったデイヴ・グルーシン、エリック・ゲイル、リチャード・ティー、
ゴードン・エドワーズ、スティーヴ・ガッドという錚々たるメンバーを集めた
レコーディングだったものの、増尾の個性が埋没してしまい、
力の入ったセッティングが完全に空回りしてましたね。

増尾自身もあのアルバムには納得がいかなかったらしく、
第2作は自分のバンドで制作しようと、当時まったく無名の新人だった
キーボードのヴィクター・ブルース・ガッジーと、
ベースのT・M・スティーヴンスを起用してレコーディングに臨んだのでした。

ヴィクター・ブルース・ガッジーが作曲し、ピアノのほか歌も歌った
‘Your Love Is Never Ending’ は、ヤンキー・ファンクとでも呼びたい痛快な1曲。
歌いっぷりがマジでイッていて、ファンキー・ヴォーカルの最たるものです。
ガンガン叩きつけるピアノがダイナミックで、めちゃロックしてるじゃないですか。
この曲は、サウンドの奥行きや広がりが素晴らしく、
エレクトリック・レディ・スタジオでの名レコーディングの一つでしょう。

続く3曲目の ‘A Threesome’ もヴィクターの作曲で、
増尾、ヴィクター、T・Mの3人によるソロ・バトルが圧巻。
T・M・スティーヴンスのソロが壮絶で、スタンリー・クラークをホウフツさせます。

A面3曲がハード・ロックなら、B面3曲はフォーク・ロックの趣で、
3曲ともパーカッションとして参加したチャールズ・タレラントの作曲。
ストリングスを配した ‘Look To Me (And See The Sun)’ では、
増尾が得意とするオクターヴ奏法を駆使して、
ソロ前半はウェス・モンゴメリーばりに親指1本で演奏しているんじゃないかな。
ソロ半ばで、♪とんで、とんで、とんで、とんで、とんで、とんで♪
(円広志の「夢想花」)のフレーズを拝借した後あたりから、
ピックに持ち替えて弾いているように聞こえますね。

続く ‘Someone’ は、マイケル・チャイムズの哀愁の漂うハーモニカを前面に、
ストリングスもフィーチャーした抒情フォーク・ナンバー。
増尾はナイロン弦ギターを弾いていますけれど、
アール・クルーのようなクロスオーヴァーのムードはいっさいありません。
疾走感あふれるサンバ・ロックのラストの ‘I Will Find A Place’ では、
増尾のロック・ギターが大暴れ。サウンドに厚みを加えるため、
ゲストのホルヘ・ダルトがピアノでトゥンバオを弾いています(サンバなんだけど)。

スピード感やタメなど、フレージングのニュアンスにこだわったギター・プレイや
フィードバック奏法などは、徹頭徹尾ロック・マナー。
ロック・ギタリスト増尾の最高作。44年来、春到来のお決まり盤です。

増尾好秋 「SUNSHINE AVENUE」 エレクトリック・バード KICJ92302 (1979)
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