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シマ唄の歌いぶり今昔 中山音女 [日本]

宇検民謡傑作集.jpg   宇検民謡傑作集 歌詞.jpg

今年は中山音女、キテるなあ。
2023年リイシュー大賞ダントツ1位と、はやばや決定したのが、
中山音女のSPをホンモノのピッチで再現復刻した、
奄美シマ唄音源研究所による労作。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2023-06-15

そのカンゲキもまだ冷めやらぬところに、
今度は音女の戦後録音を収録した貴重な一枚を発見しました。
それが、奄美のセントラル楽器が66年に発売した10インチ盤。
全9曲収録のレコードで、
メインは昭和生まれの吉永武英と石原豊亮の6曲ですけれど、
大正生まれの田原ツユ(ジャケットの「田春」は誤記)が2曲と、
明治生まれの音女が歌う「うらとみ節」1曲が入っています。

歌詞集の唄者紹介に「現在、第一線は退いているが、
これまで美声を保っていることは一つの奇蹟であろう。
39年名瀬で行われた民謡大会に特別出演、喝采をあびた」とあり、
このレコードが出る2年前に民謡大会に出演したことがきっかけとなって、
この録音につながったものと思われます。

音女の戦後録音は、研究者が残した音源は別として、
商業録音ではこの1曲しか、ぼくは知りません。
録音当時は70を越す年齢だったわけで、SP録音時の声と違うのは当然として、
吉永武英や石原豊亮の昭和世代の歌いぶりと大きく違うのがわかります。

とりわけここで音女が歌った「うらとみ節」は、
その違いがはっきりとわかる典型なんですね。
うらとみ節は、「むちゃ加那節」の名でも知られる伝説の悲話をもとにした物語。
現代では悲劇の内容にふさわしく、とても遅いテンポで歌われるのが通例ですが、
音女がここで聞かせる歌いぶりは、まったく違っています。

まず、「うらとみ節」(「むちゃ加那節」)の内容をかいつまんで紹介しておくと、
時は薩摩藩政初期の頃の物語。
瀬戸内町加計呂麻島の生間という集落に、
「うらとみ(浦富)」という美人がいました。
うらとみは島唄と三味線がたいへん上手く、当時鹿児島から来ていた役人に
気に入られて、島妻(島だけの妻=妾)に請われます。
しかしうらとみは役人をかたくなに拒んだことから、
両親は食料を用意した小舟にうらとみを乗せ、沖へ流します。

うらとみを乗せた小舟は何日か漂流した後、喜界島の小野津へ漂着し、
この島でうらとみは結婚し、むちゃ加那をもうけます。
このむちゃ加那も母譲りの美人に育ちました。
ある日、むちゃ加那の美しさを妬む女友達が、あおさ採りにむちゃ加那を誘い出し、
女友達はむちゃ加那を海へ突き落として溺死させます。
そのことを知ったうらとみは狂乱し、入水自殺してしまったのでした。

中野律紀  むちゃ加那.jpg

こうした悲劇ゆえ、歌いぶりがじっくり聞かせる迫真となるのも必然です。
初めてぼくがこの曲を聴いたのは、中野律紀のデビュー作でした。
奇しくも中野律紀は、この「むちゃ加那節」を歌って
最年少の15歳で日本民謡大賞グランプリに輝き、
3年後に出したデビュー作のアルバム・タイトルともなったのです。

武下和平.jpg   南政五郎.jpg

その律紀の洗練された繊細な歌いぶりと、
音女の野趣に富んだ力強い歌いぶりとでは、天と地ほどの違いがありますよ。
このレコードが録音されたのとほぼ同時期にあたる、
62年に録音された武下和平の「むちゃ加那節」や、
64年録音の南政五郎の「うらとみ」と聞き比べると、
音女ほど野趣ではないものの、歌いぶりには力強さがみなぎっています。
そして音女と共通するのは曲のテンポで、
律紀のヴァージョンになると、テンポが極端に落とされていることがわかります。

これは奄美民謡が時代が下るほどに、野性味がなくなって、
情緒豊かな表現を追求するようになり、
グィンの技法など洗練を志向した結果なのでしょう。
明治・大正・昭和生まれの唄者を収録したこの10インチ盤は、
世代の違いによって歌いぶりの変化が聞き取れるだけでなく、
平成から令和を迎えた今となっては、もはや別世界の歌声といえます。

宇検民謡傑作集 CDR.jpg

この10インチ盤は、今ではまったく聴くことができなくなった
昔の奄美民謡の味わいを堪能できる貴重な一枚です。
実は、セントラル楽器でCD化されているんですけれど、
ディスクはCDR、レーベルはレーザー・プリンター印刷という自家製で、
ジャケットなしの歌詞カードのみ。
オリジナルの10インチ盤を捕獲できたのは、嬉しき哉。
レコードは目にも鮮やかな、透明レッド・ヴァイナルのミント盤であります。

[10インチ] 中山オトジョ,田原ツユ,吉永武英,石原豊亮 「宇検民謡傑作集」 セントラル楽器 O12 (1966)
中野律紀 「むちゃ加那」 BMGビクター BVCH604 (1993)
武下和平 「奄美民謡 天才唄者 武下和平傑作集」 セントラル楽器 C3 (1962)
南政五郎 「本場奄美島唄 南政五郎傑作集」 セントラル楽器 TCD02 (1964)
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