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奄美シマ唄で実現した日本初のSP録音復元 中山音女 [日本]

奄美シマ唄音源研究所会報.jpg中山音女 奄美 湯湾シマ唄.jpg

まさか本当に実現するなんて!

12年前に奄美の中山音女のSP録音が復刻されたとき、
CD音源のピッチがあまりにもおかしく、速回しであることは歴然だったので、
戦前ブルース研究所の技術で音源を修復してもらいたいとボヤいたことがありました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2012-06-26
とはいえじっさいのところ、実現を期待などしていませんでした。
だって、戦前ブルース研究所はその名のとおり、戦前ブルースを対象としていて、
その他の音楽のSP録音などに興味はないでしょうからね。

ところが、戦前ブルース研究所員の菊池明さんが、
同じく戦前ブルース研究所員のブルース・ミュージシャン仲間とともに、
沖島基太さんが営む「奄美三味線」へ三味線体験で来店したのが事の始まり。
そこで中山音女のCDを聞かされた菊池さんは、
すぐに速回しであることを悟って指摘すると、
沖島さんから修正の相談を受けたというのです。

しかもなんという縁なのか、菊池明さんの母親がなんと奄美大島の出身で、
母方の祖母や伯父伯母などから、幼少期に奄美のシマ唄を聴いた記憶があったそうで、
めぐりめぐる縁の不思議さもあいまって、
沖島さんとともに中山音女のSP録音復元の旅が始まったといいます。

まず菊池さんがCDからピッチ修正をした仮音源をもとに、郷土研究者に聴いてもらい、
一次資料の収集にとりかかります。
宇検村教育委員会が保管していたSPの貸与を許され、
次いで本丸ともいえる、日本伝統文化財団のCD制作のもととなった
SP原盤を所有するシマ唄研究家の豊島澄雄さんからすべてのSPを譲り受け、
本格的な復元調査が始まったのでした。
その復元調査の一部始終が、
奄美シマ唄音源研究所会報第一号「とびら」にまとめられ、
2枚のCDが付属されて500部が制作され、「奄美三味線」で販売されています。

この冊子を読むと、研究調査はつくづく人の出会いだと
感じ入ってしまうエピソードが満載。
そもそも菊池さんに奄美とゆかりがあったところからしてそうですけれど、
さまざまな郷土研究家の協力や支援をもらい、
かのSPレコード・コレクター、岡田則夫さんとも出会って、SPを借り受けています。

冊子には、三味線弾きが直傅次郎であると特定するまでの謎解きや、
録音場所を特定するために、
昭和初期の奄美本島の電力供給事情まで調べ上げています。
それは供給電力の周波数がSP録音機器の回転数に影響するためで、
戦前ブルースのSP復元調査研究の知見によるものでした。
そうした調査の行方を読み進めていくと、まるで一緒に調査をしているかのような
冒険気分に陥って、ハラハラ・ドキドキがとまりません。

半世紀前の三味線ケースに入っていた調子笛の音程を調べ、
調律音程から正しい再生音を探る仮説を立てて検証を進めていったり、
音女と傅次郎の古い写真をみて、取りつかれたように道なき道の山中を冒険するなど、
これはもう、ロマンとしかいいようがないでしょう。
こういう情熱が物事を動かし、人の心を揺さぶるんです。

そしてついに完成した日本初のSP録音復元、それが奄美シマ唄で実現したのでした。
一聴して、あまりの違いにノック・アウトを食らいましたよ。
CD音源とはなんと200セント(=全音)をはるかに超える違いがあったというのだから、
ヒドイものです。ようやく落ち着きのある声でよみがえった音女の歌声。
そしてなにより傅次郎の三味線に、生々しさが戻りました。

SPの速回しに気付くのは、ヴォーカルよりも器楽音ですね。
人間の声だと違和感を気付きにくいですけれど、器楽音はすぐにヘンだとわかります。
CD2枚目のラストに収録されたアゲアゲのダンス・トラック、
六調の「天草踊り」「薩摩踊り」を聴けば、日本伝統文化財団CDとの音の違いは
誰でもわかるでしょう。これこそが三味線の音ですよね。

冊子には、復元したSPの写真が
レーベルの拡大写真とともにずらっと並べられていて、壮観の限り。
歌詞カードや当時の月刊誌に載ったレコード広告も転載されています。
ここ数年、こんなに興奮したことって、なかったなあ。
情熱と執念の賜物の復元CDです。

[Book] 奄美シマ唄音源研究所会報第一号 「とびら」 奄美シマ唄音源研究所 (2023)
中山音女 「奄美 湯湾シマ唄-1-2」 Pan PAN2301, 2302
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