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ストイシズムとナルシシズム フレッド・ハーシュ [北アメリカ]

Fred Hersch  SILENT, LISTENING.jpg

ずいぶんと長い間、ソロ・ピアノというフォーマットを遠ざけてきたのは、
キース・ジャレットの『ザ・ケルン・コンサート』アレルギーのせいだったのか。
フレッド・ハーシュの新作のソロ・ピアノを聴いて、ふとそう思い至りました。

ぼくがジャズを聴き始めた70年代、『ザ・ケルン・コンサート』くらい、
絶賛・酷評が分かれる問題作はなかったと記憶していますけれど、
ナルシシズムを爆発させるわがまま放題の即興は、ガマンならなかったなあ。
キースって、ゼッタイ嫌な野郎だろうと思ってたもんねえ。

ジャズのピアノ・ソロってのはさ、ダラー・ブランドとかセシル・テイラーとか、
ピアノという楽器の特性であるヨーロッパ成分を破壊する
黒人ミュージシャンがやってこそ、聴く価値があんだよ、
な~んてイキまいてた十代の自分でありました。

80年代以降、ジャズの熱心なリスナーでなくなったことから、
そんな記憶も薄れてしまいましたけれど、
たまに手を伸ばすジャズ・アルバムでも、ソロ・ピアノはなかったなあ。
それが変わったのが、フレッド・ハーシュというピアニストの存在を知ってからです。
きっかけとなったのが、17年の “(OPEN BOOK)” でした。

Fred Hersch  (OPEN BOOK).jpg

ハーシュのピアノの美しさは、すごく独創的。
よく抒情派と表現されますけれど、いわゆるリリカルな甘やかさはなく、
かといって耽美という世界からも遠くて、深く自己の内面と語り合う
内省から美が生み出されているように思えます。

そんなハーシュのピアノの特徴といったら、ストイシズムでしょうね。
まさに自己陶酔型のキース・ジャレットとは対極。
だからハーシュのピアノに惹かれたんだな。
今回の新作も、具象と抽象を行き交う音の流れが
川の流水を眺めるようで、自然の摂理を模写しているかのような
音楽を聞かせます。

そしてピアノの音響の美しさは、筆舌に尽くしがたいもの。
よくぞECMが録音したというか、これほどECMが似合う人もいないだろうに、
これが初録音というのが不思議なほどです。

Fred Hersch "SILENT, LISTENING" ECM ECM2799 (2024)
Fred Hersch "(OPEN BOOK)" Palmetto PM2168 (2017)
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