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美しく尊いつぶやき ドロシー・マスーカ [南部アフリカ]

Dorothy Masuka  Nginje.jpg

2019年2月23日に亡くなった南アの名歌手、ドロシー・マスーカ。
亡くなる前年にアルバムを出していたのは知っていたんですけれど、
アパルトヘイトが撤廃されて、南アへ帰還してからの作品は、
声がもうぜんぜん出なくなっていて、このアルバムも聞かずじまいになっていました。

ラスト・アルバムなんだし、せっかくだから聴いておくかと、
まったく期待もせず買ってみて、ガクゼンとしちゃいました。
いやぁ、これは素晴らしいアルバムじゃないですか。声は衰えているんだけれど、
老いたドロシーに優しく寄り添う伴奏が素晴らしくて、聴き入ってしまいました。

ドロシー・マスーカは、1935年9月3日南ローデシア(現ジンバブエ)のブラワヨの生まれ。
母親が経営するレストランで、ツァバ・ツァバを歌って小銭稼ぎをしたのがはじまり。
16歳の時に学校のコンテストで歌ったところを、
トルバドール・レコードのタレント・スカウトに見染められ、
初録音したドロシーの自作曲 ‘Hamba Notsokolo’ が大ヒットを呼びます。
一躍人気歌手となったドロシーは、50年代にミリアム・マケーバと並んで活躍しました。
そんな黄金時代の53~60年録音をまとめたのが、“HAMBA NOTSOKOLO” で、
いまなおこれを凌ぐ編集盤はない、ドロシーの決定盤です。

Dorothy Masuka  Hamba Notsokolo.jpg   African Jazz Variety.jpg

54年にドロシーは、
アフリカン・ジャズ・アンド・ヴァラエティ・ショウに参加しています。
南ア黒人による初の演芸ショウを催したこの歌劇団は、国内を巡業して大人気を呼び、
ドロシーのほか女優のドリー・ラテーベなど、数多くのスターを輩出しました。
ドロシーは入っていませんけれど、この歌劇団の10インチ盤があります。

マケーバと同様に亡命生活を送っていたドロシーは、
92年に新生南アへ帰還後、音楽活動を再開しましたが、
その歌声に50年代の黄金時代の面影を聴き取ることは、できなくなっていました。

そんなわけで、カムバック後のドロシーに関心を持てなかったんですけれど、
スティーヴ・ダイアーがプロデュース、エンジニア、ミックスをしたこの遺作は、
ドロシーのソングライターとしての才能にスポットをあて、楽曲の良さを引き立てています。
生音を強調したシンプルな伴奏で、また、ドロシーの声の衰えが目立ないよう、
最大限に配慮したプロデュースをしているところに、
スティーヴ・ダイアーのドロシーに対する敬意の念がにじみ出ていますよ。
ちなみに、息子のボカニ・ダイアーも2曲で参加しています。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-11-22

あらためて思うのは、ドロシーが書いた楽曲の良さですね。
考えてみれば、10代で初レコーディングした時から、自作の曲を歌えたのって、
50年代当時としても、かなり画期的だったはず。
デビュー当初から、歌手だけでなく、作曲家としても評価されていた証拠でしょう。

マラービの時代を再現するかのように、サウンドがなめらかで、まろやか。
尖った音はまったく出てこなくて、隙間のある音づくりに、肩がほぐれます。
ドロシーがつぶやくように歌う ‘Manyere’ なんて、
往年のマラービらしい温かみたっぷりで、思わずほっこりしてしまいますよ。
スティーヴが吹くサックスの音色の優しいことといったら。
終盤のハービー・ツオエリのベース・ソロも聴きもの。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-11-24

パーカッションと控えめなアコーディオンとベースをバックに歌う
‘Mzilikazi’ は、寄せては返すゆったりとしたリズムで、
反復するメロディを歌うスピリチュアルな曲。
ドロシーの母方の祖母がサンゴマだったことと、関連がありそうな曲です。
同系統の曲では、ンビーラとパーカッションをバックに歌った ‘Kulala’ は、
スピリチュアルというより、子守唄のよう。

サックスのリフで始まる ‘Yombele Yombele’ は、
いかにもマラービらしいキャッチーなメロディで、ニンマリと頬がゆるみます。
ドロシーのシグニチャー・ソングとなった ‘Hamba Notsokolo’ も歌っていて、
イントロのアクースティック・ギターを聴いただけで、
ぱあっと満面の笑みになっちゃいました。

ドロシーのつぶやきヴォイスが、メロディの美しさを引き立てた遺作。
尊さすらおぼえる作品です。

Dorothy Masuka "NGINJE" Gallo CDGMP1802 (2018)
Dorothy Masuka "HAMBA NOTSOKOLO" Gallo CDZAC60
[10インチ] King Jeff and African Jazz Troupe, Ray Makelane, The Woody Woodpeckers, David Serame, Barbara Thomas, Sonny Pillay, Ben (Satch) Masinga "AFRICAN JAZZ AND VARIETY" South African Institute of Race Relations PR4 (1952)
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