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サルサのフィメール・グループ カネーラ・デ・クーバ [カリブ海]

Canela De Cuba  PA’ QUE TE ENTERES.jpg

キューバン・サルサ(サルサ・クバーナ)の女性グループだそうです。
89年結成というから、すでに20年近いキャリアがあるんですね。
うへぇ、そんなに歴史があるグループなのに、ぜんぜん知らなかったなあ(恥)。

Astral さんのブログ記事を読んで興味がわき、新作を買ってみたんですが、
一聴して、ポップ・テイストな音楽性に惹かれました。
昔大好きだったメレンゲのガール・グループ、
ラス・チカス・デル・カンを思い出しましたよ。

サルサでは、案外こういうポップな女性グループっていませんよねえ。
ぼくが知らなかっただけでもあるんですけれど、
ここ20年くらいサルサの女性歌手を敬遠していたので、なおさら感が。

ぼくがこれほどサルサ事情に疎くなってしまったのは、
なんといっても90年代初めのインディアの登場が、最大のきっかけ。
声も、歌いぶりも、なにもかもがラテンの美学に反する「がさつ」さに
耳をふさぎたくなる歌手で、ぼくには耐えられなかったんですよ。
なんでこんな歌手をエディ・パルミエリがヒイキしたのか、理解不能でした。

キューバも事情は同じで、サルサから転じたティンバは、
一部のグループを除き、受け入れがたいサウンドになってしまって、
ああ、もうぼくの好むラテン音楽ではなくなっちゃったなあと、
サルサから身を引いたのでありました。

ティンバのグループでバンボレオが絶賛され、
ハイラ・モンピエのような女性歌手が人気を博しているのを横目に、
ぼくには、さっぱり良さがわかりませ~んという態度を決め込んでいたので、
カネーラ・デ・クーバというこのグループも、
ぼくのアンテナにひっかかってこなかったみたいです。

このカネーラが、ティンバと異なる音楽性のグループだということは、
曲名のあとのクレジットが証明していますよ。
そこに並ぶのは、フュージョン、サルサ・フュージョン、カリベといったスタイルで、
ティンバ・フュージョンと記された曲も1曲あるものの、
クリマックスのようなリズム・アレンジに凝った曲で、
こういうティンバなら、ぼくも支持できます。

「フュージョン」の名が目立つとおり、
サルサを基調としながら、汎ラテンに拡張したそのサウンドは、
かつてのウィルフリード・バルガスが志向していた音楽性と共通するものを感じさせます。
ウィルフリードが生みの親となったラス・チカス・デル・カンに通じるポップ・センスも、
むべなるかなですね。

オリジナル曲のほかに、ミリアム・マケーバの“Pata Pata”、
チャブーカ・グランダの“La Flor De La Canela” を取り上げるほか、
スリナムのフォルクロールという珍しいレパートリーまであって、
カラフルなポップ・サウンドをはつらつと歌い演奏するカネーラは、
めっちゃチャーミングであります。

Canela De Cuba "PA’ QUE TE ENTERES" Egrem M513 (2017)
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見逃していたビギン・ジャズの快作 アラン・ジャン=マリー [カリブ海]

Alain Jean-Marie  GWADA RAMA.jpg

ジャズCDショップに足を向ける機会が、ずいぶん多くなった気がします。
この前、アウトレットのコーナーをパタパタとめくっていたら、
アラン・ジャン=マリーのビギン・ジャズのアルバムを発見しちゃいました。

あー、そういえば、だいぶ前にアラン・ジャン=マリーの69年デビュー作のCDが
再プレスされて出回っているのに気付いたのも、このお店だったっけか。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2012-12-03

ジャズ・ファン好みのスタンダードを演奏したピアノ・トリオなどで、
フレンチ・ジャズの粋なピアニストと思われている
アラン・ジャン・=マリーですけれど、
カリブ音楽ファンにとっては、なんといってもグアドループ島出身の、
ビギン・ピアニストのマエストロとして認識されていますよね。

今回見つけた09年作も、内容はフレンチ・カリブのクレオール・ジャズ。
アランのピアノ、ベース、ドラムスに、
グアドループのグウォ・カのグループのパーカッショニストを加えたカルテット編成で、
ビギン、マズルカ、グウォ・カなど、
アンティーユ色全開のレパートリーを聞かせてくれます。
カッサヴのデュヴァリュー&デシムスが作曲したズーク・ナンバーもやっていますよ。

う~ん、こんなアルバムが出ていたとは、知りませんでしたねえ。
アウトレットに出てたくらいだから、ジャズのショップでは売れなかったんでしょう。
ワールドのショップで扱うべきアイテムを、バイヤーが売り先を間違えた感ありあり。

09年作だから、この当時で64歳ですか。
ピアノのタッチに衰えは、まったく感じさせませんね。
昨年、トニー・シャスールのラ・シガールでのデビュー30周年ライヴで、
アランがゲストに招かれて1曲弾いていましたよね。
ソロの運指にややもたつきが感じられ、お年を召した感がありつつも、
左手のタメの利いたリズム感に、いぶし銀な味わいがあって、
う~ん、さすがだなあとウナったばかり。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-03-06

あの時より十年近く若いので、プレイもかくしゃくとしているし、
老練な味わいもたっぷり。ビギン・ジャズのファンにはたまらない快作です。

Alain Jean-Marie "GWADA RAMA" Thierry Gairouard Production TG/OM01 (2009)
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トローバの味わいを伝える伝統ソン デュオ・メロディアス・クバーナス、エリアデス・オチョアとクアルテート・パトリア [カリブ海]

Dúo Melodías Cubanas, Eliades Ochoa Y El Cuarteto Patria.jpg

去年買い逃したまま、すっかり忘れていた1枚。
偶然店頭で見つけ、おお、そうだったと、あわてて手に取りました。
それがメロディアス・クバーナスを名乗るヴェテラン女性二人に、
ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブで名を上げたエリアデス・オチョアとの共演盤。

二人の女性の歌い口が、たまらなくいいんですよ。
ハモっているようないないような、微妙なハーモニー。
古いトローバのスタイル、ここにありですね。

伴奏を務めるクアルテート・パトリアともども、現代的なソンの感覚を加味しながら、
サンティアゴ・デ・クーバらしい伝統ソンの味わいをしっかりと受け継いでいて、
ヴィンテージならではの芳醇なコクを醸し出します。

ギタリスト、エリアデス・オチョアの歌も良くなったよなあ。
ブエナ・ビスタのメンバーのなかでは、ちょっと歌に大味なところがある人で、
正直ぼくはあまり好みではなかったんですけど、
余計な力が抜けて、軽快になりましたね。

本人たちは、ごく自然に、歌い演奏しているだけのことなんでしょうけど、
若い者にはとても真似のできない、まさに年季を経ないと出せない味わい。
このさりげなさがタマらんのですわ。

レパートリーも、いにしえのトロバドールのエウセビオ・デルフィン、
ミゲル・コンパニオーニ、マヌエル・コロナの曲に、
初期ソンの重要作曲家であるミゲル・マタモロスやイグナシオ・ピニェイロの名曲に加え、
プエルト・リコのラファエル・エルナンデスと選りすぐりで、じっくりと味わえます。

この世代がいなくなったら、もうこんな節回しで歌える歌手は、
キューバからいなくなってしまうんだろうなあ。
そう思うと、いっそうかけがえのないアルバムに思えてくる、珠玉の逸品です。

Dúo Melodías Cubanas, Eliades Ochoa Y El Cuarteto Patria "LOS AÑOS NO DETERMINAN" Egrem CD1405 (2016)
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情熱のピアニズム グレゴリー・プリヴァ [カリブ海]

20180119 Grégory Privat.jpg   20180119 Grégory Privat Trio.jpg

やっぱり観てみなきゃ、わからないもんです。
マルチニーク出身の若手ジャズ・ピアニスト、グレゴリー・プリヴァ。
1月19日、丸の内コットンクラブ一夜限りのショウ、セカンド・ステージ。
この人の音楽性が、ようやくわかった一夜でした。

当初、マラヴォワのピアニスト、ホセ・プリヴァの息子さんということで、
12年のデビュー作を大期待で聴いてみたわけなんですが、
正直、期待はずれでした。
グアドループのグウォ・カで演奏される、カという太鼓のパーカッショニストも加え、
クレオール・ジャズを演出するかのように装ってはいるんですが、
グレゴリーのピアノからは、ビギン、マズルカ、カドリーユといったクレオール音楽も、
ベル・エアー(べレ)やグウォ・カなどのアフロ・アンティーユ音楽も、
まーったく出てきません。

むしろ、この人のピアノ・タッチからは、
クラシックの素養がしっかり備わっていることが聴き取れ、
ミシェル・ペトルチアーニのようなジャズ・ピアニストだということがわかります。
じっさい、ジャズ・ピアノを志したのも、お父さんのレコード・コレクションから、
ミシェル・ペトルチアーニを探し当てたのがきっかけだったらしいし。

マルチニーク出身の若手ビギン・ジャズ・ピアニストなら、
エルヴェ・セルカルがいますけれど、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-06-09
グレゴリーはまったく資質の異なるピアニストであることは、耳のある人なら瞭然でしょう。
なので、「カリビアングルーヴが胸を打つクレオール・ジャズの新星」という
コットンクラブのコピーが、まったくの的外れというか、ミス・リードだったので、
さて、どんなステージになるのやらと思っていました。

ステージは、最新作に収録されていた“Riddim” からスタート。
ダンスホール・レゲエを採り入れた曲だとご本人は語っていましたが、
ドラマーの4拍目のスネアのアクセントに、多少そのフシがあるくらいで、
レゲエとは似ても似つかぬもの。タイトル名だけ、カリビアン・ジャズを名乗るための
アリバイ作りしてんのかなという感じで、ちょっと鼻白んでいたりもしたんですが、
ライヴではだいぶ様相が違いましたよ。

演奏の始まりこそ、静謐なクラシカルなタッチで始まるんですが、
それ以降の展開がすごい。
徐々に熱を帯びていって、メロディをハーモニーの中に沈み込ませていったり、
反対にハーモニーからメロディを浮き立たせたりと、
さまざまに場面を変化させていきながら、
やがて両手で生み出す分厚いハーモニーが、音の壁のように積み上がっていって、
リズムの塊になって押し寄せてくるんです。気付いた時は、手に汗握る興奮に包まれ、
始まりの静謐な雰囲気など、どこかへ行ってしまったかのような高揚感に包まれます。

それがある局面を迎えると、ばあーっと音の壁が崩壊して、
また静謐で美しいタッチに戻るんですね。
このドラマティックな展開には、ちょっと驚かされました。
とにかく1曲の演奏が長いんです。どの曲も20分ぐらいやっていたんじゃないかな。

CDでは、上手いけど小粒なピアニストだなあ、なんて感想も持っていたんですが、
ライヴのエネルギーは、CDにはぜんぜん捉えられていませんね。
ステージは、エスビョルン・スヴェンソンに近いものを感じさせましたよ。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2016-08-26

デビュー作で女性が担っていたヴォイスを、
ライヴではグレゴリーがピアノを弾きながらハミングしていて、
ミナス的な色合いを付け加えていくところなどは、イマドキのジャズらしさもあり。
ダイナミックな展開にぐいぐい引きこんでいく、情熱のピアニズム。鮮やかでした。

Grégory Privat "KI KOTÉ" Gaya Music Production GPGCD001 (2012)
Grégory Privat Trio "FAMILY TREE" ACT ACT9834-2 (2016)
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カジュアルなマルチニークの伝統舞曲 ギュスターヴ・フランシスク [カリブ海]

Gustave Francisque.jpg

いいなあ。
マルチニークの村の公民館で演奏しているのを、
そのまんまレコーディングしたような飾り気のなさ。
こんな普段着な地元仕様の音楽は、案外CDでは聞けないので、
これはなかなかに貴重なアルバムだと思います。

キュイーヴル・エ・ボワ・デベンヌ音楽学校で教授を務める
ギュスターヴ・フランシスクは、マルチニークの伝統音楽を演奏する
マルチ管楽器奏者。表紙写真ではテナー・サックスを持っていますが、
クラリネットやアルト・サックスも吹いています。

ビギン、マズルカ、ヴァルスといったレパートリーに加え、
オート・タイユを取り上げてるところが珍しいですね。
なんせ、シュリ・カリ著『カリブの音楽とダンス』にも、
「マルティニークに関しては、今日までに録音されたオート・タイユの作品は、
ほとんどと言ってよいほど存在しない」と書かれているほどで、
ぼくもオート・タイユとクレジットされた曲を聞いたおぼえがありません。

聞いてみると、ヨーロッパ起源の舞曲カドリーユとよく似ていて、
オート・タイユとどう違うのか、よくわかりませんでした。
本作には、46年創立のマルチニークのグラン・バレエに捧げられた、
アル・リルヴァ作曲のオート・タイユに、バレル・コペ作曲のオート・タイユ、
さらにもう1曲、計3曲のオート・タイユが演奏されています。

タイトルに『先人に捧ぐ』とあるとおり、
他のレパートリーでは、レオナ・ガブリエルの名曲ビギン・メドレーに、
アレクサンドル・ステリオのマズルカ・メドレー、
ルイス・カラフとエディ・ギュスターヴ共作のメレンゲを演奏しています。

リズム・セクションがアマチュアぽく聞こえる曲などもあり、
ひょっとして、音楽学校の生徒さんが演奏しているのかもしれません。
5年前に同じレーベルから、キュイーヴル・エ・ボワ・デベンヌ名義で、
音楽学校の生徒さんらしき、女性3人のクラリネット奏者のCDが
出ていたことがあったもんね。

演奏者のクレジットがないので、勝手な想像ではありますが、
曲により伴奏の巧拙が大きく感じるのは確か。
すごくヴェテランぽいプレイを聞かせるピアニストがいる一方、
リズムをキープするのがやっとなドラマーもいたりして、
アマチュアが緊張しながら一所懸命演奏しているふうなところなど微笑ましく、
ぜんぜん悪い印象はありません。

そんなアマチュアぽさが、音楽を風通しよくしていて、
マルチニークの伝統舞曲をカジュアルに聞かせる好作品に仕上げています。

Gustave Francisque "HOMMAGE À NOS AINÉS" Granier Music ZM20171-2 (2017)
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四半世紀ぶりのレゲエ ジェシー・ロイヤル [カリブ海]

Jesse Royal  LILY OF DA VALLEY.jpg

珍しくレゲエの新作を気に入って、買ってきたんですが、
レコード・リストのデータベースに入力していて、自分でオドロいちゃいました。
なんと、レゲエの新作を買ったのは、23年ぶり。
え、えぇ~、そんなに疎遠になってたんだっけか。

データベースは、国別・年代別になっているんですけれど、
ジャマイカの2010年代は今回がお初。
2000年代は、アーネスティン・ラングリンがトニー・アレンと共演した
テラーク盤1枚のみなんだから、お粗末の極み。

そして90年代の最後に載っていたのが、
95年のダイアナ・キングの“TOUGHER THAN LOVE”なんだから、
自分でも笑っちゃう。あれはレゲエというより、ポップスだよねえ。
なんだか、レゲエ・ファンから石投げられそうだな。

そしてその前が、94年のドーン・ペンの“NO, NO, NO” と
ベレス・ハモンドの“IN CONTROL” なんだから、実質的にはこの時以来ってわけ。
それほどレゲエと縁遠くなっていたとは、われながら呆れるばかりなんですが、
ルーツ・レゲエがリヴァイヴァルになっているなんてことも、ぜんぜん知らなかったのでした。

で、ジェシー・ロイヤル、その人であります。
新世代ルーツ・アンド・カルチャーの旗手として、すでに活動歴7年。
15年には日本ツアーもしているというのだから、
満を持しての初フル・アルバムなのですね。

四半世紀近くぶりに聴く、ルーツ・レゲエ・シンガー、いい歌いっぷりです。
声にアーシーな味があって、それでいて歌いぶりはなめらか。
これがデビュー・アルバムとは思えぬ、堂々たる存在感を示していますよ。
緻密に作られたプロダクションも、申し分なし。
これほどスキなく作られていると、もう少し破れたところが欲しい、
なんて注文を付けたくなるところなんだけど、そんな気にもならないのが、
レゲエ門外漢の耳にも届く、モノホンの説得力といえそうです。

Jesse Royal "LILY OF DA VALLEY" Easy Star ES1063 (2017)
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伝説のトロバドール シンド・ガライ [カリブ海]

SINDO GARAY - DE LA TROVA UN CANTAR….jpg

シンド・ガライのリイシュー! こりゃ、事件だ。

19世紀末から20世紀にかけて、600曲ものカンシオーンを残した、
キューバ伝説のトロバドールです。
のちのソンやボレーロへ与えた影響も計り知れず、
101歳まで生き、キューバの民衆からこよなく愛された音楽家でした。
いまなお多くの歌手がシンド・ガライの曲を歌い継いでいるというのに、
ご本人の録音がまったく復刻されておらず、
ぼくも“Cualquier Flor” の1曲しか、聴いたことがありません。

2017年がシンド・ガライの生誕150周年にあたるということで、
記念作としてエグレム社から復刻された本作。
喜び勇んで飛びついたんですが、SP時代の復刻は2曲のみで、
ほかに晩年のプライヴェート録音が2曲収録、本人の演唱は4曲だけとなっています。

シンド・ガライのSP復刻集とばかり思ったので、当てが外れてしまいましたけど、
没後の70年代に制作されたトリビュート・アルバムから、
シンドの息子のグアリオネクス・ガライや、アドリアーノ・ロドリーゲス、
ドミニカ・ベルヘスがカヴァーしたシンドの曲が収録されています。

こうして聴いてみると、あらためてガライの曲の豊かな音楽性に感じ入ります。
その音楽の雑食ぶりは、いわゆる吟遊詩人のギター弾きという、
ぼんやりとしたトロバドールのイメージだけでは、到底くくれないものがあります。

SP録音を聴いてみれば、シンドの高度なギター・テクニックにまず驚かされるし、
歌の方も、高音部を担当する息子と低音部を担当するシンドの、
ハーモニーと呼ぶには自由すぎるというか、相手に合わせることに囚われない
その闊達ぶりに、キューバの美学を感じます。
「素朴」などという形容からはあまりに遠い、高度に洗練された音楽です。

19世紀末にトロバドールたちが歌っていた曲は、
芝居などの芸能にも、強く結び付いていたんじゃないでしょうか。
後年となる26年には、リタ・モンタネールと一緒に活動し、
パリ公演もしているほどですからね。

そんな痕跡を、男女二重唱のドゥオ・カブリサス=ファルチのハーモニーにも感じます。
白人系カンシオーンの典型といえる演唱でありつつ、
ソンに橋渡しされるリズム感覚を聴き取れる曲もありますよ。
マノロ・ムレットが歌う“La Baracoesa” にいたっては、
フィーリンそのものじゃないですか。

19世紀末のトロバドールたちが歌っていたカンシオーンは、
のちのソンやボレーロ、フィーリンなどに発展していく、
さまざまな養分をたたえていたんですね。

Sindo Garay, Adriano Rodeiguez, Dominica Vergas, Dúo Cabrisas-Farach, Manolo Mulet and others
"SINDO GARAY - DE LA TROVA UN CANTAR…" Egrem CD1517
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小粋なキューバン・スウィング ボビー・カルカセース [カリブ海]

Bobby Carcasses.jpg

こりゃあ、面白い。この人、どういう人なの?
キューバのエンタテイナー歌手なんですか、へぇ、初めて知りました。
ブラジルのカウビ・ペイショートに続いて、
老練なヴェテラン歌謡歌手のアルバムを聞くというのも、なんだか奇遇ですねえ。

外交官の家に生まれたボビー・カルカセースは、38年キングストン生まれ。
一家はボビーが4歳の時にキューバに戻り、
56年にボビー・コジャーソのヴォーカル・カルテットでプロ・デビューしたシンガー。
アフロ・キューバンにジャズをミックスした、ジャイヴィーな味のあるジャズ・シンガーで、
マルチ奏者でもある多芸なお人なんですね。
チューチョ・バルデース、エミリアーノ・サルバドールと共に、
60年代以降のキューバン・ジャズのスタイルを決定づけた功労者なんだそうです。

御年78歳になるわけですけれど、ジャケットを見ると、そんなお歳には見えませんね。
キューバ新世代として活躍中の息子ロベルト・カルカセースがプロデュースした本作は、
オリベル・バルデース(ドラムス)、ホルヘ・レジェス(ベース)、
フリート・パドロン(トランペット)、マラカ(フルート)といった、
現代キューバを代表するトップ・プレイヤーたちが勢揃いしています。

ベニー・モレーをモチーフにした1曲目のボビーのオリジナル曲から、
エリントンの「キャラバン」にボビーが詞を付けた“Caravana”、
「テンダリー」「ナイト・イン・チュニジア」といったジャズ・チューンのほか、
ティト・プエンテとデイブ・バレンティン他がアレンジした、
ペドロ・フローレスの“Obsesión” まで取り上げています。

ソフトで軽快にスウィングする歌い口で、スキャットも鮮やかに決め、
いや~、粋じゃないですか。
フロアでレディと踊りたくなりますよ。
ラストはボーナス・トラック扱いの“Son De La Loma”。
かの古典ソンのスタンダード・ナンバーを、
全編ア・カペラのスキャットで歌うとは、降参です。

Bobby Carcassés Y Afrojazz "BLUES CON MONTUNO" Bis Music CD1141 (2017)
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40年目の『エクソダス』 ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ [カリブ海]

Bob Marley EXODUS 40.jpg

世の中に「デラックス・エディション」はいろいろあれど、
01年にリリースされた、ボブ・マーリーの『キャッチ・ア・ファイア』の
デラックス・エディションくらい衝撃的だったのは、ほかにありませんでしたね。

イギリス・アイランドからリリースされた公式盤と、
ジャマイカ録音のオリジナル・ヴァージョンを並列させたものだったんですが、
ギター・ソロをオーヴァー・ダブしたり、回転数をあげてお化粧した公式盤を、
それこそ何百回とヘヴィー・ローテーションした者にとっては、
あの骨格のみで、力強くもみずみずしさを湛えたオリジナル・ヴァージョンに、
大げさでなく、腰が抜けそうなほどびっくりして、また感動したのでした。

オリジナル・ヴァージョンの素晴らしさに、あらためてマーリーの底力を知るとともに、
あのお化粧が、世界に進出するためには必要なものであったことも、
あらためて再確認できたのでした。
買っただけで棚の肥しになりがちな、他の「デラックス・エディション」とは違って、
あの2CDは、本当に愛聴したものです。驚愕のオリジナル・ヴァージョンだけでなく、
公式盤と続けて聴くことに妙味のある、極上のデラックス・エディションでした。

ボブ・マーリーのデラックス・エディションはいい! とまたも言えるのが、
今回出た『エクソダス』のリリース40周年記念エディションです。
公式盤のディスク1に、ジギー・マーリーの再編集による『エクソダス40』のディスク2、
アルバム発表時のライヴ音源(ほぼ初出)集のディスク3という内容なのですが、
再編集されたディスク2が、これまた目ウロコというか、大発見があったのです。

個人的な告白をすると、マーリーを初めて聴いたのが『キャッチ・ア・ファイア』なら、
これを最後にマーリーを聴かなくなった、
いわばマーリーとのお別れ盤が、『エクソダス』だったのですね。

ダークなA面に対して、ラヴ・ソングも並んだソフトなB面に大きな抵抗を感じ、
ラスタファリアンがポップ・スターにでもなる気なのかよと、
マーリーの変節を感じて、幻滅したのでした。
まあ、こちらも若くて、思慮が浅かっただけの話ではありますが、
そんなわけで、その後来日した時も、もう関心はないよと、
コンサートには足を運びませんでした。

さて、そんな狭量なぼくがマーリーとお別れした『エクソダス』。
A面は好きだったとはいえ、CD化した時にちょっと聴き直しただけで、
たぶんもう30年近く聴いてないんでありますが、
ジギー・マーリーが再構成したディスク2には、ちょっとびっくり。
当時もしこのヴァージョンで聴いていたら、「マーリーの変節」などとは思わなかったかも。

まず、「エクソダス」でスタートする曲順変更がいい。
しかも、やや冗長でもあったオリジナル・バージョンを、
2分20秒以上短くエディットしただけでなく、
マーリーの歌声がオリジナルより野性味を増しているのだから、驚かされます。

なんでもジギーは、当時の没テープから、未使用のヴォーカルや演奏の断片を取り出し、
ミックスし直す大変な編集作業を行ったとのことで、
オリジナルからあえて音を抜いて、ダブ的な効果を高めるなど、
慎重なミックスをしています。
海外リスナー受けをネラった装飾をことごとく削り取っただけでなく、
曲順も変更してオリジナルのA・B面の落差を埋め、
楽曲の持つ本質的な力を再創造したのは、素晴らしい仕事と言わざるを得ません。

もともと気に入っていたオリジナルのA面についても、
どこかレイドバックしすぎている印象があって、
やっぱりエッジが甘くなったよなと感じていたんですが、
今回の『エクソダス40』には、オリジナルにはなかった太いグルーヴが貫かれていて、
すっかり見直してしまいました。

Bob Marley & The Wailers "EXODUS (FORTIETH ANNIVERSARY EDITION)" Tuff Gong/Island 00602557546712
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サルサの若大将 エドウィン・ペレス [カリブ海]

Edwin Perez.jpg

すっかり興味を失っていたサルサ新作ですけれど、
去年あたりから、本格的に復調した兆しを感じるようになりました。
ちょうど一年前あたりにも、サルサ新作の記事を連投したおぼえがありますけど、
今年もきてますねえ、熱いやつが。

それが、この若手のエドウィン・ペレスのソロ・デビュー作。
若手と呼ぶものの、キャリアは十分。すでに中堅どころといってもよい人で、
ラ・エクセレンシアで10年のキャリアを積んでいるんだから、
満を持してのソロ・デビューなわけですね。

全10曲、オリジナル。キャッチーなメロディを書ける人ですよ。
エドウィンのヴォーカルとコロのコール・アンド・レスポンスも狂おしく、
切れ味バツグンのホーン・セクションとパーカッションが繰り出すグルーヴに、
シビれまくり。このティンバレスを叩いてるの誰?と思ったら、
ルイジート・キンテーロだって。うわ、そりゃ、スゴイわけだわ。

サルサはやっぱりこのグルーヴがなきゃ、ダメだよねえ。
スムースになっても、ポップになってもいいけど、
このキレとダイナミズムを失っちゃいけません。
サルサになくてはならない<熱>が、ここにはあります。

いいサルサを聴いていると、身体が黙っていない。
自然に足がステップを踏んで、腰が動いてしまう、バイラブレなサウンド。
エドウィン・ペレスのヴォーカルも、若い時のイスマエル・ミランダのような
「青春の光と影」の味わいがあって、もうたまりまへん。

Edwin Perez "LA VOZ DEL PUEBLO" Edwin Perez no number (2016)
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ソンの美意識を宿す声 セプテート・ソン・エンテーロ [カリブ海]

Septeto Son Entero  COCO PA' SU AGGO.jpg

ぽかぽかとした春の陽気に、ソンが聴きたくなって、
いくつかみつくろって買ったうちの1枚。
新作と思いきや、どれもこれも10年以上前の旧作で、
どんだけキューバのチェックを怠っていたのかと、反省しきり。

それにしても、ジャケットのなんたるやる気のなさ。
テキトーなデザイン、ここに極まれりで、ほんと、売る気があるんですかね。
ラテンはこの手のダメダメ・ジャケが昔から多くって、
ところが、なかには名作があったりするから侮れないんです。
ミゲリート・クニーのルンバ盤のボンゴ・ジャケットとか。

で、今回買った中でも、一番期待できなかったとゆーか、
こんなのに金払うのヤだなと思いつつ買ったアルバムなんですけど、
それが大当たりなんだから、ラテンはやっぱりわからん。

今回買ったソンのグループは、どれも初耳のグループばかりで、予備知識ゼロ。
あらためて、セプテート・ソン・エンテーロを調べてみたら、
キューバ中部カマグエイを拠点に活躍するグループとのこと。
このグループのフェイスブックがあったので、バイオを読んでみると、
93年結成で、本作は3作目とあります。

トレスにトランペット一丁を配した標準編成のセプテートで、
伝統スタイルのソンを聞かせる、まっことオーセンティックなグループなんですけど、
その演奏のみずみずしさ、フレッシュなリズム感に、心が浮き立ちます。
昔のままのソンの再生ではなく、
現代的なビート感やグルーヴをふまえて再解釈する志向は、
シエラ・マエストラが登場した時のことを思い起こさせますね。
こうしてソンの伝統は、ちゃんと継承されていくんだなあ。

なによりこのグループでマイってしまったのが、歌手のダウリン・アルダナ・ブデット。
これぞキューバといった声の持ち主で、
胸板によく共鳴する、朗々たる響きがたまりません。
う~ん、こういう野趣溢れる歌声が、キューバから聞かれなくなってしまったから、
すっとペルーにうつつを抜かしてたんですが(?)、なんだ、ちゃんといるじゃないか。
伝統ソンの美意識は、こういう声に宿っているのですね。

Septeto Son Entero "COCO PA' SU AGGO" Bis Music GBCD044 (2006)
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クレオール・クルーナーの祝30周年ライヴ トニー・シャスール [カリブ海]

Tony Chasseur  LIVE - LAKOU LANMOU.jpg   Tony Chasseur  LAKOU LANMOU.jpg

う~ん、この人はやっぱり、ライヴの方が断然輝くよなあ。
届いたばかりの新作を聴いて、実感しましたよ。

現在のマルチニークでサイコーにダンディな歌を歌うトニー・シャスールの、
デビュー30周年を記念するライヴ盤であります。
昨年のスタジオ盤“LAKOU LANMOU” をライヴでお披露目したもので、
16年10月にパリのラ・シガールで行われたコンサートが、
CD2枚とDVDに収録されています。

スタジオ盤と同じレパートリーが、見違える歌いっぷりで、
魅力倍増どころか、10倍増ぐらいになっているんですよ。
トニーって、スタジオ盤では端正にまとめすぎちゃうところがあって、
スムーズな歌いぶりが左から右に流れてっちゃうんだけど、
ライヴになると、がぜんイキイキとして、歌い口もぐっと生々しく、
冴えた歌いっぷりになるんですよね。

トニーが率いるビッグ・バンドのミジコペイが、その典型でしたよね。 
あのライヴDVDには、ほんとにブッとびました。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-03-07
え~、ミジコペイって、こんなに良かったっけかと、
あわててスタジオ盤引っ張り出して聴き直しましたけど、
まるで違うんですよ。やっぱりスタジオ盤はお行儀よく作った感が強くって、
それくらいライヴのダイナミズムは、段違いのスケール感があります。

というわけで、今回のデビュー30周年記念ライヴも同様。
スタジオ盤では味わえない、弾けまくり、キレまくるリズム、
フレンチ・カリブのクレオール・ジャズの名手たちが巻き起こすグルーヴに、
身体の芯がシビれまくります。
今作はホーンズばかりでなく、
ストリングス・セクションも配した贅沢なサウンドなんです。

トニーの闊達なスキャットやヴォイス・パーカッションも、
ライヴだから発揮されるスポンティニアスさで、客とのコール・アンド・レスポンスも巧み。
トニーって、一級のジャズ・ヴォーカリストにして、エンターテイナーですよ。
ミジコペイのDVDで圧倒されたトニーの才能を、ここでも再認識させられます。

ディスク1のビギン・ジャズあらためクレオール・ジャズ、
ディスク2のクレオール・ポップともに、トップ・クラスのミュージシャンを
入れ替わり立ち代わり使い、コーラスもミジコペイで登場した女性シンガーばかりでなく、
ゴスペル・クワイヤも起用して、これが盛り上がらずにおられよかといった場面の連続。

ああ、生で観たーーーーーーい! このグルーヴに身を浸して踊りた~い!
トニー、日本に来てぇーーーーーー! 誰か呼んでくださいーーーーーー!!!

[CD+DVD] Tony Chasseur "LIVE - LAKOU LANMOU : 30 ANOS DE CARRIÈRE À LA CIGALE" 3M - Mizik Moun Matinik CM2487 (2017)
Tony Chasseur "LAKOU LANMOU" 3M - Mizik Moun Matinik DHP055-2 (2015)
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フィーリン・ハーモニー コンフント・ホセー・ドローレス・キニョネース [カリブ海]

Conjunto De José Dolores Quiñones.jpg

そしてもう1枚、今回買ったヴィンテージ・ミュージック盤でカンゲキしたのが、
コンフント・ホセー・ドローレス・キニョネース。
ソフトなハーモニーの美しさにラテンの粋を感じさせる男性デュオ、
エルマーノス・ベルムーデスが歌うボレーロ集なんですが、
これはまさに、フィーリン・ハーモニーそのものですね。

なるほど、昨年アオラから出たコンピレーション『フィーリン・ハーモニー』の1曲目を
飾るわけだと納得の“Levante” が、本作の1曲目に収録されています。
ホセー・ドローレス・キニョネースという人は、
アオラ・コーポレーションのサイトの解説によると、
「1945年頃からメキシコやスペイン、フランスやイタリア、ノルウェイなどを転々とした
バカブンド的体質を持つ作曲家で、その作品は、ベニー・モレー、アントニオ・マチン、
ロランド・ラセリエ等のキューバ人やローラ・フローレス、ハビエル・ソリス、
ボビー・カポ、ダニエル・サントスなどなど広範囲なラテン系有名歌手にも
作品を取り上げられています」とのこと。
ぜんぜん、知りませんでした(汗)。

都会的センスのあるボレーロを書く人で、ホセー自身が弾くギターを中心とした
小編成のサウンドは、まさしくフィーリンのエッセンスを強く感じさせます。
ホセー・アントニオ・メンデスの“Mi Mejor Cancion” を取り上げてるところも、
まさしく同時代のフィーリンと共振していることをうかがわせるし、
なによりそのサウンドが、当時の新感覚に溢れているんですね。

まず、クラリネットを起用しているのに耳をひかれるんですが、
硬い音色でくっきりとした音像を残すクラリネットの裏で、
柔らかな響きのトロンボーンが対位法的なカウンター・メロディを吹くと、
サウンドがグッとふくよかになり、コンフントのサウンドがまろやかに包み込まれます。
曲によっては、トロンボーンでなく、サックスやフルートも聞かれるので、
マルチな管楽器奏者なのかもしれませんが、
この2管のアレンジがハーモニー・ヴォーカルとともに、
ボレーロを甘美に織り上げています。

わずか8曲22分足らずのアルバムなんですが、
フィーリン好きには堪えられないアルバムです。

Conjunto De José Dolores Quiñones
"CONJUNTO DE JOSÉ DOLORES QUIÑONES CANTAN: HERMANOS BERMÚDEZ"
Vintage Music 057
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ファンキー・チャ・チャ エル・グラン・フェジョーベ [カリブ海]

El Gran Fellove.jpg

ヴィンテージ・ミュージックという聞いたことのないスペインのレーベルから、
興味をソソるタイトルのオールディーズ・ラテンのCDが、
いろいろ出ているのに気付きました。
気になったタイトルをいくつか買ってみたら、
届いたCDはペーパー・スリーヴのケースにCD-Rのディスクを突っ込んだだけで、
ライナーノーツもクレジットもない、曲目が書かれているだけの、アイソのない作り。
廉価盤シリーズなら諦めもするけど、お値段はフツーのCDと変わらないんだから、
ちょっとこれはないんじゃない?

ヴィンテージ・ラテンのレア盤を次々とCD-R化しているユニコよりは、
ジャケットの印刷もキレイだし、なにより音質がいいので、
購買意欲はかきたてられますけれども、でも、ちょっと、ねえ。
同じスペインでは、かつてトゥンバオという復刻専門の優良レーベルが
活躍していた時代を知っているだけに、「雑な仕事しやがって」という不満は残ります。

手にしたCDの裏面に、お店のサイト・アドレスが書かれていたので、
ほかにどんなのがあるのかしらんとアクセスしてみたら、驚愕!
カタログに載っていたタイトルは、なんと、3300以上。
ひえ~、なんだ、このレーベル。
こんな膨大なカタログを持ってるとは想像だにせず、ビックリ。
おかげで、カタログ全部チェックするのも大変で、2日がかりになっちゃいましたよ。

カタログは、ラテンに限らず、オールディーズ全般を扱っていて、
ジャズ、ロック、ムード、ダンス・オ-ケストラ、サウンドトラックなどがずらり勢揃い。
なんだか、昔のメモリー・レコードを思い出すなあ(50代以上のオヤジ限定の述懐)。
過去にCD化されたタイトルもありますけど、まったく見ず知らずのものも、たんまりある。
これ、ちょっと欲しいかも、と書き出したタイトルが結構な数になってしまって、
う~ん、どうするかなあ。1枚千円くらいなら、思い切って買っちゃうけど、
この値段じゃなあ。ぶつぶつぶつぶつぶつ。

閑話休題。
今回買ったCDで驚いたのが、エル・グラン・フェジョーベ。
メキシコRCAに録音した代表作2作は、
エル・スール・レコーズがすでに完全復刻してくれましたけれど、
ワトゥーシやツイストなんてやっているこのアルバムは聞いたことがなく、
“WATUSSI” というタイトルの66年ムサート盤とは違うようで、原盤は不明。
間違いなく初CD化でしょう。

のっけの“Watussi” からジャイヴィーな歌い口で迫るフェジョーベ、カッコよすぎます!
全編ファンキー一色に塗りつぶした歌いっぷりが、胸をすきますねぇ。
スムースでメロウな色気たっぷりな歌いぶりを聞かせる“Calypso” に、
「ワトゥ・チャ」を連呼するファンキーな“Mueve La Cintura”
キレまくるツイストのリズムにのせてシャウトしスキャットが爆発する“Sagcuiri”。
この役者ぶり、ぼくの大のごひいきのスキャット・シンガー、
ジョー・キャロルをホーフツとさせます。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2014-02-14

キューバン・ジャイヴの新たなる名盤登場、
フィーリン、ジャイヴ、スキャット好きの皆さん、お聴き逃しなく。

El Gran Fellove "EL GRAN FELLOVE" Vintage Music 095
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甘美なメロディに蕩けるビギン ロナルド・チュール [カリブ海]

Ronald Tulle  F.W.I..jpg

タニヤ・サン=ヴァルの新作、すんごくイイじゃないですか。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-01-13
年明けから絶賛愛聴中で、毎朝の通勤が楽しいったらありゃしない。
タニヤの艶っぽい歌声もサイコーなら、楽曲も粒揃いで、捨て曲なし。
ファンの欲目とお思いの方もいるでしょうが、
こりゃあ、タニヤの代表作“MI” 以来の傑作といって間違いありません。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2010-07-19

2枚組全部を聴き終えても、まだタニヤの声が名残惜しく、
別のディスクに移るのが心残りでしょうがなかったんですが、
続けて聴くのに、最高といえる1枚を手に入れましたよ。
それがマルチニークのピアニスト、ロナルド・チュールの05年デビュー作。
10年以上も前のアルバムで、在庫処分のアウトレット品で買ったんですが、
これが極上のアルバムだったんですね。

そのオープニングの曲を歌っているのが、タニヤ・サン=ヴァルなんですよ~。
クレオールの粋をギュッと濃縮した、メランコリックなメロディが実に甘美で、
それを歌うタニヤのせつなげな吐息混じりの歌いぶりに、心を鷲づかみにされます。
AメロからBメロに転調する場面では、脳内のドーパミンが爆発しました。

このズークからビギンへと移る2枚の連続が、すごくいい繋がりなんですよね。
ロナルド・チュールといえば、ビギン・ジャズの大傑作“RAISING” が忘れられない人。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-10-07
10か月近く通勤途上でヘビロテだった“RAISING” は、
ミジコペイのライヴDVDとともに、15年のマイ・ベスト・アルバムにも選びました。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-12-30

“RAISING” の何が痛快だったって、マリオ・カノンジュと肩を並べる
ピアニストとしての腕前だけでなく、コンポーザー、アレンジャーの才能だったんですよね。
特にソング・ライティングの能力は傑出していて、
こんなに<あでやかな>メロディを書ける人は、世界を見渡したって、そうそういませんよ。

デビュー作の本作は、大勢のヴォーカリストをフィーチャリングした
歌ものアルバムになっているんですが、
ここでもロナルドの書くメロディがすごくいいんですね。
冒頭のタニヤ・サン=ヴァルの曲しかり、ラルフ・タマールが歌う2曲、
カッサヴのヴォーカリスト、ジャン=フィリップ・マテリーが歌った曲も、絶品です。

インストも聴きもので、
ミジコペイをホーフツとさせるダイナミックな展開のアレンジを施した、
ラテン・ジャズの“Rouen 86” は、アルバム最大のヤマ場となっています。
ホーン・セクションとヴィブラフォンを配し、
たった4管とは思えぬビッグ・バンドばりのサウンドに、胸躍るんですが、
そのスリリングなアレンジの妙を楽しめるのも、
ロナルドの曲の良さがあってこそなんですよね。

Ronald Tulle "F.W.I." Créon Music 8641322 (2004)
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グアドループのファム・ファタール タニヤ・サン=ヴァル [カリブ海]

Tanya St-Val  VOYAGE.jpg

ズークが爆発した80年代半ば。
ズークのアイドル・シンガーとしてジョセリーヌ・ベロアールと人気を二分した
タニヤ・サン=ヴァルが、いまだ衰えぬ魅力を発揮しているのは、
デビュー作から30年来追っかけてるファンにとって、嬉しい限りです。

いくらアイドル・シンガーといえど、さすがに50を超えれば、
若い時の魅力と同じままというわけにはいかなくなるものなのに、
この人のチャーミングさは不変。
押しの強い肉食系・妖艶キャラが持ち味のタニヤだからこそ、
若さ勝負のカワイコちゃんタイプでは突破できない、年齢の壁を乗り越えられるのかも。
耳元で囁くように歌う甘やかさと、男をかしづかせるセクシーさは、
ファム・ファタールのような魔性を感じさせますよね。

さて、そのタニヤの新作、08年の“SOLEIL” 以来8年ぶりとなるアルバムです。
UVカット化粧品のポスターみたいなジャケットが、
グアドループからの風を感じさせ、爽やかじゃないですか。
なんと2枚組という力の入った作品で、それぞれ“SOLEIL” “LUNA” と題しています。

2枚の制作陣はそれぞれに違い、念入りに仕上げたんですね。
どちらも収録時間は30分前後で、1枚に収めることもできたはずですが、
あえて2枚組にしたのは、サウンド・カラーの違いを強調したかったんでしょう。

『お日さま』編は、原点回帰といえるシンセを重ねたサウンドで、
割り切った大振りのビートを強調したストレートなズーク。
一方の『お月さま』編は、ジャジーなズークを聞かせます。
スキマのあるサウンドで、ブーラ(太鼓)などのパーカッションを効果的に使い、
細分化されたリズムを強調していて、ぼくの好みは『お月さま』編の方。

寒い冬を忘れさせてくれる、嬉しいズーク快作。
ここんところズークを聴いてなかったなあという方にも、オススメです。

Tanya St-Val "VOYAGE" Netty Prod & Mizikarayib NP12-2016 (2016)
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爺ちゃん、ハツラツ! ロス・フビラードス [カリブ海]

Los Jubilados  LA LLAVE DEL SON.jpg

世界で老人がカッコいい国といえば、キューバとコンゴが両横綱でしょうか。
キューバはサンティアゴ・デ・クーバのソンのグループで、
ロス・フビラードス、その名も「退職者」というグループを初めて知りました。
ワタクシもお年頃のせいか、親近感のわくグループ名であります。
写真を見ると、トランペッター以外のメンバー全員がご老人で、
ご隠居クラブといった面持ちなんですが、みなさんオシャレで、さすがはキューバです。

そんでもって、音楽がまたハツラツとしてるんだから、たまりません。
アルバム全編にみなぎる、ソンのスピード感がすごい。
なにこの疾走感! キリリと引き締まったビート!
枯れた円熟味なんて、どこへやら。こんなにフレッシュな演奏を、
ほんとにこのおじいちゃんたちがやってんのかと、のけぞっちゃいました。

すんごいなあ。
サンティアゴ・デ・クーバには、こんなグループがいくらでもいるんだろか。
ロス・フビラードスというグループをぜんぜん知らなかった不明を恥じて、
あわてて調べてみたら、94年にサンティアゴ・デ・クーバの伝説的なソネーロ、
フアン・グアルベルト“ベベート”フェレールがリーダーとなって結成したグループで、
セカンド・ヴォーカルにベベートと50年代からのコンビのマリオ・カラカセスを擁していました。

98年にデビュー作“CERO FARANDULERO” をメキシコのコラソンから出し、
本作は8年ぶりの7作目にあたるとのこと。
06年からはペドロ・ゴメスがリーダーを務めていて、
ベベートとカラカセスはすでに他界していて、
結成当初のメンバーはもう残っていないみたいです。

キレ味たっぷりのソンには、サンティアゴ・デ・クーバらしい味わいがいっぱい。
レパートリーにはメンバーのオリジナルのほか、
ピート “エル・コンデ” ロドリゲスが歌った“Catalina La O” や
ジョー・アロージョの“Rebelion” なんて曲も。1曲クンビアもやっています。

すっかりお気に入りになってしまい、これまでこのグループを知らずにいたのを反省して、
現在前作のエグレム盤“PURA TRADICION” と
デビュー作のコラソン盤“CERO FARANDULERO” をオーダー中。
届くのが楽しみです。

Los Jubilados "LA LLAVE DEL SON" Egrem CD1369 (2016)
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キューバのメロウネスに酔う ルイス・バルベリーア [カリブ海]

Luis Barberia feat. Sexteto Sentido  A FULL.jpg

オ・ド・ロ・き・ました。
キューバにこんなオシャレなアーバン・ポップスがあるとは。
キューバの新世代シンガー・ソングライターという、
ルイス・バルベリーアの新作サンプルを聴いて、ソッコー、ぽちりましたよ。

パブロ・ミラネースやシルビオ・ロドリゲスへの悪印象のせいで、
ヌエバ・トローバは完全無視のジャンルと、自分の中に位置づけたのがもう30年前のこと。
キューバのシンガー・ソングライターなんて、まったくの関心外でしたけど、
時代はとっくに移ろっていたんですねえ。
そういえば、パブロ・ミラネースの娘がステキなフィーリン作を出してたっけなあ。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-09-03

ほかにも、アクースティック・サウンドでジャジーなヴォーカルを聞かせる若手に、
ジューサをはじめ、テルマリーやヘマ・コレデーラがいますけど、
どうもどの人も薄味で、ぼくには魅力薄だったんですよね。
ラテンが薄味じゃ、ダメでしょ。
でも、ルイス・バルベーリアの歌い口にはコクがあって、惹かれたんですよ。

そして、ジャジーなポップ・センスにも、目を見張らされました。
アクースティック・ギターを軸にしながら、ドゥーワップやスキャットをこなし、
グルーヴィなファンクをさらりとやってのける手腕も鮮やかで、
インターナショナルに開かれた音楽性を感じさせる人ですね。

ルイス・バルベリーアは、スペインを拠点にヨーロッパで活動していたんだそうで、
たしかにキューバ国内よりも、グローバルなマーケットの方が、ウケはよさそう。
韓国人ギタリストと女性ベーシストがバックを務めるのも、イマっぽいもんな。
キューバ帰国後、エグレムと契約したことは、国内では意外と受け止められたようです。

ルイスの太くソフトなヴォーカルを包み込む、
女声四重奏セスト・センティードの天使の歌声が極上のメロウさで、
羽毛布団のベッドにダイヴするような、夢見心地を味あわせてくれます。
クアルテート・エン・シーを思わすのは、ブラジル好きのサガでありますが、
ラス・デ・アイーダの現代版ととらえるべきなんでしょうね。

なんか、ここんところ、オーガニックでジャジーなポップスがきてるなあ。
アンゴラのカンダに続き、絶賛ヘヴィー・ローテーションとなること間違いなし。
大嫌いな言葉ではありますが、スタイリッシュという形容は、
こういう音楽にこそふさわしいのかもしれません。

[CD+DVD] Luis Barberia feat. Sexteto Sentido "A FULL" Egrem CD+DVD1268 (2014)
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カリブがジャズを生んだ [カリブ海]

Jamaica Jazz 1931-1962.jpg

「ジャズはラテン・アメリカの音楽の一種である」という刺激的なテーゼは、
ラテン、カリブ音楽ファンはもとより、
ポピュラー音楽史に関心を持つ者に、多くの示唆を与えてきました。
ところが、肝心のジャズ・ファンは、
この言葉の意図するところがわかってない人が多いですね。

まず、このテーゼを考えるには、両者の音楽が誕生する以前の、
19世紀末から20世紀初頭の音楽を想起しなければ意味がないんですけれど、
現在のジャズとラテンを前提にして論じるムキが多く、
それでは議論が的外れなものにしかなりません。

ジャズに限った話じゃないですけれども、ひとつのジャンルしか聞かない音楽ファンは、
知識が豊富なようにみえて、黄金時代の録音ばかり根掘り葉掘り聴いて、
SPや蝋管時代の初期録音はまったく聴かない人がほとんど。
それでは、音楽史観のような大局に立ったものの見方や、
イマジネーションを要する歴史観が身につくはずもないですね。

いまでは、ジャズ評論家の油井正一さんが打ち出したように思われがちなこのテーゼですが、
もとはドイツのジャズ評論家アーネスト・ボーネマンが
「ジャズはニューオリンズで誕生したラテン・アメリカ音楽の一種である」と言ったのを、
油井さんがスイングジャーナル誌の連載記事「ジャズの歴史」の中で紹介したもの。
その後、連載が書籍化された名著『ジャズの歴史物語』でも、
アーネスト・ボーネマンの説として丁寧な注釈をしているのに、
なぜか油井説のように流布されているのは、油井さんも天国で苦笑されているだろうな。

そんな名言、「ジャズはラテンの一種」をひさしぶりに思い出したのは、
ブルーノ・ブルムが監修したジャマイカン・ジャズの編集盤の解説に、
より明快に表現したテーゼを読んだからなのでした。

いわく、「ジャズはアフロ=クレオール文化の産物」。
どーです。
「ラテン・アメリカ音楽の一種」なんて曖昧さの残る表現ではなく、
複雑な文化状況のもとで混淆した音楽の本質を、より明快に言い切ってるじゃないですか。

ほかにも、
「アメリカでジャズの揺りかごとなったニュー・オーリンズは、
<クレオールネス>の基点となる最良の見本となった場所」としたうえで、
「ニュー・オーリンズは、カリブの首都だ」とする
アメリカの音楽学者ネッド・サブレットの言葉を引用して、
「ジャズはカリブで生まれた」という見出しをつけています。

う~ん、含蓄のある言葉が並びますねえ。
ここまで言うのなら、さらに一歩踏み込んで、
「カリブがジャズを生んだ」と言いたいですね。どうでしょうか。

V.A. "JAMAICA JAZZ 1931-1962" Frémeaux & Associés FA5636
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真夏のマルチニークのベレ [カリブ海]

CONCEPT BÈLÈ  SANBLÉ.jpg

真夏の季節にうってつけのパーカッション・ミュージックが届きました。
マルチニークのベレでありまっす。
ここ最近は、フレンチ・カリブのパーカッション・ミュージックというと、
グアドループのグウォ・カをよく耳にしていましたけれど、
マルチニークのベレのアルバムが出るのは、ひさしぶりな気がします。
奴隷時代に起源をもつパーカッション・ミュージックで、
現代もなおナマナマしさを失わないのは、レユニオンのマロヤと双璧でしょう。

この2枚組、歌い手と打楽器奏者総勢20名近くを集めた、企画アルバムなんですね。
歌い手がかわるがわるリードを取り、コーラスとコール・アンド・レスポンスするんですが、
老若男女さまざまな歌い手たちが、いずれもコクのあるノドを聞かせてくれて、
変化に富むばかりでなく、なんとも味わい深いんです。

伴奏は、樽型の太鼓ベレ(タンブーまたはジューバ)とチ・ブワ(2本のスティック)が基本。
数曲で、シャシャ(シェイカー)やコン・ランビ(ほら貝)も加わります。
ちなみに、チ・ブワのことを、架台に載せた竹だと勘違いしている人がいますけど、
竹はバンブー=フラペと呼ばれ、叩く方の短い棒の名前がチ・ブワなんですね。
チ・ブワはベレの基本のリズムを生み出し、
叩くのは必ずしも架台に載せた竹ばかりでなく、本作のジャケットでもおわかりのとおり、
横置きしたベレのボディを叩いたりします。

各曲には、ベレ、ベリヤ、カレンダ、ダミエ、グラン・ベレ、ベネズエル、クードメン、
ティング=バングなどの形式名が書き添えられていて、
リズムやダンスの型に、数多くのヴァリエーションがあることがよくわかります。
ダミエは格闘技、カレンダは戦いの音楽であるように、激しいダンスを伴うものが多く、
ワークソングのように短いフレーズの反復を延々と繰り返す内向きのダンスではなく、
外にエネルギーが向かう、跳躍を伴う瞬発力のあるダンスです。

CD2枚組全編、打楽器と唄とコーラスのみという、シンプル極まりないものですけれど、
パーカッション・ミュージック・ファンにはたまらない逸品。
ぎらぎらとした真夏の陽を浴びて、弾けるリズムの快感に酔いしれます。

V.A. "CONCEPT BÈLÈ : SANBLÉ" Konvwa Moun Bele 6971.2 (2016)
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キューバ音楽の伝統を前進させる才能 アチ・ラング・イ・エル・アフロクーバ [カリブ海]

Achy Lang Y El Afrocuba.jpg

うわ~、器用だなあ。
ソンにキューバン・サルサ、ダンソーン、ラテン・ジャズ、トローバ、グアヒーラ、
最後にはチャングイまでもと、多彩なスタイルを流麗に聞かせます。

その演奏があまりにもソツなさすぎて、
ひっかかりがないことに不満を募らせるのは、年寄りの悪い癖。
だってさあ、スムースすぎません? オールド・キューバンの野趣な味わいを知るオヤジには、
なんだかなあという感想を拭い去ることができません。
なんてブツブツ言ってたくせに、毎夜CDをトレイに載せて、
プレイボタンを押してるんだから、なんだ、気に入ってんじゃん、自分。

アフロ・キューバン・オールスターズのフアン・デ・マルコス・ゴンサーレスの右腕として活躍してきた
若手敏腕ミュージカル・ディレクター、アチ・ラングの新作です。
参加したミュージシャンの顔ぶれが豪華で、
アマディート・バルデース、バルバリート・トーレス、
マラカ、ロランド・ルナといった超一流どころがずらり。
そんな豪華メンバーの技をきっちり浮かび上がらせるアレンジとデイレクションは、
アチ・ラングの得意とするところで、しっかりと計算され尽くされているからこそ、
これほどスムースに聞けるってわけですよね。

DVDのコンサート・ライヴも、見どころが満載。
バルバリート・トーレスのラウーの超絶技巧に、マラカのフルート・ソロ、
アマディート・バルデースの肩の力の抜けたティンバレス・プレイは、
いかにもお爺さんといったその外見から想像できないシャープさで、脱帽・降参・悶絶。

アフロ・キューバン・オールスターズの歌い手テレーサ・ガルシア・カトゥルラ(テテ)も
味わい深い歌を聞かせるほか、アチ自身の歌が上手いのにも感心させられました。
ピアノ、ギター、ヴァイオリンというマルチ演奏ばかりか、どんだけ才能あるんだ、この人。
キューバの伝統を前進させるのは、こういう人なんですねえ。

[CD+DVD] Achy Lang Y El Afrocuba "ABRIENDO EL CAMINO" Producciones Colibrí CD/DVD258 (2012)
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還ってきたプエルト・リコ・サルサ ホセー・ルゴ & グアサバラ・コンボ [カリブ海]

José Lugo & Guásabara Combo.jpg

うぉー、すごい音圧。
ホーンズとパーカッション陣がぐいぐいと押し迫ってくるサウンドに、ノックアウト。
出音イッパツで、とびっきりの一級品のプエルト・リコ・サルサだってことが、
すぐわかるってもんですね。
コンボを名乗ってるけど、サウンドはまぎれもなく、重量級オルケスタですよ。

なんだかここんところ、サルサが還ってきてる感じがしますね。
ボビー・バレンティンの新作もそうでしたけど、
この前聴いたロス・アチェーロスの2作目も、
70年代サルサ時代のバリオの匂いをぷんぷんと撒き散らしていて、マイったばかりです。

で、こちら、リーダーのピアニスト、ホセー・ルゴは、
ボビー・バレンティンやウィリー・ロサリオのもとで修行し、
その後、ヒルベルト・サンタ・ロサ、トニー・ベガ、ビクトル・マヌエル、イサック・デルガード、
エルビス・クレスポなど、さまざまな歌手のディレクションを務めてきた人とのこと。

バイラブレに徹して、一瞬たりとも緊張を緩めないスキのないアレンジが見事じゃないですか。
まさに豊富なキャリアに裏打ちされたディレクションといえますね。
この緻密なアレンジこそが、80年代以降のプエルト・リコ・サルサの醍醐味ですよ。
オルケスタが気持ちよく、ウネること、ウネること。
ボビー・バレンティンはシャープな切れ味でウナされましたけど、
こちらはファットなグルーヴに魅せられました。

懐の深さを感じさせたのは、ノロ・モラレスの曲をインスト演奏でさらりとやっていたこと。
ほかにも、ルイス・カラフのメレンゲを取り上げていたりと、
プエルト・リコだけにとどまらない古典ラテンへの目配りをしていて、
アルバムに奥行きを生んでいるところも、さすがです。

José Lugo & Guásabara Combo "¿DÓNDE ESTÁN?" Engrande Music EG506 (2016)
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王道サルサの醍醐味 ボビー・バレンティン [カリブ海]

Bobby Valentin  MI RITMO ES BUENO.jpg

おぅ、これ、ボビー・バレンティンの新作か!
ぐいと前を見据えたボビーの眼光の鋭さに、呼ばれちゃいました。
75歳にして、このキリリとしたマイト・ガイぶり。カッコよすぎます。

それにしても、サルサ新作でこんなシブい色合いのジャケットというのは、
珍しいんじゃないでしょうか。
デジパックを開くと、黒の革ジャン、丸首の白シャツ、ジーンズの揃いでキメた、
オルケスタの集合写真がど~んと載っています。
どんよりとした曇り空をバックに、モノトーンで迫るラテンらしからぬ佇まいから、
ヴェテラン・オルケスタの気概が伝わってくるかのようですね。

「こりゃあ、良さそうだぞ」と感じた予感は、的中。
1曲目のロベルト・アングレロ作の“Amolador” から、涙腺が爆発してしまいました。
71年作の“ROMPECABEZAS”に収録されていた名曲の再演なんですが、
新曲と変わらぬ、フレッシュで緊張感溢れるオルケスタ・サウンドに、カンゲキしきりです。

タイトル曲の“Mi Ritno Es Bueno” も、
ファニア時代の73年作“REY DEL BAJO” でやっていた曲ですね。
ファニアからブロンコに移り、よりエッジの効いたオルケスタ・サウンドとなったヴァージョンで
かつての曲を聞けるのというのも、オツじゃないですか。
珍しいところでは、アルセニオ・ロドリゲスの“Yo No Engaño A Las Nenas” があります。
エディ・パルミエリが68年作の“CHAMPAGNE” でカヴァーしていましたが、
本作ではすごく複雑なアレンジを施したホーンのソリが聴きどころ。
あと、ボビーのベース・ソロが聞けるというお楽しみもあり。

それにしても、トランペットからバリトン・サックスまで、
高低音の音域差を使い分けた5管のアレンジの巧みさや、
個性の異なる3人のカンタンテ(歌手)の使い分けなど、
何十年と変わらぬボビー・バレンティンの普遍のスタイルながら、
どうしてこうもみずみずしく響くんでしょうか。
手練れた感触などまったくなく、ぴりっと引き締まった演奏ぶりは、
もう素晴らしいとしか言いようがありません。

ラストのカチャートにオマージュを捧げた曲まで、
5リズムと5ホーンがキレまくった王道サルサの最高作。
数多いボビーの愛聴盤の中でも、
85年の“ALGO EXCEPCIONAL” 以来のヘヴィー・ローテーション盤となりそうな新作です。

Bobby Valentin "MI RITMO ES BUENO" Bronco BR178 (2015)
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バハマのレイクン=スクレイプ [カリブ海]

BAHAMIAN RAKE-N-SCRAPE.jpg

バハマの音楽といえば、ナッソーのダウンタウンで、
12月26日のボクシング・デーと元日に開催されるパレード音楽、ジャンカヌーが有名ですね。
90年代にバハメンが、ポップ化したジャンカヌーを、ロンドンから世界に広めました。
このほかバハマには、レイクン=スクレイプと呼ばれる音楽があるんですが、
おそらく世界初といえる本格的なレイクン=スクレイプのアルバムが、
スミソニアン・フォークウェイズからカスタムCD仕様でリリースされました。

これは、とっても貴重なアルバムですよ。
なんせバハマ音楽といえば、世界有数の観光地という土地柄のせいか、
観光客目当ての商業的なグンベイはたくさん録音が残っているものの、
こういう伝統音楽がオーセンティックな姿のまま録音され世に出されることは、
ほぼ皆無でしたからねえ。

レイクン=スクレイプの起源は、
バハマ諸島の南に位置するイギリス領のタークス・カイコス諸島にあり、
タークス・カイコス諸島からバハマ諸島のキャット島に渡ってきた移民たちが、
20~40年代にレイクン=スクレイプとして育んだと言われています。
発祥のタークス・カイコス諸島ではリップ=ソウと呼ばれ、
イギリス領ヴァージン諸島ではフンギ、ドミニカ国ではジン・ピンと呼ばれていますが、
もっとも盛んなのはキャット島のレイクン=スクレイプでした。

スクレイプの語源であり、発祥の地でずばりソウと名付けられているとおり、
ノコギリがスクレイパーとして使われ、太鼓のグンベイとコンサーティーナの3人編成が
この音楽の最小単位。グンベイの代わりにドラムスが使われ、
ボックス・ギターやトライアングルが加わる編成もあります。

このアルバムで演奏している2つの両グループともが、3人の最小編成。
主なレパートリーがバハマ式のカドリールやポルカ、ワルツであることからもわかるように、
この音楽はまさしくカリブ海で産み落とされたクレオール・ミュージックです。
楽器編成そのものが、アフリカとヨーロッパのミクスチャーですよね。

スクレイパーが刻むリズムが特徴のカリブ音楽といえば、メレンゲがすぐ思い浮かびますけど、
ほかにも同じクレオール・ミュージックとして、カーボ・ヴェルデのフナナーもあります。
いずれも楽器編成が似ているものの、リズムがそれぞれ違うところが面白いですね。
スクレイパーがベーシックなリズム・パターンを刻むところは、3者とも共通しているんですけれど、
そこに絡んでくる太鼓のリズム・パターンがそれぞれに違うんですね。

メレンゲのように前のめりのドドドッと突っ込んでくる感覚がレイクン=スクレイプにはなく、
同じツー・ビートでも、タメの利いたリズムを聞かせます。
太鼓のグンベイがウラを取るところに、特徴を感じます。
歌なしの演奏で聞かせる前半のグループ、歌ありの後半グループと、
純度の高い快活なバハマ音楽をたっぷりと味わえます。

なお、本作はカスタム仕様のため、ライナーノーツは添付用紙でサイトにアクセスして、
PDFを入手するようになっています。
24ページのPDFライナーノーツは、さすがにスミソニアン・フォークウェイズ、大充実。
CDのライナーノーツを読むのが苦行なお年頃には、
液晶画面で読めるPDFが嬉しいっす。

Ophie & Da Websites and Bo Hog & Da Rooters "BAHAMIAN RAKE-N-SCRAPE" Smithonian Folkways SFWCD50406 (2016)
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田舎のビギン ギイ・ヴァドリュー&オタンティック [カリブ海]

O’Tantik  GUY VADELEUX.jpg

カリの『ラシーヌ』を愛するファンには、たまらないアルバムですね。
クラリネットやトロンボーンの伸びやかな演奏とともに、
バンジョーのコロコロとした響きが、田舎のビギンといったムードをまき散らします。

お懐かしや、ギイ・ヴァドリュー。
70年代から活躍するマルチニークのトロンボーン奏者です。
ハイチのコンパがフレンチ・カリブを席巻していた70年代に、
カダンスで対抗しようとしていたマルチニークで、
すっかり流行遅れとなっていた古いビギンのスタイルを堅持していた頑固者(?)です。

ズークが吹き荒れた90年代には、さすがのギイもシンセを導入して、
エレクトリック色の強いアルバムを作っていましたけれど、
レパートリーはあいかわらずビギンやマズルカで、ズークには手を出さなかったもんなあ。

その後、まったくギイの名前を見なくなっていましたけれど、
きっと地元では演奏活動を続けていたんでしょうね。
今回のアルバムは、オタンティックというグループ名義による新作となっています。
レーベル名から察するに自主製作ぽく、ディスクもCD-Rなんですが、
内容はこれまでぼくが聴いたことのあるギイのアルバムの中では、最高作ですね。

アレクサンドル・ステリオ、レオナ・ガブリエル、アルフォンソなど、
古典ビギンの名曲集となっていて、
ギイのトロンボーンとクラリネットの二管に、ピアノ・トリオの編成で演奏しています。
ギイがバンジョーを弾きながら歌う曲もあって、
これがカリの『ラシーヌ』を思わせるわけなんですが、
なかなかに味わいのある歌を聞かせてくれます。

地元マルチニークでは、アンティーユの華やかな民俗衣装をまとった女性たちを
ステージに迎えたコンサートなども行われているようで、う~ん、観てみたい。
民音あたりが呼ばないかな。

O’Tantik "LE GROUP O’TANTIK - GUY VADELEUX" GV Production GV013 (2014)
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マラヴォワ初代リーダーのソロ作 マノ・セゼール [カリブ海]

Mano Césaire.jpg

ええっ、マノ・セゼールのリーダー作 !?
ソロ・アルバムって、これまでにあったっけか?
覚えないなあ。ひょっとして、これが初ソロ作品かも。
新作カタログに載っていて驚かされた、
69年マラヴォワ結成当初のリーダーでヴァイオリニストの、マノ・セゼールのアルバムです。

ラスト1曲をのぞき、全曲インスト。
ヴァイオリン2台、チェロ、ピアノ、ベース、パーカッションの6人編成。
もう一人のヴァイオリニストのノナ・ローレンス嬢はマノの教え子さんだそうで、
ベースはヴェテランのアレックス・ベルナールが務めています。

ドラムレスの弦楽中心の編成もあって、
シンフォニックな響きのビギンやマズルカ、ヴァルスは、
クラシカルな雰囲気がいっそう濃厚になっています。
なんだか、紳士淑女が集う優雅なボールルームをイメージさせるようですね。

もともとマノ・セゼールは、クラシックの演奏家だったんですもんねえ。
キューバのダンソーンに通じる、上品で優雅な演奏は、
マラヴォワの黄金時代をホウフツとさせます。

そしてラスト1曲は、ラルフ・タマールがゲスト参加。
ちょっと残念だったのは、曲調のせいか、少し元気なく聞こえたこと。
声も少し太く重くなっていて、持ち前のダンディーな色艶が感じられませんでした。
ラルフ・タマールのゲストを楽しみにしていたので、これは少しばかり期待外れでしたが、
往年のマラヴォワを思わすステキな1枚です。

Mano Césaire "CHIMEN NOU" no label no number (2015)
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グアドループのカドリーユ楽団 ナルシス・ブカール [カリブ海]

Narcisse Boucard  LE DÉLIRE DE NARCISSE.jpg   Narcisse Boucard  QUADRILLE TRADITION.jpg

ロナルド・チュールと一緒に届いたのが、
グアドループのアコーディオン弾き、ナルシス・ブカールのアルバム。
この人の99年のデブス盤を持っていたので、おや、ひさしぶりと思ったんでした。

デブス盤は伝統的なカドリーユ・アルバムでしたけれど、
ギターやスティールパン、キーボード、バンジョーを効果的に使っていて、
30分程度という小品ながら、なかなか聞かせるアルバムに仕上がっているんですよ。
カドリーユのような伝統音楽は、なかなかCDにならないので、
新作が出るというのは珍しいですね。自主制作かもしれませんが。

グランド=テール島南部の町ココワイエに生まれた
ナルシス・ブカールは、子供の頃から音楽好きで、
ギターを覚えて、わずか5歳で地元の楽団に加わっていたんだとか。
お兄さんがアコーディオンを弾いていた影響で、
その後アコーディオン奏者になったんだそうです。

新作ライナーには、60年に撮影された3人の少年の白黒写真が載っていて、
アコーディオンを抱えた幼いナルシスが、二人の甥っ子と一緒に並んで写っています。
甥っ子二人は、一人は竹製打楽器のシヤックを、もう一人はギターを持っています。
その新作は、カドリーユを中心としながら、ビギンやコンパもやっていて楽しい限り。
田舎のカドリーユ楽団といった風情ながら、カクシ味に打ち込みをさりげなく使っていて、
ポップスとして制作している姿勢は、プロの仕事ですね。

伝統音楽のレコーディングは、きちんとプロデュースしないと、
アマチュアみたいなシマリのないものになりかねないところがあるので、
ポップに親しみやすく作られた本作は、その意味でも成功した秀作といえます。

Narcisse Boucard "LE DÉLIRE DE NARCISSE" no label NB001 (2015)
Narcisse Boucard "QUADRILLE TRADITION" Debs 2502-2 (1999)
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ビギン・ジャズ・ピアニストの逸材 ロナルド・チュール [カリブ海]

Ronald Tulle  RAISING.jpg

いぇ~い! 胸をすくとは、まさにこのこと。
イキのいいビギン・ジャズに、全身総毛だっちゃいましたよ。
ゴキゲンなピアニストの名はロナルド・チュール。

64年マルチニークのフォール=ド=フランスに生まれ、80年にフランスのルーアンに音楽留学し、
87年の帰郷後、多くのズーク・シンガーに曲を提供するほか、
ディレクター、アレンジャーとして活躍してきた人だそうです。
活動歴を見ると、カッサヴ、マラヴォワ、ユジューヌ・モナ、ラルフ・タマール、エリック・ヴィルガル、
ジャン・フィリップ・マルテリー、ジェルトルード・セイナン、ラ・ペルフェクタなどなど、書ききれません。

裏方の仕事が長かったようですが、05年にデビュー作“FWI”をリリースし、
09年の“LES NOTES DE L’AME”を経て、本作が3作目にあたるんですね。
豊富なキャリアを裏打ちするように、ブレイクを効果的に使った曲作りはうまいし、
饒舌な指さばきや上原ひろみみたいな曲芸ぶりも、
嫌味になる一歩手前で止めていて、聞かせどころのツボがよくわかっているという感じ。
キレのあるピアノ・タッチと豪快なリズム感が実に爽快で、
ブリッジが4ビートになるカリプソの8曲目“Doud'” が、本作のハイライトかな。

ぼくのごひいきビギン・ジャズ・ピアニスト、マリオ・カノンジュの4つ年下で、ほぼ同世代。
遅咲きのソロ・アクトというところでしょうか。
本作はベーシストが4人参加していて、曲ごとに交替。
3人はエレクトリックだけど、ゆいいつアクースティックを弾くアレックス・ベルナールは、
マリオ・カノンジュとも一緒にやっていたヴェテランですね。
ドラマーはトーマス・ベロンとギヨーム・ベルナールの二人。
ギターとフェンダー・ローズの二人が、それぞれ1曲ずつ客演しています。

エルヴェ・セルカルなど若手の活躍も目立つ、フレンチ・カリビアン・ジャズ・シーン。
まだまだ知られざる逸材がいることを実感させられた1枚です。

Ronald Tulle "RAISING" Cysta Management CM007-02 (2014)
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秋の夜長のフィーリン アイデー・ミラネース [カリブ海]

Haydée Milanés  CANTA A MARTA VALDÉS.jpg

厳しい夏が過ぎ、秋めいてくると聴きたくなるフィーリンですが、
今年は新たなアイテムが加わりました。
それが、アイデー・ミラネースの5作目にあたる新作。
ヌエバ・トローバの大物、パブロ・ミラネースの娘さんですね。
魅力のないお父上とは違って、アイデーはジャズやMPBの影響を受け、
現代っ子らしいセンスを持った歌い手さんとウワサに聞きます。

まだこの人のアルバムは持っていなかったんですが、
フィーリン第二世代を代表する女性作曲家
マルタ・バルデースのソングブックという今回の企画に、
初めて手を伸ばしたところ、うわぁ、スゴクいいじゃないですか。

マルタ・バルデースの代表曲である「パラブラス」「ジョラ」「パラブラス」などを、
ジャジーなサウンドをバックに、フェミニンな歌い口で歌っています。
マルタ・バルデースの醸し出す気品とは別ものの、
キュートな色香が漂うアイデーのフィーリンもまたいいですねえ。

ギターのアルペジオに導かれて歌い出すアイデーに、
自身が弾くピアノ、エンリケ・プラのドラムス、ホルヘ・レジェスのベースといった
ヴェテラン勢が音を重ねていき、トランペット・セクションが要所で脇を固めます。
多重録音のハーモニーで聞かせる曲は、まるでクアルテート・エン・シーみたいだし、
ミルタ・バティスタのアルパをフィーチャーした曲も粋な仕上がりで、
1曲1曲趣向を凝らしたアレンジが鮮やかです。

アルバム全編通して、余計な音を重ねない、引きの美学に徹したプロダクションで、
申し分のない仕上がりとなっています。
アイデーの気取らない素直な唱法も好ましく、
フィーリンという繊細なモダンさを表現するのに向いた資質の持ち主といえます。

マルタ・バルデースのフィーリンを歌うには、まだ若すぎるんじゃないの?
な~んて聴く前は思ってたんですが、どうしてどうして。
しっとりとしていて、いい味わいです。
マルタ本人が登場して、デュエットする1曲もお楽しみ。
秋の夜長にぴったりの1枚です。

Haydée Milanés "CANTA A MARTA VALDÉS" Bis Music CD982 (2014)
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ヘイシャン・ストリート・ストリング・バンド ブールピック [カリブ海]

Boulpik  KONPA LAKAY.jpg

派手なペイントを施したルンバ・ボックスを、真正面からどーんと写したジャケット。
バハマやジャマイカの観光地によくいる、流しのメント・バンドかと思ったら、
ハイチのトゥバドゥだそう。そういや、ちゃんと、そう書かれてますね。

ハイチではこの楽器、<ルンバ・ボックス>ではなく、
<マニバ>というんだそう。キューバの<マリンブラ>のクレオール訛りですかねえ。
ギターのことをマタモと呼ぶのも、トリオ・マタモロスが由来だというので、
キューバに出稼ぎしていたハイチ人労働者が、
マリンブラを持ち帰ったんじゃないのかしらん。

こうしたストリング・バンドはカリブ海一帯にありますけれど、
英語圏とスペイン語圏とフランス語圏とでは、それぞれ味わいが違います。
英語圏のメロディは、バハマやジャマイカのメントに代表されるとおり、
もろダイアトニックで、わかりやすさ100%。
悪く言えば、深みがないともいえるんですけれども、
キューバのソン成立前のトローバや、ハイチの田舎のメラングやトゥバドゥには、
さまざまな文化が混淆した痕跡がメロディにくっきりと残されていて、とても魅力的です。
洗練されたひとつのスタイルにまとまる以前の、
混沌とした音楽には、雑味とともに複雑な旨みが隠れているのを感じます。

そんなことを改めて思わされたのが、このブールピックという、
トゥバドゥ・リヴァイヴァル・ブームにのって04年に誕生したグループ。
普段はビーチやホテルで観光客相手に歌っているストリート・バンドのようですが、
そういったグループにありがちな、
ヒット・ソングの凡庸なカヴァーやオリジナリティの乏しさがなく、
フレッシュな魅力をたたえたサウンドを聞かせてくれます。

ヴォーカルがコクのあるノドをしていて、聴き惚れちゃいました。
身体を使って仕事をしてる人の声って感じが、いいじゃないですか。
芸人風情もあって、味があります。
レパートリーの多くはリーダーのフランケル・シフランが書いていて、
そのほか、クーペ・クルエやタブー・コンボのヴォーカリスト、
シューブーの曲などをカヴァーしています。

ストリング・バンドにありがちなレイド・バックしすぎなところもなく、
若いメンバーによる目の覚めるようなシャープな演奏が好ましいですね。
メンバーのバンジョー、マニバ、拍子木のほか、
ゲストにヴァイオリンやアコーディオンを招いたアレンジも効いていて、
きりっと引き締まったアルバムになっています。
かつてのトゥバドゥ・ブームでわんさか出たアルバムの中でも、最高の出来ですよ。

Boulpik "KONPA LAKAY" Lusafrica 662252 (2014)
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