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移民のやるせないさみしさに ニティン・ソーニー [ブリテン諸島]

Nitin Sawhney  IMMIGRANTS.jpg

20年ぶりに聴いた、ニティン・ソーニーの新作。
デビュー当初からまったく変わることのない音楽性と、
一貫した世界観に感じ入りました。

インド移民二世として生まれたニティン・ソーニーは、
大学生時代にアシッド・ジャズのジェイムズ・テイラー・カルテットに加わり、
のちにUKエイジアンのタブラ奏者タルヴィン・シンとグループを組み、
93年にソロ・デビューしたマルチ奏者のシンガー・ソングライター。
95年のセカンド“MIGRATION” でファンになったんですが、
新作は、まさにこのセカンドと呼応するタイトルとなっています。

Nitin Sawhney  MIGRATION.jpg   Nitin Sawhney  DISPLACING THE PRIEST.jpg

ニティンがデビューした90年代半ばは、
UKインディアンによる音楽が盛り上がった時代でした。
ブレイクビーツ/ヒップ・ホップ・グループのファン=ダ=メンタルや、
ジャングルのエイジアン・ダブ・ファウンデーションなどの政治色の濃いグループに、
レゲエDJのアパッチ・インディアンやバングラ・ビートのダンス・ミュージックなどなど、
多彩な才能がシーンをにぎわせていました。

そのなかで、ニティン・ソーニーは異色の存在で、
イギリスで移民の子孫として暮らす人々の内的世界を描写した、
孤独感を色濃く滲ませた音楽をやっていました。
やるせなく、さみしいニティンの音楽はあまりに切実で、
強い疎外感がその底に沈殿しているのを聴きとることができます。

ヒンドゥスターニー(北インド古典音楽)、フラメンコ、ジャズ
ヒップ・ホップ、ドラムンベース、ダウンテンポなどをミックスした音楽性は、
デビュー当時すでに完成していました。
アルバムを重ねるごとに、プロダクションの完成度が高まり、
サウンドにわずかな変化をもたらしてはいても、
ニティンの音楽性の本質を揺らがすことはありませんでした。

Nitin Sawhney  PROPHESY.jpg   Nitin Sawhney  PROPHESY  DVD.jpg

ぼくは01年作の“PROPHESY” を最後に聴いていなかったんですが、
その後ニティンは、50を超す映画/演劇音楽をてがけ、
ポール・マッカートニーやスティングなどとも共演して、
大英帝国勲章をはじめに30にも及ぶ芸術賞を受賞する、
ビッグ・ネームになっていたんですね。

そんな大物になったとて、この人が抱える疎外感は癒されることはなく、
新作が示すさみしさの手触りは、デビュー時とまったく変わるところがありません。
ニティンは、10代の多感な時期に、極右の国民戦線が台頭し、
人種差別的な罵声を浴びせられ、暴力を振るわれてきたといいます。
ブレグジット後のイギリスにおいて、外国人や移民に向けられるまなざしに、
緊張感が増していることは想像に難くなく、ニティンはこのアルバムで、残忍な差別や、
容赦ない偏見を受ける人々の孤独、絶望、憎しみといったさまざまな感情に、
声を与えようとしています。

曲間に間奏曲をあてがい、
移民に関するニュースのナレーションが挿入するほか、
‘Tokyo’ という間奏曲では、JR駅のホームで流れる電子音のサンプリングや、
女性アナウンスを模した合成音声が使われています。
そして、最後には、映像的な弦楽奏をバックに、
インタヴューに応える人々の声をコラージュしています。

ロンドンの冬を想わす極寒のサウンドスケープに、
揺れる女声のサレガマ(音度名)がのっていく。
南アジアの濃厚なニュアンスを加えた幻想的な音楽には、
多くの移民の心の痛みが秘められています。

Nitin Sawhney "IMMIGRANTS" Masterworks/Sony Music 19439733222 (2021)
Nitin Sawhney "MIGRATION" Outcaste CASTECD001 (1995)
Nitin Sawhney "DISPLACING THE PRIEST" Outcaste CASTECD002 (1996)
Nitin Sawhney "PROPHESY" V2 VVR1015912 (2001)
[DVD] Nitin Sawhney "PROPHESY" V2 VVR6017659 (2002)
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