SSブログ

70年の時空を越え アラン・ローマックス・イン・ハイチ [カリブ海]

Alan Lomax in Haiti.jpg  Alan Lomax in Haiti 2.jpg

70年の時を経て蔵出しされた、
若き日のアラン・ローマックスがハイチで採集した音源をまとめたボックス。
今年のリイシュー大賞は、これでキマリでしょう。
布張りのしっかりとした造りのボックス・ケースの中には、
SPアルバム風に作られた布張りケースに10枚のCDが収められ、
168ページに及ぶハードカヴァーの解説書のほか、アランが書き残した調査日記(200ページ)、
調査時にアランが使っていたハイチの地図や小さな写真2枚の複製までも入っています。

当時アランはまだ二十歳そこそことはいえ、
すでに父親のジョン・ローマックスとともにアメリカ各地を旅行し、
フォークやブルースなど伝承音楽の発掘・収集を行い、
フィールド調査の経験を十分積んでいました。
ハイチというはじめてのアメリカ国外調査に、若きアランがいかに興奮していたかは、
3年前に出版された『アラン・ローマックス選集』(みすず書房)の
第2章「ハイチへの旅」にもいきいきと描かれていて、とりわけ印象的でした。

ボックスに収められた10枚のCDは、
アランが録音調査を進めていった順に分類・整理されています。
都会のポピュラー音楽から田舎のワークソング、さらにはヴードゥー儀式へと、
ハイチの奥深い世界へと分け入っていく様子が手に取るようにわかり、
1936年の年末から37年にかけての4ヶ月間、
アランのハイチの旅を追体験できる編集となっているのがミソです。
10枚のCDを順番に聴いていくと、
アランの調査探検の旅に同行している気分になれるんですね。

CDの1枚目は、ヨーロッパとアフリカの混淆がくっきりと残されたダンス音楽メラングを収録。
クラリネット、バンジョー、マリヌンバ(マリンブラ)などを擁した
サプライズ・ジャズとオルケストル・グランヴィル・デスロンヴィルという二つのメラング楽団や、
当時のハイチでもっとも有名なクラシック・ピアニストであったルドヴィック・ラモットによる
ヴォドゥ(ヴードゥー)の曲の演奏や、ヴォドゥ司祭の歌なども収録されています。
2枚目はトゥバドウ(トルバドール)特集。
キューバのソンの影響色濃い音楽で、クラーベのパターンがはっきりと聴き取れます。
ギターやバンジョーにクラベスの伴奏で歌われていて、
のちにジャズ・デ・ジュンが取り上げたヴォドゥ(ヴードゥー)の儀式曲“Feray-O” も聴けます。
3枚目はマルディ・グラのカーニヴァル音楽を収録していて、
太鼓の激しい乱打とコール・アンド・レスポンスをたっぷりと聴けます。
4枚目はララのバンドをフィールド・レコーディングしたもの。
ヴォドゥにまつわる歌も多く、ヴァクシーンが吹き鳴らされ、
大人数によるコール・アンド・レスポンスが臨場感たっぷりで、演奏のなまなましさは格別です。
5枚目は子供たちの遊び歌集。子守唄に始まり、
子供たちによる無伴奏コーラスが収録されています。
終盤には成人による合唱や、ヴァクシーンを模したヴォイス・パフォーマンスも聞けます。
このディスクには10分16秒の記録映像も入っていて、
冒頭のララの楽団が行進する映像がカラーなのにはびっくり。
6枚目はフランス起源のロマンス(バラッド)とカンティック(賛美歌)を中心に、
コントラダンスを数曲収録しています。
ヨーロッパ白人植民者が持ち込んだ音楽の影響が強く表れた無伴奏男女合唱にも、
ハイチ音楽の多様なクレオール性が刻み込まれているのが印象的ですね。
手製フィドルやフィフ(木製の笛)が伴奏につくコントラダンスも、聴きどころです。
7枚目はフランシリアという女性歌手が歌う伝承歌集。全曲ガラガラを振りながら歌っていて、
レパートリーはヴードゥーの歌、トルバドールの流行歌、
労働歌、アフロ・ルーツの古謡などさまざま。
8枚目はヴードゥーで歌われる歌。バタ、セゴン、マンマンの三台の太鼓を伴奏に、
女性司祭マンボと男女コーラスのコール・アンド・レスポンスをしています。
中ほどには、無伴奏のカトリックの賛美歌も入ります。
9枚目はコンビットと呼ばれる農民のワークソング。
金属棒を叩きながら歌うエネルギッシュな歌あり、
つぶやくように歌うものあり、太鼓を伴奏にしたコール・アンド・レスポンス、
太鼓のドラミングなどなど。
10枚目はヴードゥー儀式の録音。8枚目の録音とは違って、
シャッシャッと響くシェイカーの反復リズムが熱を帯びるのではなく、
気分を沈静化させるような効用があり、催眠効果のようなトランスへと誘われます。
最後にハイチのもっともディープな世界へと分け入っていくスリルを味わえます。

ヨーロッパとアフリカとカリブ周辺国の音楽がつづれ織りとなったそのさまを耳にすると、
ハイチ音楽の多様なクレオール性の複雑さに、あらためて圧倒されます。
学者が資料として採集した、血の通わないぶったくり的なサンプル音源とはまったく違って、
アランが感動しながら録音している様子がびんびんと伝わってくるこれらの音源からは、
時を超えた感動が呼び覚まされます。

このボックスの売上の一部はハイチ大地震の救援資金に充てられるということ。
まさしく「入魂」の一語につきる、リイシューにかけるすさまじい情熱がこめられた仕事ぶり、
企画から編集、制作にあたったすべてのスタッフに、敬意を表したいと思います。

"ALAN LOMAX IN HAITI 1936-1937 RECORDINGS" Harte Recordings HRT103
コメント(2) 

コメント 2

ogitetsu

シガーボックスを意識したデザインが良いですね。なんだか、豪華な感じ。特に10枚目のヴードゥーの音楽なんていうと、聞いてみたいです。

それと、みすず書房から『アラン・ローマックス選集』が訳されて出ていたのですね。初耳ばかりで驚きました。

荻てつ
by ogitetsu (2010-09-18 22:35) 

bunboni

10枚目のヴードゥーの覚醒するような演奏は、とても刺激的です。こういう演奏が録音できたのは、アラン・ローマックスがヴードゥーを深く理解していた証明だと思います。
どの録音からも、アランが演奏に共感している様子が伝わってくるのが、とっても気持ちいいです。

by bunboni (2010-09-18 22:56) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。