マラケシュ発モロッカン・ヒップ・ホップ フナイール [中東・マグレブ]
すげえええええええええええええええええええっ!
サラーム海上さんのモロッコ土産にブッとびました。
マラケシュのヒップ・ホップ・グループのアルバムなんですけど、アルバム冒頭いきなり飛び出す、
デザート・ブルースのエレキ・ギターと、野性味あふれるサハラ特有の吟唱に、
え?え?これ、ヒップ・ホップじゃないの?とアワてたところで、すでに持ってかれちゃいました。
グナーワ、エサワ、マルフーンなどのモロッコの伝統音楽や、
スーフィー教団の宗教音楽にベルベル民謡など、
モロッコのディープ・ルーツを辿ったバックトラックが実にカラフル。
それはゲンブリとカルカベが繰り出すビートだったり、
ビリビリとノイズをまき散らすダブルリード系の管楽器だったり、
アラビックな幻惑を誘うきらびやかなカーヌーンだったりと、
どれもこれもマグレブならではの響きを伴っているわけなんですが、
そこに臭みたっぷりのこぶし使いの肉声もまぶされるなど、
各トラック、手を変え品を変えの趣向が凝らされているというわけです。
フナイールというこの3人組、01年結成、04年にデビュー作をリリースし、これが2作目。
シェビー・サバーとの共演歴もあり、本作ではウータン・クランの二人のメンバーが参加するなど、
インターナショナルなネットワークもすでにあるようですが、
これがモロッコでしかリリースされていないなんて、もったいなさすぎ。
どう考えたって、ローカルのみで聴かれるようなグループじゃないでしょう。
このまんま世界に通用するハイ・レベルなアルバムなんだから、全世界リリースすべき。
ケイナーンやアブダル・マリックがあれだけ売れんなら、それを上回らなきゃウソな大力作ですよ。
ルックスこそL.A.ヒップ・ホップな3人ですけど、
ヨーロッパかぶれの同胞に対する、名ばかりムスリムを批判するトラックもあるとのこと。
21世紀のナス・エル・ギワンとも目される、フナイールの面目躍如といったところですね。
モロッコ方言のダリジャ、ベルベル、英語、スペイン語、オランダ語、フランス語を駆使し、
モロッカン・シャアビとミックスした彼らのユニークなスタイルは、
「テクリディ・ラップ(伝統ラップの意)」と呼ばれ、キッズから絶大な支持を集めてるそうです。
このアルバムのあと、モロッコ出身のヴェテラン女性歌手サミーラ・サイードや、
アルジェリアのライ歌手、シェブ・ビラルをフィーチャーした曲なども発表していますが、
そちらはこのアルバムのような強烈な民族色を感じられず、ちょっと残念でした。
モロッコでしか手に入らないこのCD、日本から一歩も出ないぼくが聴けるのも、
はるばるマラケシュから買い付けてきてくれた、サラーム海上さんのおかげ。
世界を旅する人から、いつもおすそ分けにあずかり、感謝感謝であります。
Fnaïre "YED EL HENNA" Platinium Music 6111245800455 (2007)
2011-02-16 07:09
コメント(4)
あーっ、これ先日お店に行った時にカウンターに積んでありました。その時は買わずに帰ったのですが、bunboniさんがそこまでおっしゃるのなら聞いてみたいなー。Larbi Didaの取り置きを買いに行くついでにチェックしてきます。まだあるかは不明ですが、、、w
by yucca (2011-02-17 22:29)
アラブ~マグレブ系ヒップホップでは、クロテール・K以来の大傑作だと思います。
念のため、お店に取り置きお願いのメールを出しておくこと、おすすめします。
by bunboni (2011-02-17 22:39)
何度も聴きたくなる、クセになるようなリズムですね。
「RATIO スペシャル・イシュー『思想としての音楽』」の中の「誌上シンポジウム 『いい音』は普遍か?― 近代西洋音楽の外側から」拝読しました。あんなにリズミックでダンサフルなアフリカの音楽の歌詞、その意味が概ね倫理的である、というのは興味深かったです。
歌詞はアラビア語のようですが、意味は同様なのかしら?それともモロッコは少し毛色が異なるのかな?
好きな米国の作家で、モロッコに移住したPaul Bowlesがいるんですけど、「優雅な獲物」なんかを読むときに聴くと盛り上がりますね。
by ペイ爺 (2011-02-21 09:57)
フナイール、ペイ爺さんも聴かれましたか。目下、毎朝のウォーキングの友盤です。
「RATIO」お読みいただき、ありがとうございます。
フナイールのリリックについては、知るよしもないのですが、
これだけ民族派ヒップホップであるからには、
かなり政治的な内容を多く含んでいるのかもしれませんね。
by bunboni (2011-02-21 21:32)