お悔やみ ビ・キドゥデ [東アフリカ]
ザンジバルの最長老女性歌手、ビ・キドゥデ(本名ファトマ・ビンティ・バラカ)が
4月17日にお亡くなりになりました。
生年がわからないので享年不明ですが、100歳を越すか越さないかのお年だったはずです。
「ビ婆さん」などとつい気安く呼んでしまいたくなるのは、
91年と07年の二度の来日で、その人柄に馴染んでいるせいですね。
ビ婆さんはターラブの歌い手だけにとどまらず、
ザンジバルの奴隷文化が生み出した成女儀礼ウニャゴを取り仕切る祭祀であり、
ザンジバル女性の精神的支柱ともなった人です。
「ザンジバルの人間国宝」などとも例えられたりしますけど、
そういう威厳めいた呼び方は、奔放な人生を歩んだビ婆さんには似合わず、
きっとご本人も「誰のことだい、そりゃ?」と煙草をくゆらせながら、トボけそうな気がします。
富永智津子さんの『ザンジバルの笛』には、ビ婆さんが公衆の面前でウニャゴの儀礼を行って
逮捕されたエピソードが載っていて、事件のことをビ婆さんに訊ねると、
「警察など少しも怖くない」と威勢よく答えたと書かれています。
ウニャゴは初潮を迎えた少女に性教育を施し、
成人女性となる準備をする、
奴隷時代から伝わってきた通過儀礼です。
性教育の模擬実習をやったことが、
アフリカで公然わいせつ罪に問われるとは、
ずいぶんとまた皮肉な話で、
近代化が進む一方、古い奴隷文化が失われていく
象徴的なエピソードといえるかもしれません。
そんなザンジバルの奴隷文化の伝統を
守り続けてきたビ婆さんの人生は、
ドキュメンタリー映画“AS OLD AS MY TONGUE”
にもなりました。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2009-08-05
ビ婆さんのソロ・アルバムには、89年のレトロアフリック盤と、
06年の「ザンジバラ」シリーズのブダ盤がありますけど、
やはり代表作といえるのはレトロアフリック盤の方でしょうね。
女性コーラスとコール・アンド・レスポンスするンゴマのほか、
ダル・エス・サラームのバンド、シカモー・ジャズと共演した、
強烈に泥臭いファンキーなターラブが最高の聴きどころ。
「ザンジバルのファンキー婆」ここにありってな存在感が、めちゃくちゃカッコイイんでっす!
ほかにビ婆さんが聴けるアルバムでは、ザンジバル音楽研究の第一人者である
ウェルナー・グレブナーがプロデュースしたザンジバル音楽のCDブックのほか、
伝説の天才女性ターラブ歌手シティ・ビンティ・サアドの“Jua Toka” などを歌った、
女性ターラブ・グループのサヒブ・エル=アリー・ミュージカル・クラブのザンジバル盤が貴重ですね。
サヒブ・エル=アリーは88年にグローヴスタイルがレコーディングしたものの、
『ターラブ』シリーズ第3集に2曲収録されただけで、残りの録音は未発表となっていたもの。
なぜそのお蔵入り音源がザンジバルでリリースされたのかナゾですが、
このうちの2曲がビ婆さんのブダ盤にも収録されています。
あと忘れちゃいけないのが、ジャケットにビ婆さんを描いた日本盤。
91年にムハンマド・イリアスのグループとともに初来日した時、
日本でレコーディングされた『ザ・ミュージック・オブ・ザンジバル』があります。
今夜はビ婆さんのアルバムを聴きながら、ご冥福をお祈りしたいと思います。
Bi Kidude "ZANZIBAR" RetroAfric RETRO12CD (1989)
Bi Kidude "ZANZIBARA 4 : BI KIDUDE" Buda Musique 860141 (2006)
[DVD] Dir: Andy Jones "AS OLD AS MY TONGUE : The Myth and Life of Bi Kidude" ScreenStation Production (2006)
Culture Musical Club, Ikhwani Safaa Musical Club, Bi Kidude, Maulidi Mohamed, Rukia Ramadhani and others
"ZANZIBAR : DE L’ÂME A LA DANSE" Jahazi Media JAHMCD511-512 (2003)
Sahib El-Ar Musical Club "GOLDEN OLDIES" Kizoro Art Presentation no number (1988)
イリアスのきらめく星 「ザ・ミュージック・オブ・ザンジバル」 セブン・シーズ/キング KICP203 (1992)
2013-04-20 00:00
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