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知られざるリベリアのアフロ・ジャズ・ファンク・バンド カピンジー [西アフリカ]

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リベリアのポピュラー音楽というと、アメリカナイズされた音楽ばかりで、
これはという、ミュージシャンやバンドと出会ったためしがなかったんですけれど、
こんなに実力のあるバンドがいたとは、意外です。

ヨーロピアン・ジャズの復刻専門レーベル、ソノラマがコンパイルした
Kapingbdi というこのバンド、どう発音するのかさっぱりわからず、
レーベルを主宰するエックハルト・フラッシュハマーさんに問い合わせたところ、
カピンジーと読むとのこと。
カピンジーとは、シエラ・レオネのメンデ語で「夜に生まれた」という意味の語で、
リーダーのサックス奏者コジョ・サミュエルが、
フリータウンの高校時代の教師に付けられたあだ名だそうです。
それをバンド名にしたというわけで、本作のタイトルはバンド名の英訳になっています。

バンド・リーダーのコジョ・サミュエルは、
43年にシエラ・レオネ人の父とナイジェリア人の母のもとレゴスに生まれ、
50年代に家族でリベリアへ移住したという人で、
学生時代はドラムスとパーカッションをプレイしていたそうです。
65年から72年、美術の勉強のためにドイツへ渡航した後、
美術の教師としてアメリカで仕事をしていたという経歴がユニークですね。

サックスをいつどこで習ったのか、解説には書かれていませんでしたが、
ジャズをしっかりと学んでいるのは確かで、
60~70年代のアフリカ回帰を志向した
ブラック・ジャズの影響色濃いサウンドが聴きものです。
当時暮らしていたアメリカで感化されたんでしょうね。
当時美術の教師をしていたというのは、アフリカン・アートを教えていたのかな。
そこらへんにも興味をそそられますね。

カピンジーは、ドイツのトリコントから78・80・81年に3枚のアルバムを出していて、
本編集盤は78年のデビュー作の2曲、80年作と81年作の各4曲の、
計10曲を収録しています。
冒頭の‘Don't Escape’ でコジョが繰り広げるサックス・ソロは、
スピリチュアル・ジャズ・ファンを刮目させること必至だし、
‘Take The Guitar Out’ のリフなんて、オーネット・コールマンみたいじゃないですか。
コジョのサックスを煽りまくる、手数の多いドラミングも派手で、
ソウル/ファンク色の強いバンド・サウンドは実にパワフルです。

コジョは、象牙のホーンを使って伝統音楽の要素を取り入れるなど、
アフリカ音楽のアイデンティティを強く意識したサウンドづくりに力を注いだようです。
アメリカナイズされたディスコ音楽が多勢のリベリアの音楽シーンにおいて、
カピンジーのサウンドは新鮮で、大きな支持を得ることになりました。
アパルトヘイト下の南ア黒人に向けて歌われた‘Human Rights’ や、
非能率な役人や行政官をなじった’You Go Go You Go Come’ などの
ポリティカルなテーマも、大きな共感を集めたようです。

カピンジーが活動していたさなかの80年、
リベリア先住民族出身のサミュエル・ドウ曹長がクーデターを起こし、
アメリコ・ライベリアン(解放奴隷の子孫)出身の大統領を暗殺する事件が勃発しました。
このクーデターにより、リベリアで長きにわたったアメリコ・ライベリアンの支配が終わり、
それまで安定していた政情は不安定化して、治安も悪化していきます。
夜間外出禁止令違反として虐殺された市民を憂いたラメントの‘Wrong Curfew Walk’ は、
政府を刺激し、経営していたクラブの閉鎖を迫られるなどの弾圧を受けるようになります。
政情不安のなか、バンド活動を維持するための経済的苦境も重なり、
アメリカ・ツアーを終えて帰国した84年、カピンジーは解散します。

76歳となった現在もコジョは現役で演奏をしているそうですが、
知られざるリベリアのアフロ・ジャズ・ファンク・バンドを発掘した本作、
グッジョブですね。

Kapingbdi "BORN IN THE NIGHT" Sonorama C110
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