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無頼人生のぶっきらぼー節 ソティリア・ベール [東ヨーロッパ]

Sotiria Bellou  LAIKA PROASTIA.jpg

世界一ぶっきらぼーな歌を歌う人。
ソティリア・ベールを初めて聴いた時は、
音楽の審美的価値観をひっくり返される思いがしました。
情感もへったくれもないその歌いぶりに、
世の中にはこういう歌の美学もあるのかと、衝撃でしたよ。

ソティリア・ベールは、40年に無一文でアテネに出てきて、
さまざまな仕事をしながら糊口をしのぐ一方、レジスタンス活動にも身を投じ、
44年12月のアテネの戦いに参加して負傷したという烈士。
47年に酒場で歌っているところをヴァシリス・ツィツァーニスに見い出されて、
戦後レンベーティカを代表する歌手となった人です。

生まれはエーゲ海西部、エヴィア島の都市ハルキダですが、
アテネに出てきた理由が凄まじい。
十代で望まぬ結婚を親に強いられ、
夫から頻繁に殴られる日々が続いたというのです。
ある日身を守るために、夫の顔面にワイン瓶を投げつけて逮捕され、
3年の実刑判決を受けて6か月服役したのだそうです。
服役後に実家から縁を切られて故郷を出たというのだから、壮絶です。
レジスタンス活動中にも逮捕され、
悪名高いマーリン通り拘置所に投獄されて拷問を受けたといいます。

こうしたエピソードの数々は、
ソティリア・ベールの強烈な歌いぶりへの納得感を補完するものでしょう。
50年代半ばにレンベーティカがその歴史を終えるのと同時に、
ソティリアも活動を止めてしまうのですが、
60年代に入って活動再開した時に、声がすっかり変わって男のような低い声となり、
ただでさえディープな歌うたいだったのが、さらに凄みを増していました。

そんなソティリアの凄みを実感できるのが、80年の本作。
当時若手気鋭の作曲家イリアス・アンドリオプロスと、
このアルバムで作詞家としてのスタートを切ったミハリス・ブルブリスの
コンビで制作された作品です。

ジャケットの黄昏れた絵がなんとも雰囲気があって、大好きな作品なんですが、
このアルバムがCDブックのデラックス・エディションでリリースされていたことを知り、
買い直したのでした。09年に出た限定版ですけれど、まだ今でも売っていますね。
80年の作品なので、ライカの意匠であるものの、
レンベーテイカのムードを濃厚に残した歌を聞かせる名作です。
美しく清楚な女性コーラスがフィーチャーされる曲では、
ソティリアのヴォーカルとのあまりの落差に、笑っちゃうくらいですよ。

ソティリア・ベールは晩年アル中になったうえ博打に溺れて経済的に困窮し、
97年に亡くなった時に無一文だったのも、博打が原因だったといいます。
ソティリアの人生は、まさしく波乱万丈。
48年には極右の狂信者集団がライヴ会場に乱入して、
ソティリアを共産主義者と罵りながら殴打する事件も起きています。
晩年にレズビアンを公言したのも、当時のギリシャ社会では考えらないことでした。
破天荒な人生を送った人ならではの、ぶっきらぼー節です。

[CD Book] Sotiria Bellou "LAIKA PROASTIA" Lyra 3401176915 (1980)
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