哀歓は涼風にのって トゥ・フォン [東南アジア]
いやぁ、東南アジアで今いちばん面白いのは、ヴェトナムなんじゃないですかね。
ちょうどマレイシアでシティ・ヌールハリザの『チンダイ』の大ヒットを契機に、
若手の女性歌手が続々登場して伝統的なマレイ歌謡を歌い
盛り上がりをみせていた2000年前後と、今のヴェトナムは完全にオーヴァーラップします。
なかでも先日取り上げたレー・クエンの新作はずばぬけた傑作で、
プロダクションへの予算のかけ方の点でも、他のアルバムを圧倒していましたけれど、
あのアルバムは別格としても、次々登場する女性歌手たちのアルバムのどれもが
水準以上の出来で、どれひとつとしてハズレがないってのはスゴイです。
世紀が変わる前までのヴェトナム現地制作のポップスはプロダクションのクオリティが低く、
正直あまり聴く気にはなれませんでした。
当時は、ヴェトナム歌謡イコール越僑ものというのが当たり前でしたもんね。
そんな潮目が変わったのが、ちょうど世紀が変わったあたりでしょうか。
そして昨年ヴェトナムへ行ってみて驚いたのは、音楽のクオリティばかりでなく、
CDパッケージの凝ったデザインにも目を見張りました。
韓国やかつての香港のような、アイドルもののCDならまだわかりますけど、
購買層はやや年齢も上の大人向けポップスの情歌で、この手のかけよう。
アイドルもののような売らんかなのためのコケオドシな人目を引くデザインではなく、
そのパッケージ・デザインからは、スタッフたちが大切に作品を作り上げている愛情が伝わってきます。
最近聴いたトゥ・フォンという女性歌手のデビュー作もまた心にしみます。
年の頃は三十前後といったところでしょうか。
品のある古風な顔立ちそのものの歌を歌う人で、音楽学校育ちの歌手にありがちな作られた発声や
過剰に歌い上げないその歌いぶりの自然さに好感が持てます。
オーケストレーションと控え目に使った打ち込みの合わせ技に、
一弦琴や胡弓、琴などのヴェトナムの弦の響きも効果的に取り入れ、
ザンカー好きのファンにも耳馴染むサウンドとなっています。
全曲スロー、さらりとした哀歓が涼風のように感じられるアルバムです。
Thu Hường "VOL.1 : CÕI NHỚ" Thăng Long no number (2012)
2012-09-24 00:00
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