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『ガーナ・ハイライフ・ミュージック』を読む [西アフリカ]

Ghana Highlife Music.JPG

フローラン・マッツォレーニって人、知ってます?

昨年注目を集めたシラール・プロダクションの『アフロ・ラテン』シリーズや、
キンドリッド・スピリッツによるマリ国営レコード会社クンカンのリイシューの監修で
その名を覚えて以来意識していましたが、そのフローランが著者に名を連ねた
ガーナの50~70年代ハイライフ・シーンを詳述したアンソロジー本の登場にはおったまげました。

ほぼ10インチLPサイズのソフト・カヴァー、フランス語と英語で書かれた172ページのこの本、
第1章は50年代クラシック・ハイライフ、第2章は60年代ハイライフ黄金時代、
第3章は60~70年代ギター・ハイライフ、第4章はファンキー・ハイライフという構成。
まだぼくもざっと目を通しただけですけれども、E・T・メンサー、ブラック・ビーツ、スターゲイザーズ、
ブロードウェイ・ダンス・バンド、E・K・ニヤメ、キング・オニイナ、コー・ニモ、K・グヤシ、C・K・マン、
エボ・テイラー、パット・トーマス、ザ・スウィート・トークスなど重要アーティストは漏らさず取り上げ、
ほとんど知られていなかった無名バンドまで丹念に触れていて、
文句なしにハイライフの第一級資料であることは間違いありません。
いや、ハイライフばかりでなく、70年代のガーナ民俗文化再発見の流れから生まれた
ウロメイのようなグループまでしっかりと取り上げているところは、
ガーナのポピュラー音楽史といった方が正しいかもしれません。

当時のバンドやミュージシャンたちの貴重なライヴ写真も満載で
デッカ・ウェスト・アフリカの10インチLPをはじめとする貴重なレコードのジャケ写は
マニアにはヨダレものでしょう。思わずマイ・コレクションと比べて、
自分のレコードの方がコンディションは上だぜと優越感に浸ったりして(いやらしいなー、マニアは)。

遅まきながら調べてみると、フローラン・マッツォレーニは
ボルドー在住のミュージック・ジャーナリストで、
「ル・モンド」などフランスの主要な媒体へ寄稿するほか、
サリフ・ケイタのバイオ本なども執筆するなど、アフリカ音楽に造詣の深い人であることが判明。
以前フローランが書いていたル・ミステール・ジャズ・ド・トンブクトゥのライナーノーツで、
「アクラにて」と記されていたことに、なんでガーナなんだろ?と思ったものでしたけど、
なるほどこの本と関係があったんですね。

この著作は、ガーナの音楽研究家クウェシ・オウスと、
ドイツ人民俗音楽学者マルクス・クエスターとの共同執筆となっているんですが、
ぼくが注目しているのは、マルクス・クエスターの仕事。
マルクスはドイツ外務省による伝統文化保護プログラムでガーナ放送局へ派遣されていて、
音源アーカイヴのデジタル化プロジェクトのコーディネイターを務めています。
なんでもガーナ放送局のグラモフォン・ライブラリーには、
CD2000枚に匹敵する分量の音源が所有されているそうで、マルクスとガーナ人スタッフたちは、
08年に始まったこのプロジェクトで、日々音源のデジタル化にいそしんでいるとのこと。

その成果の一部として、グラモフォン・ライブラリーとラジオ・ガーナの49~62年の音源をもとにした
コンピレーション“GHANA MUNTIE” が、今年の5月にガーナでリリースされたのですが、
まだぼくも現物は手にできていません。
マルクスの仕事は、この本がカヴァーしていない40年代のハイライフ前期まで及んでおり、
デジタル化の成果が、知られざるガーナ音楽史を掘り起こすものであることは間違いありません。

熱心なアフリカ音楽コレクターたちがどんなに頑張ろうと、個人による発掘は限界があるもの。
膨大なSP音源が保存されているラジオ局など国営の管理下にある音源のアーカイヴ化は、
行政機関を巻き込んだプロジェクトでも組まない限り、体系化は不可能です。
その意味でも、マルクスの仕事の今後に注目されます。

[Book] Florent Mazzoleni, Kwesi Owusu, Markus Coester "Ghana Highlife Music" Le Castor Astral (2012)
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