ポップなヴェトナム抒情歌謡 ビック・タオ [東南アジア]
ばっちりメイクの美女に笠をかぶらせるという不釣り合いさも、ザンカー(民歌)のお約束でしょうか。
ホーチミンの高層ビルのオフィスに通うOLを、無理やり田舎娘に仕立てたようなジャケットに、
いくらなんでもこの演出はないんじゃないの?とまじまじ眺めてしまいました。
これが3作目というビック・タオは、鼻にかかった声に甘い媚を感じさせる人。
ザンカーを歌うだけあって、歌唱力もバッチリの実力者です。
押しの強いハイ・トーンの明快な発声と、アイドル歌手のりを感じさせる歌いぶりで、
抒情歌謡を歌うシンガーには珍しく、スウィートな歌声が華やいでます。
プロダクションもこのジャンルにありがちなコンサヴァなオーケストレーションと違って、
リズム・セクションを強調したポップなアレンジとなっていて、
こういう趣向の抒情歌謡アルバムは、初めて聴く気がしますねえ。
考えてみれば、これまでなかったのが不思議なくらいですけれども。
イントロやインタールードでソウルぽいアレンジを施すなど、
洗練された都会的なサウンドをさりげなく聞かせていて、
うん、なかなかいいセンスじゃないですか。
チープなシンセとロックぽいギターを加え、モダン化したつもりが思いきりダサかった
一時期のヴェトナム歌謡からは、完全に一皮むけたことを感じさせるプロダクションです。
ダン・バウ、ダン・チャン、ダン・ニーなどヴェトナムの弦の響きをたっぷりとフィーチャーしながら、
伝統の香りをポップなサウンドのなかに漂わせた手さばきが鮮やか。
レー・クエンが“KHÚC TÌNH XƯA” で歌った“Ngọc Trúc Đào” を一足先に取り上げていて、
温故知新なレパートリーにも、趣味の良さがうかがえます。
日本でいうなら、実力派アイドルが歌うポップ演歌といった感じでしょうか。
そんなことを言うとゲンナリされそうですけど、これが面白く聞けるのが今のヴェトナム。
男性歌手クォク・ダイ、チ・フィとデュエットする3曲もとてもいい仕上がりで、すっかり愛聴盤です。
きっちり整えた細眉、マスカラくっきりの睫毛、しっとりファンデ、うるおいリップのばっちりメイクに、
ノンラー(笠)というこのジャケ写は、なるほど聴いてみれば、中身を見事に表現していたのでした。
Bich Thảo "TRỘM NHÌN NHAU" Saigon Vafaco no number (2009)
2012-12-19 00:00
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