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ナフダ時代のターラブ王 アブドゥル・ハイ・ヒルミ [中東・マグレブ]

Abd Al-Hayy Hilmi.JPG

すごいレーベルが発足してたんですね。
09年にレバノンで新設されたという、アラブ音楽保存調査財団AMAR。
前世紀の00年代にエジプトで最初のレコーディング歌手となった、
アブドゥル・ハイ・ヒルミ(1857−1912)の録音集4枚組が日本に入ってきて、
初めてこのレーベルの存在を知りました。

アブドゥル・ハイ・ヒルミは、19世紀後半から20世紀初頭にかけて起こった
アラブ版ルネサンス運動ナフダにおいて、ターラブ(音楽)の王と称された人物。
ムハンマド・アブドゥル・ワハーブやサイード・ダルウィッシュより先人にあたる人で、
ぼくもこの人の録音は、オコラ盤の1曲しか聴いたことがありませんでした。

それが今回、1903年から1912年までの録音45曲が一挙に復刻されたのだから、驚愕ものです。
音質も思った以上に良くって、前世紀のカイロやアレキサンドリアのサロンやカフェで
上流階級の人々を魅了したという、ヒルミの官能的なメリスマを堪能することができます。
古典詩の詠唱カシーダ、アラビア口語詩による即興歌唱マワール、スーフィー歌謡と、
幅広いレパートリーを誇ったヒルミのレパートリーをじっくりと楽しめますよ。

色気たっぷりなこぶし回しや、即興で人々を引き付ける技量を聴いていると、
当時ヒルミが、どんな仕草や顔の表情で歌っていたのか、想像せずにはおれませんね。
けっこうキザなヤツだったんじゃないかなあ。
ヒルミは当時のエジプトとしてはかなりヨーロッパ風のオシャレ人だったらしく、
上流階級の男女の憧れの存在だったみたいですからね。
同時代で観ていたら、鼻持ちならぬヤな奴だったかもなんて妄想も膨らんだりして。

大見得切ったこぶし使いも、あちこちで披露していて、
「19世紀以前のアラブ古典歌謡を口語詩で歌い、大衆化を図った」という歴史的評価は、
要するに、「イマドキ風に自由奔放に歌ってみせて、喝采を浴びた」ってことなんでしょうね。
前世紀の音楽とは思えない親しみやすさと聴きやすさで、
なまなましい歌の表情と、緩急をつけた弦楽アンサンブルに耳奪われます。

ブック式CDには、英・仏・アラビア語による丁寧な解説とディスコグラフィも付き、
蛇腹にCD4枚を収めた装丁もいい仕事をしていますよ。
今後のAMARのリリースに、目が離せなくなりそうです。

Abd Al-Hayy Hilmi "ABD AL-HAYY HILMI 1857-1912 : AN ANTHOLOGY" Arab Music Archiving & Research Foundation P1131188
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