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いにしえの東南亜細亜音楽に溺れる4CDボックス [東南アジア]

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おととしダスト=トゥ=デジタルがリリースした
アフリカのSP音源100曲を復刻した4CDボックスにはドギモを抜かれましたけれど、
今度はそれをさらに上回る、超弩級ものの4CDボックスが登場しましたよ。

ヴェトナム、ラオス、カンボジア、タイ、ビルマ(ミャンマー)、
マレイシア、シンガポール、インドネシアで、
1905年から1966年までに録音されたヴィンテージ音源を90曲を収録。
今回スゴイのは、豪華写真集ともいうべき解説書です。
全272ページには、眺めるだけでヨダレが垂れるような美しいSPレーベルや外袋が満載、
古い絵葉書から採ってきた風景写真や、
歌い手や楽士や踊り子たちの写真がふんだんに載っています。
セピア色や合成着色した写真の風合いが、なんともいい味わいですね。

もちろん解説の方も大充実。レコード産業黎明期の様子に各国の音楽の概説、
各曲の解説も丁寧で、ミャンマー独特のピアノの由来など、今回初めて知りました。
なんでも、ビルマがイギリス統治下だった1870年代に、
イタリアの外交官がビルマの王宮にピアノを寄贈したのが、
ビルマにピアノがもたらされた最初のきっかけだったとのこと。
宮廷楽師たちはピアノを<サンダヤー>と名付け、
サイン・ワインのアンサンブルと演奏するための独特の演奏法を編み出し、
20世紀初頭には無声映画の伴奏にサンダヤーが盛んに使われ、
ポピュラー化したのだそうです。う~ん、勉強になりますね。

前回のアフリカ編“OPIKA PENDE : AFRICA AT 78RPM” は、
ジョナサン・ウォードひとりのコレクション集でしたけれど、
今回の東南アジア編は、6人の音楽学者とコレクターたちの協力の下に制作されています。
ジョナサン・ウォードはSP音源の追加提供をしたほか、
今回はSP音源のコピーを任されたようですね。
音質の良さは、前回の“OPIKA PENDE : AFRICA AT 78RPM” とまったく遜色ありません。

それにしても、この音楽の芳醇さには、ため息がこぼれますねえ。
ここに収められた音楽の現在の姿を知っている者にとっては、
正直言って、SP時代の音楽の方が魅力的と言わざるを得ません。
4枚のディスクに収められた音源は聴きどころ満点で、
おー、と驚いたり、う~む、とうなったり、まったく飽きさせることがありません。

今回の編集は、国別や音楽のスタイル別などにまとめていないところが良いと思いました。
ディスクAがヴェトナム・ラオス・カンボジア編、
ディスクBがタイ・カンボジア・ラオス・ヴェトナム編と一応なっているものの、
どちらも国ごとに選り分けていないので、国ごとの特徴は強調されていません。
ディスクCはビルマ(ミャンマー)・タイ編、
ディスクDはマレイシア・シンガポール・インドネシア編で、その音楽の特徴から
地域色は出ているものの、音楽スタイルを軸とした編集にはなっていないところがミソ。

研究者用ではなく、一般の音楽ファンが楽しめるように吟味した曲順になっていて、
そのため、古典音楽の器楽演奏に続いて大衆演劇の歌ものなどと、
雑多な音楽スタイルが次々と飛び出てくるんですが、
一聴とりとめないように思える曲順も、曲ごとの変化がなんとも刺激的で、楽しく聞けます。

各国を代表する歌手たちの初期録音も聴きどころで、
ヴェトナム、カイルオンの名歌手ウ・トラ・オンの46年録音に、
同じくヴェトナムの名歌手レー・トゥイがわずか15歳の時に録音したヴォンコ、
ミャンマーの名歌手マーマーエーの64年録音、
インドネシアのミス・リブートの26年録音が収録されています。

宮廷音楽から大衆音楽まで横断した、東南アジアの伝統芸能を広く掘り下げた大労作。
文句なしに今年のリイシュー大賞でしょう。

Various Artists "LONGING FOR THE PAST : THE 78 RPM ERA IN SOUTHEAST ASIA" Dust-to-Digital DTD28
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