ボヘミアンのサンバ・カンソーン ネルソン・ゴンサルヴィス [ブラジル]
これまでブラジル音楽好きの人に、すいぶん会ってきたと思うんですが、
ネルソン・ゴンサルヴィスのファンという人に、お目にかかったことがありません。
サンバ歌謡が頂点を迎えた50年代、ネルソン・ゴンサルヴィスとエリゼッチ・カルドーゾは、
男女それぞれ最高の歌手だったという定評があるわりには、エリゼッチに比べて、
ネルソン・ゴンサルヴィスの人気のなさは、ちょっとあんまりだよな、て感じですね。
そもそも古いサンバの良さを知る人が少なくなっているので、いかんともしがたいんですが、
シロ・モンテイロのように、粋で<ボッサ>のあるサンバ歌手なら、
若い人が聴いてもカッコイイと感じてもらえると思いますけれど、
ネルソンのサンバ・カンソーンは、ど演歌の世界ですからねえ。
夜、酒場、港、情婦、賭博、ナイフなんて単語がイメージされる歌の数々。
映画に例えるなら、ハンフリー・ボガートの世界でしょうか。
大人の男の色気を秘めたネルソンの彫りの深いサンバ・カンソーンは、
ハードボイルドを気取った50年代の雰囲気を色濃く映したものです。
そういう時代背景とべったり背中合わせになったサンバ歌謡だから、
いまさら再評価されることは難しいでしょうねえ。
サウンド面でも、厚ぼったい弦オーケストラが古めかしく響くので、
いくらレトロといっても若い人の耳にはキビしいかも。
以前マイーザを若い子に聞かせたら、歌以前に伴奏がダメって言われたもんなあ(しおしお)。
安全・清潔な今の時代には、いかにもそぐわない歌ですけど、
ま、しゃーない。わかる人が聞きゃあいいんです。
50年代のサンバ・カンソーンの濃厚な味を覚えちゃったら、
最近の歌なんて全部薄味で、物足んなくなっちゃいますからねえ。
低音から高音までムラなく声を出す、たっぷりとした量感のある声たるや、堂々たるもの。
キレのある節回しやネチっこいこぶし使いに、背中がゾクゾクしちゃいます。
ネルソンの歌にはドラマがあり、本当にウマい歌を聴いたという満腹感が得られますね。
ネルソンの初LP(10インチ)は、意外にもノエール・ローザ曲集だったんですが、
やはりネルソンの持ち味はノエールのような軽妙なサンバより、
名作曲家エリヴェルト・マルチンスやアデリーノ・モレイラが書く、
深い哀愁に富んだ歌謡調の曲が似合います。
50年代後半から60年代前半に残したレコードはどれもが粒揃いの傑作で、
駄作はおろか、イマイチのアルバムすらないのがスゴイですね。
そういえば、この当時のレコードは、97~98年にまとめてCD化されましたっけ。
オリジナルLPどおり(一部ジャケットに、再発のカムデン盤仕様あり)のCD化で、
ぼくは狂喜乱舞して全部買いましたけど、日本で買った人が何人いたことやら。
レコードもこつこつ集めてきましたが、海外ではネルソンの人気がないおかげで、
どのレコードも10ドル台の安さで見つけることができ、中には10ドルしないものもありました。
ボサ・ノーヴァのレコードが数百ドルで取引されてるなんてのとは、えらい違いです。
[10インチ] Nelson Gonçalves "NOEL ROSA NA VOZ ROMÂNTICA DE NELSON GONÇALVES" RCA BPL3010 (1956)
[10インチ] Nelson Gonçalves "O TANGO" RCA BPL3018 (1956)
[10インチ] Nelson Gonçalves "CAMINHEMOS" RCA BPL3047 (1957)
[10インチ] Nelson Gonçalves "PENSANDO EM TI" RCA BPL3052 (1957)
[LP] Nelson Gonçalves "ESCULTURA" RCA BBL1001 (1958)
[LP] Nelson Gonçalves "BUQUÊ DE MELODIAS" RCA BPL17 (1958)
[LP] Nelson Gonçalves "ÊXTASE" RCA BBL1018 (1959)
[LP] Nelson Gonçalves "NELSON EM HI-FI" RCA BBL1039 (1959)
[LP] Nelson Gonçalves "SELEÇÃO DE OURO" RCA BBL1061 (1960)
[LP] Nelson Gonçalves "MEU PERFIL" RCA BBL1076 (1960)
[LP] Nelson Gonçalves "QUEIXAS" RCA BBL1101 (1960)
[LP] Nelson Gonçalves "O TANGO" RCA BBL1154 (1961)
[LP] Nelson Gonçalves "SAMBAS E BOLEROS" RCA BBL1161 (1961)
[LP] Nelson Gonçalves "NÓS E A SERESTA" RCA BBL1180 (1962)
[LP] Nelson Gonçalves "EU E MINHA TRISTEZA" RCA BBL1207 (1962)
[LP] Nelson Gonçalves "NA VOZ DE NELSON GONÇALVES" RCA BBL1231 (1962)
[LP] Nelson Gonçalves "ROMÂNTICO" RCA BBL1258 (1963)
[LP] Nelson Gonçalves "NELSON SEMPRE NELSON" RCA BBL1285 (1964)
[LP] Nelson Gonçalves "TUDO DE MIM" RCA BBL1291 (1964)
[LP] Nelson Gonçalves "SAUDADE"RCA BBL1314 (1965)
2013-10-17 00:00
コメント(8)
ええ!あまり人気がないんですか?
ファンとしてはたいそう寂しい限りです。
「この人聴かなきゃサンバ歌謡を聴いたとは言えないよ」って断言したいですね。
by スチャラカ社員 (2013-10-17 20:15)
人気がないもなにも。上のレコードがCD化された時なんて、たった1枚しか入れなかったディスクユニオンでず~っと売れ残ったままでしたから。
ぼくはケペルさんがやっていた中南米音楽で全タイトル特注して手に入れていたので、ユニオンでずっと売れ残ってるCDが不憫でなりませんでしたよ。
by bunboni (2013-10-17 20:50)
先日神保町のレコード社で50AnosDeBoemiaVol.1を見つけました。
NaquelaMesaは、とうようさんが銀座コアのレコード寄席で歌詞の内容まで
説明してオススメしていました。マイーザの紹介にも力が入っている様子でし
た。79年ごろだったと思います。当時はこちらも20代のワカゾウでしたので
ついついマリア・クレウザあたりに行ってしまうのは仕方のないところ。今改めて聴いてみると素直に心に沁みる。トシを取ったということなのかもしれません。
by dai626ku (2013-10-18 05:14)
そうなんです。あの当時20代、現在50代のわれわれぐらいしか、ネルソン・ゴンサルヴィスに魂抜かれたのはいなさそうです。
by bunboni (2013-10-18 06:37)
ネルソン・ゴンサルヴィスですか! 20年ほど前、初めて聞いた頃を思い出して懐かしかったです。
当初、古いなとは思ったものの、深々とした歌声と、闇夜のダンディズムにしびれたのを思い出します。
マイーザ、 プエルトリコのサントス コロン などの歌謡歌手も大好きでした。
当時20代前半でしたが、共感してくれる人はいなかったですね。
おそらく、ラテン本国では、日本の音楽ファン以上にダサい音楽として淘汰されてしまっているんでしょうね。
しかし、こういう本当にディープな音楽の味に共感してしまった以上、どうしても古い音源のリイシューものの方に手が伸びてしまいます。
by ナックル (2013-10-21 00:45)
『粋な男』のカエターノのダンディズムには酔えるのに、ネルソンはディープすぎるという感想をもらったこともありましたっけ。
でも、けっこうネルソン支持のファンがいることがわかって、嬉しいです。
by bunboni (2013-10-21 06:36)
私は大好きで、昔『ミュージック・マガジン』の『三波春夫の世界』レコード評で、比較して引用したこともあります。
歌舞伎で言えば、鶴屋南北の「色悪」の世界みたいな艶っぽさがあると思いますが。
by さすらい日乗 (2013-10-22 18:27)
歌舞伎は明るくないので、例えられた比喩がわからないのですが、ありがとうございます。
あぁ、でもやっぱファンは、爺に近いおやぢばっかだなあ。
来たれ、妙齢な女性ファン!(無理か)
by bunboni (2013-10-22 20:53)