リマの名門音楽一家 [南アメリカ]
アルバムの出だし、ギターの一音が流れてきただけで、もう背中がぞっくぞく。
ペルーの首都リマの下町で息づいてきた、バルスやアフロペルーの味わいは、
一世紀を経たいまなお、ヴィンテージの味わいをまったく失っていません。
いや、それどころか、時代が下るほどに、濃厚になっているようにさえ思えます。
これって、奇跡的なことじゃないでしょうか。
だって、キューバのソンやブラジルのサンバを考えてみてくださいよ。
現在のソンやサンバは、世代交代を繰り返すなかでかつての味わいが薄れ、
その味わいの質もだんだんと変質していることは、誰もが感じていますよね。
21世紀の現在に、アルセニオ・ロドリゲスやシロ・モンテイロと同じ味を求めたところで、
そんなの無理に決まっているじゃないですか。
ところが、それを叶えているのが、今のペルーですよ。
サヤリー・プロダクションによる“DE FAMILIA” シリーズの第3・4弾を聴いて、
あらためてそういう感慨にとらわれました。
今回リリースされた二作、ディアス家とロペス姉妹の方はバルス中心のレパートリー、
カンポス家とニカシオ家の方はアフロペルーと、それぞれ趣向は違いますが、
どちらも濃密な情感あふれる歌い口で、その芳醇なコクに酔いしれるほかありません。
これほど魂をふるわせる大衆音楽は、世界を見渡したって、そうそうあるもんじゃありません。
歌ばかりでなく、伴奏についてもそうです。
ヴィンテージ時代に比べ、ギターはより技巧的となり、
洗練された表現を獲得しているのにも関わらず、サウンドが軽くすっきりとするどころか、
むしろ逆に深みを増して濃厚になっているのだから、嬉しいじゃないですか。
世の音楽がおしなべて、薄味でさっぱりとしていくなかで、
真逆をいくこういう伝統の継承もあるのかと、感心してしまいます。
こういう音楽が存在する限り、それを録音して販売することは、
たとえ大きなセールスを期待できないにせよ、音楽関係者にとっては使命といえますね。
その仕事を真摯に果たしているサヤリーのスタッフには、
本当に賛辞を送りたい気持ちでいっぱいで、応援する声も大きくなろうというものです。
下町のおばちゃん然としたロペス姉妹が聞かせる、鍛え抜かれたノドも素晴らしければ、
マルコ・カンポスのまろやかな節回しにも陶然とします。
カンポス家といえば、69年にペルー・ネグロを創立したロナルド・カンポスを輩出した、
アフロペルー文化を代表する名門一族ですよね。
カホンやコンガを叩くロニー・カンポスは、
ロナルド亡き後ペルー・ネグロの監督を引き継いでいます。
リマの名門音楽一家が伝えてきた音楽遺産。
2014年のベスト候補作に、はや一番乗りです。
López Y Díaz "DE FAMILIA : PUREZA DE UNA TRADICIÓN" Sayariy Producciones/Enjundia 7753218000210 (2013)
Campos Y Nicasio "DE FAMILIA : PUREZA DE UNA TRADICIÓN" Sayariy Producciones/Enjundia 7753218000265 (2013)
2014-01-03 00:00
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