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訛りの妙味 トンファド・ファイテッド [東南アジア]

Thonghuad Faited  DIEW SOR KID HOD BAAN.jpg

タイ文字が読めなくて、演奏者の名前もわからないままに、
長年愛聴していたソー(タイの胡弓)奏者のインスト・アルバム。
2年前、エム・レコードがLP/CD化してくれたおかげで、
トンファド・ファイテッドという人だいうことがわかりました。
まさかこのアルバムが日本でCD化されるなんて、思いもよりませんでしたけども。

ピー・パートのような古典音楽のアンサンブル演奏ならいざしらず、
ポップ・モーラムのようなポピュラー音楽の世界で、
裏方のプレイヤーを主役にしたインスト・アルバムが作られるのは、めったにないこと。
それだけに貴重なアルバムといえるんですが、
中身の方も、まだサックスやシンセなどが入らない、
ベースとドラムスのリズム・セクションを加えただけの70年代録音のため、
ポップ・モーラムのユニークすぎるグルーヴをたっぷり味わえるアルバムなんですね、これが。

ポップ・モーラムのカラオケ・ヴァージョンといった感じの整然とした演奏もあるんですが、
中に数曲、チューニングが狂っていて、リズムも不安定な、
不穏としかいいようのない演奏が入っていて、これが強烈なのなんのって。
最初は「なんじゃ、このヘタクソな演奏は!」と思ったんですが、
何度か聴くうちに、中毒性のあるグルーヴにすっかりヤラれてしまいました。

エム・レコードのクレジットのおかげで、
ペッ・ブラパ・バンドというバンドが演奏していることがわかったんですが、
ソー、ケーン、ピン、ピアノ、ベース、ドラムス、パーカッションによるこのアンサンブルは、
西洋音楽の価値観をぶっ壊す破壊力があります。

グルーヴィーなベースに、微妙にチューニングの狂ったピンが絡み、
ケーンはリズム楽器のように一定のコードを鳴らすなか、トンファドのソーが奔放に弾きまくる。
さらにそのバックで、ピアノがアバンギャルドなフレーズをころがすという、
もう一体、どーなってるんだという感じの演奏は、何度聴いても頭がクラクラします。

演奏している本人たちにすれば、ソウルぽいドライヴ感を出そうとしているつもりなんだろうけど、
なんとも不安定でイナタいビートは気持ち悪く、二日酔いみたいな気分に陥ります。
説明不可能なこのぶっ壊れた演奏の魅力、なんと表現したものやらと思っていたら、
その昔、神楽研究家の三上敏視さんが、
神楽のリズム感について「訛り」と表現されているのに、これだっ!と思いましたね。

居心地の悪い「もたった」リズムなのに、なぜか身体になじむこの感覚。
それはリズムの「訛り」というのが、まさにピッタリですね。
西洋音楽の基準からいえば、外れてる!と一刀両断にダメ出しされてしまうところですけれど、
そこに妙味を覚えられるのは、東洋人だからこそでしょう。
むしろ西洋人には、このグルーヴがわかるまい、えへん!てなもんです。

このほかにも本作には、トンファドのソーのソロ演奏や、
トンファドの盟友だというケーン奏者クンパーンのソロ演奏も収録されています。
スパープ・ダーオドゥワンデーン、オンウマー・シンシリなど、
70年代から80年代初頭の黄金期のポップ・モーラムのバックで数々の録音を残してきた
陰の立役者トンファド・ファイテッドの名演が詰まった傑作ですね。
日本盤はトンファイが伴奏を務めたヴォーカル曲3曲が追加されていて、オススメです。

Thonghuad Faited "DIEW SOR KID HOD BAAN" JKC S-CD2074
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