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極私的日本のポップス開眼 南佳孝 [日本]

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中学を卒業するまで、洋楽ばかり聴いていたぼくは、邦楽が大の苦手でした。
ギターを弾く同級生たちが夢中になっていた、
かぐや姫に代表される四畳半フォークのダサさが、とにかく耐えられなくってねえ。
友達から無理矢理、泉谷しげるの「おー脳」を聴かされた日には、
こんなサイテーな曲が日本のポップスのレヴェルなのかよって、心底幻滅したもんです。

そんなぼくがはじめてホレこんだのが、南佳孝の『摩天楼のヒロイン』でした。
ジャケットのカッコよさに惹かれて買ったんですけど、
戦前のハリウッド映画を夢想したノスタルジック・サウンドに、一聴ノックアウト。
ダン・ヒックスとホット・リックスの“STRIKING IT RICH!” や、
マリア・マルダーの“WAITRESS IN THE DONUT SHOP” のような
ノスタルジック志向のアルバムにちょうど夢中になっていた頃だったので、
日本にもこんな都会的で洗練された音楽を作る人がいるのか!とカンゲキしたのでした。

さっそく荻窪のロフトへご本人のライヴを聴きに行くと、
レコードとは違って、ピアノの弾き語りというシンプルなスタイルとはいえ、
フォークの連中みたいな、田舎ぽさやビンボ臭さとはまるで無縁の音楽世界。
ヤスっぽい現実を歌うフォーク歌手の歌詞とは真逆の虚構を歌い、
歌の世界が物語を紡いでいて、この人天才!と高1のぼくは舞い上がったのでした。
上の写真は、その時南さんにサインを入れてもらったレコードです。

でも、その当時の南さんは、デビュー作の『摩天楼のヒロイン』がまったく売れず、
ロクな評価もされないという有様で、たまにライヴハウスへ出演するほかは、
アルバイトで糊口を凌いでいたようでした。
南さんが常連だった渋谷・道玄坂の百軒店にあったギャルソンというお店に誘われて行くと、
はちみつぱいのメンバーなどもたむろしていて、
「レコード1枚で終わった男」なんてキツい言葉でからかわれてたことを思い出します。

「シティ・ミュージック」なんて言葉が流行するようになったのは77年頃からで、
73年作の『摩天楼のヒロイン』は、まさしく早すぎた作品でした。
でも、今思えば、『摩天楼のヒロイン』に出会った74年を皮切りに、
都会的な洋楽センスに溢れたポップスがどんどんと登場し始めたんですよね。

あの年の秋に、久保田麻琴の『SUNSET GANG』が出て、冬には小坂忠の『ほうろう』、
翌年高2になったばかりの春に、鈴木茂の『BAND WAGON』が出て、
続いてシュガー・ベイブの『SONGS』、夏休み前には大瀧詠一の『ナイアガラ・ムーン』と、
それまで邦楽なんてとバカにしていたのが、一変してしまったのでした。

今回、『摩天楼のヒロイン』が高品質SHM-CD仕様で復刻され、
あの当時の思い出がいろいろと蘇ってきました。
それにしてもこのSHM-CD、素晴らしい音質ですね。ビックリしました。
同時期のライヴ録音『1973.9.21 SHOW BOAT 素晴らしき船出』収録の4曲も
ボーナス・トラックに加えられ、往年のファンには感涙もののリイシューです。

[LP] 南佳孝 「摩天楼のヒロイン」 ショーボート 3A1005 (1973)
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コメント 2

kenjikien

ずっと以前に数回コメントしたのですが・・・お久しぶりです。エルスールで何度かお見かけしてもおります。

南佳孝、私も好きです。30年以上も前、彼のアルバムを初めて聴いた時、ロックというよりもジャジーで、セピア色の古きハリウッド映画のような世界に“ニューミュージック”どころか”オールドミュージック”じゃんか、と驚いたことを覚えています。もうひとつ忘れられないのは、彼がラジオでジョアン・ジルベルトのLive in Montreuxを発売直後に紹介してくれたこと。当時はボサノヴァ、冬の時代。カフェミュージック的に持て囃されることもなかったし、ジョアンのアルバムだって音楽雑誌もほとんど無視、ボサノヴァの情報もありませんでした。でも、私の知る限り南佳孝だけがこれを取り上げ、絶賛、翌日、そのアルバムを早速輸入盤で手に入れて…“ジョアンの音楽は死んでいなかった”。
ここ十年くらいは南佳孝も盛んにボサノヴァを取り上げているようですね。でも僕は70年代後半から80年代にかけて彼が作った”日本の歌謡ボッサ”が音楽スタイルだけならずっと本格的になった今の日本の“ボサノヴァ”より遥かに魅力的に聴こえます。
by kenjikien (2014-11-20 21:40) 

bunboni

ハンドルネームでは思い出せないもので、すみません、今度お会いできた時、ぜひ声をかけてくださいね。

南さんは高校生のぼくと知り合った当時、すでにジョアン・ジルベルト・タイプのボサ・ノーヴァを書いてました。デビュー作から3年のブランクがあって、ようやくソニーからリリースした『忘れられた夏』のタイトル曲が、南さん流のボサ・ノーヴァでした。山本剛のジャズ・ヴァージョンのアルバム収録曲より、シングルB面で出た鈴木茂ほかが演奏したヴァージョの方が、よりボサ・ノーヴァの雰囲気がよく出てました。

あと、南さんの最高傑作『SOUTH OF BORDER』収録の「日付変更線」も鮮やかなボサ・ノーヴァでした。
by bunboni (2014-11-20 22:14) 

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