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バラッドの革命児 サム・リー [ブリテン諸島]

Sam Lee & Friends  THE FADE IN TIME.jpg

おそるべき才能、そうとしかいいようがありません。

イングランドのトラヴェラーズが伝承してきた唄を掘り起こす、サム・リーの2作目。
昨年末に日本先行発売されていましたが、ようやく本国でリリースされました。
デビュー作にノックアウトされ、
来日コンサートでのバラッドの伝道師たるパフォーマーぶりにも感じ入りましたが、
それでもここまでの進化は、正直予想していませんでした。いや、スゴイです、ほんと。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-06-23

サム・リーのケタ違いのサウンド・クリエイティヴィティは、まさしく圧倒的です。
イングランドの伝統音楽という武骨でモノトーンな音楽を、
かくも色彩感豊かに織り上げられるとは。
サムの手にかかれば、伝統というカビ臭い約束事に縛られることなく、
インドのタブラもフィンランドのカンテレも日本の箏も、
バラッドという物語の中にするりと収められてしまいます。

これまで、伝統音楽にこの種のサウンド・メイキングを施して成功した例を、ぼくは知りません。
だいたいが作者の過剰な演出に終わり、自己満足に堕した作品が多く、
「音楽的実験」などと称される伝統音楽に、ロクなものはありませんでした。
アンビエントやエレクトロニカとも接触するサウンドであればなおさらで、
そうしたアプローチは伝統音楽にとってもっとも警戒を要するものですが、
この作品はそんな過去の類似作とは、まったく次元の違うものに仕上がっています。

サムの音楽は、バラッドを伝えるという目的の中にすべて、
独創的なサウンドの手腕が収斂され、奉仕されているんですね。
サムがバラッドを伝道するための黒子になりきっているからこそ、
そのサウンドに作者の自意識が付加されることなく、
その真摯で誠実な姿勢のおかげで、鼻につくようなサウンドとならずに済んでいるのでしょう。
その証拠に、サムの歌いぶりは淡々としていて、どこまでも穏やか。
バラッド歌いとして、はや2作目で成熟味を増したことを感じさせます。

歌詞の意味がわかれば、サムが施したサウンド意図を、もっと理解できるように思いますが、
それがわからずとも、イマジネイティヴなサウンドに想像をかきたてられます。

Sam Lee & Friends "THE FADE IN TIME" The Nest Collective TNCR003CD (2015)
コメント(6) 

コメント 6

イワタニ

こんにちは。
bunboniさんが、「おそるべし才能」なんて書くぐらいだから、聴いてみたくなって、すぐにエル・スールに注文メールを入れてしまいましたよ。
バラッドですか。アラン・ローマックスみたいな奴ですね。
昔、アランの「THE FOLKSONGS OF BRITAIN VOL.1~10」を探して一生懸命聴いていた記憶がありますよ。9枚集まりましたけど、今でも我が家のレコード棚にホコリを被って眠ってます。
アメリカ白人系の民謡なんぞを、今の時代に聴く人なんていないんじゃないでしょうか? みんな黒人系の方にだけ魅力を感じるみたいですからね。
私もバラッドなんて消えて無くなるものだと思っていましたが、こんな時代に現れましたか。
早くCD聴いてみたいなあ。なんだか今年のベスト級の予感がしますよ?

by イワタニ (2015-03-29 14:57) 

bunboni

音楽って、そう簡単には消えてなくなりませんね。
いったんは失われた音楽が、老人からの聴き伝えで、
のちの若い世代が復興したり、文字資料しか残っていなくても、
そこから想像力で蘇った例はいくつもあります。
サム・リーがやっているのも、そういうことでしょう。
アメリカ白人系の民謡を黒人女性が蘇らせたりする今のアメリカーナにも、
香ばしいものがあります。
by bunboni (2015-03-29 15:31) 

イワタニ

全然違う話になってしまいますが、
「BORDER LANDS」smithonian folkwaysというCDを最近になって購入したのですが、この中に「CHICKEN SCRATCH」という音楽が入ってます。初めて聴いたのですがご存知でしょうか?
ご存知でしたら、お時間のある時にでも教えてください。
by イワタニ (2015-03-29 16:09) 

bunboni

中国琵琶の奏者のアルバムでしたっけ。
ぼくは聴いていないので、すみません、その音楽はわかりません。
チャンスがあったら、ぼくも聴いてみたいですね。
by bunboni (2015-03-29 16:43) 

イワタニ

アメリカインディアンの混血ポピュラー音楽だそうです。
中村とうようさんの「アメリカン・ミュージック再発見」に、少しだけ取り上げられていました。私もこれを読んで上記のCDを購入したのですが、なかなか良いですよ。
by イワタニ (2015-03-29 17:17) 

bunboni

あれ、ぜんぜん覚えてないや。ダメですね。勉強しま~す。
by bunboni (2015-03-29 18:07) 

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