声の破壊力 ヤンナ・モミナ [東アフリカ]

ひさしぶりに、スゴイもん、聴いちゃいました。
ジブチの老婆の歌。
いや、これは歌といえないかな、チャントですね。
まさにプリミティヴそのもの。
音楽の原初の姿を聴くような、そんな音楽です。
ティナリウェンのプロデューサーで知られるイアン・ブレナンが、
世界の秘境を訪ねてレコーディングしてきた、
「ヒドゥン・ミュージックス」シリーズの10集目。
正直このシリーズ、どれも貴重な音源ではあるものの、
資料的価値にとどまるものがほとんどだった気がするんですが、本作は違います。
老婆ヤンナ・モミナを伴奏するのは、カラバシを叩く男性と、
ギターを弾く男性2人の3人のみ。
1曲目は、ベース音のように1音を規則正しく鳴らし続けるギターをバックに、
ヤンナがチャントする曲なんですが、はやこの1曲で、ノック・アウト。
ヤンナのチャントのパワフルなことといったら。
プリミティヴゆえの純度の高さに、圧倒されます。
もっとも、過度に化粧された音楽に聴き慣れた耳には、
こういう音楽の聴きどころがわからなくて、退屈するかもしれないなあ。
野趣な味わいが好きな者には、またとない音楽ですよ。
このニュアンス豊かなチャントの秘密は、声に付いて回る細かな揺れにあるようです。
音を伸ばすときにかかるヴィブラートとは違って、
語りで発声している声に、ずっと微妙な揺れが伴っていて、
それが複雑なニュアンスを生み出しているんですね。
これらのチャントはすべてヤンナの自作だそうで、
英訳されたタイトルから察するに、世俗的な事柄を語っているようです。
ヤンナはエチオピア系のアファール人で、おそらくイスラーム教徒と思いますが、
ヤンナの音楽にはイスラームの要素を感じさせません。
エチオピアやソマリ、アラブの音楽とも違います。
アファールの伝統音楽を知らないので、
ヤンナの音楽が、どのくらい伝統に沿ったものなのかがわからないのですが、
音楽性はフォークロアというより、ブルースに近いように感じます。
それにしても、強靭なこの歌いぶりは、フィールド・ハラーに匹敵しますね。
ギターと男性コーラスを伴奏に歌う3曲目が、特に強烈。
メロディやコード感もいっさい無視の、
ヤンナの怒号のようなシャウトは、ハチャメチャに聞こえます。
伴奏を弾き飛ばすかのような自由でハジケた歌いぶりが痛快で、
胸がスカッとしますね。破壊力満点の歌いぶりに降参です。
手拍子と、ドゥーワップのベース・ヴォーカルのような男声を伴奏に
チャントする7曲目も、スゴイ。
徐々にヒート・アップして、ウルレーションを炸裂して高揚していくところは、
ヴードゥーやグナーワのようなトランシーな魅力があります。
ジャケットの迫力に、これはイケるかもと思ったけど、まさしく大当たり。
はじめは、とにかくヤンナの声に圧倒されるばかりでしたけれど、
聴けば聴くほど、野趣な味わいにやみつきになる、名作です。
Yanna Momina "AFAR WAYS" Glitterbeat GBCD131 (2022)
2022-09-28 00:00
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