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ファドの道を歩む ジョアナ・アメンドエイラ [南ヨーロッパ]

Joana Amendoeira  MUITO DEPOIS.jpg

第一声で撃沈。
横隔膜を上下に動かし、たっぷりとした声量で発声するその歌声。
毎度のことながら、ほれぼれとさせられますね、ジョアナの歌いぶりには。

新作が常に最高作。
そんな快進撃を続けられる歌手って、そうそうはいませんよ。
すごいですよ、ジョアナ・アメンドイラがファドの音楽性を磨き上げようとする、その姿勢。
イチローと比較したくなってしまう、まさに「努力の人」じゃないですか。
周囲に惑わされず、我が道を歩むことに努力を惜しまない、
迷いなき音楽家の姿を見る思いがします。

前作から4年。
アマリア・ロドリゲス直系の伝統ファドの歌い手として、
新しいファドのスタイルを模索しながら、地道に自分のファドを磨き上げてきたジョアナが、
じっくりと時間をかけて、またも素晴らしいアルバムを送り出してくれました。

今作は、劇作家で作詞家のティアゴ・トレス・ダ・シルヴァの書き下ろし作品を歌っていて、
プロデュースもティアゴが務めています。
解説によれば、ティアゴはアマリア・ロドリゲスを題材にしたミュージカルをきっかけに
ファドを書くようになった人だそうで、マリア・ベターニャ、エルバ・ラマーリョ、
ネイ・マトグロッソ、ダニエラ・メルクリといったブラジルの歌手にも詞を提供しているそうです。
ぼくの大好きなサンバ作家、マルコス・サクラメントと共作しているのは、嬉しかったな。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2011-11-05

伝統ファドの特徴を生かした、音程が大きく上がり下がりする“Lisboa Da Madrugada” もあれば、
ピアノをメインにしたモダンなアレンジの“O Avesso Do Destino” もあるという、
ファドの基本を押さえながら、無理なく現代性を加味したレパートリー。
そしてジョアナの歌いぶりは、古風なファドの色を保ちながら、軽やかに歌っています。

伴奏は、ジョアナのお兄さんのペドロ・アメンドエイラのギターラに、
ヴィオーラのロジェーリオ・フェレイラのいつものメンバーで、息もぴったり。
イントロなしで歌い出すアルバム冒頭から、
ジョアナのヴォーカルの魅力を最大限に発揮した録音の良さも申し分ありません。
全ヴォーカル・ファンにおすすめしたい、珠玉の傑作です。

Joana Amendoeira "MUITO DEPOIS” CNM CNM533CD (2016)
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おかえり、アンガーム [中東・マグレブ]

Angham  AHLAM BARYA.jpg

ずいぶん昔の記事のタイトルで、その名を絶叫したことがあるアンガーム。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2009-08-27
絶叫するほど、一時期ホレこんでいた人で、
90年代以降のアラブ歌謡歌手ではこの人が最高峰だったと、今も信じて疑いません。

アンガームの最高傑作、03年作の“OMRY MAAK”
邦題『あなたと生きる』のライナーノーツを書いたという縁もあって、
自分にとっては忘れ得ぬ人なのであります。
しかし、このアルバム以降、アンガームは作品に恵まれず低迷し、
以前記事に書いた09年の“NEFSY AHEBBAK” で復調の兆しをみせたものの、
エレクトロに挑戦するという暴挙に出た10年作で大コケし、
さすがのぼくも擁護できませんでした。

あの大駄作から5年。シャバービーそのものの低迷もあって、
アンガームの名をすっかり忘れていた今日この頃だったわけですが、
この復帰作には、相好を崩してしまいました。
帰ってきましたよ、あの繊細なこぶし回しが。

アンガームの良さといえば、なんといっても若い頃に鍛えあげた古典声楽の技法。
ヴィブラートとメリスマを使い分けつつ、
繊細な歌いぶりを見事にコントロールする歌唱力の高さは、
全アラブ世界のシャバービー・シンガーを見渡しても、アンガームがトップでしょう。

そんなテクニックが鼻につかずに、さらりと聞かせてしまうところがアンガームの良さ。
本作も、そんなアンガームの上品でフェミニンな魅力が発揮されています。
プロダクションもゴージャスで、アラブらしいストリングスもたっぷりとフィーチャーし、
久しぶりの前線復帰を守り立てています。
ヒット性を狙った曲がなく、地味めな曲が並んだのも個人的には好ましく、
「おかえり、アンガーム」と、満面の笑みで迎えたいアルバムです。

Angham "AHLAM BARYA" Rotana CDROT1929 (2015)
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ブラジルのアコーディオンとヴァイオリン メストリーニョ & ニコラス・クラシッキ [ブラジル]

Mestrinho & Nicolas Krassik.jpg

アコーディオンとヴァイオリンのデュオ。
といっても、おフランスのミュゼットじゃございませんよ。
そちらの方面では、ギュス・ヴィズールとトニー・ミュレナの名曲をカヴァーしたアルバムが
話題になってましたけど、こちらはブラジルの二人であります。

ニコラス・クラシッキは、ブラジル音楽ファンにはお馴染みの、
ブラジルに渡ったフランス人ヴァイオリニストですが、
メストリーニョというアコーディオン(サンフォーナ)奏者は初耳の人。
88年生まれという若手で、エルバ・ラマーリョ、ジルベルト・ジルのレコーディングに参加して
頭角を現してきた人とのこと。ジルベルト・ジルの海外ツアーに同行し、注目を集めたそうです。

そんな二人の共演作は、ドミンギーニョス、シヴーカといった先達アコーディオン奏者の曲、
ヴィラ=ロボス、ガロート、ジャコー・ド・バンドリンのショーロ曲、
バーデン・パウエルとヴィニシウス・ジ・モラエスの共作に、
二人の自作曲を交えて、演奏しています。

メストリーニョの書く曲がなかなかにロマンティックで、
2曲目の“Um Sorriso De Esperança” など、ヴァイオリンとのデュオに絶好のメロディですね。
7曲目の“Em Minha Alma” も古風な優雅さがあって、ちょっと感心してしまいました。
アコーディオンの演奏の方は、リズムの刻みが強力で、
ゆったりとしたワルツでも甘く流れないところがいいですね。
伴奏からソロに移る時、高音へ移動するのでなく、低音に移動して意表を突いたりと、
フレーズの組み立て方に才能を感じさせます。

ニコラス・クラシッキのヴァイオリンは、ヴェテランの域を感じさせる余裕ぶりで、
二人の良く絡み合う演奏は、まさに実力者同士の会話といえますね。
ぼくの大好きなガロートのショーロ“Desvairada” も、
アルバムのハイライトとなる快演に仕上がりました。

Mestrinho & Nicolas Krassik "MESTRINHO & NICOLAS KLASSIK" Biscoito Fino BF340-2 (2016)
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蘇るショーロ神話時代のコントラポント イリネウ・ジ・アルメイダ [ブラジル]

Irineu De Almeida E O Oficleide.png   CHORO CARIOCA E GRUPO CARIOCA.jpg

20年に1度級の、スゴいショーロ・アルバムが出ましたよ。
ショーロ・ファンだけが楽しむんじゃ、もったいないくらいの内容で、
管楽器好きの音楽ファンにぜひオススメしたい、素晴らしい企画作です。

それが、ショーロ第2世代の代表的な音楽家である
トロンボーン/オフィクレイド奏者、イリネウ・ジ・アルメイダ(1863-1914)の曲集です。
イリネウ・ジ・アルメイダの名がよく知られているのは、
ピシンギーニャの最初の先生だったからですね。

イリネウは、ピシンギーニャのお父さんが大家をしていた下宿に暮らしていて、
音楽好きだった大家の息子にチューバと作曲を教え、
仲間のショローンたちに引き合わせるなど、ピシンギーニャをかわいがっていたようです。
1911年には、わずか14歳のピシンギーニャが、イリネウ率いるショーロ・カリオカの一員として、
“São João Debaixo D’água” の録音を残しています。

でも、この人の真価は、別なところにあります。
ショーロにはじめてコントラポント(対旋律)の演奏を導入したのが、イリネウなんです。
いわばイリネウは、ショーロの演奏技法の基礎を確立した人ということで、
ショーロの歴史にいかに重要な役割を果たしたかが、わかりますよね。

イリネウは、ショーロ第1世代の代表的な音楽家、
アナクレット・ジ・メデイロスの楽団バンダ・ド・コルポ・ジ・ボンベイロス創設の
1896年来からのメンバーで、副指揮者を務めていました。
バンダ・ド・コルポ・ジ・ボンベイロスが大編成のブラスバンドだったのに対し、
ブラスバンドを小規模にして、コントラポントを取り入れたイリネウの楽団演奏は、
自由闊達な即興を可能にしたのでした。

当時のイリネウのグループ、ショーロ・カリオカの録音は、
古典ショーロの15枚組ボックス・セットでCD化され、ディスク2で聴くことができます。
1910年代の録音なので、音質は正直厳しいものがあるんですけれど、
当時の演奏を再現した今回のアルバムは、
ショーロ神話時代に開発されたコントラポントをみずみずしく蘇らせています。

編成も、オフィクレイド、コルネット、フルート、
ギター、カヴァキーニョ、パンデイロと、当時のまま。
本作で演奏されている“Daynéia” “Albertina” のオリジナル録音が
ディスク2に収録されているので聞き比べてみると、
オリジナルを忠実に演奏していることがよくわかります。

今のブラジルでは、オフィクレイドを吹く人がいなくなり、
田中勝則さんがプロデュースした『ショーロ歴史物語』でも、
イリネウの曲はファゴットで代用されていましたが、
オフィクレイドを楽器店で偶然発見したトロンボーン奏者のエヴェルソン・モラエスの存在が、
この企画作に結び付いたようです。
ちなみに、コルネットのアキレス・モラエスとは兄弟で、
アキレスはアミルトン・ジ・オランダの去年のガフェイラ・アルバムに参加していましたね。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-09-11

プロデュースは、ショーロ・ギタリストのマウリシオ・カリーリョ。
こういう古典ショーロに目配りができる人といえば、この人を置いてほかにいません。
ピシンギーニャやシキーニャ・ゴンザレスあたりをカヴァーする人はいても、
イリネウ・ジ・アルメイダやアナクレット・ジ・メデイロスにスポットをあてる見識のある人は、
マウリシオやエンリッキくらいのものでしょう。
最初に「20年に1度級」といったのも、
アナクレットのカヴァー集が99年にクアルッピから出た以来と感じたからです。

そして、再現演奏といいながら、それが歴史のお勉強的なおさらいで終わるのではなく、
フレッシュなサウンドに満ち溢れているのだから、心躍らせずにはおれません。
100年前の音楽が、これほどまでにみずみずしく響くんですから、マイっちゃいますよ。
こういう演奏を聴いていると、音楽に進歩なんていらないと、思わず口を滑らしちゃいますね。
朗らかで、軽やかで、優和で、キューーーーーーーート♡
キューバのピケーテ・ティピコ・クバーノにカンゲキした方にも、ぜひ。

Everson Moraes, Aquiles Moraes, Leonardo Miranda, Iuri Bittar, Lucas Oliveira, Marcus Thadeu
"IRINEU DE ALMEIDA E O OFICLEIDE - 100 ANOS DEPOIS" Biscoito Fino BF390-2 (2016)
Choro Carioca, Grupo Carioca
"CHORO CARIOCA E GRUPO CARIOCA : MEMÓRIAS MUSICAIS [2]" Biscoito Fino BF601-2
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アダルトなバラード・アルバム シーリーン [中東・マグレブ]

Shireen  TARIKI.jpg

シャバービー目下の愛聴盤は、ナワール・エル・ズグビーで今も変わらず。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2016-05-14
ひさしぶりに大ヴェテラン、サミーラ・サイードの新作が出たので、
乗り換えになるかなと思ったんですけれど、曲に魅力がなくて、ちょい期待外れ。
というわけで、ナワールが依然として不動の座を占めてたんですが、
ごひいきのエジプトの歌姫シーリーンの新作が届き、さあ、果たして交代なるか。

シーリーンは、03年にフリー・ミュージックからデビューし、一躍トップ・スターとなった人。
3作目の07年作からロターナに移籍、6作目となる14年の前作ではエジプトのノグムに移り、
新作はUAEのビーリンク・プロダクションからリリースされました。
アラブ全国区で人気を誇るシンガーらしく、
これまではシャバービー典型のカラフルなプロダクションにのせて歌っていましたけれど、
この新作はだいぶ様子が違います。
ゴージャスな弦楽オーケストラを伴奏に歌っていて、
これまで1・2曲はあったエレクトロ調の曲も、今回はまったくなし。

なんかフェイルーズみたいだなと思いながら、聴き進めていくと、
歌いぶりもいつものシーリーンの甘ったれた手弱女ふうな風情じゃなく、
クールなふるまいを演出しているよう。
これ、完全にフェイルーズを意識してるでしょ。

女王フェイルーズとは比べようもありませんけれど、
いつものチャーミングな軽い歌い口と、
がらりと雰囲気を変えたアダルトなムードは、悪くありません。
全編エレガントなバラード・アルバムで、アラブ歌謡らしい曲は、
アラビックなパーカッションが活躍する終盤5曲目の1曲のみ。
わずか22分弱という異色作のミニ・アルバム。これは、いけます。

Shireen "TARIKI" Beelink Productions no number (2015)
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生々しく土臭い古典音楽 アリム・ガスモフ [西アジア]

Alim Qasimov  MORQE SAHAR.jpg

ポピュラー音楽とは別次元で、魂を揺さぶられる音楽があります。
ぼくにとっては、アゼルバイジャンの古典音楽ムガームがそのひとつ。
イランで発売された、ムガーム当代最高の歌手
アリム・ガスモフの新作DVD付2枚組CDが素晴らしくって、
ひさしぶりにアリム熱が再燃してしまいました。

イラン北西部タブリーズでのコンサート・ライヴを収録したものなんですが、
DVDでのアリムのパフォーマンスが絶品なんですよ。
いまやアリムは世界各国に招かれるようになりましたけれど、
住民の多くがアゼルバイジャン人のタブリーズは、
いわばホームグラウンのようなものだから、
リラックスしてのびのびと歌うには、最高の環境だったんでしょうね。

タイトルの「モルゲ・サハル」は、イランの古典声楽の大物シャジャリアンが歌った
マーフール旋法のタスニーフだとのこと。
でも、ここではもちろんペルシャ語ではなく、アゼルバイジャン語で歌っています。
シャジャリアンが歌ったというそのタスニーフは未体験ですけれど、
聴かずしても、アリムの方がぜったい素晴らしいだろうという確信が、ぼくにはあります。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-05-14

アリムの歌をバックアップするのは、
タール、ケマンチェ、クラリネット、ダヴル(太鼓)の4人組。
ネイじゃなくて、クラリネットを使うところが面白いですね。
曲によってはネイも使っていますが、
メインはクラリネットで、トリッキーな音をアクセントに使ったりして、効果をあげています。

太鼓も、イランならダウルじゃなくトンバクを使うはずだから、
こんなところがイラン音楽とアゼルバイジャン音楽の違いなのかなあ。
あと、ジャケットでアリムが蛇皮のダフを持っているのに目を奪われたんですが、
DVDでは普通の皮のダフを使っていました。
蛇皮のダフなんて初めて見ましたけど、平手で叩いて痛くないんでしょうか。

現在のイランの音楽家によるタスニーフより、アリムのムガームの方に親しみを覚えるのは、
イランほど過度に洗練されていないからですね。
アリムには民俗的な土臭さがたっぷりあって、
イランのタスニーフを歌っても、なまなましさを感じられるところが一番の魅力です。

歌の主旋律に装飾していく各楽器のフレーズが、
歌の強弱に合わせて当意即妙に応答していくさまは、古典音楽特有の優美さですね。
クラシックでいうところの、ピアニッシモからフォルティッシモまで自在に変化するダイナミクスと、
微分音を多用する音の揺らぎが、時に繊細に、時に嵐のように音楽を波立たせます。
そうした演奏の中で、アリムがタハリールを炸裂させれば、もう恍惚となるほかありません。

[CD+DVD] Alim Qasimov "MORQE SAHAR : TABRIZ CONCERT" Barbad Music no number (2014)
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オルケス・ムラユ時代のノスタルジア イイス・ダリア [東南アジア]

Iis Dahlia  DIVA ASMARA.jpg

「ポップ・ムラユ・クレアティフ」?
<クレアティフ>ってなんじゃいと思ったら、インドネシア語の<クリエイティヴ>だそう。
泣き節で一世風靡したヴェテラン・ダンドゥット歌手のイイス・ダリアの新作は、
クリエイティヴなポップ・ムラユ集を銘打っています。

その中身はいかなるものかと思ったら、
60~70年代のオルケス・ムラユ時代を思わす、初期ダンドゥットのサウンド。
マレイ歌謡色濃厚なサウンドとはいえ、ダンドゥットであることは間違いないのに、
あえてダンドゥットを名乗らないところは、ムラユ・ブームを当て込んでのことなんだろうな。

Iis Dahlia  KECEWA.jpg   Sekar Langit  BALADA DANGDUT.jpg

イイス・ダリアといえば忘れられないのが、95年に大ヒットした“Kecewa” です。
インドネシア独立50周年の年に、いにしえのムラユを取り上げた企画作で、
泣きの女王と呼ばれたイイスの持ち味が発揮された傑作でした。
面白いのは、あの当時は「ノスタルジア・バラーダ・ダンドゥット」というふれこみだったことで、
ノスタルジアと言っても、ムラユの名は出さなかったのに、今や反対となったわけか。
そういえば、97年にはカメリア・マリック、エフィ・タマラと組んだ3人組で、
「バラーダ・ダンドゥット」なんてアルバムも出していましたっけね。

Iis Dahlia  ASMARA KURINDU.jpg

イイス・ダリアが本格的なムラユ歌謡に挑戦したアルバムとして忘れられないのが、
00年の“ASMARA KURINDU” でした。艶やかなヴァイオリンやアコーディオン、
アクースティック・ギターを配して、P・ラムリーの曲をアシュラフとデュエットするなど、
見事なムラユ・アルバムになっていました。
企画作ながら、イイス・ダリアの名作として忘れられないアルバムです。

で、新作はその“ASMARA KURINDU” をも上回る、最高傑作に仕上がりましたね。
しとやかな美声に磨きがかかり、軽やかになった声は、より魅力が増しています。
以前は歌い上げるところや、泣き声を強調するところに、
少し重ったるさを感じるところもあったんですけれど、
今作では抑えた歌唱でふんわりと歌うようになっていて、すっかりマイっちゃいました。

アコーディオン、ヴァイオリン、ルバーナがムラユ歌謡の哀感を引き立てるとともに、
スリン、シンセ、ロック調のギターが下世話なダンドゥッドのサウンドを盛り上げるという、
大衆味たっぷりのプロダクションも申し分なく、大満足であります。
ひと昔前にはイェット・ブスタミのアルバムで盛り上がったこともありましたけれど(覚えてる?)、
これもまた、エレガントなムラユ歌謡にルーツ回帰したダンドゥット傑作です。

Iis Dahlia "POP MELAYU KREATIF : DIVA ASMARA" Insictech Musicland 51357-23642 (2015)
Iis Dahlia "KECEWA" HP/Musica HPCD0054 (1995)
Sekar Langit (Iis Dahlia, Camelia Malik & Evie Tamala) "BALADA DANGDUT" Blackboard/HP CI66 (1996)
Iis Dahlia "ASMARA KURINDU" HP/Musica HPCD0107 (2000)
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キューバ音楽の伝統を前進させる才能 アチ・ラング・イ・エル・アフロクーバ [カリブ海]

Achy Lang Y El Afrocuba.jpg

うわ~、器用だなあ。
ソンにキューバン・サルサ、ダンソーン、ラテン・ジャズ、トローバ、グアヒーラ、
最後にはチャングイまでもと、多彩なスタイルを流麗に聞かせます。

その演奏があまりにもソツなさすぎて、
ひっかかりがないことに不満を募らせるのは、年寄りの悪い癖。
だってさあ、スムースすぎません? オールド・キューバンの野趣な味わいを知るオヤジには、
なんだかなあという感想を拭い去ることができません。
なんてブツブツ言ってたくせに、毎夜CDをトレイに載せて、
プレイボタンを押してるんだから、なんだ、気に入ってんじゃん、自分。

アフロ・キューバン・オールスターズのフアン・デ・マルコス・ゴンサーレスの右腕として活躍してきた
若手敏腕ミュージカル・ディレクター、アチ・ラングの新作です。
参加したミュージシャンの顔ぶれが豪華で、
アマディート・バルデース、バルバリート・トーレス、
マラカ、ロランド・ルナといった超一流どころがずらり。
そんな豪華メンバーの技をきっちり浮かび上がらせるアレンジとデイレクションは、
アチ・ラングの得意とするところで、しっかりと計算され尽くされているからこそ、
これほどスムースに聞けるってわけですよね。

DVDのコンサート・ライヴも、見どころが満載。
バルバリート・トーレスのラウーの超絶技巧に、マラカのフルート・ソロ、
アマディート・バルデースの肩の力の抜けたティンバレス・プレイは、
いかにもお爺さんといったその外見から想像できないシャープさで、脱帽・降参・悶絶。

アフロ・キューバン・オールスターズの歌い手テレーサ・ガルシア・カトゥルラ(テテ)も
味わい深い歌を聞かせるほか、アチ自身の歌が上手いのにも感心させられました。
ピアノ、ギター、ヴァイオリンというマルチ演奏ばかりか、どんだけ才能あるんだ、この人。
キューバの伝統を前進させるのは、こういう人なんですねえ。

[CD+DVD] Achy Lang Y El Afrocuba "ABRIENDO EL CAMINO" Producciones Colibrí CD/DVD258 (2012)
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八尾のギターMC ローホー [日本]

ローホー.jpg

アクースティック・ギター一本でラップし、歌を歌うというのは、
ごまかしのきかない、いわば丸裸ともいえるスタイル。
ギターMCとでも呼べばいいのか、
ローホーを名乗る若者のPV「浮き草」を偶然観て、イッパツで魅了されました。

バツグンに滑舌が良くって、ディクションも明快。
日本語をリズムにのせるフロウが鮮やかで、
日本人でこんなに肉感のあるビートを吐き出すラッパーを聴いたのは、ぼくは初めて。
もっともラップには疎いので、ぼくが知らないだけの話だとは思いますが、
そんな門外漢のオヤジ・リスナーをCDショップに向かわせたんだから、
このPVの説得力、ただごとじゃありませんよ。

そんでもって、ギターの腕前がこれまたスゴい。
ギターをばんばん叩くスラム奏法を駆使して、スピード感溢れるビートを繰り出します。
う~ん、ヒップ・ホップで育った世代のギター弾き語りって、カッコイイねえ。

だってねえ、おじさん世代のギター弾き語りって、ダサかったんだよ。
アルペジオでしみったれた歌を歌うフォークや、
ギターをただストロークするだけの、技のないフォーク・ロックがデカい顔してたんだから。
あの頃のギター好きとしては、ブルースかジャズに向かうしかなかったので、
イマドキの若者の音楽性が、まぶしくみえますよ。

ブルースを体得した渋みのある曲を歌う一方、
サーフ・ロックを思わせる、からりとした曲も歌ってみせる。
ジャイヴやホーカムをホウフツとさせるユーモアもあって、
ギター1本でひょうひょうとジャンルを越境する豊かな音楽性が、この人の強みですね。

ホームレスになったことも1度や2度ではないという、
どん底生活を経験をしたことも、リリックに深みを与えています。
「One Day」の傷ついた人に寄り添う温かさに、
痛みを知る者の器の大きさがさりげなく示されているし、
原発問題をテーマにした「Genpatsu Boogie」にも、
自分の足元に引き寄せて語る誠実さに、反原発ソングに鼻白むぼくも共感できました。

本人もリリックで語っているとおり、不幸自慢ではなく、
みずからの境遇を笑い飛ばす人なつこさが、この人の最大の魅力。
関西人ならではのユーモアとペーソスは、
ぼくの世代的には有山淳司や憂歌団に通じるものがあって、
親近感が持てますねえ。
もしストリートの投げ銭ライヴで観たら、
その場を離れられなくなることウケアイの、強力な磁力を持った逸材です。

ローホー 「GARAGE POPS」 Pヴァイン PCD22394  (2016)
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スウィート・キゾンバの若大将 バドーシャ [南部アフリカ]

Badoxa  MEMÓRIAS.jpg   Badoxa  MINHAS RAIZES.jpg

海の彼方をみつめながら波打ちぎわを歩く、アルバムの主人公。
白く光る砂浜、大きく砕ける波しぶき、全身白の装いと、
リゾート・ミュージックを思わすジャケットは、
アフリカン・ポップスというよりは、まるでアメリカ西海岸産AORのよう。
アンゴラのキゾンバから、こういうセンスのジャケットが登場するあたり、
ポップスとしての成熟度の高さが示されているようで、嬉しくなりますね。

主役は、92年、ポルトガル南部の港町ポルティマンに生まれたバドーシャ。
カーボ・ヴェルデ人の父とアンゴラ人の母のもとに生まれ、
おととし14年、弱冠22歳という若さでデビューしたキゾンバのシンガーです。
前回記事のヨラ・セメード同様、この人もキゾンバど真ん中の人ではありますが、
最近のセンバ回帰の傾向を受け、
ディカンザを響かせるセンバもしっかりやってくれています。

デビュー作ですでに、作曲・マルチ楽器演奏・プロデュースと才能を発揮していましたが、
2作目では、さらにソングライティング面で著しい成長をみせています。
デビュー作では、G=アマドという人が共作者として多くクレジットされていましたが、
新作ではその名前が消え、代わりにR・ノブレガという人と多く共作しているので、
その影響も大きそうですね。

耳残りのするフックの利いたメロディが並び、
全17曲78分超えという長さを、飽かさず一気に聞かせるところは、
デビューまもない新人とは思えぬ仕事ぶりといえます。
打ち込みで作ったトラックと、ドラムスとベースの人力リズム・セクションのトラックを、
バランスよく配置したのも成功していて、プロダクションの充実ぶりにも、
キゾンバの絶好調を実感します。

8歳からカポエイラを学び、12歳の時にアルガルヴェで開かれた
カポエイラ大会で優勝したというのも合点のいく、頼もしい体格をしたバドーシャ。
見かけによらぬ、スウィート&メロウな味わいを聞かせる若大将です。

Badoxa "MEMÓRIAS" É-Karga Eventz/Vadisco 11.80.9782 (2016)
Badoxa "MINHAS RAIZES" É-Karga Eventz no number (2014)
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美メロ・泣きのキゾンバ ヨラ・セメード [南部アフリカ]

Yola Semedo  FILHO MEU.jpg

グランド・ピアノを弾く女性の横顔を照らすライティングが印象的なジャケット。
アンゴラのキゾンバらしからぬ、ムーディなジャケットが暗示するとおり、
ピアノのイントロに始まるバラードから、アルバムはスタートします。

美麗なストリングス・アンサンブルをフィーチャーした美メロ曲に、うっとり♡
うわぁ、すごくいいオープニングじゃないですか。
この1曲目で、はや傑作と決まったようなものですね。
続いて、ギターのイントロから滑るようなコンパのリズムで始まる2曲目は、
これまた泣かせるメロディで、こりゃ、たまら~ん。
全編メロウなナンバーが並んでいて、すっかりお気に入りになりました。

アンゴラ西部ベンゲラ州のロビトで78年に生まれたヨラ・セメードは、
わずか6歳でデビュー。ヨラの兄たち3人が結成したグループ、
インパクタス・クアトロのリード・シンガーを務め、
すでに25年以上のキャリアを持つというシンガーです。
今作で初めて聴いたんですけど、歌は上手いしクセがなくて、
ポップ・シンガーとして広くアピールできる人といえます。
誰かに似てるなあと思ったら、ミジコペイのライヴDVDで、
トニー・シャスールとデュエットしていた女性歌手と声も歌いぶりもそっくりですね。

ラテン・ポップスのバラーダやヒップ・ホップR&Bを取り入れたポップな音楽性と、
ホーンやストリングスもふんだんに使ったそのプロダクションは、
グローバルな世界市場にそのまま持ち込める、クオリティの高さといえます。
エレガントな女性コーラスが耳残りする柔らかなサウンド・テクスチャーは、
今日びのズーク・ラヴでもなかなか味わえない、極上のもの。
ティワ・サヴェイジに加えて、ヘヴィ・ローテーション中であります。

Yola Semedo "FILHO MEU" Energia Positiva Produções 88875137432 (2014)
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インドネシアン・プログレッシヴ・ジャズ・ロックの傑作 トーパティ・エスノミッション [東南アジア]

Tohpati Ethnomssion  MATA HATI.jpg

すげえ! インドネシアのフュージョンも、こんな高みに到達したのか。
フュージョンというより、プログレッシヴ・ジャズ・ロックの大傑作ですね、これは。
90年代に若手スゴ腕ギタリストとして名をはせ、
いまやインドネシアを代表するギタリストと成長したトーパティが放った最新作。
プログレが苦手なぼくをもねじ伏せる圧倒的なエネルギー、
そのパワー・プレイに完全降参です。

いわゆるガムラン・フュージョンみたいなアルバムは、
これまでにもたくさんありましたけれど、
楽曲の構成、アレンジ、各楽器の演奏水準、録音のクオリティ、
すべてにおいてこれほどの作品は、過去のインドネシアにありませんでした。

トーパティのギター、ベース、ドラムスに、クンダンとスリンを加えた
エスノミッションを名のる5人編成のバンドで、
インドネシアの伝統音階ペロッグをうたう“Pelog Rock” から、アルバムはスタートします。
シカケの多い緻密に計算された楽曲と、日本人にもなじみやすい5音音階のメロディに、
なんだか「歌舞伎ロック」みたい、てな印象も残したりするんですが、
ドラマティックなアレンジは絢爛豪華で、
くるくると変わる場面展開は、まさに歌舞伎の回り舞台を観るかのようです。

変拍子とポリリズミックなリズム構成の合間を縫うように、
攻撃的なギターがざくざくと響き渡り、
息つかせぬ怒涛のプレイが、小憎らしいほどキマっていて、ノせられちゃいますよ。

竹笛のスリンも、伝統音楽やダンドゥットで演奏されるかすれた音色ではなく、
フルートのような12平均律に正確なピッチを聞かせるところが、ハイテクな感じ。
クンダンとリズム・セクションが繰り出すポリリズムや、
インドネシアの伝統音階をふんだんに取り入れた、
エスニック・フュージョンの装いは、国内より国外にアピールするように思えますね。

トーパティの過去作では、もっとライト・タッチのフュージョンや、
アクースティックな演奏をやっていたような記憶がありますけれど、
本作にはそういった素振りはまったくなし。
一発録りなんじゃないかとも思える、ライヴ感みなぎるダイナミックさが圧巻です。

Tohpati Ethnomssion "MATA HATI" Demajors no number (2016)
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サンバ・ロックの新人デビュー作 トム・レゼンデ [ブラジル]

Tom Rezende.jpg

えぇ? ホントにこのジャケット写真の彼が歌ってんの?

驚きました。ネオアコとかやってそーな(←ヘンケン入ってます)
甘いマスクのイケメン男子なのに、
こんな酒ヤケしたようなハスキー・ヴォイスで、やさぐれヴォーカルを聞かせるなんて。
いやぁ、胸をすくねえ。いい歌いっぷりじゃないの。

さらに、新人のデビュー作としては破格ともいえる、
ゴージャスなプロダクションにも驚かされます。
一聴して、超一流のポップス職人が関わっていること明々白々なサウンドで、
リンコン・オリベッティのアレンジと聞いて、あぁ、やっぱりとナットク。

一級品のポップスに仕上げるツボを押しまくったアレンジはまさしく職人芸的で、
リンコンって、ブラジルのアリフ・マーディンといえるんじゃないですかね。
カシンがプロデュースを務めているところも、話題を呼びそうですけれど、
カシンらしい不穏なギターが活かされたトラックより、
リンコンの手腕が発揮されたホーン・アレンジの方が、耳を引かれるなあ。
それなのに、なぜかリンコンのクレジットが目立たないのが解せませんけど。

最近日本に入ってきたばかりのCDですが、14年にリリースされたものだそう。
制作にカシンとリンコン・オリベッティが関わったアルバムながら、
話題にも上らずにいたというのは、ますます解せませんねえ。
二十年前くらいなら、大メジャーからリリースされていて当然のクオリティなのに、
インディペンデントのリリースというのも、今のレコード業界事情でしょうか。

ジョルジ・ベン、チン・マイア、セウ・ジョルジが好きな人ならゼッタイの、
サンバ・ロック/ブラジリアン・ソウルの痛快作です。

Tom Rezende "TOM" Dueto no number (2014)
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ジャズ芸人 エジ・モッタ [ブラジル]

Ed Motta  PERPETUAL GATEWAYS.jpg   20131019_Ed Motta.jpg

3年前の前作“AOR” のリリースに合わせて来日した
エジ・モッタのライヴは、楽しかったなあ。
アルバムのハイライトにもなっていた、
デヴィッド・T・ウォーカーをスペシャル・ゲストに招いたステージだったんですけれど、
エジ本人にとっても、この来日公演が
デヴィッド・T・ウォーカーとの初顔合わせだったとのこと。
デヴィッド・Tの参加は、データをやりとりしたオーヴァー・ダブ作業だったので、
じっさい一緒にスタジオに入ったわけではなく、来日公演で共演がかなったんですね。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-06-03

クラブでライヴを観る時のマイ・ルールで、この時も最終日最終ステージ、
13年10月19日のセカンド・ステージを観たんですが、
予想外だったのは、エジのエンタテイナーぶり。
日本のシティ・ポップにも精通する、ド外れたレコード・コレクターのエジゆえ、
ステージで山下達郎の「Windy Lady」を歌い出したのには、らしいなあとは思ったものの、
ローズのエレピ弾き語りで披露したワン・マン・バンドのパフォーマンスには、ビックリ。

ディープ・パープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」が飛び出すわ、
シェリル・リンの「ガット・トゥ・ビー・リアル」が飛び出すわ、
アース・ウィンド&ファイアの「レッツ・グルーヴ」が飛び出すわで、
もう延々と止まらないもんだから、場内は拍手喝采。

エジ自身がホントに楽しそうで、ユーモアたっぷりに身振り手振りを交えながら、
ベースのスラップやドラムスのフィルインを、ヴォイス・パーカッションで披露。
さらにヴォコーダーやミュート・トランペット、ワウペダルなど、
70~80年代のクロス・オーヴァー・サウンドに耳なじんだ者にはたまらない、
ヴィンテージ・サウンドを繰り広げるヒューマン・ビート・ボックスぶりに圧倒されました。

もっともそこで面白かったのが、エジのパフォーマンスが
ビート・ボックスほど洗練されたものではなく、いなたい芸風だったところ。
スキャットなんかも、なんだかエディ・ジェファーソンみたいで、ジャズ芸人といった風情。
バークリー卒業者のおゲージツ・ジャズが主流の現在、
こういうエンタメ・センスに溢れたジャズをやる人は貴重ですね。

2部構成となった新作は、
そんなエジの「大衆音楽としてのジャズ」を発揮した快作となりました。
前半の「ソウル・ゲイト」の5曲こそ、前作“AOR” の延長線上の内容となっていますが、
後半の「ジャズ・ゲイト」では、来日公演時のライヴ・パフォーマンスの一端が現れています。
パトリース・ラッシェンやヒューバート・ロウズのキャスティングは、
レア・グルーヴ世代好みといえますが、
個人的には、マーヴィン “スミッティ” スミスの起用が嬉しかったな。

このほか今作で印象的なのは、エジが熱唱する場面が多く、
ライヴでも発揮されていた、エジのヴォーカリストとしての魅力を打ち出していること。
耳ざわりのいい西海岸フュージョン・サウンドなどと侮れない、
稀代のジャズ・エンタテイナーの逸品です。

Ed Motta "PERPETUAL GATEWAYS" LAB 344 83368973 (2016)
Ed Motta "AOR" LAB 344 LAB10153-2 (2013)
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80年代J-フュージョンの金字塔 ザ・プレイヤーズ [日本]

The Players  Madagascar Lady.jpg

あああああああ、やっと! ついに! とうとう! CD化なりましたぁ!
いったい、どんだけ待たすんだ、ばかやろー、でありましたね(怒のち感涙)。

コルゲンさんこと鈴木宏昌率いるコルゲン・バンドあらため
ザ・プレイヤーズの最高傑作である、81年の『マダガスカル・レディー』であります。
前に渡辺香津美の記事にも書きましたけれど、
世のフュージョンのぼんくら評価のせいで、
いつまでたってもCD化がかなわなかった作品ですよ。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2016-02-14

ザ・プレイヤーズの代表作というと、
80年の2作目『ワンダフル・ガイ』で事足れりにされてましたからね。
(ちなみに、LP当時から邦題がおかしいんだよなあ。「ガイズ」にすべきでしょ。
バンド名をプレイヤー「ズ」と名乗っているくらいなんだからさ)

なぜこれまで『ワンダフル・ガイ』が代表作扱いされてきたかといえば、
発売当時、日野皓正のゲスト参加で話題となったから。
ウェザー・リポートに強く影響されたバンドの音楽性が完成したのは、
このあとの3作目にあたる『マダガスカル・レディー』であることは、
ナカミをしっかりと聴いている人なら、歴然だってのにさ。

ハービー・ハンコックのジャズ・ファンクを
いち早く取り入れたコルゲンのキーボード・プレイ、
エリック・ゲイルそっくりのギターを弾く松木恒秀、
スティーヴ・ガッドと聴きまがう渡嘉敷祐一のドラムス、
アンソニー・ジャクソンばりの太いベースを弾く岡沢章、
後期コルトレーン、ウェイン・ショーターの影響あらたかな山口真文のサックスという、
超一流のスタジオ・ミュージシャンが集まったザ・プレイヤーズ。

このメンバーで、和製ウェザー・リポートといった演奏を聞かせるんだから痛快です。
本作に収録された「C.P.S.(Central Park South)」は、
曲想・メロディともに、ウェザー・リポートの「バードランド」のまんま引き写し。
ここまであからさまに似せると、かえってすがすがしいくらい。
このトラックに続き、ウェザー・リポートの名曲「8:30」も
カヴァーしているんだから、なおさらです。

本作がザ・プレイヤーズの代表作にふさわしいのは、
山口真文の激烈なソプラノ・サックスが聴けるからなんですね。
ザ・プレイヤーズが素晴らしかったのは、山口真文がメンバーにいた時代で、
山口が抜け、サックスがボブ斉藤と中村誠一になってからは、バンドに華が失われました。
それくらい山口の存在感は大きかったといえます。

タイトル・トラックの「Madagascar Lady」、
「Get Away」でのソプラノ・サックスのソロは、
山口生涯ベスト級の名パフォーマンスです。
ひさしぶりに聴き返したけれど、血沸き肉躍って、もんどりうっちゃいました。
やっぱこれは、80年代J-フュージョンの金字塔というべき作品ですね。

大音量で聴いていて、家族から苦情がきちゃいましたけど、
長年ガマンしてたんですからね。もう辛抱たまりません。
35年ぶりに爆音でヘヴィ・ローテーションでっす!

The Players 「MADAGASCAR LADY」 GT MHC7 30042  (1981)
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