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マイ・ベスト・アルバム 2018 [マイ・ベスト・アルバム]

Itiberê Zwarg & Grupo.jpg   Deangelo Silva  DOWNRIVER.jpg
Monarco  DE TODOS OS TEMPOS.jpg   Johnny Tucker.jpg
RIRI 2018.jpg   クラックラックス 20181828.jpg
Netsanet Melesse  DOJU  BEST OF NESANET MELESSE’S OLD COLLECTION.jpg   Mafikizolo 20.jpg
Adekunle Gold  About 30.jpg   Angelique Kidjo  REMAIN IN LIGHT.jpg

Itiberê Zwarg & Grupo "INTUITIVO" SESC CDSS0110/18
Deangelo Silva "DOWNRIVER" no label no number
Monarco "DE TODOS OS TEMPOS" Biscoito Fino BF553-2
Johnny Tucker "SEVEN DAY BLUES" Highjohn 007
RIRI 「RIRI」 ソニー AICL3478
CRCK/LCKS 「DOUBLE RIFT」 アポロサウンズ POCS1710
Netsanet Melesse "DOJU : BEST OF NESANET MELESSE’S OLD COLLECTION" Truth Network Corporation no number
Mafikizolo "20" Universal CDRBL918
Adekunle Gold "ABOUT 30" Afro Urban no number
Angelique Kidjo "REMAIN IN LIGHT" Kravenworks KR1002

初の自著『ポップ・アフリカ700』を出して始まった50代、
終わってみたら、人生最大の荒波にもまれたデケイドでありました。
60代はどうなることやら。ハプニング上等とはいえ、おてやわらかに。
このブログも来年6月で10周年を迎えます。
いつも読んでくれて、ありがとうございます。
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ノスタルジックなサナート エィレム・アクタシュ [西アジア]

Eylem Aktaş  ÖZLEM.jpg

やっぱり好きだなあ、この人。
7年を経てようやく出たエィレム・アクタシュの2作目。
涼風のようなメリスマにうっとり。あらためてホレ直しちゃいましたよ。
ジャケットのチャーミングなお顔も見目麗しく、
LPサイズで飾っておきたくなりますね。

デビュー作では6人ものアレンジャーを起用し、生音アンサンブルにのせて、
しつこさのない爽やかな歌唱を聞かせていたエィレム。
古典歌謡をしっかりと習得した高い歌唱力を持ちながら、
それをけっしてひけらかさずく、さりげなく歌う淡い歌いぶりは、
新人らしからぬ成熟ぶりで、感じ入ったものです。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2012-05-11

そして、今回は古典歌謡やサナートをレパートリーとしながら、
びっくりアレンジで聞かせるアルバムに仕上がっています。
イントロからサルサ・タッチのピアノで始まり、えぇ?と驚いていると、
続いてシャルクのメロディにのせて、エィレムがしとやかなメリスマを響かせます。
異種格闘技みたいな、接ぎ木スタイルのアレンジがすごく面白い。

今作のアレンジは、作編曲家・プロデューサーとしても活躍する
ジャズ・ギタリストのジェム・トゥンジャシュ。
冒頭のサルサ以外にも、タンゴやジャズにアレンジした曲など、
全体にノスタルジックなムードを濃厚とさせながら、
メロディはあくまでもシャルク/サナートというところがミソ。
ライナーの歌詞カードには、各曲のマカームが書かれています。

エィレムもレパートリーの楽想に合わせ、表情豊かに歌っていて、
ジャジーなサナートというユニークな試みを、実に美味に仕上げています。
サナートなどのトルコ歌謡をまったく聴いたことがない、
ヴォーカル・ファンにも、ぜひ勧めてみたくなりますね。

Eylem Aktaş "ÖZLEM" ADA Müzik no number (2018)
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ジャズとレア・グルーヴの違い ステフォン・ハリス+ブラックアウト [北アメリカ]

Stefon Harris Blackout  SONIC CREED.jpg

最初聴いた時は、端正なコンテンポラリー・ジャズ・アルバムと、
それほど強い印象はなかったんですけど、
妙に色気のあるレア・グルーヴ感いっぱいのトラックに後ろ髪を引かれて、
何度も聴き返すうち、すっかり愛聴盤。
ああ、これもまた、現代のジャズらしさなんでしょうね。

そのひっかりを覚えたのが、元ジャネイのジーン・ベイラーをフィーチャーした2曲。
ボビー・ハッチャーソンの ‘Now’ で、ジーン・ベイラーの多重録音したコーラスと
ケイシー・ベンジャミンのヴォコーダーが、極上のメロウネスぶりを聞かせるんですが、
そのイントロからして、チェロ、ヴァイオリン、クラリネット、
ヴィブラフォンによる合奏のアレンジがデリケイトの極致。

さらにもう1曲の ‘Let’s Take A Trip To The Sky’ では、
ジーンの甘いタメ息のようなヴォーカルに絡むケイシー・ベンジャミンのヴォコーダーが、
超絶な甘美さで昇天もの。なんなんですか、このラグジュアリー感は!
こういうセンスがDJじゃなくて、ジャズ・ミュージシャンが持ち合わせてるところが、
イマドキなんでしょうねえ。

紹介が遅れましたけれど、ステフォン・ハリスは、
ボビー・ハッチャーソンの後継者ともいうべきヴィブラフォン奏者で、
ジャズ・フィールドばかりでなく、ライ・クーダーやコモンとも共演するなど、
各方面から引っ張りだこの人。

自身のユニット、ブラックアウト名義では9年ぶりの本作、
さきほど挙げたケイシー・ベンジャミンが、
アルト・サックスでも熱のあるブロウを聞かせるほか、
ステフォンとは長年の相棒であるテレオン・ガリーのドラムスが、冴えまくってるんですよ。
テレオン・ガリーといえば、クリスチャン・マクブライドからデイヴィッド・サンボーンまで、
トップ・プレイヤーたちから頼りにされているドラマーで、
大西順子のアルバムにも起用されてましたよね。

そのテレオン・ガリーの秀逸なリズム解釈を聞けるトラックが、
レア・グルーヴ時代の人気曲だった、ホレス・シルヴァーの ‘Cape Verdean Blues’。
カリプソ調のハネる4拍子が印象的な曲で、ダンサブルなリズムで「踊れるジャズ」と
再評価されたのでしょうけれど、タイトルに相反してカリブ海系のリズムだったのは、
ホレスがカーボ・ヴェルデ音楽を知らなかったからでしょうか。
お父さんから教わらなかったのかな。
ちなみにホレス・シルヴァーは、カーボ・ヴェルデ移民二世で、
シルヴァーは本名のシルヴァを変えた名前だったんですよ。

それはさておき、オリジナルのヴァージョンは、
ハネる4拍子が続くだけのリズムだったのが、
こちらではテンポも拍子もめまぐるしく入れ変わる、
複雑なリズム・アレンジが施されています。
スリリングに変化していくリズムの中で、細かくリズムを割ったり、
ゆったりとルバート気味に叩いたりと、
テレオンは変幻自在に叩き分けていて、これ、ほんとスゴイぞ。

さらっとスムーズに聞けるようで、じっくりとリズムを聴けば、
相当複雑なことをやってのけていて、
さすがにこれは、レア・グルーヴのDJにはマネのできない、
ジャズ・プロパーの仕事ですね。
ボビー・ティモンズ、ウェイン・ショーター、アビー・リンカーン、
マイケル・ジャクソンという選曲も非凡で、聴けば聴くほどに引き込まれる作品です。

Stefon Harris + Blackout "SONIC CREED" Motéma MTM0238 (2018)
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トーゴリーズ・ヴードゥー・ディスコ ヴォードゥー・ゲーム [西アフリカ]

Vaudou Game Otodi.jpg

うぉ、今回はイイぞ。
トーゴのギタリスト、ピーター・ソロ率いるヴォードゥー・ゲームの3作目となる新作。
物足りなさが残った1・2作目とは、見違えましたよ。

去年トーゴ・オール・スターズのアルバムが出た時は、
ピーター・ソロがやりたかったことを先にやられちゃったねえ、
みたいな印象を持ちましたけれど、ついに一矢を報いましたね。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-10-06

まんまJBズ・スタイルのオープニング‘Not Guilty’ から、引き込まれましたよ。
トーゴ・オール・スターズでもフロントを務めていた
トーゴのジェイムズ・ブラウンこと、ロジャー・ダマウザンがゲスト参加しています。
苦み走ったヴォーカルにヴェテランの味わいがあって、グッとくるんですが、
なんとピーター・ソロは、ロジャー・ダマウザンの甥っ子なんですってね。
知らなかったなあ。

1・2作目とはメンバーがすっかり変わり、デビュー作のメンバーは一人もおらず、
2作目のサックス奏者のみを残し、ほかは全員が交代しています。
さらに、今作はストリングス・セクションに女性コーラスも加わり、
サウンドの厚みばかりでなく、レパートリーの広がりもみせていますよ。

トーゴ・オール・スターズのような重量感には欠けるぶん、
小回りの利く、軽妙な切れ味がヴォードゥー・ゲームの良さ。
過去2作ではミックスが平板で、サウンドがやせて聞こえましたけれど、
今回のミックスは厚みが出て、奥行きが生まれています。

いわゆるアフロ・ソウルなディスコ・サウンドといえますけれど、
曲ごとに異なるカラーを持った曲が集まり、
典型的なファンキー・ハイライフの‘Bassa Bassa’ もあれば、
ルンバ調のギターをフィーチャーした‘Lucie’、
アフロビートの‘Sens Interdit’、
女性コーラスが歌うヴォードゥーの‘Tassi’ ありと、実に多彩。
トーゴリーズ・ヴードゥー・ディスコ、痛快です。

Vaudou Game "OTODI" Hotcasa HC59 (2018)
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ターラブの温故知新 マトナズ・アフダル・グループ [東アフリカ]

Matona’s Afdhal Group.jpg

ターラブは、アフリカとアラブとインドが出会ったハイブリッドな歴史を持つ音楽。
そこに、ジャズやクラシックなど西洋の音楽も取り込んでみれば、
より複雑なアラベスク文様をみせるターラブになるんじゃない?なんて思ってたら、
そんな期待に応えてくれる、素晴らしい作品が登場しました。

ノルウェイのジャズ・ミュージシャンが、ザンジバルのターラブの音楽家と出会い、
ターラブとジャズを互いに教え合いながらグループ活動を続けてきたという、
マトナズ・アフダル・グループ。
ブッゲ・ヴェッセルトフトが新たに発足させたレーベル、
OK・ワールドからのリリースです。

少し前に、ノルウェイ放送局管弦楽団と
ザンジバルのターラブの音楽家たちが共演したアルバムが出ていましたけれど、
そこにも参加していたウード奏者で歌手の
ムハンマド・イサ・マトナ・ハジ・パンドゥを中心に、ヴァイオリン、サックス、ギター、
ベース、ドラムスの5人のノルウェイ人ジャズ・ミュージシャンが集まったのが、
マトナズ・アフダル・グループです。

初めてのセッションがとてもうまくいき、ご満悦となったマトナが思わず発した一言、
「アフダル」(アラビア語で「最高」の意)を取って、グループ名にしたんだそう。
なるほどそのエピソードがよくわかる演奏ぶりで、
ノルウェイ勢がターラブ・マナーに寄り添い、
両者の音楽性を見事にブレンドしています。
ヴァイオリンの女性がスワヒリ語で歌っているのも、堂に入ってます。

最近は、ジャズとローカルなフォークロアとの融合が、
無理なく行われるようになりましたね。
ジャズ・サイドの音楽家たちが、ローカルな音楽の音階や旋法を理解しようと意識を
変え始めたことが一番大きいんじゃないのかな。
ひと昔前までは、ローカルな音楽にないハーモニーを加えたり、
テンション・ノートやスケール・アウトする音使いで、
「ジャズぽい」演奏にしてしまう無神経さが横行したものですけれど、それも今や昔。
ここで聞かれるギターなんて、ジャズ・ミュージシャンとは思えないほど、
ジャズ・マナーをおくびにも出さないプレイをしています。

ザンジバルの伝説的なターラブ音楽家イサ・マトナを父に持つ
ムハンマド・イサ・マトナ・ハジ・パンドゥは、
父の楽団でパーカッション奏者として修業したのち、
18歳でカシ・ミュージカル・クラブに参加して一本立ちしたターラブ音楽家。

Ilyas Twinkling Stars.jpg   Ikhwani Safaa Musical Club  ZANZIBARA 1.jpg

20歳でムハンマド・イリアス&トゥインクリング・スターズに加わり、
91年に来日して日本でレコーディングしたCDでは、
ヴァイオリンとコーラスを務めていました。
その後、名門楽団のイクワニ・サファー・ミュージカル・クラブに移り、
『100周年』記念アルバムでも、マトナの名をみつけることができます。

本作のレパートリーでは、ターラブを大衆化させた
伝説の女性歌手シティ・ビンティ・サアドの4曲に、
アラブ歌謡の巨匠ムハンマド・アブドゥル・ワハーブの2曲を
取り上げているのが注目されます。
モダンな音楽性を志向する一方、ターラブの古典やザンジバルやエジプトの古謡を
多く取り上げた温故知新の姿勢が、本作を成功させた秘訣といえそうです。

Matona’s Afdhal Group "MATONA’S AFDHAL GROUP" OK World 377 908 7 (2018)
イリアスのきらめく星 「ザ・ミュージック・オブ・ザンジバル」 セブンシーズ/キング KICP203 (1992)
Ikhwani Safaa Musical Club "ZANZIBARA 1: 1905-2005 CENT ANS DE TAARAB À ZANZIBAR" Buda Musique 860118 (2005)
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オランダで生み出した濃厚なエチオピアン・サウンド ミニシュ [東アフリカ]

Minyeshu  DAA DEE.jpg

エチオピアン・ポップスにはまれなジャケットのデザイン・センスに、
おぉ!と手にした、オランダ在住エチオピア人歌手ミニシュの前作。
その洗練されたジャケット・デザインが暗示するかのように、
サウンドの方もグローバル・スタンダードなクオリティのプロダクションで、
実にクールな仕上がりとなっていたのでした。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2014-11-17

ところが、5年ぶりとなる新作は、垢抜けないジャケットに、
おやおやと気落ちしたものの、中身は上出来。
前作のプロデュースはスーコ・103のメンバー二人が担っていましたが、
今回は2作目“DIRE DAWA” 同様、鍵盤/ドラムス担当の
エリック・ファン・デ・レストとミニシュの共同プロデュースに戻っています。

“DIRE DAWA” は、ジャジーな無国籍なワールド・フュージョンといった
サウンドでしたけれど、前作“BLACK INK” の経験がモノをいったんでしょう。
前作以上にエチオピアのフォークロアを巧みにブレンドさせた、
ハイブラウなサウンドを生み出しています。
洗練されているのに、濃厚なエチオピアの味わいを保ったままというのが、
得難いですねえ。

ホーン、ストリングス、コーラス、エレクトリック・ギターをレイヤーし、
立体的なサウンドを構築したアレンジが見事です。
曲中で変化するリズム・アレンジもスリリングで、
やっぱり人力演奏のリズム・セクションはいいと、改めて実感しますよ。

マシンコとワシント以外の演奏者は、全員欧州人のようですけれど、
エチオピアの旋法やリズムの理解も申し分なく、
北部ティグリニャの曲から南部のワライタのリズムまで、
エチオピア色満開のサウンドを楽しませてくれます。
ミニシュの線の細い歌もふくらみが増して、
前作を上回る充実したアルバムとなりました。

Minyeshu "DAA DEE" ARC Music EUCD2782 (2018)
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三代目東京人も60年間知らず おしゃらく [日本]

おしゃらく.jpg

この夏、『阿波の遊行』を聴いて四国の盆踊り歌にヤラれ、
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2018-08-12
やっぱりこういう豊かな芸能は、
地方に行かなきゃ見つからないんだろうなあなどと、
ぼんやり思ったもんですけれど、なんと今度は東京ですよ、東京。

「おしゃらく」というその名すら初耳という自分の不明ぶりが、
情けない限りなんですけど、江戸川区の葛西から千葉の浦安にかけて
伝わってきた、念仏踊りをルーツとする芸能だそうです。
いちおう東京人三代目で60年も生きてきたのに、まったく知らなかったという。
不明ついでに、まずは予備知識なしに向き合ってみようじゃないのと、
ブックレットの解説を読まずに聴いてみたんですが、
いやあ、圧倒されましたよ。
職業歌手には到底求められない、なまなましい唄の数々に。

明治生まれの爺さん婆さんたちの芸達者なことといったら。
おばちゃんたちが歌うあっけらかんとした明るい猥歌も、突き抜けていますねえ。
野趣溢れるのは唄ばかりでなく、猛烈にグルーヴする三味線も圧倒的。
民謡に三味線が入るようになったのは、昭和になってからというのが通説ですけれど、
おしゃらくでは、すでに明治の頃から弾かれていたというのだから、むちゃくちゃ早い。
グナワのゲンブリをホウフツとさせるワイルドぶりですよ。

念仏踊りにさまざまな遊興の芸能が交わってきたという痕跡は、
遊芸人がやっていた歌舞伎の演目が取り込まれていることにも、見て取れます。
念仏踊りのようなダンス・ミュージックあり、段物のような聴きものありと、
村の衆が念仏講で盛り上がっていた様子が、ダイレクトに伝わってくる芸能ですね。

圧倒されっぱなしで聴き終えたあと、あらためて解説を読んでみましたが、
監修した民謡DJユニットの俚謡山脈がおしゃらくとどうやって出会い、
この音源をCD化したのかという話には、ワクワクさせられっぱなしでした。
CD解説にこんなにコーフンさせられることは、なかなかないことです。

解説を読んで、64年にコロムビアから出された『東京の古謡』という5枚組LPに、
おしゃらくが10曲収録されているほか、74年にはキングから
『無形文化財 おしゃらく』というLPが出ていることも知りましたが、
いつもなら「これは早速探さなくちゃ」となる自分も、
今回はそんな気にはなりませんでしたね。

それは、伝承者の自宅に残されたプライヴェート録音から厳選した本CDの方が、
スタジオ録音のLPなどより、はるかにイキイキとした演唱であることは、
聞かずしてもわかるからです。
野趣溢れるホンモノの民謡は、こういうプライヴェート録音や
フィールド録音の中でしか、味わうことができませんからね。
あ、でも解説の中に書かれていた『おしゃらく』という本は、早速探して読んでみよう。

葛西おしゃらく保存会ほか 「おしゃらく」 エム EM1181DCD
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スパイシーなクレオール音楽絵巻 エルヴェ・セルカル [カリブ海]

Hervé Celcal  COLOMBO.jpg

タイトルの『コロンボ』とは、奴隷制廃止後の19世紀に、
インド人労働者が小アンティル諸島へもたらした香辛料のこと。
クレオール料理になくてはならないそのスパイスは、マルチニーク生まれの
クレオール・ジャズ・ピアニストであるエルヴェ・セルカルにとって、
クレオールの象徴として掲げるのに、格好のものだったのですね。

5年前のデビュー作でエルヴェは、
マルチニークの太鼓歌ベル・エアー(ベレ)をテーマに、
マルチニークの奴隷文化ばかりでなく、レユニオンのマロヤにも目を向け、
奴隷貿易がもたらした大西洋とインド洋のクレオール文化を掘り下げていました。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-06-09
2作目となる本作では、さらに広範なクレオール文化に目配りをして、
クレオール音楽絵巻とも呼べる作品を作り上げています。

エルヴェのアプローチがユニークなのは、
クラシックなビギン・ジャズをカヴァーしたり、
マルチニークの伝統音楽のスタイルを探究するといった方法をとらず、
さまざまなクレオール音楽の要素を取り出して、
ジャズというフォーマットに落とし込み、
独自の音楽世界を構築しているところにあります。
こうした野心的なアプローチをとるビギン・ジャズの音楽家は、
これまでにいませんでしたよねえ。

このアルバムに詰め込まれたその情報量たるや、とんでもない多さで、
エルヴェが意図する中身を読み解くのは、ちょっとたいへんです。
たとえば、曲名を眺めてみても、西インド諸島の先住民族の「アラワク」、
マルチニークへ渡ったインド人や中国人労働者の「クーリー」、
インド洋海上交通の要衝である南インドの港町の昔の名「マドラス」、
なんてワードがぞろぞろと並んでいます。

音楽面でも、ショパンのマズルカに楽想を得たメロディに、
グラン・ベレのリズムを取り入れたオープニングから、
各曲ともふんだんなアイディアが詰まっているんですよ。

ニュー・オーリンズのセカンド・ラインや、
プエルト・リコのボンバを取り入れた曲もあれば、
ベレのリズムにのせて掛け声のコーラスが交差するパートから、
がらりと場面が変転してベースが弓弾きするパートへ移る組曲のような曲もあります。

ラスト・トラックは、フランス植民者が持ち込んだ舞踏音楽のカドリーユが、
アフリカ由来のリズムと出会って変容したオート・タイユ。
終結部のコーダでは、太鼓のベレが加わり、
コール・アンド・レスポンスのコーラスが反復されます。

全曲エルヴェの自作。ピアノ・トリオをベースに、曲によりパーカッション、コーラス、
チェロ、トロンボーン、トランペット、スーザフォンが加わる編成で、
キレのある現代性のあるビート感覚を生かしながら、
懐の深いコンテンポラリーなクレオール・ジャズを展開した一級品のジャズです。

奴隷文化のアフロ成分に、白人植民者が持ち込んだヨーロッパ成分、
そして、アジアの移民労働者がマルチニークに持ち込んだ音楽を繋ぎ、
さらには、ニュー・オーリンズやプエルト・リコという、
同じカリブ海で産み落とされた音楽をも呑み込んだクレオール音楽絵巻、
スパイスが利いていて、実に美味です。

Hervé Celcal "COLOMBO" Ting Bang TB9722916-07 (2018)
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ケタ違いの才能を伸ばせ RIRI [日本]

RIRI NEO.jpg

ケタ外れの歌唱力に圧倒されたRIRI の『RUSH』。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-07-10
女子高生R&Bシンガーの逸材登場に、オジサンの胸もトキめいたわけなんですが、
その後満を持してリリースされたメジャー・デビュー作は、新作4曲があったものの、
インディ・リリースのEP2作からの5曲とリミックス1曲を収録した
再編集ともいえるアルバムだったので、
今回が実質的なメジャー・デビュー作といえるかも。

出だしの第一声で、うん、今回もいいねと確信。
その声に身体の細胞が活性化されるのを感じる、まさしく天性の声です。
高校卒業後、ロス・アンジェルスに3か月滞在して制作されたという本作、
アメリカのメインストリームを照準に置いたプロダクションは、申し分ありません。
楽曲もいいし、ゼッド&アレッシア・カーラの「Stay」のカヴァーも鮮やか。

英語詞の合間に、ところどころ日本語詞を挟み込むというスタイルも
完全に定着しましたね。RIRI ほど、英語と日本語を全く違和感なくつなげて歌える
日本人歌手はいません。英語のリズムに、日本語のアクセントを落とし込んで、
シームレスに繋げるスキルが、RIRI の最大の武器です。
なぜ群馬で生まれ育った彼女が、
こんなスキルを身につけたのか、不思議でなりません。

歌唱・プロダクションとも、あまりにスキなく作られていて、
物足りなさが残るといえば、ゼイタクな注文でしょうか。
じっくり聴けば、さまざまな冒険をしているのもわかるし、
けっしてコンサバな作りではないんだけれど、
ケタ違いの才能がもっとハジけるような、規格外のところが欲しいなあ。

あと、ひとつだけ苦言を。
『RUSH』をリリースした時のミニ・ライヴの会場でRIRI に会ったとき、
「Jポップにならないでね」と老婆心ながら言ったおぼえがあるんですけれど、
その懸念がはや今回のアルバムに表われています。

清水翔太とデュエットした「Forever」がそれ。
こういう凡庸なバラードを、彼女に歌わせちゃ、ダメ。
こんな曲は、あまたあるJ-ポップ・シンガーに歌わせときゃいいんです。
この1曲ゆえ、本作を年間ベストに選べないのが残念でなりません。

[CD+DVD] RIRI 「NEO」 ソニー AICL3584~5 (2018)
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ビート・センスが更新した日本語の響き 中村佳穂 [日本]

中村佳穂  AINOU.jpg

日常的に日本のポップスを聴く習慣があまりないので、
あくまでも偶然耳に飛び込んできた歌に、
反応する範囲での感想にすぎないんですけれど、
最近の日本の若手の歌って、日本語の響かせかたが、
べらぼうに巧みになったのを感じます。

先日知った折坂悠太もそうでしたけれど、
日本語を英語風に崩して発声するタイプの日本語ポップスの歌唱とは、
まったく異なる語法を身に付けている人が増えたように思います。
母音を強調する日本語の発声のまま、洋物のリズムにのせるスキルが、
若手はものすごく上達したんじゃないでしょうか。

これって、ヒップ・ホップを通過した若い世代ならではの、
リズムやビートに対する鋭敏な感受性が成せる技という気がします。
もっとも、大西順子のアルバムにゲスト参加していたような、
昔の日本語フォークみたいなラップを聞かせる者もなかにはいるわけで、
みんながみんな、スキルが上がったわけでもないようですけれど。

日本語の響きをビートにのせることにかけては、
ヒップ・ホップより、むしろポップスの分野できわだった才能が目立ちます。
水曜日のカンパネラのコムアイしかり、小田朋美しかり。
彼女たちのようなリズム・センスって、一昔前までは、
矢野顕子のようなひと握りの天才だけが持っていたものだったのに、
いまや多くの若手が獲得しているのだから、とてつもない進化です。

そんなことをまた思わせられたのが、
京都のシンガー・ソングライターという中村佳穂の新作。
ビート・ミュージックに始まり、新世代ジャズやネオ・ソウル、ピアノ弾き語り、
民謡をモチーフにした曲など、さまざまな情報を詰め込んだトラックが並ぶものの、
一本芯が通っているのが、ビートで磨きあげられた日本語の響きです。
作為のない中村の発声が、日常感情を率直に表現した歌詞をまっすぐに伝えます。

「日本語ロック論争」などといったものが、
完全に昔話となったのを実感させる、頼もしい若手たちの登場です。

中村佳穂 「AINOU」 スペースシャワー DDCB14061 (2018)
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ロンドンのブラック・ディアスポラ モーゼズ・ボイド・エクソダス [ブリテン諸島]

Moses Boyd Exodus  DISPLACED DIASPORA.jpg

鳴り響くパトカーのサイレンに続いて、ヨルバ語のチャントが吟じられ、
エレクトロ・ファンク・グルーヴがすべり込んでくるオープニングに、
胸をぎゅっとつかまれました。
その昔、ロンドンにひと月ほど滞在した時によく通った、
ブリクストンやトッテナム、セヴン・シスターズといったアフリカ系移民街の街並みが、
まざまざと目の前に蘇ったからです。

UK新世代ジャズで注目を集めるドラマー、
モーゼズ・ボイドが率いるエクソダス名義の初アルバムは、
タイトルが示すとおり、アフリカ/カリブ系移民子孫のまなざしを投影した作品で、
ブラック・ディアスポラ意識の高い音楽家たちが数多く集まっています。

ドミニカ人の父とジャマイカ人の母のもとに生まれたモーゼズ・ボイドは、
南ロンドンのキャットフォード生まれ。
南ロンドンのアフリカ系移民街ペッカムにもなじみがあり、
ペッカムのメイン・ストリート、ライ・レーンをタイトルに掲げた曲も収められています。

このアルバムで大きな存在感を放っているのが、
トリニダッド・トバゴにルーツを持つアルト・サックス奏者、ケヴィン・ヘインズですね。
ケヴィンはアフリカン・ダンス・カンパニーのパーカッショニスト兼ダンサーから、
ジャズ・ミュージシャンへ転身した人で、キューバでサンテリアの音楽を学び、
バタやヨルバ語を習得したというユニークな経歴を持っています。

ケヴィン率いるグルーポ・エレグアが参加した4曲は、
オープニングの‘Rush Hour/Elegua’ ほか、
チューバとギターが冴えたプレイを聞かせる‘Frontline’ に、
ファラオ・サンダースやサン・ラが思い浮かぶ‘Marooned In S.E.6’、
バタとエレクトロが交差する‘Ancestors’ と、
都会に野生を宿らせたナマナマしい演奏ぶりに、ドキドキさせられます。

新世代スピリチャル・ジャズともいうべき、熱のある演奏を聞かせる一方で、
UKジャマイカンのザラ・マクファーレンが歌うジャズ・バラードや、
テリー・ウォーカーをフィーチャーした、
ヒップ・ホップ/ネオ・ソウルのトラックもあるのは、
エレクトロのプロデューサーとしての別の側面を表わしたものなのでしょう。

コンクリートとアスファルトの街に響き渡るバタのリズムと、
アフロフューチャリスティックな響きを獲得したエレクトロニカが、
熱量のあるドラミングによく映えた本作がレコーディングされたのは、15年のこと。
すでにボイドはここから一歩も二歩も歩みを進めているはずで、
多角的な才能を発揮する俊英ドラマーの今後にも、期待が高まります。

Moses Boyd Exodus "DISPLACED DIASPORA" Exodus no number (2018)
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20年代ハーレムのギター・マエストロ ボビー・リーキャン [北アメリカ]

Bobby Leecan  Guitar Maestro.jpg

1920~30年代に活躍したギター兼バンジョー奏者、
ボビー・リーキャンの単独アルバムが、
戦前ジャズ/ブルースの専門レーベル、フロッグから出ました。

よほど熱心な戦前音楽ファンでないと知る人もいないでしょうけれど、
ぼくにとっては、アルバータ・ハンターや
マーガレット・ジョンソンの伴奏で忘れられない人です。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2011-03-26
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2011-03-24
いまだに写真も見つかっていない、謎のリーキャンですけれど、
近年の調査で判明したさまざまな遍歴が、ライナーに載せられています。

バンジョーをバリバリとフィンガリングする、太く逞しいサウンドがリーキャンの持ち味。
低音弦を響かせてドライヴするギターに、その凄腕が表われています。
高音弦を華麗に響かせてメロディ・ラインを作るロニー・ジョンソンとは、
真逆のタイプですね。リーキャンが高音使いするのは、
装飾的に和音を鳴らすときくらいなんですけれど、
12弦ギターのような複弦の音がするのが不思議。

解説には、チャーリー・クリスチャンのプレイとの類似性が指摘されていますけれど、
その見解はぼくには疑問。リーキャンは、ギターをメロディ楽器として弾くことより、
リズム楽器としてプレイすることを重視した人で、
ショーロの7弦ギターのように、低音弦をガンガン鳴らすプレイが特徴でした。

このCDには、相棒のハーモニカ奏者ロバート・クックシーと組んだ
サウス・ストリート・トリオや、ウォッシュボード・バンド、
女性歌手の伴奏など、さまざまなタイプの演奏が収録されています。
そのどれもが、ジャズというよりヴォードヴィル色の強いもので、
レパートリーのほとんどがダンス・チューンというところが嬉しいんですよね。

黒人大衆演芸ムードがいっぱいの、
エリザベス・スミスとシドニー・イーストンの掛け合いも聴きもの。
エリザベスの歌に茶々を入れるシドニーの語り口が、いいんだなあ。
映画『ストーミー・ウェザー』で、
エイダ・ブラウンの歌にファッツ・ウォーラーが絡むシーンを思わせますね。
そのファッツ・ウォーラーが、パイプ・オルガンを弾いているトラックもありますよ。
ギター弾き語りで聞かせるリーキャンの歌にも、味わいがあります。

ボビー・リーキャンは、ずいぶん昔にドキュメントがCD化した2枚がありましたけれど、
選曲・曲順の良さでは、このフロッグ盤の方に軍配が上がりますね。
音質も驚くほど良くって、ガッツのある低音がすごく出ていますよ。
寒くなってきた宵の口に聴くのにもってこいの、
身体も気持ちもほっこりと温めてくれる、最高の一枚です。

Bobby Leecan "SUITCASE BREAKDOWN" Frog DGF86
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冬に聴くディープ・ヴォイス アル・リンゼイ [北アメリカ]

Al Lindsey  VERSATILITY.jpg

寒くなってくると、いいサザン・ソウルであったまりたくなります。
ということで、今年の冬も嬉しいアルバムに出会えましたよ。
かすれたスモーキー・ヴォイスが持ち味のデトロイトの実力派シンガー、
アル・リンゼイの新作です。

80年代のアーバン・ソウルをホウフツさせるサウンドにのせて、
じっくりと歌い込んでいますよ。
スローでの胸をかきむしるようなノドを絞った歌唱に金縛りとなり、
ブルースのアップ・ナンバーでのキレのある歌いっぷりに、ノック・アウトをくらいました。

ゴスペルの熱さをしっかりと伝えてくるディープなヴォーカルは、
やっぱり聴きごたえがありますねえ。
ウイリー・クレイトン、J・ブラックフット、ラティモアなどとの共演歴が、
この人の実力を物語っています。

アイザック・ヘイズの影も見え隠れするコンテンポラリーなサウンドは、
ヴィンテージな香りが漂い、華美になりすぎないプロダクションが、
歌と実にいいバランスです。ディープ・ソウルのコブシを利かせつつも、
現代のコンテンポラリーな洗練された歌い回しもできる、
間違いなくトップ・クラスの実力派シンガーです。

Al Lindsey "VERSATILITY" no label no number (2018)
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トゥアレグ版『パープル・レイン』 エムドゥ・モクタール [西アフリカ]

Mdou Moctor  AKOUNAK TEDALAT TAHA TAZOUGHAI.jpg

トゥアレグ版『パープル・レイン』ついにDVD化!
これは嬉しい。観たかったんです、この映画。
ニジェールのトゥアレグ人ギタリスト、エムドゥ・モクタールが主演した
『かすかに赤みがかったブルー・レイン』です。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-10-18

監督を務めたサヘル・サウンズの主宰者クリストファー・カークリーは、
全編タマシェク語の音楽映画は世界初と豪語しており、
ナイジェリアのハウサ語映画に牛耳られている
サヘル地帯の映画事情に風穴を開けようとしたと、鼻息荒く語っています。

この映画で描かれているのは、アガデスに暮らすトゥアレグ青年たちの日常。
レベル・ミュージックといった政治的なテーマは、ここには出てきません。
エレクトリック・ギター、オートバイ、携帯電話がこの映画のキーとなっているように、
疎外されたサハラの若者たちの心情をすくい上げた娯楽映画になっています。

当初カークリーは、『パープル・レイン』をベースにした脚本を作っていったものの、
現場で俳優たちからシナリオを拒絶され、よりトゥアレグの若者たちの現実に
沿った内容へと、どんどん修正されていったんだそうです。

その修正の結果、敬虔なイスラーム教徒の父親が、
ギターを弾くヤツなど、麻薬やアルコールの中毒者だけだと、
息子のギターを燃やしてしまうシーンや、
エムドゥと恋人が仲たがいするエピソードのシーンが生まれたのだとか。

このほかにも、コンペティションに向けてリハーサルをしていたエムドゥの演奏が、
小遣い目当ての少年に携帯電話で盗み録りされて、
ライヴァルのギタリストに自作曲を盗まれたり、
かつて父親も音楽家を夢見て詩を書いていたことを知ったエムドゥが、
父の詞に曲を付けて歌うなどのプロットにも、
トゥアレグのリアルな現実がよく捉えられています。

こうしてみると、この映画、『パープル・レイン』というより、
ジミー・クリフの『ザ・ハーダー・ゼイ・カム』とカブるところもありますね。
出演しているキャストの大部分がアマチュアで、
ミュージシャン自身が演じているところも同じなら、
かたやキングストン、かたやアガデスという、
街のヴィヴィッドな姿を活写しているところもよく似ています。

フランス人撮影監督ジェローム・フィーノとともに、
たったの8日間で撮影を終えたという低予算映画ながら、
現場での葛藤が良い方向へ作用して、ストーリーにリアリティを生み出し、
トゥアレグのアマチュア俳優たちのいきいきとした演技につながった、秀逸な作品です。

全編75分。英仏語字幕付、NTSC方式なので、日本のプレイヤーで視聴可能。
1000部限定のリリースです。

[DVD] Mdou Moctar "AKOUNAK TEDALAT TAHA TAZOUGHAI" Sakel Sounds no number (2015)
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トゥアレグ新世代ギター・バンド イマルハン [中東・マグレブ]

Imarhan Temet.jpg

アルジェリア南部タマンラセット出身のトゥアレグ人バンド、イマルハンの2作目。
今年2月に出ていたのに、まったく気付かなかったのはウカツでした。
2年前のデビュー作が、優れた出来だったにも関わらず、
日本ではまったく評判になりませんでしたよね。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2016-05-16
新作も上出来なのに、ずっと気付かなかったほど
話題に上らずにいるのは、残念すぎます。

あまたあるトゥアレグ・バンドの中で、イマルハンが抜きん出ているのは、
ソングライティングの良さですね。
キャッチーというと、ちょっと語弊があるかもしれないけれど、
リーダーのサダムが書くフックの利いた曲づくりのうまさは、
とかく単調になりがちなトゥアレグのソングライターたちに比べ、
頭一つも二つも抜けています。

歌と演奏のパートが、静と動のコントラストを鮮やかにつける‘Tumast’ や、
ヘヴィーなファンクの‘Ehad wa dagh’ がある一方、
砂漠の夜のキャンプファイアが目に浮かぶ、トゥアレグ・フォークの
‘Zinizjumegh’ など、振り幅のある曲を書けるところが強みです。

コーラスに女性数人を加えているほか、控えめなフェンダー・ローズやオルガンが
効果を上げるなど、ゲストの起用もツボにはまっていますね。
特に凝ったアレンジをしているわけではないものの、
無理のない起伏を作り出してアルバムに変化を与えていて、
アルバム作りの上手さも光ります。

伝統的なトゥアレグの歌詞やブルージーなメロディと、
ロックやソウルで育ってきた若い世代のサウンド・センスが、
これほど自然体で融合しているトゥアレグ・バンドは貴重じゃないでしょうか。
現在はパリで活動しているというイマルハン、
「繋がり」と題されたタイトルに、彼らの思いや立ち位置が示されています。

Imarhan "TEMET" City Slang/Wedge SLANG50135 (2018)
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