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トルコ古典声楽の100年 ディレク・チュルカン [西アジア]

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ひさしぶりに素晴らしいトルコ古典歌謡を堪能しました。
いにしえの古典歌謡を現代に再現する歌手、ディレク・チュルカンの新作です。

ディレク・チュルカンは、カランのスタジオ・ミュージシャンが結集して
トルコの伝統歌謡を演奏するインストゥルメンタル楽団、インジェサスの
看板歌手として活躍した女性歌手。11年にカランからソロ・デビューすると、
13年にはインジェサスを脱退してソロ活動に専念。
その後ソニーへ移籍して15年にセカンド作をリリースし、18年に本作を発表しました。

過去の2作では、戦前歌謡のタンゴやラテンなどのレパートリーも含む
ノスタルジックなサナートを歌っていましたが、今作は古典歌謡を真正面から挑戦。
100年前のオスマン帝国時代の古典歌謡と、
現代に生まれた古典歌謡を繋いだ2枚組アルバムという力作です。

具体的には、2018年の13曲と1918年の13曲を、
それぞれ2枚のディスクに分けて歌っています。
1918年の方は当時の弦楽アンサンブルと同じ編成で、
2018年の方は、各種弦楽器にアコーディオン、ピアノ、ギター、
ベース、ドラムスに、アルト・サックス、クラリネット、
ファゴットなども加わった編成となっています。

2018年はさすがに伴奏もモダンだし、1918年のオーセンティックな弦楽奏とは、
かなり趣が違いますね。2018年の13曲は、いずれも曲の表情が柔らかく、
メロディもしなやかで自由さがあります。
それに対し1918年の13曲は、曲の形式の型がしっかりとあって、
メロディがキリっとしていますね。

そんなマテリアルも伴奏も異なる2枚のディスクですけれど、
ディレクの歌いぶりにはまったく差のないところに、
過去と現代の古典歌謡を繋いだ企画が、見事に生かされていると感じます。

ディレクのゆったりとした春風のような節回し、
その柔らかなメリスマのみずみずしさに、ウットリするばかりですよ。
わずかさえも力まず、無理のないスムースな歌い口が、
古典歌謡が持つ美しさを鮮やかに伝えています。

Dilek Türkan "AN" Columbia/Sony Music 19075828382 (2018)
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