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驚きのデビュー作 カロル・ナイーニ [ブラジル]

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ブラジルの女性シンガー・ソングライター、
カロル・ナイーニのデビュー作がトンデモない。

16年のセカンドを聴いて、ガル・コスタやジョイスに代表される、
ブラジルのフィメール・シンガーに特徴的な、
ちょっと鼻にかかる美声にホレボレとしていましたけれど、
こんなにトガったサウンドのデビュー作を出していたとは、知らなんだ。

いや、トガった、という表現は、ちょっと不適切かな。
プロデュース、アレンジ、音楽監督を務める鍵盤奏者のイヴォ・センナが弾く
ウーリッツァーを中心に、管弦をレイヤーしたアレンジが、とんでもなく斬新なんです。
このイヴォ・センナっていう人、どういう出の人なんだろうか?
ジャズだけじゃなくて、クラシックや現代音楽の素養もありそう。
対位法をふんだんに取り入れたアレンジの感覚が、すさまじく新しいんですよ。
サンバ・ベースのMPBで、ウーリッツァーを全面にしたこんなサウンド、
これまで聴いたことがない。

16年のセカンドでは、アレシャンドリ・ヴィアーナのピアノを中心に、
ベース、ドラムス、パーカッションというシンプルな生音編成で、
ジャジーなMPBといったサウンドで仕上げていました。
これはこれで、品の良い端正なアルバムだったんですけれど、
デビュー作の斬新さに比べたら、きわめて大人しいもの。

オープニングのサンバ‘Para Não Esquecer’ から、
野心的なアンサンブルのアレンジに驚かされます。
ウーリッツァーとギターがリフをかたどり、
ディストーションを利かせたエレクトリック・ギターが、
ショーロの7弦ギターに寄せたラインを弾く一方、
チェロ、ヴィオラ、ヴァイオリン2が、
ギザギザとした低音域のラインをスペースに割り込ませてきます。

2曲目‘Bailarina’ は、譜割が細かく、上がり下がりするメロディが
カルメン・ミランダを思わせるコケットリーでユーモラスな曲。
もたついたドラムスの2拍子のイントロから、一転、サンバにスイッチする粋なアレンジで、
途中にキメを作り、エンディングでもキメでばちっと終わるリズム・アレンジがカッコいい。

ゆったりとしたリズムで始まる‘Coisa Arbitrária’ では、
スネアに長いサスティーンの電子音をかけた強烈に耳残りする響きと、
美しい弦楽四重奏を絡ませながら曲は進み、
カロルは静謐なメロディを紡いでいくように歌います。
ところが後半になると、一転してドラムスは乱打しまくり、
ウーリッツァーも鍵盤を激しく連打して、主役の歌をかき消さんばかりに、
アンサンブルが暴れまくるんですが、
カロルはどこ吹く風で、最後まで淡々と歌い続けます。

また、サンバ・ニュアンスの濃い曲ばかりでなく、
ノルデスチの香り高いメロディの曲もあり、
‘Virundum’ では、ピファノを連想させるフルートや、
高速リズムにスイッチする中盤では、トリオ・エレトリコばりの
フレーヴォに展開して、ぐいぐい引き付けられます。

リオのインディから出てきた人というのが新しく、
これがサン・パウロだったら、もっとエクスペリメンタルに傾きそうだけれど、
生音重視で、ジャズや現代音楽的アプローチのアレンジは、すごく新鮮です。
キー・パーソンであるイヴォ・センナとは、このデビュー作のみで、
その後パートナーをアレシャンドリ・ヴィアーナに変えてしまったのは、残念至極。
イヴォ・センナの野心的なアレンジ、古典サンバの作風も聞かせるソングライティング、
麗しい美ヴォイス、三拍子揃ったアルバムを、もっと聴きたかったなあ。

Carol Naine "CAROL NAINE" no Label no number (2013)
Carol Naine "QUALQUER PESSOA ALÉM DE NÓS" no label no number (2016)
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