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円熟した物語性豊かな自伝作 ネイト・スミス [北アメリカ]

Nate Smith  KINFOLK 2 SEE THE BIRDS.jpg

ネイト・スミスの『キンフォーク』三部作の第二弾、ついに登場!
今回はプリ・オーダーして、もたもたせずに買いましたよ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-01-09
前回はローパドープでしたけれど、今回はUKのエディションに移籍してのリリース。
なんだか、注目のミュージシャンがこぞって、
エディションから出すようになりましたねえ。

前回は子供時代がテーマでしたけれど、今回は10代がテーマ。
ジャケットのパネルを開くと、中にスクール・バスの写真が写っていて、
ネイトが10代の頃に影響を受けた音楽が反映されているんですね。
そのために参集したゲストが豪華ですよ。
ミント・コンディションのリード・ヴォーカリスト、ストークリー・ウィリアムズに、
リヴィング・カラーのギタリスト、ヴァーノン・リードと、
ネイトのティーン時代のヒーローを招いています。

そうかあ、やっぱりR&Bやブラック・ロック・コーリションに夢中だったんですね。
自分が十代の時に、仰ぎ見るような気持ちでいたミュージシャンたちと、
その後何十年も経て共演するのって、どんな気分なんでしょうねえ。

前作に引き続き起用された、マイケル・メイヨの器楽的ヴォイスが冴えていますよ。
これもまたグレッチェン・パーラト以降のジャズ・ヴォーカル表現といえ、
流麗なソロをとるジョエル・ロスのヴァイブともども、
21世紀ジャズの醍醐味を味あわせてくれます。
コカイのラップに挑むように繰り出される変拍子ビートにも、それは表われていますね。

特に今作は、楽曲が素晴らしいですね。
その豊かな抒情性は前作を上回っています。
ゴスペルが滲むラストのバラードにグッときたんですが、
物語性のある楽曲に、深みのあるダウンテンポで応えたり、
ドラマティックな楽曲では、爆発的なドラミングを聞かせたりと、
アルバムのなかで、実に多彩な表情をみせてくれています。

ネイトの作曲とメンバーによる即興のバランスが絶妙で、
プロデュース力の高さには、おそれいるばかり。
前作を「ジャズを超える音楽作品」と書きましたけれど、
続編となる今作はさらに磨き上げられて、
円熟味を感じさせる作品に仕上がっています。

Nate Smith "KINFOLK 2: SEE THE BIRDS" Edition EDN1184 (2021)
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深まりゆく秋に ヨルゴス・ダラーラス [東ヨーロッパ]

Gergos Dalaras  I KASETA TOU MELODIA 99.2.jpg

う~ん、こういう伴奏で聴きたかった!
ヨルゴス・ダラーラスがギターとバグラマーで弾き語り、
アコーディオン、ブズーキ/ギター/ウード/バグラマー、カーヌーン、
ベース、パーカッションの5人が脇を固めるというライヴ盤。

これまでダラーラスのライヴ盤というと、
ライカの帝王よろしく豪華オーケストラをバックに、
新人からヴェテランまで多士済々の歌手を集めて歌うといった趣向が多くて、
正直いって食傷していたんです。
大歌手然とした演出って、ダラーラスの音楽にも、人柄にもそぐわない気がするし、
ダラーラスの歌の魅力を引き立てるうえでも、逆効果なんじゃないかなあ。

ここ最近のダラーラスの多作ぶりには、創作意欲あふれる意欲作と、
レコード会社の商魂逞しさが見え隠れする作品がないまぜとなっている感があり、
ファンとしては、注意深く選別させていただかざるを得ませんよね。

というわけで、このライヴ盤は、遠い存在の大スター歌手などではなく、
近所の音楽酒場で歌っているような「オレのヨルゴス・ダラーラス」気分を味わえる、
ファンにはまたとないアルバムです。
ライヴ盤といっても、拍手も歓声も聞こえない無観客ライヴで、配信ライヴだったよう。
パンデミックのおかげ(?)で、それが功を奏したともいえ、
インティメイトな雰囲気のスタジオ・ライヴが楽しめます。

メロディア99.2というFMラジオのスタジオで録音されたもので、
ダラーラスのお気に入り曲とファン投票で選ばれた曲17曲が集められています。
出だしの1曲目が‘Sou Axize Mia Kalyteri Agkalia’ とは意外でした。
ゴラン・ブレゴヴィッチと97年に共作したアルバム
“THESSALONIKI - YIANNENA ME DIO PAPOUTSIA PANINA” の1曲目ですね。
アフター・ビートを強調していたオリジナルより、リズムを柔らかくほぐしていて、
絶妙な味わいです。

アポストロス・カルダラスやグリゴリス・ビシコティス、スタヴロス・クユムジスなど、
ダラーラスが好んだ作家の作品を散りばめ、
いつものさりげなく歌うダラーラス節を満喫できますよ。
歌のはしばしからにじみ出るコクといったら、もうたまりません。
ほんとに憎たらしいくらい、「うまい」歌い手ですよねえ。

ラストの、18年のヨルゴス・カザンティス曲集“EROTAS I TIPOTA” に収められた
‘S’ Agapo Ke Gi’ Afto’ まで全17曲。
深まりゆく秋に、これほどうってつけのアルバムはありません。

Gergos Dalaras "I KASETA TOU MELODIA 99.2" Minos EMI 0602435761220 (2021)
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想い出二つの40周年記念作 キャロル・トンプソン [カリブ海]

Carroll Thompson  HOPELESSLY IN LOVE.jpg

40周年記念エディションだそうです。
そうかぁ、もう40年になるんですねえ。
ぼくも今年が勤め人になって40年ですけれど、
社会人1年生で大学時代から付き合っていた彼女と別れてしまい、
失意のBGMとなった、忘れられないアルバムです。

ラヴァーズ・ロックは、70年代中頃にロンドンから誕生したというのが、
いまでは通史となっているようなんですけれど、
日本でラヴァーズ・ロックという名を耳にしたのは、もっとずっとあとのこと。
マキシ・プリーストが登場した80年代後半あたりで、
ようやくそのジャンルが少し知られるようになったんじゃなかったっけ。

わずかながら、その名が認知されたとはいっても、
当時のレゲエ・ファンはラヴァーズ・ロックを完全に見下していて、
デニス・ボーヴェルがプロデュースしたジャネット・ケイのデビュー作も、
「アイドル・レゲエ」なんて揶揄していたくらいですから。

シュガー・マイノットがイギリスRCAから出した名作“GOOD THING GOING” だって、
当時は「甘すぎる」と評され、
ジャマイカ盤にあるような気骨に欠けるなぞと言われてたんだからねえ。
当時は、ニュー・ウェイヴやダブからレゲエを語るにせよ、
ジャマイカ現地原理主義者にせよ、
こういう歌謡性の強いレゲエを評価する土壌は、まるでありませんでした。
こういうナンパなレコードは、買うのにも人目をはばかる、とまではいかなくても、
大好きとは公言しづらい雰囲気だったんですよ。レゲエ=硬派の時代ですね。

というわけで、口を閉ざしてはいても、
隠れファンのぼくのような人は、実は結構いたんですね。
00年代に入ってからか、ラヴァーズ・ロックが再評価されるようになると、
キャロル・トンプソンの本作を、ラヴァーズ・ロックの名作と
持ち上げる評論家がぞろぞろ現れ、アンタ、当時そんなこと、
ひとことも言わなかっただろと、後ろ指を指したくなったものです。

めっちゃスウィートな歌声に、よくホップするレゲエのリズムが心地よく、
キャロルの歌声も曲によっては色香が漂う艶もみせていて、
骨抜きにされる名盤中の名盤であります。
40周年エディションには当時の12インチ・シングルで、
シュガー・マイノットとのデュエットなど5曲をボーナスで収録していて、
‘Your Love’ なんて、すごくいい曲。

リヴィングで聴いていたら、
「ずいぶん珍しいの、聴いているわね」と妻が懐かしそうな目をしました。
レコードを買った当時、失恋のBGMだった本作も、
のちに妻との新婚生活のBGMとなり、音楽の記憶は上書きされていたのです。

Carroll Thompson "HOPELESSLY IN LOVE: 40TH ANNIVERSARY EXPANDED EDITION" Trojan TJCD1041 (1981)
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忘れじの海外通販サイト その2 Delta Records [レコード屋・CDショップ]

Super Jazz Des Jeunes  VACANSES.jpg   Edner Guinard & Son Orchestre.jpg

レコ掘りは足で稼げ、とはよく言われたことですけれど、
海外通販のサイト探しに、そんな体育会系な泥臭い根性は必要なく、
少し気の利くオツムがありゃ、オッケー。
検索スキルがモノをいう世界でありました。

どうやってこういうお店を見つけるんですかと、
よくバイヤーさんに訊かれたりもしましたが、
人には説明しづらい検索ノウハウがいろいろありましてねえ。
単なる検索スキルじゃなくて、キー・パーソンを見つけて、
そこからトレーダーに繋がったりとか、人脈を作るスキルも
いつのまにか身についたような気がします。

長年探した一枚を、実店舗で発見した喜びに比べて、
オンライン・ショップでポチッても味気ない、みたいなことを言う人がいましたけど、
それは、オンライン・ショップ探しの醍醐味を知らないだけの話なんですよね。

苦心惨憺の末、お宝ザクザクのお店を見つけた時のカンゲキといったら、
PCの画面に向かってガッツ・ポーズせずにはおれませんよ。
これまでに何度、ヤッター!と大声を上げたことか。
こんなに見つけにくいサイトを作っておいて、よく商売できるもんだと、
ヘンな感心をしたりしてね。

デルタ・レコーズを見つけた時が、まさにそれだったなあ。
発見した当時、ハイチ音楽は、ミニがかろうじてCD化を進めているくらいで、
他のレーベルはほとんどCD化されていないとばかり思っていたんですよ。

ところが、デルタ・レコーズのサイトには、
ジャズ・デ・ジュン、ヌムール・ジャン=バチスト、ウェベール・シコー、
シュレ・シュレ、スカシャ、ボサ・コンボなどなど、
日本にまったく入ってきていないCDがどっさり載っていて、
いやぁ、わが目を疑いましたね。

片っ端から全部カートに放り込みたい欲望にかられましたけど、
初めて利用するサイトの初回オーダーは、
慎重を期して、5点以内と決めていたので、
はやる動悸を抑えつつ、アイテムを選んでオーダー。
初回オーダーが無事到着したのを確かめると、それを皮切りに、
10点単位で怒涛の如くオーダーをし続けました。

「君が初めて日本からオーダーしてくれたお客さんだよ」とは、
これまでにいくつものオンライン・ショップから言われ続けてきましたけれど、
最初にその言葉をもらったのが、デルタ・レコーズだったんじゃなかったかなあ。
頻繁にオーダーしていると、そのうち相手もこちらの嗜好を理解してくれて、
カタログにないアイテムを教えてくれたり、オマケに送ってくれるようになったりね。

デルタ・レコーズが扱うレーベルは、イボ、マルク、チャンシーが中心で、
ミニ、ローテル、スーパースターは扱っていなかったため、
それらのレーベルのCDは、また別のお店を探し出して買うようになりました。

その後4・5年経つと、カタログの更新が止まってしまい、
すでにカタログのほとんどを買い尽くしていたので、
サイトを見に行くこともなくなってしまいました。
気が付いた時には、すでにお店は閉鎖されたあとでしたね。

5・6年前だったか、ストラットが60~70年代コンパの編集盤を出したときに、
収録曲のオリジナルをすべて知っていたのも、デルタ・レコーズのおかげ。
ハイチ音楽を深掘りするのに、またとないお店でありました。

Super Jazz Des Jeunes "VACANSES" Ibo CD113 (1962)
Edner Guinard & Son Orchestre "LES BELLES MERINGUES D’HAITI" Marc CD400 (1960)
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タペストリーを織り上げるジャズ ヘンリー・スレッギル・ゾーイド [北アメリカ]

Henry Threadgill Zooid  POOF.jpg

6年ぶりとなるヘンリー・スレッギルのグループ、ゾーイドの新作。
前作は5年前の元旦記事にしたんですけれど、
あのあと、2016年のピューリッツァー賞(音楽部門)を受賞したんですね!
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-01-01

う~ん、日本じゃ、ぜんぜん話題にもならなかったよなあ。
スレッギル・ファンとしては、クヤシイ限りなんですが、
今作だって、待ちわびた人がいったいどれほどいたことか。
数は少なくても、好きな人は熱烈、というのがスレッギル・ファンですよね。

新作は、グループの20周年記念作になるのだそう。
スレッギルとメンバーの間で作り上げてきたセオリーが、
長年の信頼関係のもとで伸び伸びと発揮されているのを感じとれる充実作です。

タペストリーを織り上げるジャズというのが、
スレッギルの音楽を説明するのにもっとも適していると思うんですが、
メンバーそれぞれが、一定の規律を保って自由に即興するコンセプトは、
ゾーイドの変わらぬ特徴ですよね。

全体の設計図を書くスレッギルに、職人たちが各パートを織り上げていって、
大きなタペストリーを完成させるんですが、
職人たちは単に自分のパートを分業して織っているのではなく、
ほかの職人と対話をしながら、アイディアやヒントを与えあっているんですね。
そうやって相互に作用しあうことで、もとの設計図には描かれていない豊かさを、
タペストリーに生み出していきます。
一見バラバラにみえるものが、やがて華やかに織り上がっていく、
時間の経過とともに進行していくさまを眺めるのが、ゾーイドの醍醐味です。

ゾーイドはピアノレスであることが肝だと思うんですが、
ハーモニーを慎重に避けながら、楽器間の音律に焦点をあてて、
作曲されているんじゃないのかなあ。
マルチフォニックな場面を巧みに忍ばせているのも、そんな意図を感じます。
今回は特に、ギターとチュ-バの対話が聴きどころになっていますね。
全5曲38分という短さだけが、ちょっと残念かなあ。
次回は6年も待たせないよう、お願いします。

Henry Threadgill Zooid "POOF" Pi Recordings PI92 (2021)
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after you が本になります。 [その他]

いつもお読みいただいて、ありがとうございます。
今日はみなさんにお知らせがあります。
ブログ after you が近く一冊の本になります。
https://artespublishing.com/shop/books/86559-244-3/

2009年6月2日に隔日刊ブログとしてスタートし、
2019年5月31日までの10年分の記事1827本のなかから、
約半数にあたる848本をピック・アップして、地域別に構成しました。

『音楽航海日誌』は、日本から出航し、
西回りでアジア~中東~ヨーロッパに寄港しながら北米へ、
さらに中南米から東回りでアフリカへと、音楽の大海原をめぐる
世界一周ツアーを楽しんでいただく本です。

Music Log Book Cover.jpg

ブログの記事以外に、これまでに雑誌に書いた記事や、CD解説に加え、
この本の独自企画として、ピーター・バラカンさんと外国語のカナ表記について、
とことん語り合った対談も載せています。

この対談は、過去もっとも多くのコメントがついた記事
「ブラジルかぶれのカナ表記」に対して、ぼくの考えを表明したもので、
みなさんからいただいたコメントを割愛するかわりに企画した、スペシャル対談です。

また、この本には、レコード、民芸、織物、仮面、人形のコレクションや、
ブログ未掲載の旅の写真やライヴ写真なども、フルカラーで多数公開しました。

656ページ、2段組、100万文字を超すヴォリュームをハードカヴァーに収めました。
11月18日発売予定です。
ぜひともお手元に、よろしくお願いいたします(ぺこり)。
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オロモのカリスマの遺作 ハチャル・フンデサ [東アフリカ]

Haacaaluu Hundeessaa.jpg

昨年暗殺された、エチオピアのオロモ公民権活動家で、シンガー・シングライターの
ハチャル・フンデサの遺作が、初命日となる6月29日にリリースされました。

ハチャル・フンデサは、86年、オロモ人の抵抗運動の拠点
オロミア州アンボで、貧しい家庭の五男に生まれました。
牛の世話をしながら、学校のクラブで歌いながら育った少年でしたが、
17歳のときに、オロモ解放戦線(OLF)を支援する
学生運動に加わったという嫌疑で逮捕され、
逮捕後の正規な手続きを経ずして、5年間もの獄中生活を送ります。
当時オロモ人は政府から激しい弾圧を受けていて、
オロモ解放戦線(OLF)の活動も禁止されていました。

ハチャルは5年間の刑務所生活で、
同じ受刑者のオロモ公民権活動家から多くを学び、
政治的なアイデンティティを形成していきます。
読書をしながら音楽を作り、釈放されたときには、
すでにファースト・アルバムとなる曲の多くが出来上がっていました。
09年に出たデビュー作“SANYII MOOTII” は、記録的なヒットを呼び、
ハチャルはわずか22歳で、オロモ人の新しいスターとして、
国民的な人気を勝ち取ります。

そして、15年に出したセカンド・アルバム“WAA'EE KEENYA” で、
ハチャルはオロモの文化的アイコンへと大きく成長します。
オロモ農民の土地を収奪するアディス・アベバの拡張計画に抗議した
シングル曲‘Maalan Jira’ が発売されると、オロミア各地方でデモがたちまち発生し、
この曲はアディス・アベバ拡張に抗議する市民のアンセムとなりました。
ゲラルサと呼ばれるオロモ抵抗運動のプロテスト・ソングによって、
ハチャルは人々に政治的覚醒をもたらしたのです。

その後、反対運動が実って、アディス・アベバ拡張計画は頓挫し、
オロモ革命のサウンドトラックとなったハチャルの歌は、
エチオピアで初のオロモ人首相を18年に誕生させる、大きなエネルギーとなりました。

昨年6月29日の夜、アディス・アベバ郊外のコンドミニアムでハチャルは銃撃を受け、
ティルネシュ・ベイジン公立病院に運ばれますが、帰らぬ人となりました。
死の一週間前には、殺害予告を受けていることを、
ハチャルはインタヴューで明かしていました。

ハチャル死亡を聞きつけた数千人の弔問客が、
ティルネシュ・ベイジン公立病院に押し寄せ、
警察が催涙ガスで群衆を解散させる騒ぎとなったほか、
葬儀においても治安部隊が2人を射殺し、7人の負傷者を出す騒ぎとなりました。
その後も、オロミア地方の各地でハチャル銃撃への抗議活動が頻発し、
約160人の死者が出ています。

エチオピアから遠くロンドンにおいても、ハチャルの死の翌日の6月30日に、
ウィンブルドンのカニサロ・パークに置かれたハイレ・セラシエ皇帝像が、
オロモ人抗議者によって破壊されました。

オロモ文化を体現し、文学性の高い詩的な歌詞によって、
オロモの民衆の心をつかんできたハチャルでしたが、
その音楽はオロモのコミュニティに閉じたものではなく、
アムハラや他の民族にもアピールする音楽性を有しています。
ときにアムハラ語に由来する文学的修辞も使いながら、
すべてのエチオピア人にアピールしようとしてきました。

そうした姿勢は音楽面にも表れていて、
本作にコンテンポラリーなレゲエ・サウンドで聞かせる曲や、
マシンコ、ワシント、クラールをフィーチャーした曲があるように、
エチオピア人すべてが共有できるサウンドを使いながら、
エチオピア最大の民族でありながら迫害され続けてきた、
オロモ人の問題を訴えているんですね。

ハチャルが民族を越えて、多くのエチオピア人に愛されたのは、
共感に満ちた人間的魅力にあったと聞きますが、
細やかにこぶしを使って歌うハチャルのヴォーカルには、
人を包み込む温かさがありますね。
情感に溢れたその歌い口は、歌詞のわからない外国人には、
とてもプロテスト・ソングと思えないほど朗らかに響きます。

洗練されたデザインに、美しい印刷の5面パネル仕様の特殊パッケージは、
エチオピア製としては破格のもの。オロモのカリスマとして、
エチオピア社会に偉大な足跡を残した歌手の遺作にふさわしい意匠です。

Haacaaluu Hundeessaa "MAAL MALLISAA" Wabi no number (2021)

【追記】ミュージック・マガジン今月号の輸入盤紹介でもレヴューしていますが、
デジタル・リリースという表記は編集部による誤りですので、ご注意ください。
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厳しい時代だからこそ人は強くなれる ネイオ [ブリテン諸島]

Nao  AND THEN LIFE WAS BEAUTIFUL.jpg

うわぁ、まんま90年代R&Bじゃないですか。
ネイオの新作は、ブランディーやインディア・アリーを連想させる
90年代サウンドのフレーヴァーが横溢。
デビュー作のエレクトロ・ファンクは後退した感じかな。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-08-20

ネイオらしい、ネオ・ソウル調のドリーミーなオルタナティヴR&Bなど、
ミディアムをメインにした曲中心ながら、バラードの美しさは特筆もので、
ピアノやストリングスを効果的に使って、生音のオーガニックな空気を
生み出しているのが印象的です。

辛いことや困難なことがあっても、必ず乗り越えられるという
メッセージを込めたと、ネイオ自身が語るように、
パンデミックの困難な時代にも、ポジティヴな思考を貫いて
人生を乗り越えていこうとする強い意志が、ネイオの歌いぶりから伝わってきます。

コケティッシュな個性的な声は、デビュー当時から変わらないものの、
チャーミングさのなかに太い芯を宿すようになったのは、
ひとりの母として、彼女が人間的に大きく成長したからでしょうか。

新しく生まれた命を「時代の救済」と歌う、希望に満ちた‘Antidote’ は、
なんとナイジェリアのアデクンレ・ゴールドをフィーチャリングしたアフロビーツ。
まさかここでアフロビーツが聞けるとは思いもよりませんでしたが、
その意外さより、彼女のしなやかな強さに感じ入りました。
女性としてのプライドを主張した‘Woman’ での自信に満ちた姿にも、
それが表れているし、客演したリアン・ラ・ハヴァスとのコンビも絶妙です。
ネイオとリアン・ラ・ハヴァスの二人とも、母親がジャマイカ出身ですね。

聖歌隊のコーラスを取り入れた曲や
自作のバラード‘Amazing Grace’ の気高さに、
厳しい時代だからこそ人は強くなれるという、
ネイオの信念が溢れているじゃないですか。
オプティミズムを引き寄せるのは、ポジティヴな姿勢であることを
体現した傑作です。

Nao "AND THEN LIFE WAS BEAUTIFUL" Little Tokyo Recordings/Sony 19439900502 (2021)
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忘れじの海外通販サイト その1 Stern's Music [レコード屋・CDショップ]

Ede Gidi.jpg

10年ほど前、「忘れじのレコード屋さん」という記事を書いたことがありました。
CDが主流メディアとなり、街からレコード屋がすっかり消えてしまったので、
昔よく通ったレコード屋の思い出を、6回シリーズで語ってみたんですけれども。

あれから10年。時は移ろい、サブスクが全盛となってCDショップが次々と閉店し、
海外の通販サイトも消えゆく時代となりました。
これまでお世話になった海外のオンライン・ショップが撤退や閉鎖を余儀なくされ、
お付き合いは年々減る一方です。

思い返すと、PCを買って初めて利用した海外通販サイトは、
アメリカのCDNOW でしたね。
94年に、ペンシルヴェニアで創業したオンライン・ショップです。
のちにアマゾンに吸収されてしまいましたけれど、
日本の輸入CDショップに入荷しないCDをオーダーするため、使い始めました。

やがて大手のCDショップばかりでなく、
小さな専門店を探り当てては、渡り歩くようになっていくんですが、
その手始めの店が、ロンドンのスターンズでした。
最初にオーダーしたときのインヴォイスを見ると、
日付は01年9月24日となっていますね。もう20年も前なのかあ。

日本に入ってこないナイジェリアのジャズホール盤で、
エディー・ジーの“U-ROO BA VYBE DIALEKTICS” ほか計4枚を買っています。
う~ん、なつかしい。

インターネットをダイヤルアップで接続していた時代で、
♪ピー、ヒョロロ~♪ という接続音を聞きながらページをクリックするという、
今の若い人には、なんのことやらわからないだろう、のんびりした時代でした。
ネットがサクサク動くという概念すらない時代で、亀のようにのろいレスポンスでも、
画面を覗き込んでは、どきどきしながらサイトのカタログをチェックしていたものです。

Mamman Shata  Polydor.jpg   Mamman Shata  Premier Music.jpg

スターンズの実店舗には、ロンドン出張したときにもよく通ったんですが、
その時に買ったナイジェリア、ハウサの名プレイズ・シンガー、
マンマン・シャタのポリドール盤のA面がCD化されて、
オンラインのカタログに載ったときは喜び勇んだっけなあ。
ソッコー、オーダーすると、すぐにカタログのカート欄が
out of print のグレー表示に変わり、首尾よく1点ものをゲットできたのでした。
ナイジェリア音楽でヨルバやイボの音楽に比べて、
ハウサ音楽は入手困難なだけに、LP・CD双方をスターンズから買ったのは、
不思議な巡り合わせで、感慨深かったです。

ロンドンとニュー・ヨークのお店はすでに閉店してしまいましたが、
ウェブ・サイトはまだ生きています。
というものの、もう2年以上もカタログは更新されておらず、
在庫もすべて売切となったまま。これじゃまるで、幽霊サイトだよねえ。
ずいぶんお世話になったお店だけに、なんともさみしい話であります。

Ede Gidi "U-ROO-BA VYBE DIALEKTICS" Jazzhole JAH001D (1997)
[LP] Alhaji Mamman Shata "ALHAJI MAMMAN SHATA" Polydor POLP121 (1985)
Alhaji Dr. Mamman Shata "THE LIVING SONGS OF THE LEGEND (SERIES 1)" Premier Music PMCD019
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デビュー作は朱盤でなく青盤で ルシベラ [西アフリカ]

Lucibela  2018.jpg   Lucibela   2019.jpg

わーい、ルシベラの新作が出たよと、ソッコー買ってきたら、なんと早とちり。
18年のアルバム(青盤)に1曲を追加し、
ジャケットを変えて出し直した19年新装版(朱盤)でした。
なんだよ~、それ~。こんなの、いつの間に出てたの?
新曲‘Cupim Sab’ のミュージック・ヴィデオが公開されたばかりだったから、
てっきり新作だとばかり、思いこんじゃったじゃないの。

ちぇ~、しかたないから、このアルバム、紹介しておきましょう。
思えばせっかくの良作なのに、ここでは書いていなかったもんね。

ルシベラは、86年サン・ニコラウ島の生まれ。
のちに家族とサン・ヴィセンテ島へ引越して、
ハイ・スクール時代に地元のグループ、ミンデル・ソムに参加して歌いました。
高校卒業後は、サル島やボア・ヴィスタ島のホテルで、
セザリア・エヴォーラやバナ、ティティナの曲を、観光客相手に歌っていたそうです。
12年には首都のサンティアゴ島プライアへ進出して、
セザリア・エヴォーラのギタリスト、カク・アルヴェスとも親交を持ちました。

16年にリスボンで歌手デビューを果たし、
17年秋にトイ・ヴィエイラのディレクションのもと、デビュー作を録音、
翌18年に出たのが、本作(青盤)なのでした。
デビュー作にしてこの落ち着きぶりは、相応のキャリアを積んできたことの証しですね。

柔らかな歌声で、ほんのりとした情感、爽やかな哀愁を伝える歌い口が、
モルナやコラデイラにベスト・マッチで、クレオール歌謡の良さを引き立てています。
トイが弾くアクースティック・ギターの柔らかな響きを中心に、
カヴァキーニョやヴァイオリン、アコーディオンなどのアクースティックな音づくりによる
過不足ない伴奏も上質で、申し分ありません。

ところが、19年改訂版(朱盤)はちょっと驚きました。
ラストの追加曲のほかにも、違いがあって、
ゲスト歌手2人を招いてオーヴァーダブを施し、
ルシベラとデュエットを演出した曲が2曲あるんですよ。

‘Mal Amadu’ には意外や意外。ライ歌手のソフィアン・サイーディを迎えています。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-04-28
ライの節回しでなく、モルナに合わせた泣き節を聞かせてはいるものの、
う~ん、どうでしょうねえ。あんまりいい相手役だとは思えないなあ。
アントニオ・ザンブージョとかの方が良かったんじゃないですかね。
ちなみにこの曲、19年版では‘Sai Fora’ とタイトルが変えられています。

そしてもう1曲、‘Dona Ana’ が、さらにオドロキというか、うげっ!
なんと、アンゴラのボンガだよ。はぁ、カンベンしてくれ~。
いつものボンガ節で、キモイ震え声に、げんなり。

なんでまた、こんな余計な演出したかなあ。
完全なるキャスティング・ミスで、せっかくの名作を汚したとしかいいようがありません。
ジャケは19年改訂版(朱盤)の方が、ステキなんだけどね。

というわけで、19年改訂版(朱盤)、オススメいたしません。
ぜひ18年のオリジナル盤(青盤)をお聞きください。
そしてなにより、新作に期待したいですね。

Lucibela "LAÇO UMBILICAL" Lusafrica 762562 (2018)
Lucibela "LAÇO UMBILICAL" Lusafrica 762972 (2019)
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永遠不滅のスウィート・コーラス アフター7 [北アメリカ]

After 7  UNFINISHED BUINESS.jpg   After 7  TIMELESS.jpg

うわぁ、アフター7の新作が出たよ。今度こそ書いておかなくちゃ。

16年の前作をヘヴィロテしたにもかかわらず、
なんでだか書きそびれちゃったんですよ。
その年のベスト・アルバムに選ぶかどうか迷った時に、
記事にしていないのに選ぶのはいかがかと思い、
泣く泣く落選させた苦い思い出が忘れられません。

いまだに秋冬になってくると、聴き返すことの多い“TIMELESS”。
エドモンズ一家の十八番である美メロ&美ハーモニーが、
たっぷりと詰め込まれたアルバムで、う~ん、やっぱり名作ですよねえ。
これぞラグジュアリーなR&Bのお手本で、プロダクションも、
80年代末のデビュー時とは見違えるサウンドになっているじゃありませんか。

アフター7にとって21年ぶりとなったあの復帰作は、
オリジナル・メンバーのメルヴィンが戻って4人体制となり、
ケヴォンとの2枚リードが復活した記念作でもありました。

アルバムのハイライトは、マーヴィン・ゲイの持ち歌とは同名異曲の ‘I Want You’。
リオン・ウェアの曲とは違って、こちらの歌詞は、
ティーンのような青さのある一途な恋心を爆発させた内容で、
若さゆえに我慢のきかない、性急な熱情が溢れ出た内容になっていました。
いい歳したオッサンが、少年みたいな歌詞を歌うところがいいよね。

ヴァースを歌うメルヴィンも、もちろんいいんだけれど、
続いて歌う、ケヴォンのボーイッシュな声と狂おしい歌いっぷりが
歌詞にどハマリで、胸に迫るものがありました。
ゴスペル調の曲でも、ケヴォンのみずみずしい声質は光っていましたよねえ。

その後復帰したメルヴィンは、19年に64歳の若さで亡くなってしまい、
新作はケヴォン・エドモンズ、キース・ミッチェルに、
新メンバー、ダニー・マクレーンを加えた新体制で制作されています。
メルヴィン不在でも、アフター7の肝はケヴォンと捉えているぼくにとっては、
新作になんの不安も感じませんでした。

期待どおり、アフター7のスウィートなコーラスは、永遠不滅。
ケヴォンの声は、どんなに年を重ねても、まったく変わりませんねえ。
いつまでも青春の光と影を体現する声に、ホレボレとするばかりです。
新メンバーのダニーも、個性を発揮するところまでは至らずとも、
ケヴォンとキースとよくフィットして、新たなテクスチャを感じさせる
3人のハーモニーを聞かせています。

「アーバン」は、もはやアメリカでは使えなくなってしまいましたけれど、
そのタームが当初持っていた意味のとおり、
洗練された都会の大人の夜を演出する、王道のR&Bです。

After 7 "UNFINISHED BUINESS" SRG no number (2021)
After 7 "TIMELESS" eOne EOMCD5480 (2016)
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サン・パウロのコンテンポラリー・ジャズのいま ジエゴ・ガルビン [ブラジル]

Diego Garbin Quinteto  REFÚGIO.jpg

同じ18年作のトランペッターのリーダー作でも、こちらはグッと現代的。
話題のレーベル、ブラックストリームから出た、ジエゴ・ガルビンのデビュー作です。
サン・パウロで活躍する人で、同じブラックストリームから出た
ピアニストのサロモーン・ソアーレスのアルバムでも、冴えたプレイを聞かせていました。

ジエゴ・ガルビンはビッグ・バンド出身者だそうで、
エルメート・パスコアル・ビッグバンドでも腕を磨いたようですよ。
なるほど‘Tonin da Jose’ では、エルメート・ミュージックの影響がうかがえますね。

ジエゴは、シャープでクリアなトーンでハツラツとプレイしていて、
細かいパッセージを吹き切るスリリングさなど、
デビュー作らしい若々しさを発揮しています。

さらに特筆したいのが、ジエゴの作編曲。
全曲ジエゴのペンによるものなんですが、構成力のある曲を書くんですよ。
フックの利いたメロディを散りばめ、
どの曲も聞かせどころの作り込みが巧みで、引き込まれます。

バップ的なテーマを持つ‘Morro da Urca’ なんて、
スピード感を演出する曲作りが見事じゃないですか。
またそんなマテリアルを十二分に料理するメンバーも、実力者揃いです。

ピアノは先にあげたサロモーン・ソアーレスが美しいタッチを聞かせるし、
ドラムスのパウロ・アルメイダは、細分化されたビートで、
現代的なジャズ・ドラミングを披露しています。
コンテンポラリーなサン・パウロのジャズ・シーンをいまを伝える快作ですね。

Diego Garbin Quinteto "REFÚGIO" Blaxtream BXT0023 (2018)
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ブラジルからハード・バップのお手本 ギリェルミ・ジーアス・ゴメス [ブラジル]

Guilherme Dias Gomes  TRIPS.jpg

こういうオーソドックスなハード・バップを聴くのは、ひさしぶりな気がするなあ。
ギリェルミ・ジーアス・ゴメスは、劇作家ジーアス・ゴメスの息子で、
テレビ・グローボの音楽プロデューサーを91年から務めるという、
ヴェテラン・トランペッターにして作曲家。
すでに7枚のソロ作を出していて、本作は最新作。
といっても、3年前に出たものなんですが。

初めて聴く人ですけれど、トランペットのプレイは、堅実というか端正で破綻がなく、
きわめてお行儀のいい演奏ぶり。バークリー卒という経歴も、ナットク感ありあり。
旧知らしいメンバーとともに、肩に余計な力が入っていないリラックスしたプレイで、
スリルも熱さもきちんとありつつ、整ったアンサンブルを聞かせています。

安心して聞くことのできる安定感は、ヴェテラン・ミュージシャン揃いの賜物でしょう。
ここでフィルが欲しいなと思っていると、的確にフィルを入れてくるドラムスや、
トランペットに並走して、対位法的なラインを鮮やかに入れてくるテナー・サックス、
軽快なドラミングに太い音色で応えてグルーヴを生み出すベース、
シングル・トーンでひんやりとした空気感を醸し出すピアノ、
そして、ブラジルのジャズには欠かせないパーカッショニストもちゃんといて、
サンバではクイーカを、マラカトゥではトリアングロを使って、盛り上げています。

そしてこのアルバムの良さは、ギリェルミが書く楽曲の良さでしょう。
ハード・バップらしいメロディアスな曲揃いで、
抒情味あふれるバラードの美しさも、みずみずしいですねえ。
個人的に、最近ではすっかり耳にしなくなったハード・バップですが、
こういうフレッシュなのに当たると、いいもんだなあと再認識させられますね。
ハード・バップのお手本のようなアルバムです。

Guilherme Dias Gomes "TRIPS" Guilherme Dias Gomes GDG07 (2018)
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ノルデスチの静脈 マリアーナ・アイダール [ブラジル]

Mariana Aydar  VEIA NORDESTINA.jpg

マリアーナ・アイダールの19年作が面白い。

北東部音楽をベースに、エレクトロやダブの要素を巧みに取り入れた作品で、
ノルデスチ・ポップを21世紀ヴァージョンに更新したサウンド・センスが新鮮です。
サンフォーナにザブンバ、トリアングロという、
古典的ともいえるフォローの編成を保持しつつ、
エレクトロやシンセ・ベースをさりげなく使って、現代性を加味しているんですね。

マリアーナはサン・パウロのシンガー・ソングライターですけれど、
本作では自作曲ばかりでなく、ノルデスチの作家の曲も取り上げています。
なんでも、マリアーナがプロになって最初に入ったバンドは、
フォローのバンドだったそうで、MPBやサンバ以上に、
ショッチやフレーヴォに愛着を持っている人だったんですね。
ドミンギーニョスが師匠であり、大切なメンターだったというのだから、
そのノルデスチ愛はホンモノです。

エルバ・ラマーリョをゲストに招いた曲もありますけれど、
とりわけ印象的だったのは、アクシオリ・ネトの名曲‘Espumas Ao Vento’ のカヴァー。
これは、泣けました。続く‘Represa’ も哀愁味たっぷりで、グッときましたねえ。
フォローというと、陽気なダンス曲ばかりになりがちなんですが、
こういうサウダージ感たっぷりの曲を選曲したことによって、
アルバムに奥行きを生み出しています。

マリアーナ・アイダールといえば、
マリーザ・モンチやアドリアーナ・カルカニョット以来の
大型新人という触れ込みで出てきた人でしたよね。
ぼくはこの二人がサンバを扱うアプローチに抵抗感をおぼえてならないので、
正直マリアーナも、斜めに見ていたところがありました。
アルバムのゲストに、ぼくの苦手なカーボ・ヴェルデの女性歌手、
マイラ・アンドラーデを呼んでいたりするから、もうなおさら。

そんなこともあって、これまでちゃんと聴いてこなかった人ですけれど、
このアルバムで聴ける北東部音楽に対するアプローチは、正統派。
う~ん、こういう人なら、サンバにアプローチしても抵抗感はないかも。
これからは、ちょっと意識して聴くようにします。

Mariana Aydar "VEIA NORDESTINA" Brisa BRISA0005 (2019)
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ペルナンブーコの伝統芸能への原点回帰 カスカブーリョ [ブラジル]

Cascabulho  FOGO NA PELE.jpg

カスカブーリョの新作 !?
え? カスカブーリョって、いまでも活動してたのか!

チェックしてみたら、14年にアルバムを出していたみたい。
それは6年の活動休止期間を経ての復帰作だったようで、
オットーのカヴァーなど、かなりロック色の強い
マンギ・ビート寄りのアルバムに仕上がっていました。
こんなにドラムスを前面に出したアルバムは、かつてなかったですね。
そこからまた7年を経ての新作です。

カスカブーリョが登場した98年は、
ノルデスチ新世代が新たなムーヴメントを巻き越していたさなかでした。
シコ・サイエンスに代表されるマンギ・ビート勢が、ぶいぶいいわせていましたけれど、
ぼくが注目していたのは、マラカトゥ・フラウやココを追及して、
フォークロアな伝統芸能をロック世代の感覚で更新したメストリ・アンブロージたちのほう。

カスカブーリョは、ちょうどメストリ・アンブロージの弟分的存在のバンドで、
インテリな面のある兄貴分に対して、ストリート感覚が持ち味の、
やんちゃな連中という感じがほほえましかったんですよね。
そうそう、デビュー当初のカスカブーリョのヴォーカルは、
シルヴェリオ・ペッソーアだったんですよ。
いまでは、すっかりシルヴェリオ・ペッソーアが有名になったので、
カスカブーリョを知っている人のほうが少ないかも。

で、ひさしぶりに聴くカスカブーリョ、ぜんぜん変わってません。
スタイルこそオーセンティックなノルデスチの伝統音楽だけれど、
そのスピード感やベースが生み出すグルーヴは、ロックを通過した世代のフィールが横溢。
ジャクソン・ド・パンデイロへの敬愛は、デビュー作の冒頭で示していた彼らですけれど、
今作にもオマージュを捧げた曲(‘Na Alma e Na Cor’)があり、
マラカトゥやココのレパートリーなど、デビュー作のサウンドに回帰した感じですね。
メストリ・ガロ・プレートがしわがれ声を振り絞って歌う
‘Tempo De Coco’ が聴きものです。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-03-29

Cascabulho  FOME DÁ DOR DE CABEÇA.jpg    Silvério Pessoa  BATE O MANCÁ.jpg
Cascabulho  É CACO DE VIDRO PURO.jpg   Cascabulho  BRINCANDO DE COISA SÉRIA.jpg

シルヴェリオ・ペッソーアは00年に独立して、
01年にソロ・デビュー作“BATE O MANCÁ” を出し、
カスカブーリョのデビュー作の路線を継承する一方、
カスカブーリョは新たなメンバーを加え、02年作の“É CACO DE VIDRO PURO” で、
ミクスチャー感覚に富んだサウンドを押し出してきました。

ピファノ奏者が新メンバーに加わったことにより、ノルデスチの色合いがさらに濃くなり、
土臭い伝統芸能をディープに追及しつつ、そこにロックやヒップ・ホップのセンスを
取り入れていくカスカブーリョのミクスチャー・サウンドが花開いた傑作でした。
このセカンド作には、トム・ゼー、ナナ・ヴァスコンセロス、
マルコス・スザーノがゲスト参加していたんですよね。
このアルバムは、ドイツのピラーニャからもリリースされました。

ドラムスが加わった08年作の“BRINCANDO DE COISA SÉRIA” では、
前作の路線を継承して、土臭いマラカトゥやブラス・セクションを加えたフレーヴォなど、
多彩なアレンジでノルデスチ・ミクスチャーを楽しめる快作となっていました。

新作は、ミクスチャー路線は影を潜め、
オーセンティックなスタイルのデビュー作のサウンドに回帰した作品といえるのかな。
次作はもう少し短いインターヴァルで、
カスカブーリョ流ミクスチャー・サウンドを聞かせてくれることを期待しています。

Cascabulho "FOGO NA PELE" 7 Claves Produçðes no number (2021)
Cascabulho "FOME DÁ DOR DE CABEÇA" Mangroove MR0020 (1998)
Silvério Pessoa "BATE O MANCÁ" Natasha 789700903402 (2001)
Cascabulho "É CACO DE VIDRO PURO" Via Som Music VS200218 (2002)
Cascabulho "BRINCANDO DE COISA SÉRIA" no label CDBA406 (2008)
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スミルナの大火からまもなく100年 エストゥディアンティーナ・ネアス・イオニアス&アンドレアス・カツィヤニス [東ヨーロッパ]

Estoudiantina Neas Ionias & Andreas Katsigiannis.jpg

あぁ、思わず、タメ息がもれました。
重厚な映画作品を観終えたあとのような充足感に満たされるアルバムです。
映像が立ち上ってくる器楽奏や、俳優を起用した朗読など、
じっさい映画のサウンドトラックを思わせるプロダクションが、随所で披露されます。

第一次世界大戦から希土戦争の終結までに、
数十万の小アジアのギリシャ人が組織的に虐殺され、
強制追放の末に命を落としました。歴史的な大惨事となったスミルナの大火から、
まもなく100年を迎えるのを受けて企画された本作は、
深い悲哀のこもったメロディが、もうただごとではない切実さで迫ってきて、
アナトリアの人々の心に深く刻まれた、哀しみの歴史を表出させています。

ギリシャ現代詩の気鋭の詩人11人が歌詞を書き下ろし、
アンドレアス・カツィヤニスが、かつてアナトリアで歌われたギリシャの古謡や、
アナトリアの流民の歌を下敷きに作曲し、
アンドレアス・カツィヤニスが結成し音楽監督を務める、
エストゥディアンティーナ・ネアス・イオニアスが演奏するいう、
ギリシャ音楽ファンにとってこれ以上ない布陣による、気合の入った力作です。

エストゥディアンティーナ・ネアス・イオニアスといえば、
12年にヤニス・コツィーラスとコラボしたアルバムが忘れられませんけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2014-06-26
本作もまた、長く愛聴することになりそうだなあ。

こうした硬派な企画に、うってつけといえるゲストが勢ぞろい。
ヨルゴス・ダラーラスを筆頭に、アルキスティス・プロトサルティ、
エレーニ・ツァリゴプール、レオニーダス・バラファス、アスパシア・ストラティグゥ、
ナターサ・テオリドゥ、バビス・ストカス、マリオス・フランゴリスが参加しています。

CDブックはギリシャ語のみなので、まったく読めずにいますけれど、
古い写真の数々は聴き手の想像力をかきたて、音楽の感動を倍加させます。
深く憂いのある旋律に、胸を押しつぶされそうな感情を掻き立てられることに、
知識や教養といったものを軽く飛び越えてしまう、
音楽が持つ底力を再認識させられます。

[CD Book] Estoudiantina Neas Ionias & Andreas Katsigiannis "GI TIS IONIAS" Ogdoo Music Group no number (2020)
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