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エレクトロが奏でるルゾフォニアのメランコリー ディノ・ディサンティアゴ [南ヨーロッパ]

Dino D’Santiago  BADIU.jpg

ディノ・ディサンティアゴの新作タイトルが「バディウ」だと知ったときは、
これはディープなアルバムになるな、という予感がありました。

バディウとは、いまではカーボ・ヴェルデのサンティアゴ島民の呼称にもなっていますが、
もとは、ポルトガル語の vadio (遍歴する、放浪する)に由来する、
ポルトガル人入植者がアフリカから連行された奴隷を指して呼んだ蔑称でした。

現在のカザマンス地方とギネア=ビサウに築かれたガブ王国は、
ポルトガル人との奴隷貿易によって栄え、奴隷をカーボ・ヴェルデに送り込んでいました。
サンティアゴ島に降ろされた奴隷たちは、シダーデ・ヴェーリャに暮らしていましたが、
フランスやイギリス、オランダの海賊からたび重なる攻撃を受け、
ついには悪名高きフランシス・ドレークの攻撃によって街全体が破壊され、
島の内陸部に逃げ込んで九死に一生を得たといいます。

内陸部でコミューンを形成した奴隷たちは、そこでようやく自由を得ますが、
西洋文明から隔絶された浮浪者とみなされ、バディウと蔑まれるようになります。
しかし、逃亡奴隷として自由を得たバディウスたちにとっては、
その語を自由と抵抗のシンボルとして捉え、前向きに受け入れたのでした。
そうしたバディウがフナナーを育んだことは、以前にも書いたことがあります。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-02-25

サンティアゴ島出身のバディウスの両親のもとに育ち、
父親とともにサンティアゴ島へ旅したことをきっかけに、
ヒップ・ホップ/R&Bから現在の音楽に転向したディノが、
アルバム・タイトルに「バディウ」と名付けるからには、
原点を掘り下げた内容となったに違いありません。

聴いてみれば、前々作、前作に比べ、グッと表現が深まりましたねえ。
楽曲がとりわけ素晴らしい仕上がりで、
ソダーデ感溢れる哀しみに富んだメロディは、カーボ・ヴェルデにとどまらない、
ルゾフォニアが共有する、深いメランコリーを感じさせます。

リズム面では、フナナーやバトゥクを直接借りることなく、
あえて生音を避けたと思われるエレクトロを多用しながら、
内省的な音楽世界を表現しています。
そのネライどおり、サウンドの質感はクールかつディープになっていて、
ミュージック・セラピーのようなアルバムに仕上がっているんですね。

なんと制作にあたっては、ロンドン、オーストリア、ベルリン、ロス・アンジェルス、
サン・パウロ、コロンビアなど、さまざまな音楽家との共同作業によって37曲が録音され、
そのなかから、「バディウ」のコンセプトに合う12曲を選曲して完成させたとのこと。
抵抗のシンボルにオマージュを捧げたディノが、
次に提示する物語に、はや期待が高まります。

Dino D’Santiago "BADIU" Sony Music 19439948142 (2021)
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