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年輪が生み出すマジック ウィンダム・チェチャンバ [南部アフリカ]

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ザンビアの素朴なカリンドゥラを聴いていて、
ふと隣国マラウィのウィンダム・チェチャンバを聴きたくなりました。
おなじく素朴な音楽なんですが、素朴の意味がちょっと、違うんですね。

ウィンダム・チェチャンバは、34年マラウィ南部のゾンバに生まれたヴェテラン音楽家。
マラウィ独立前のニヤサランドで育ち、6歳でバンジョー、12歳でギター、
さらにドラムス、サックス、トランペットを覚え、数々のバンドを遍歴しながら、
ニヤサランドと同じイギリス領植民地の周辺国で演奏し、キャリアを積んだミュージシャンです。

50年代には、北ローデシア(現在のザンビア)でアリキ・カタと、
南ローデシア(現在のジンバブウェ)のブラワヨで、「スコキアーン」の作者として名高い
サックス奏者アウグスト・ムサルルワと親交を結んでいます。
ニヤサランド帰郷後は、ダンスバンドを率いて多くのナイトクラブで演奏し、
60年にニヤサランドにやって来たルイ・アームストロングとも会っています。

チェチャンバの往時の録音は、残念ながら聴いたことがありませんが、
ぼくが聴いているのは、おととしリリースされたチェチャンバのソロ・アルバム。
チェチャンバ74歳にして初のソロ作を出したという、記念すべきアルバムです。
ここで奏でられているのは、かつてのダンスバンド・ミュージックではなく、
チェチャンバ自身によるピアノとギターの弾き語り。
こんなに人肌のぬくもりがストレートに伝わってくる音楽って、なかなかありません。

このアルバムに感動するのは、音楽って、これだけでいいんだよな、というか、
これで十分なんじゃないかということを、あらためて思い知らされるからです。
普段、さまざまに加工され、お化粧されたアルバムを当たり前のように聴いていると、
こんな無防備というか、素っ裸な作りのアルバムを聴くと、不意打ちを食らったような気がします。

それは、ピアノとギターの弾き語りという、シンプルな内容だからだけではありません。
そこで繰り広げられている演奏が、ピアノの運指もおぼつかずにミス・タッチを連発するは、
ギターのフィンガリングがぎくしゃくしているは、
ヴォーカルは頼りなげなシロウト丸出しの歌いぶりだからです。
言いようによっては、これほど締まりのない演奏と歌もないんですけれど、
それがなぜ、かくも聴く者の気持ちをあたためてくれるのでしょうか。

いかにも南部アフリカらしいフォークロアな香りのするメロディを、
子供がいたずらしているようなタッチでポロンポロンと弾くピアノは、
ダラー・ブランドそっくりというより、南部アフリカ音楽に共通する味わいといえます。
ぎくしゃくしているようなギターのフィンガリングも、
この引っかかるようなリズムこそが、南部アフリカ共通のビート感なのですね。
頼りなげな歌だって、人生を振り返る古老ならではの歌いぶりというか、
愛すべきおじいちゃんの唄といった風情がいっぱいで、
ああ、音楽って、いいもんだなあとしみじみ思わずにはおれません。

長年演奏してきた熟達した音楽家には、技術などを越えた、
年輪が生み出すマジックを持っているんじゃないんでしょうか。
そんなマジックをたっぷりと味あわせてくれる、ステキなアルバムです。

Wyndham Chechamba "CHECHAMBA’S PIANO & GUITAR SOUNDS" Pamtondo PAM051 (2008)
コメント(2) 

コメント 2

ハル

初めまして。
こちらで紹介されているアーティストの楽曲をユーチューブで見て大変気に入りました。
ご紹介されているCDを探しているのですが、国内で購入できるお店どこかありますか?またこの人はまだご存命なのでしょうか?
ご存じでしたらお知らせ頂けたら幸いです。
by ハル (2018-08-23 22:40) 

bunboni

去年ヒュー・マセケラが亡くなった時の記事だったかで、コメントしているのを読んだ覚えがあるので、たぶんお元気なんじゃないかと思うんですけれど。
だいぶ前のCDで、国内で見つけるのは、難しいかもですね。amazon UKに激安価格で売れ残りがあるみたいですよ(^^)
by bunboni (2018-08-24 12:09) 

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