コミュニティのサンバをポップに チアンジーニョ・ダ・モシダージ [ブラジル]
褐色の肌にソフト帽、白い歯をみせた笑顔のオヤジが写るジャケ。
こういう写真を見たら、エスコーラ系のディープなサンバを期待するのが、
サンバ・ファンのお約束ってもんでしょう。
「10点満点のバテリア」の名で知られるリオ北部のエスコーラ・ジ・サンバ、
モシダージ・インジペンデンチ・ジ・パードリ・ミゲルのエンレード作曲家の一人、
チアンジーニョ・ダ・モシダージの61歳にしてリリースした初ソロ作です。
ヴェーリャ・グァルダのサンバ・アルバムといったシブい内容かと思ったら、
オーセンティックな伝統サンバ路線ではなく、
ベースやドラムスを加え、男女コーラスにサックスやトロンボーンのソロなども配した、
ポップなアレンジを施したアルバムとなっていました。
こういうサウンドは、70年代サンバで育ったぼくとしては懐かしく、
リルド・オーラがプロデュースした、マルチーニョ・ダ・ヴィオラや
ベッチ・カルヴァーリョなどの70年代サンバの諸作を思いおこさせます。
半径100メートル以内の聞き手や、サンバのツウ向けではなく、
広く一般にアピールするプロデュースは、コミュニティの中だけに閉じこもらない、
開かれた風通しの良さを感じさせ、気持ちがいいものです。
チアンジーニョ自身にしても、ヴェーリャ・グァルダのような枯れた味わいや、
シブさで勝負するほど年老いてはおらず、
ほがらかな親しみやすい声と温もりの伝わる歌いぶりが、聴く者の心をなごませます。
ソングライターとしても、伝統的なエンレードばかりでなく、ポップなサンバも書ける人で、
エミリオ・サンチアーゴやジョイスがチアンジーニョの曲を取り上げているとおり、
フックの利いたメロディが、楽曲に彩りを添えています。
ヴェーリャ・グァルダ級のサンビスタが、無理なくポピュラリティをアピールする
こんなサンバ・アルバムを制作していることに、頼もしく思いました。
インディ盤なれど、コミュニティにとどまらず外へ向けて歌っている姿勢に、喝采です。
Tiãozinho Da Mocidade "MULEKÊ TIÃÕ" Tiãozinho Produções Artísticas 066.023 (2010)
2011-03-16 00:00
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