SSブログ

アフリカ現代史を聴く アワディ [西アフリカ]

Awadi.JPG

セネガル、ダカールを代表するヒップ・ホップ・アーティスト、アワディが
5年の歳月をかけて完成させた新作“PRÉSIDENTS D’AFRIQUE” を発表しました。

クワメ・エンクルマ(ガーナ)、ナーセル(エジプト)、モディボ・ケイタ(マリ)、
セク・トゥーレ(ギネア)、ジョモ・ケニヤッタ(ケニヤ)、ジュリウス・ニエレレ(タンザニア)、
アミルカル・カブラル(ギネア=ビサウ)、ネルソン・マンデーラ(南ア)といった
アフリカの偉大な指導者たちの演説をコラージュした意欲作で、
アフリカ現代史を俯瞰した、壮大な内容となっています。
アフリカの指導者ばかりでなく、マーティン・ルーサー・キング、マルコム・X、エメ・セゼール、
フランツ・ファノンといった黒人解放運動家たちも加え、ぐっと内容に厚みを増しています。

独立が相次いだ「アフリカの年」から半世紀の2010年を睨んでリリースしたとのことで、
昨年中に聴けなかったのは、なんとも悔やまれますね。
記念すべき年にこれほどふさわしい作品はなく、ぜひベスト・アルバムに選びたかったところ。
そのかわり、バロジは蹴落とされただろうけども。

なんでアワディのアルバムは、いつも流通が悪いんでしょうかね。
前作“UN AUTRE MONDE EST POSSIBLE”(05)も日本に入ってきませんでしたが、
バイヤーの皆様方には、ぜひ入荷の努力をお願いしたいところです。

アフリカの若者たちに、偉大なアフリカの指導者を再認識して欲しかったというアワディ、
歴史の教科書から知識として知るのではなく、
彼らの肉声からそのパッションを汲み取らせようとしたその意図は、
豊かな音楽性のプロダクションによって、見事に具現化されています。
冒頭2曲目の、マーティン・ルーサー・キングの“I Have A Dream” に答えるように、
バラク・オバーマの“Yes We Can” が被さる箇所なんて、いかにもなアイディアとはいえ、
じっさいに耳にすると、グッときますよ。
肉声が持つパワーを引き出すスキルは、さすがラッパーですね。
キング牧師の重く湿った声と、オバーマのカラッと明るく乾いた声、
その声の対比に、半世紀の感慨を覚えずにはおれませんでした。
個人的には、フランツ・ファノンの演説にも感じ入りましたね。
若い時フランツ・ファノンの著作を読み、ずいぶんと感化されたことがあるもんで。

このアルバムでラップするのはアワディ一人だけでなく、
南アのスクワッタ・カンプ、ブルキナ・ファソのスモッキー、マリのババニ・コネ、タタ・プンド、
ケニヤのマジ・マジ、コンゴのレクサス、アンティーユのティウォニ、レディ・スウィーティ、
アメリカのデッド・プレスなど、アフリカ各国に加えカリブ、アメリカから大勢のラッパーを
ゲストに迎え、それぞれ出身の指導者の声と共演させています。

ひとつ気になったのは、
アワディの母国セネガルのレオポール・セダール・サンゴールが登場しないこと。
ネグリチュード運動の牽引者で、セネガルの初代大統領となったサンゴールを無視するとは、
なんか事情でもあったんですかね。これだけのアーカイヴを集めながら、
いかにも画竜点晴を欠くで、その点だけが残念でありました。

Awadi "PRÉSIDENTS D’AFRIQUE" Peripheria PECD5467 (2010)
コメント(6) 

コメント 6

ケンジキエン

お久しぶりです。以前、ホセー・アントニオ・メンデスの件でコメントさせて頂きました。正直言って、ラップは苦手と思い込んでおりましたが、これは手に入れなくては。だって、フランツ・ファノンですよ。いや、正直、ファノンのことを語れる人に音楽のブログで出会えるとは。しかも、このCDにはファノンの演説も入っている!。ファノンやセゼールの演説が実に素晴らしく、聴衆の女性を卒倒させたというエピソードは何かの資料で読んだことがありましたが、まだ聞いたことはありませんでした。あの“地に呪われたる者”の
肉声とはいかに。楽しみです。

by ケンジキエン (2011-04-27 19:50) 

bunboni

うわ、うれしいです。フランツ・ファノンに反応してくださる方がいらっしゃるとは!
そうなんです。ぼくもフランツ・ファノンのナマ声を聴いたのは初めてだったので、
それだけでカンゲキしてしまいました。メロウなトラックにのせているところも、
怒りと苦しみの苦闘の果てにたどり着いた、ファノンの人間解放の祈りを聴くような思いがしました。
by bunboni (2011-04-27 22:58) 

ケンジキエン

もう30年、それ以上たつでしょうか、ヒップホップやラップがやっと日本に紹介され出したころです。ストークリー・カーマイケル‐ブラックパワー運動のリーダーですね‐の演説を聞き、衝撃を受けました。その内容ではなく、演説のサウンドにです。声がうねり、言葉が躍り、その音が下腹をドラムのようにびんびん響くのです。この演説に比べれば、その後のラップなんてのは炭酸の抜けたコーラのようにしか思えませんでした。さてアワディがどこまでこの衝撃に迫れるか?楽しみです。アマゾンで注文してしまいました。
ファノン、一部の左翼インテリを除き、とうに読者を失ったと思っていましたが、やはりアフリカではこうして受け継がれているんですね。高度な知性と才気、皮肉、そしてあまりにストレートな純真さのアマルガム、この埋もれかけている遺産を若い人たちにしってもらいたいものです。
by ケンジキエン (2011-04-28 21:41) 

bunboni

おっしゃるとおりです。
フランス語をまったく解さないぼくが感じ入るのは、肉声の音楽であって、言葉の意味じゃありません。まあ、ラップだろうが、説経節だろうが、エンボラーダだろうが、そこで語られる内容を平気で無視して聴いてしまう、ただの音楽クレイズですから、左翼インテリには叱られそうですね……。

by bunboni (2011-04-28 22:23) 

ケンジキエン

Awadi聞かせて頂きました。コラージュされているブラックイデオローグの出身地に合わせて、バックサウンドも変えているんですね。ナセルにはいかにもエジプト風のストリングス、マンデーラには南ア風のコーラスとギター、そしてセク・トゥーレにはグリオ風の演奏でサリフが出てくるかと思ってしまいました。アフリカ音楽周遊旅行という感じでとても面白い。しかし、何といっても一番、印象に残るのは各イデオローグたちの演説。マルコムXのドスの効いた早口、ファノンの明晰そのもののクールさ、ケニヤッタ、ニエレレ、マンデーラの長老的余裕の中のユーモアと明るさ。オバマなどこの中ではまだひよっ子ですね。それにしても、音楽や主人公であるはずのラップよりこっちの方が目立つというのはマズイじゃないんでしょーか?
by ケンジキエン (2011-05-22 12:05) 

bunboni

ラップより指導者たちの肉声が目立つ結果になったのは、
リスペクトの深さだと解釈してあげたいと思います。
by bunboni (2011-05-22 12:33) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。