艶美な語り 豊竹呂昇 [日本]
明治から大正にかけて娘義太夫(女流義太夫)の黄金時代を飾った大スター、
豊竹呂昇(とよたけろしょう)のナマ声をついに聴くことができました。
呂昇に熱狂した書生たちがこぞって追っかけをし社会問題になっただの、
貴族伯爵から実業家、金満家たちの贔屓筋が邸宅に招こうと競い合っただの、
逸話は山ほど聞かされるものの、じっさいの声を聴くチャンスはないままでした。
初CD化でたっぷり78分、その語りを堪能させてもらいましたが、いやー、すんごいです。
当時の男どもが萌えたのもナットクの、ノイズまじりの録音をものともしない、
呂昇の明晰な発声と美声に魅せられました。
男の義太夫が文楽人形の裏方にすぎないのに対し、
娘義太夫は太夫が主役だからこそ、表現もよりストレイトでダイナミックなんですね。
しかも太夫自身が三味線を弾き語るので、
迫真部分の語り口のなまなましさは説経節や浪曲にも負けません。
もっとも晩年の録音では、呂昇も三味線を人に任せたようで、
本CDにも弾き語りでない音源が交じっているようですが。
そして、なによりいいのが呂昇の声。
明るさと華があるその声は、まさしく天性というほかありません。
ふっくらとした艶美な語りは、いかにも女性らしい柔らかさなんですけれど、
その心地よさにうっとりとしていると、ぽーんと突き放されるような冷たさがあって、
こうした手綱さばきに、当時の男たちはメロメロになったんでしょうね。
呂昇の語りには聞き手を翻弄させる円転滑脱さがあって、
こういう魅力は、常磐津や清元といった洗練された浄瑠璃には見当たらないんじゃないかなあ。
たいして常磐津や清元を聴いているわけでもないので、自信はないですけれど。
こうなると、呂昇と人気を二分した竹本綾之助も聴いてみたくなりますねえ。
東京の竹本綾之助と大阪の豊竹呂昇は、東西の二大スターだったんですからね。
呂昇も生涯に500面ものSP録音を残しているので、CD復刻は今後も続けてもらわないと。
できることなら大手レコード会社じゃなく、インディで復刻してもらいたいものです。
なんせ大手が作ると、このCDみたく短い略歴を載せただけの手抜き解説、
録音年や原盤などのクレジット皆無という、やる気のなさですからね。
こういう歴史的録音の復刻は、熱意ある研究者やSPコレクターが関わんなきゃダメです。
豊竹呂昇 「義太夫名演集」 日本コロムビア COCJ37069
2012-06-06 00:00
コメント(2)
面白そうなので、僕も探し出して聞いてみました。
豊竹呂昇という名前は今まで聞いたことがなかったですが、良いですねぇ。聞いたのは「壺坂」の一部ですが、演奏も凄い...。それに、こんな声で艶物を掛けられたら、イチコロですわなぁ。
下北の「ノアルイズ・レコード」という中古版販売の店のサイトも有りましたが、竹本三蝶という人の義太夫も聞いてみたんですが、もうタイムスリップして、あの時代に飛んで行きたいです。
荻てつ
by Ogitetsu (2012-06-13 07:27)
呂昇の当時の人気は、ほんと凄まじいものがあったようですね。
美人だったからなおさらで、その人気があればこそ、あれほどレコードも吹き込めたんでしょうね。
この記事を書いたら、とあるSPコレクターさんから、若い頃のヴィクターやコロンビアの出張録音を聞かせてあげるとのメールをくださって、楽しみにしています。
by bunboni (2012-06-13 21:14)