アラバマ男のレッドネック・メリスマ ダン・ペン [北アメリカ]
あの世に持ってきたい<棺桶アルバム>といえば、
ボビー・チャールズのベアズヴィル盤とダン・ペンの“NOBODY'S FOOL”。
ボビー・チャールズについては前に書きましたけれど、
ダン・ペンを取り上げるのは、これが初めてですね。
ジャケットも秀逸な“NOBODY'S FOOL” を吉祥寺の芽瑠璃堂で買った日のことは、
今でもはっきり覚えています。高校3年の冬、ちょうど今頃だったんじゃなかったっけ。
その日以来“NOBODY'S FOOL” は、ぼくの人生になくてはならない宝物となりました。
“NOBODY'S FOOL” があまりにも自分にとって特別なアルバムとなってしまい、
21年ぶりに出た94年の2作目“DO RIGHT MAN” には入れ込めなかったんですけど、
今回いきなり登場した60年代半ばのフェイム録音には、言葉にならない感動を覚えました。
最初CDを目にした時は、ギターを抱えたこのひょろっとした若者が
ダン・ペンとはにわかに信じがたく、ちょっとびっくり。
太鼓腹の大男となった今の姿からは、まるで別人ですねえ。
それはともかく、伝説化していたダン・ペンのフェイム録音は、
想像をはるかに上回る素晴らしいものでした。
ソウル・ミュージック史に残る名作曲家である、
ダン・ペンのソングライティングの説得力は言うに及ばず、
それ以上に魂を持っていかれるのが、コクの深いヴォーカルの魅力です。
一語一語から発せられる、これぞソウルといったフィーリングは、まさに黒人そのもの。
知らない人が聴いたら、これを歌っているのが白人とは、とても思わないんでしょうねえ。
解説に書かれていた「レッドネック・メリスマ」という表現にいたく共感したんですけれど、
これぞぼくが“NOBODY'S FOOL” でトリコになった、
教会育ちの南部人のフィール溢れる、ダンのヴォーカルの魅力ですよ。
“Uptight Good Woman”“Unfair”“Take Me (Just As I Am)”“Long Ago” どこを取っても、
アラバマのホワイト・ソウル・マンと呼ぶにふさわしい名唱がぎっしりと詰まっています。
バックのサウンドの完成度の高さにも、ぐうの音が出ません。
なんせフェイムの精鋭ミュージシャンたちが務めているんですからねえ。
デモ音源などといったレヴェルでは、もちろんありません。
これほどの録音が半世紀もお蔵入りしていたなんて、犯罪的ですよ。
ダン・ペンは、99年にスプーナー・オールダムとともに来日してくれたんですが、
その時のステージでは、“NOBODY'S FOOL” の老成したヴォーカルではなく、
若々しい歌声を聞かせてくれたことが、なにより嬉しかったですね。
名盤を懐古するようなステージではなく、
今現在のダン・ペンを聞かせてくれたことにとても満足しました。
ライヴ終了後、楽屋でダンと対面した時は、
南部の農夫のようながっしりとした大男ぶりに、ちょっとたじろいだっけなあ。
身長178センチのぼくが見上げるような、でっかい人でした。
握手もぎゅっと強く握ってきて、その逞しさは実にアメリカ南部男らしかったですねえ。
ダン・ペンにはお蔵入りしている音源がまだあって、
“NOBODY'S FOOL” に続いてベル・レコードから74年にリリースされる予定だった
“EMMET THE SINGING RANGER LIVE IN THE WOODS” と、
82年に残したゴスペル・アルバムの存在が知られています。
いずれこれらも陽の目を見ることを期待しましょう。
[LP] Dan Penn "NOBODY'S FOOL" Bell 1127 (1973)
Dan Penn "THE FAME RECORDINGS" Ace CDCHD1353
Dan Penn and Spooner Oldham "MOMENTS FROM THIS THEATRE" Proper/Bluefive PRPCD9 (1999)
2012-12-09 00:00
コメント(12)
99年のステージではまさか歌うと思わなかった「Rainbow Road」を歌い始めたときは思わず声を上げてしまいました。
世代的に「DO RIGHT MAN」に思い入れがあるんですが、より思い入れがあるのは姉妹盤のようなアーサー・アレクサンダーの遺作「Lonely Just Like Me」ですね。
by Astral (2012-12-09 12:59)
ダン曰く、“Rainbow Road” はアーサー・アレクサンダーのことを歌ったのではなく、
アーサーのために歌ったんだそうですね。
by bunboni (2012-12-09 18:13)
99年のライブは個人的には、あの年のベストワンライブだと思っています。
私も「DO RIGHT MAN」に強い思い入れがあり、あのアルバムを聞きながら、「アメリカ南部」ということについてあれこれと思いを馳せていました。
「I’m Your Puppet」のいじらしさが堪りません。
ダンはパートナーを代えて再来日しましたが、そのライブも現役バリバリといった感じでとても良かった。
by dai626ku (2012-12-12 08:16)
“DO RIGHT MAN” 、評判いいなあ。ダン・ペン名曲集ですもんねえ。
でも、やっぱぼくにはあのアルバムは甘味が強すぎで、
“NOBODY'S FOOL” のような苦味が足りないのが不満です。
ぼくは二度目の来日はパスしてしまいました。
ハコがダン・ペンにふさわしくない感じがして。
by bunboni (2012-12-12 20:28)
"Do Right Man" や "Moments From This Theatre" からダン・ペンのファンになった人達にとって“NOBODY'S FOOL”は余り評価されていないみたいですね。“NOBODY'S FOOL”は自分のやりたい音楽をやりきった感がありますね。新しいカントリー・ソウル・ポップというか後のAlex Chiltonがやろうとした、パワー・ポップの魁ですね。ほとんど1969年から1970年位に完成していて発売時期をうかがっていたような。もっと早く出した方がインパクトあったかも。
当時ダン・ペンは新しいパートナーと新しいサウンドを模索していました。
http://www.geocities.jp/hideki_wtnb/dan-penn-challenge.html
by HIDEKI WATANABE (2012-12-16 16:38)
コメントありがとうございます。
リンク先をのぞいて、びっくり! こんな詳しいサイトがあったとは存じ上げませんでした。知らないことがたくさんありそうで、これからじっくり読まさせていただきます。99年来日時のブートレグが出てるなんて、初耳でした。。。
by bunboni (2012-12-16 16:54)
早速、コメントいただきありがとうございます。
Dan Pennに関しては、世界一詳しいページを目指しています。
当方の全体のスタート・ページはこちらです。
http://www.geocities.jp/hideki_wtnb/music.html
Bobby Charles のページもあるので、是非見てください。
by HIDEKI WATANABE (2012-12-16 22:44)
すばらしい研究サイトですね。参考にさせていただきます。
by bunboni (2012-12-17 06:07)
吉祥寺の芽瑠璃堂なつかしいなぁ。
John Simon's Album を買うために開店前に長蛇の列にならんだなぁ。
Cyrus Faryar の Livin' In A Land O' Sunshine が突然店内でかかって、店員さんに『これ誰がうたっているんですか』って聞いたなぁ。
青山のメロディ・ハウスと双璧でしたね。
あれから40年たったんだ。感慨深い。
by HIDEKI WATANABE (2013-06-08 09:48)
その長蛇の列にぼくもいました。(*´ー`)ゞ
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2009-12-13
by bunboni (2013-06-08 10:10)
久々おじゃましました。あの列にいたんですね。貧乏学生だったのでFifth Ave. Bandは買えなかったな。
ところでDan Penn Demo Vol.3出ました。Building Fire という曲があの未発表アルバムに入るはずだった曲で1973年頃の録音です。昔のあの頃の声で、それもカントリーとR&Bの2バージョン入ってます。1979年のクリスマスカードとして自主制作したシングルの片面も収録。
http://www.geocities.jp/hideki_wtnb/dan6th.html
http://www.geocities.jp/hideki_wtnb/about-holiday.html
http://www.geocities.jp/hideki_wtnb/nobody-fool-kaisetsu.html
by HIDEKI WATANABE (2013-09-21 04:01)
これは早速聴かねば。情報ありがとうございます。
by bunboni (2013-09-21 11:04)