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トリニダーディアン・ディアスポラがつなぐ過去と現代 コボ・タウン [カリブ海]

Kobo Town  CARNIVAL OF THE GHOSTS.jpg

コボ・タウンは、トリニダード島生まれカナダ育ちのドリュー・ゴンサルヴェスのグループ。
4作目となる新作には、熱心なカリプソ・ファンにはおなじみの絵が飾られています。
その絵は、ビクトリア朝時代のロンドンで活躍した
新聞画家で戦争通信員のメルトン・プライア(1845-1910)が描いた、
1888年のポート・オヴ・スペイン、フレデリック・ストリートのカーニヴァル。

HISTORY OF CARNIVAL  CHRISTMAS, CARNIVAL, CALENDA AND CALYPSO.jpg

イギリスのコレクター・レーベル、マッチボックスから93年に出た
“HISTORY OF CARNIVAL”のジャケットに飾られていた絵ですね。
そのマッチボックス盤は、カリプソのルーツであるスティック・ファイティングの伴奏音楽
カリンダにスポットをあてて、トリニダードのカーニヴァルの歴史をたどった編集盤でした。
コボ・タウンも、まさにカイソやカリンダといったトリニダード音楽の古層に目を向けて、
ディアスポラの立ち位置で伝統の再構築を試みているグループなので、
このジャケットにはピンときましたよ。

カリプソがダンス音楽ではなく、歌詞を聞かせる音楽であったことは、
現在のトリニダーディアンはすっかり忘れてしまっているかのようにみえます。
ドリュー・ゴンサルヴェスは、ユーモラスな物語の中に風刺の利いたメッセージを
埋め込むという、かつてのカリプソニアンたちと同じ批評精神で作曲したオリジナル曲で、
トリニダード大衆文化が持っていた逞しさをよみがえらせています。
それはどこか、V・S・ナイポールの傑作短編集
『ミゲル・ストリート』と共振するものを感じさせます。

トリニダード島で13歳まで暮らしたドリューは、両親の離婚後、
母親の故国カナダへ引っ越して、ディアスポラとなったわけですが、
トリニダード時代は近所にキチナーが住んでいたり、
カリプソはごく身近な存在だったといいます。
しかし、カリプソは少年の興味をそそる音楽ではなく、
当時はアイアン・メイデンなどのヘヴィ・メタルに夢中だったそうで(笑)、
ドリューがカリプソを再発見するのは、
カナダに移ってトリニダード島を懐かしむようになってからのこと。

カリプソを再発見して、カイソやカリンダの時代までさかのぼることによって、
内なるトリニダード文化を自覚するようになったドリューはルーツを学び直して、
コボ・タウンで実験を繰り返してきたのですね。
今作では、従来作以上にふんだんなアイディアが盛り込まれていて、
より充実した音楽性を聞かせています。

以前はレゲエをやっていましたけれど、今作はレゲエをやめて、スカを取り入れています。
レゲエよりもスカの方が、カリプソと並走するカリブ海音楽としての性格を
はっきりと打ち出せるし、オールド・カリプソとの親和性も高いですね。

さらに、ドリューの歌い口がグンとよくなりました。
ウイットに富んで、古いカリプソニンをホウフツさせていますよ。
ギターやクアトロに加えて、バンジョリンを弾いているのも絶妙。
そうした過去への回帰という要素と、ラガマフィンやエフェクトの多用や
生演奏とサンプリングを組み合わせることで、過去と現代をつないでいます。

間違いなくこれまでのコボ・タウンのアルバムでは最高作。
この力作が日本盤として配給されないとは、もったいないなあ。

Kobo Town "CARNIVAL OF THE GHOSTS" Stonetree ST104 (2022)
v.a. "HISTORY OF CARNIVAL: CHRISTMAS, CARNIVAL, CALENDA AND CALYPSO 1929-1939" Matchbox MBCD301-2
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