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ムラユの復活を待ち望んで グレネック [東南アジア]

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ゆるやかにうねるリズムに身を任せていると、マラッカ海峡を渡る船の波動が伝わってくるかのよう。
ひさしぶりにグレネックを聴きながら、想いはマラッカ海峡へと馳せるのでした。

グレネックは、ポップ・インドネシアの大御所リント・ハラハップが、
生まれ故郷であるスマトラのムラユ・デリを、
現代的にブラッシュアップしようと結成したグループです。
リント・ハラハップは音楽学者のリザルディ・シアギアンとともに、
失われかけたムラユ・デリをロック、ラテン、ジャズのアレンジで見事にモダン化してみせ、
00年に出したデビュー作は、ファンの間で話題沸騰となりました。
グレネックは20名近くのメンバーからなり、リントはボーカルとアクースティック・ギター、
リザルディはボーカルとガンブースを担当しています。

当時マレイシアでは、シティ・ヌールハリザの「チンダイ」を皮切りに、
伝統音楽のスタイルで作られた曲をがヒットを呼び、
伝統路線がちょっとしたブームになっていました。
それに比べてインドネシアでは、
このような本格的なムラユは数十年来聞かれなくなっていただけに、
グレネックの登場はまさしくセンセーショナルだったのです。

ガンブースやグンダンなど伝統楽器の生音に、
エレキ・ギターを巧みに絡ませたアレンジも鮮やかで、
こんなアルバムが続々出るようになったら、
インドネシア音楽もすごいことになりそうと期待したんですが、
あとに続くアルバムはとうとう出ずじまい。残念ながら、これ1作だけで終わってしまいました。

いまでもたまに聴き返すんですけど、う~ん、やっぱりすばらしいアルバムですね。
とうの昔に歌手を引退し、地元のイスラーム寺院で子供たちに宗教歌を教えていたという、
メダン出身の往年のヴェテラン女性歌手、
ヌル・アイヌンを引っ張り出して歌わせたのも感涙ものでした。
惜しむらくはメリハリのないミックスで、ミックスをやり直せば、見違えるようになるはず。

グレネック以後のムラユ回帰といえば、
03年にイエット・ブスタミの“LAKSMANA RAJA DI LAUT” が話題となりましたけど、
イエットはダンドゥットをザッピン風味で聞かせただけで、
本格的なムラユ回帰とはいいがたいものでした。
もちろん、イエット・ブスタミのアルバムじたいは大好きなんですけどね。

あー、もうこういうムラユが復活することって、ないんですかねえ。
その後グレネックが活動を続けているのかどうかさえ不明ですけど、
こんな名作をたった1枚ポッと残して消えてしまうなんて、あまりにも残念です。

Grenek "SATU" Musica SRNCD003 (2000)
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