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日本人に発憤したアフリカ人アーティスト スザンナ・オウィヨ [東アフリカ]

Suzanna Owiyo.JPG

昨年の12月、関口義人さんが主宰される音樂夜噺に、
ケニヤ、ルオ人の伝統楽器ニャティティを演奏するアニャンゴこと向山恵理子さんが出演され、
ぼくが聞き役を務めさせていただくことになりました。

事前準備でケニヤのルオ人に関する文献や資料を読み直したり、情報を集めるうちに、
現在ケニヤでもっとも人気のある女性シンガーのスザンナ・オウィヨが新曲で、
なんと向山さんに捧げた歌を歌っていることが判明。
タイトルもずばり「アニャンゴ」という曲で、さっそく向山さんにメールでお知らせしたところ、
「アニャンゴ」はルオの一般的な女の子の名前なので、
私のことかどうかは分かりませんよというお返事。

いやいやいや、スザンナは向山さんのことを歌っているんですよー、とお伝えすると、
向山さんもびっくりして、大感激。
さっそくiTunesからダウンロードして、当日会場のみなさんにも聴いていただいたのでした。

その曲が入ったスザンナの3作目にあたる新作“MY ROOTS” が、
ノルウェイのレーベル、シルケリグ・クルチュールヴェルクスタからリリースされました。
スザンナが書いたライナーによれば、
ケニヤのテレビに出演していた向山さんがニャティティを弾いているのを見て驚愕し、
自分もルオ人としてのルーツに立ち返ろうと発憤し、この新作を制作したとあります。

ニャティティ奏者の祖父を持つスザンナは、女性が触ることはおろか、
近寄ることさえ禁じられているニャティティを、幼い頃密かにマスターしていました。
とはいえ、さすがに人前でニャティティを演奏するタブーを犯すことはできなかったわけですから、
地元のテレビでニャティティを弾く日本人女性を見た時の
スザンナの驚きは、想像に難くありませんね。
向山さんの姿に勇気づけられたスザンナは、ケニヤ人女性として人前で堂々とニャティティを弾き、
ルオのルーツに根ざしたアルバムを制作しようと決意したというんだから、
なんとも美しい話じゃないですか。

音樂夜噺で、'Anyango' の歌詞の内容について向山さんに訊いてみたところ、
「アニャンゴよ、あなたは若い。これからももっと勉強しなさい」みたいなことを歌っているとのこと。
向山さん、ちょっと苦笑いしてましたけど、スザンナは日本人に負けてなるものかと思ったのかな。
日本人の彼女にケニヤ人のスザンナが触発され、ルーツ回帰しただけでなく、
ニャティティ・プレイヤーとしてムキにさせたというのなら、なかなか痛快ですね。

スザンナはアルバム全編でニャティティをたっぷり弾いており、
ケンゲ・ケンゲが有名にした1弦フィドル、オルトゥや打楽器のマブンブンも加えるなど、
ルオの伝統楽器をポップなサウンドに巧みに取り入れています。
音樂夜噺の時、向山さんが解説してくれたところによると、
ニャティティはルオ人の暮らすニャンザ州の主に北部で弾かれ、
オルトゥは南部で多く使われているとのこと。
かつてニャティティとオルトゥは、それぞれ別の地域で演奏されていたそうですが、
最近では一緒に演奏されることも増えてきたとのことでした。

ケンゲ・ケンゲなどで聞かれるオルトゥは、
いかにも手製らしくコキコキと素朴な音色を響かせていますけど、
このアルバムで聞かれるオルトゥは、まるでヴァイオリンのように音程も正確。
改良されたオルトゥなのか、ノイズ成分がなくなってしまったのは、ちょっと残念な気もしますけど、
ポップなサウンドにはよく馴染んでいます。

ケニヤにはコンテンポラリーなポップスを歌うシンガーがゴマンといるなか、
スザンナは抜きん出た才能の持ち主といえますが、
この新作でまた一段とスケールの大きい歌手に成長したように思います。
アルバムには、ジンバブウェのオリヴァー・ムトゥクジも1曲ゲスト参加、華を添えています。
アニャンゴ・ファンのみなさんも、ぜひ聴いてみてください。

Suzanna Owiyo "MY ROOTS" Kirkelig Kulturverksted FXCD361 (2010)
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