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ニジェールのパワー・ロック タル・ナシオナル [西アフリカ]

Tal National  TANTABARA.jpg

痛快! 胸をすくとは、まさにこのこと。
これぞまさしく、ロックの高揚感でしょう。
ニジェールのタル・ナシオナル、インターナショナル・リリース3作目です。

13年のインターナショナル・デビュー作“KAANI” から、
15年の“ZOY ZOY” を経て今作と、コンスタントにアルバム制作を重ねて、
快進撃を続けているのは、嬉しい限りです。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-10-07

前のめりにつんのめる、ハチロクのビートで押し出してくるエネルギーの爆発力が圧巻。
スピーカーから唾が飛んできそうなヴォーカル、せわしなく反復を繰り返すギター、
手数の多いドラミング、ビートの合間を埋めるかのように乱打されるトーキング・ドラム、
バンドが一丸となって疾走するグルーヴに、血が騒ぎますねえ。

ライヴ・バンドのパワーを減じさせず、
ディスクに落とし込んだエンジニアリングも見事です。
前作がちょっとクリーンになりすぎたかと思わないでもなかったんですが、
今作はサウンドはクリーンでも、ムキだしのパワーを立体的に捉えていて、
それがバンドの圧倒的なダイナミズムをしっかりと再現しているんですね。
ローファイを狙ったイジったミキシングなどをしていないところにも、好感が持てます。

ライヴ、観たいねえ。
この人力グルーヴに、汗まみれになって踊りたいっ!

Tal National "TANTABARA" Fat Cat FATCD149 (2018)
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ケーンの名盤登場 カウホン・パチャン [東南アジア]

Khauhog Phachag  DIAOKHEEN SUDSANEEN.jpg

満月の夜。
どこからともなく聞こえてくるケーンの響きに吸い寄せられ、
音の主を探し歩いていくと、寺院の境内の脇でケーンを吹く男がいます。

身じろぎもせずに吹くかと思えば、
時にゆったりと身体を揺らしながら、
息継ぎもなしに、1曲5~6分に及ぶ長い曲を吹き続けます。
う~む、これがいわゆる循環奏法ですか。
一定の音量を保ったまま吹き続ける、その精度の高さに、
この楽器の達人だということは、シロウトの耳でもすぐにわかりますよ。

演奏にじっと耳を傾けていると、
和音の中で、メロディとドローンが同時並行で鳴っていることに気付きます。
細かい8分音符のパッセージでメロディが奏でられる裏で、ずっと持続するドローン音。
ふっとドローンが消えると、メロディが浮き立って聞こえたり、
メロディが止まって、コードがリズミックで鳴らされたりと、
曲の中でさまざまに変化するので、一瞬たりとも聴き逃せませんね。

リズムがスイッチする場面では、ピッチカートとレガートを巧みに使い分けています。
モーラムのような語りものの伴奏となるようなパートがある一方、
反復フレーズをひたすら繰り返しながら、
グルーヴを強調するダンス・パートがあったりと、変化のつけ方が鮮やか。
たった1台のケーンで、これほど豊かな演奏ができるんですねえ。
ケーンと同じフリー・リードの和楽器の笙では、11種類の和音(合竹)が出せますけれど、
笙の祖先のケーンは何種類の和音が出せるんだろう。

聴く前は、ケーンの完全ソロ演奏なんて、
単調で退屈するんじゃないかとも思ったんですが、とんでもありませんでした。
CDがラオス盤だったので、ラオス人なのかと思いきや、
この人、タイ東北部イサーンのケーン名人だそうです。
これぞヴィルトゥオーゾというべき名人芸に引き込まれる傑作です。

Khauhog Phachag "DIAOKHEEN SUDSANEEN" TS no number
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オリエンタリズム紙一重のフェイク・アラビック・ジャズ ヤズ・アハメド [ブリテン諸島]

Yazz Ahmed  LA SABOTEUSE.jpg

不思議なムードを持ったアルバムですね。

バーレーン生まれ、イギリスで音楽教育を受けて、
ロンドンで活動中という、女性トランペッターのセカンド作。
アラビックなクォーター・トーンを奏で、妖艶なエキゾティズムをふりまく、
経歴そのまんまのアラビック・ジャズを聞かせます。
バス・クラリネットやヴィブラフォンの起用が効果を上げていますね。

ジャズというには、ときおりムード・ミュージックみたいに聞こえてしまうのは、
アラブを強調した音づくりが、オリエンタリズム臭を漂わせているから。
アラビア語の朗読を交えたり、スピリチュアルなアラブ・ムードを醸し出す演出が、
どうもウサン臭く感じるのは、ぼくだけ?

たとえば、アラブのパーカッション、ダルブッカやレクのプレイにも、
それが表われていますね。ビートが利いてなくて、
効果音的なプレイに終始しているところなんて、
このパーカッショニスト、アラブ人じゃないのは、バレバレ。

アラブ人の出自が自然ににじみ出るとか、
ルーツを掘り下げるとかいった音楽では毛頭なくて、
まるで作り物ぽい、西側リスナーのウケを狙った演出が感じられます。

まあ、こういうスカしたスタイリッシュなジャズが好きな人には気にならない、
というより、フェイクとは気付かずにカッコいいと思っているんだろうけれど。
その演出がわかる者には抵抗もおぼえる、ビミョーなアルバムであります。
魅力的なんだけれども、ね。

一番の聴きどころは、スピード感のある“Bloom” かな。
このトラックだけ、やたらとカッコよく、抜きんでた仕上がりと思ったら、
なんと、レディオヘッドのカヴァーだそう。
レディオヘッドのオリジナル・ヴァージョンの方にも、ヤズが参加しているのだとか。
アラブ・ムードな曲より、こういうロックの方が、ぼくは好感がもてます。

厚手の紙で作られた見開きのカード・スリーヴ式ジャケットは、
艶消しのコーティングを施した贅沢な作りで、アートワークもステキ。
28ページもあるブックレットといい、フィジカル愛が炸裂しています。

Yazz Ahmed "LA SABOTEUSE" Naim NAIMCD340 (2017)
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トローバの味わいを伝える伝統ソン デュオ・メロディアス・クバーナス、エリアデス・オチョアとクアルテート・パトリア [カリブ海]

Dúo Melodías Cubanas, Eliades Ochoa Y El Cuarteto Patria.jpg

去年買い逃したまま、すっかり忘れていた1枚。
偶然店頭で見つけ、おお、そうだったと、あわてて手に取りました。
それがメロディアス・クバーナスを名乗るヴェテラン女性二人に、
ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブで名を上げたエリアデス・オチョアとの共演盤。

二人の女性の歌い口が、たまらなくいいんですよ。
ハモっているようないないような、微妙なハーモニー。
古いトローバのスタイル、ここにありですね。

伴奏を務めるクアルテート・パトリアともども、現代的なソンの感覚を加味しながら、
サンティアゴ・デ・クーバらしい伝統ソンの味わいをしっかりと受け継いでいて、
ヴィンテージならではの芳醇なコクを醸し出します。

ギタリスト、エリアデス・オチョアの歌も良くなったよなあ。
ブエナ・ビスタのメンバーのなかでは、ちょっと歌に大味なところがある人で、
正直ぼくはあまり好みではなかったんですけど、
余計な力が抜けて、軽快になりましたね。

本人たちは、ごく自然に、歌い演奏しているだけのことなんでしょうけど、
若い者にはとても真似のできない、まさに年季を経ないと出せない味わい。
このさりげなさがタマらんのですわ。

レパートリーも、いにしえのトロバドールのエウセビオ・デルフィン、
ミゲル・コンパニオーニ、マヌエル・コロナの曲に、
初期ソンの重要作曲家であるミゲル・マタモロスやイグナシオ・ピニェイロの名曲に加え、
プエルト・リコのラファエル・エルナンデスと選りすぐりで、じっくりと味わえます。

この世代がいなくなったら、もうこんな節回しで歌える歌手は、
キューバからいなくなってしまうんだろうなあ。
そう思うと、いっそうかけがえのないアルバムに思えてくる、珠玉の逸品です。

Dúo Melodías Cubanas, Eliades Ochoa Y El Cuarteto Patria "LOS AÑOS NO DETERMINAN" Egrem CD1405 (2016)
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幻のミャンマー女性歌手 キンニュンイー [東南アジア]

Khin Nyunt Yee  PAN PUN HLAYT PAR.jpg

ミャンマーでのレコーディングを終えて帰国した井口寛さんから、
またまたお土産をいただいてしまいました。
いつもありがとうございます。大感謝であります。
ヴェテランの風格を思わす女性のカヴァー写真に、
誰だろう?と思ったら、なんと、キンニュンイー!!!!!

思わず、エクスクラメーション・マークをいっぱい付けてしまったのは、
ずいぶん昔にその名前を知れど、じっさいの歌声はずっと聞けないままだった、
ぼくにとって、「幻」クラスの女性歌手だったからです。

いやぁ、長かったなあ。苦節25年ぐらいになるんじゃないか。
マーマーエー、チョー・ピョウン、ティンティンミャと並ぶヴェテラン歌手と聞くも、
CDはおろか、カセットもほとんど見当たらない歌手だったんですよ。

どうやらその理由は、建国の父アウンサンを称える歌などが、
軍政の弾圧によって放送禁止となり、マーマーエー同様、
キンニュンイーも活動を制限されてしまったようなんですね。
88年民主化運動以降、30年近く放送禁止となっていたキンニュンイーの歌が、
13年になってようやく、ヤンゴンのFM局で
エアプレイされるようになったという報道を目にしたぐらいですから。

ここ最近マーマーエーの録音がぞくぞくCD化されているように、
往年のヴェテラン歌手の音源復刻が活発化しているようで、
キンニュンイーもこうした流れで、リイシューが実現したようです。
これ、キンニュンイー初のCDなんじゃないでしょうか。
冒頭にちらっとシンセサイザーが出てくるあたりを見ると、
80年代録音と思われ、音質がプアなのは、カセット起こしだからかもしれません。

情のある歌い口で、優しい心根を想わす歌声に味わいがありますね。
ヴァイオリン・セクションが加わったり、
フネーの代わりにサックスを使った曲があるのも、妙味です。
ちんどんのサックスみたいな、風の如く自然に吹く風情がいいなあ。

四半世紀かかって、ようやく聴けた幻のミャンマー女性歌手、感涙です。

Khin Nyunt Yee "PAN PUN HLAYT PAR" Rai no number
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ゴリゴリのドニゴール伝統派三姉妹 ザ・フリーエル・シスターズ [ブリテン諸島]

The Friel Sisters  BEFORE THE SUN  FRL002.jpg   The Friel Sisters   FRL001.jpg

厳しい冬の寒さに音をあげ、春の訪れが恋しくなると聴きたくなるアイルランド音楽。
今年は、ドニゴールにルーツを持つ家系に生まれた、
グラスゴー出身の3人姉妹ザ・フリーエル・シスターズの新作が届きました。

アルタンのマレード・ニ・ウィニーが献辞を寄せていた4年前のデビュー作では、
ドニゴール訛りのフィドル・プレイに象徴されるとおり、
ゴリゴリの伝統音楽を聞かせてくれた彼女たちでしたけれど、
2作目もデビュー作同様、伝統に忠実な古風なスタイルを堅持しています。

3人のインタヴューを読むと、母方の祖先に音楽家が大勢いたとのことで、
祖母の兄弟姉妹がフィドル弾きや歌い手だったようです。
さらに叔父さんは、スコットランドのロック・バンド、
シンプル・マインズのメンバーだったとか。

グラスゴーに暮らしているといっても、
これだけゴリゴリのアイリッシュを奏でるのだから、面白いですよねえ。
3人が歌う無伴奏歌も、とても優美なんだけど、
芯にゴツッとしたものがあって、若いのに風格さえ感じさせますよ。

フィドル、イーリアン・パイプス、フルートの3人姉妹をサポートするのは、
ギターとブズーキの二人のみで、デビュー作にいたバウロンは、今回は不在。
ギターの音色がクリアで、タッチも明快ですがすがしく、いいギターだなあ、誰だろうと
クレジットを見たら、なんとHajime Takahasi!
うわお、なんと日本代表の高橋創が起用されています。

高校生デビューして、天才アイリッシュ・ギタリストと騒がれた高橋さん、
とうとう今はアイルランドで活動しているんですね。すごいなあ。
こういう伝統まっしぐらなアルバムで出会えるなんて、すごく嬉しい。
がぜんこのアルバムが、輝いてみえます。

今作では、トゥリーナとマレード姉妹に加え、
トミー・ピープルズまでもが献辞を寄せているんだから、
どれだけ期待が寄せられているかがわかろうというものです。

The Friel Sisters "BEFORE THE SUN" Friel Music FRL002 (2017)
The Friel Sisters "THE FRIEL SISTERS" Friel Music FRL001 (2013)
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コロゴを世界に紹介するヨーロッパ人 ガイ・ワン [西アフリカ]

Guy One  #1.jpg

キング・アイソバの良きライヴァルで、
ボラ・ナフォのお師匠さんというガイ・ワンが、
ついにインターナショナル向けのフル・アルバムを出しました。

プロデュースを務めたのは、ロンドンのジャズ・ファンク・バンド、
ヘリオセントリックスのメンバー、マックス・ヴァイセンフェルト。
マックスが主宰するレーベル、ポリフォンからのリリースで、
共同プロデュースに、マックスが所属するもう一つのバンド、
ザ・ホワイトフィールド・ブラザーズのメンバーである
ベンジャミン・シュピッツミューラーが名を連ねています。

マックスは、10年に初めて旅したガーナでガイ・ワンのCDを入手して驚き、
ガイ・ワンを探しにガーナへ再び訪れ、親交を持つようになったといいます。
13年にはガイ・ワンをベルリンへ招いてレコーディングを行い、
ポリフォンの第2弾リリースとなるシングルを出して、
ガイ・ワンの名が知られるようになりました。

その後、マックスがガーナへ赴いたり、ガイ・ワンがベルリンへやってきたりしながら、
コンサート活動を続け、こうした長い協働の成果が、
今回のフル・アルバムにつながったんですね。
ホーン・セクションを加えた曲など、伝統的なコロゴとはだいぶ趣の異なる
分厚いサウンドに演出した曲でも、コロゴが弾き出す強靭なビートは揺るぎなく、
マックスがこの音楽をしっかりと理解したプロデュースをしていることがわかります。

キング・アイソバのグリッタービート盤もそうでしたけれど、
カウンターパートのヨーロッパ人が、どれだけその音楽を理解しているかどうかに、
コラボの成否はかかっているといって間違いありませんね。

アイソバを世界に紹介したのが、オランダの越境オルタナ・パンク・バンド、
ジ・エックスのフロント・マン、ジアであることに気付いたのは、
だいぶあとになってからのことでした。
“WICKED LEADRERS” を入手した時も、なぜオランダ盤と思ったものでしたけれど、
マッカム・レコーズは、ジアが09年に設立したインディ・レーベルだったんですね。

ヘリオセントリックスとジ・エックスといえば、
前者はムラトゥ・アスタトゥケ、後者はゲタチュウ・メクリヤとの共演で注目されたとおり、
エチオピア音楽との接近が目立ちましたけれども、
それぞれのメンバーがコロゴに熱を上げたというのは、
面白い偶然ですね。

Guy One "#1" Philophon PH33002CD (2018)
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想い出のトバ湖 ムルニ・サーバキティ [東南アジア]

Murni Surbakti  NGULIHI SI TADING.jpg

スマトラ島北部トバ湖周辺に暮らすバタック人の音楽というと、
ぼくは大学3年生の時に地理学者で民俗音楽研究家の
江波戸昭先生のゼミ旅行で観た、
バタック人グループをどうしても思い出さずにはいれません。

当時江波戸先生は、学習院大学で地域経済学を教えていらして、
地域経済論ゼミの海外調査という名目で、
先生が関心のある民俗音楽を探訪するというゼミ旅行をしていたのでした。
ぼくはゼミ生ではなかったんですけれど、
スマトラ島北部トバ湖を目的地とする調査旅行で、
人数が足りないからと声をかけられ、参加したんですね。

その時の出来事は、江波戸先生が著された『民衆のいる音楽』(晶文社 1981)の
「シンシンソを求めて」に詳しく書かれています。
そのあとだいぶ経った92年に、先生がポータブル・レコーダーで録音した音源が、
JVCのワールド・シリーズから、
『シンシンソ/スマトラ島バタク族の歌声』として出されました。
そこにも収録された、ホテル・ダナウ・トバで観たシビゴという5人組の写真を、
いい機会なので載せておこうかな。40年近くも前に撮った写真なので、
ずいぶん退色してしまっていますけれども。

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さて、なんでまたそんな想い出話をしたかといえば、
バタックのサブ・グループであるカロの出身で、現在はポップスやジャズを歌っているという
女性歌手のユニークなアルバムを聴くことができたからです。
ムルニ・サーバキティがこのアルバムで歌っているのは、カロの伝統的な歌で、
バタック・カロの伝統演奏家とジャズ系のミュージシャンがコラボして、
ぐっとモダンにしたアレンジに衣替えしているんですね。

プロデュースは同じくカロにルーツを持つ、ポップ・シンガーのラモナ・プルバ。
こういう試みって、ほかにも東南アジアにありましたね。
ヴェトナムのヴェテラン・シンガーのタン・ニャンが、ヴェトナム北部の大衆歌劇チェオを
コンテンポラリー・ジャズのマナーでアレンジした“YẾM ĐÀO XUỐNG PHỐ”(13)も、
同趣向のハイブリッドな作品でした。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2014-03-18

バタックの民俗楽器として有名なクルチャピ
(琵琶を細く小さくした形の2弦楽器)は、
上の写真でも見ることができます。ジビゴは横笛のスリンを使っていましたが、
カロはスリンではなく、縦笛のスルナイ、木笛スルダン、
竹製リコーダーのバロバットを使うようで、
細長く小ぶりの太鼓グンダンに、ゴング、ペンガナックが使われています。
カロの伝統音楽で使われるこうした楽器の写真がCD見開き内にも載せられています。

ぼくが40年前に観たシビゴは、
スリンや木琴を使っていたので、カロではなかったんでしょう。
バタック人は、カロのほか、パクパク、トバ、シマングン、アンコラ、マンディリンという
全部で6つのサブ・グループに分かれ、抗争をしていた歴史を持っています。
共通して使うのは、クルチャピだけなのかも知れません。
ぼくもクルチャピを買ってきたんですけれど、
土産物屋の安物だったせいで、壊れてしまいました。

本作はシタールまで使っていて、
カロの伝統音楽をはみ出したところもあるのでしょうけれど、
野心的なアレンジで大胆なモダン化をした力作です。

Murni Surbakti "NGULIHI SI TADING" Demajors no number (2017)
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超絶カッコいいブラジリアン・ジャズ デアンジェロ・シルヴァ [ブラジル]

Deangelo Silva  DOWNRIVER.jpg

カッコいい! カッコよすぎる!! 憎たらしいくらいカッコええ~!!!

バカ丸出しであります。「カッコいい」以外、なんも出てこない。
ブラジルの新人ジャズ・ピアニストのデビュー自主制作盤、
テナー・サックス、トランペット、ギターにピアノ・トリオという編成で、
それはもう目の覚めるような、フレッシュさに溢れたジャズを演奏してくれます。
一聴でこんなに夢中になった人って、レユニオンのメディ・ジェルヴィル以来じゃないかな。

無理して言葉をひねり出せば、変拍子使いの作曲能力が、もうただごとじゃない。
次々と場面が変わっていく構成が、めちゃくちゃスリリングで、見事というほかない。
ここぞというところに、憎たらしいくらいキャッチーなキメが出てくるんだから、
もうマイっちゃいますよ。

そして、デアンジェロくんのピアノ・タッチの明快なこと、
高速ラインを粒立ち良く弾き切る、技術の高さ。
時にアブストラクトなラインを織り交ぜながら、
美しいソロを組み立てていくところも、いやはや、ケチのつけようがございません。

リズムを細かく割っていくドラムスなど、現代的ないまどきのジャズでありつつも、
インプロになると、従来の体育会系ジャズ的な
手に汗握るスリルも十分味わえるし、ポスト・ロック的な快感もある。
さらには、スタイリッシュで洗練されたオシャレ感もあるという、
全方位の、どういう好みのファンにもアピールするジャズであります。

デアンジェロ・シルヴァは、ブラッド・メルドーのファンを自任しており、
シャイ・マエストロとも交流があるとのこと。
そうでしょう、そうでしょう。よ~く、わかります。
それにしても、これが自主制作だっていうんだから、タメ息が出ますね。
もったいないというか、なんというか。

ギターのフェリーピ・ヴィラス・ボアス、
ドラムスのアンドレ・リモーン・ケイロスのプレイも特筆もの。
この二人の名前は、よく覚えておきましょう。

Deangelo Silva "DOWNRIVER" no label no number (2017)
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1980年/大学4年生/六本木のディスコ グルーヴェリア [ブラジル]

Grooveria  MOTO CONTÍNUO.jpg

サンダリア・ジ・プラッタにガブリエル・モウラと、
昨年暮れからサンバ・ソウルの当たり盤が続いてますけど、
今度は、なんとまあ久しぶり、グルーヴェリアの新作ですよ!
いやあ、続くときは続くもんだ。

05年のデビュー作以来のアルバムと思ったら、
09年にライヴ盤をCDとDVDの両方出していたんですね。それは聞き逃しちゃったな。
でも、まあいいや、ライヴ盤は。やっぱり、スタジオ作ですよ。

で、この新作、ディスコですよ、ディスコ!
80年前後のマイケル・ジャクソン、EW&F、ジョージ・ベンソン、
チャカ・カーンのヒット曲が思い浮かぶ、 
あの時代のディスコを再現するかのようなサウンド。
なんだか、大学生時分にタイム・スリップするような気分になりますねえ。
すみません、60歳前後限定の感慨で。

セウ・ジョルジ、パウラ・リマ、マックス・デ・カストロといった
サンバ・ソウル系アーティストのレコーディングに欠かせないドラマーとして、
スタイオで引っ張りだこのトゥート・フェラスが、サンパウロのクラブ、マタ・カフェで
毎火曜日にライヴをしていたユニットが、このグルーヴェリア。

ここ4年ほど活動休止していたらしく、カムバック後の本作は、
ジャケット内に31人の写真を載せているように、ゲストを含めゴージャスな布陣。
徹頭徹尾プロの仕事を痛感させる、ダンサブルなフル・バンド・アレンジで、
トゥート・フェラスのオリジナルに、エドゥ・ロボ、バーデン・パウエル、シコ・ブアルキの
MPB名曲を料理しています。
ゲストで華を添えるのは、フェルナンド・アブレウ、マルチナーリア、ロジェー。
大学4年生だった1980年に六本木のディスコで踊っていたおぢさん、感涙です。

Grooveria "MOTO CONTÍNUO" Tratore 7899989909052 (2017)
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キュートなヨルバ・ポップ シミ [西アフリカ]

Simi SIMISOLA.jpg

いやぁ、か~わいぃ~♡

めちゃくちゃチャーミングな歌声を聞かせてくれるのは、
ナイジャ・ポップの女性シンガー・ソングライター、シミ。
声だけ聴いていると、ティーンかしらと思ってしまうんですけれど、
88年レゴス生まれ、もう29歳なんですね。
個性的なコケットリーな歌声は、ローズ・マーフィを少し思い浮かべたりも。

08年にデビュー作を出し、昨17年にようやく、
本セカンド作のリリースにこぎつけたとのこと。
12年から17年の間に14曲のシングルをリリースしていますが、
おいそれとアルバムは出せないんですね。
ナイジャ・ポップの競争の激しさが垣間見えます。

オープニングは、ピアノのイントロに始まるミュージカル調バラードという
王道のポップスぶりに、いささか面喰っていたら、
続く2曲目の ♪ジョロミ ジョロ♪ というリフレインに、ん?と耳が反応しました。

ナイジェリア音楽のオールド・ファンなら、ピンときますよね。
そう、ヴィクター・ウワイフォ往年のハイライフ・クラシック
“Joromi” のリフレインを巧みに引用しているんですよ。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2009-12-03

そして3曲目はなんと、エベネザー・オベイの87年の曲“Aimasiko” をカヴァー。
オリジナルよりも少しテンポを落とし、レイドバックしたムードで、
ゆるやかにスウィングするジュジュのグルーヴのキモチよさといったら。
インタールードでは、ちゃんとトーキング・ドラム2台の合奏も出てきますよ。
新たなメロディをアダプトして、オベイのジュジュをポップに塗り替えた、
秀逸なトラックです。

4曲目にもトーキング・ドラムがフィーチャーされるほか、
9曲目の“O Wa N'bę” もジュジュとアフロビーツ
(ナイジャ・ポップの新スタイル)のミックスとなっていて、
さりげないヨルバ・テイストのトラックが、
長くヨルバ音楽に親しんできたファンの頬をゆるませます。

このほか、メロウなアフロビーツの“Original Baby”、
柔らかな響きのハウスの“One Kain”、
クールなダンスホールの“Hip Hop Hurray”、
アデクンレ・ゴールドがゲスト参加した“Take Me Back” は、
アクースティック・ギターをメインに据えたフォーキーなトラックと、捨て曲ゼロ。

アルバム全体のサウンド・テクスチャーがふんわりと柔らかで、
トンがった部分がまるでないところが、もろ好みであります。

Simi "SIMISOLA" X3M Music no number (2017)
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輝くグリオ声 アイダ・サンブ [西アフリカ]

Aida Samb  WOYALMA.jpg

セネガル期待の新人アイダ・サンブの新作が届きましたよ。
デビュー作から5年ぶりとなる、セカンド・アルバムです。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-11-22

グリオの出自をくっきりと示す、鋼のように強い声には少し苦味もあって、
この声だけで、ご飯3杯いけますみたいな、味のあるいい声ですねえ。
往年のヴェテラン歌手キネ・ラムを継ぐ声の持ち主は、間違いなくこの人だなあ。

1曲目から、タマとサバールのパーカッションが豪快に弾けまくるンバラが炸裂。
ゲストのパペ・チョペットが後半で攻撃的なタスをぶちかましてくれます。
2曲目はがらりと変わって、ポップなナンバー。
ンバラではなく、少しテンポを落としたミディアムのラヴ・ソング。
デビュー作にはなかった新機軸ですね。
こういう曲でも、サンブの声はフックできらっと光りますねえ。
ハラムを前面に据えた伝統的なナンバーでは、
これぞグリオといったコブシの利いた節回しで聞かせてくれます。

驚いたのは、ラスト・トラックにフィーチャリングされたナイジェリアのウィズキッド。
こいつ、欧米進出だけじゃなく、セネガルまでマーケットを広げようとしてんのか。
すっかりスーパースター気取りで、う~ん、ヤなやつだな。
ちなみに、ぼくはウィズキッドをまったく評価しておりません。
プロデューサーの勇み足だな、この起用は。

ウィズキッドの起用は無内容の蛇足でしたけれど、
デビュー作の肩に力が入りすぎていたところも今回はなくなり、
順調に成長をうかがわせる快作となりました。

Aida Samb "WOYALMA" Prince Arts no number (2017)
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インターネット世代の作法 セフィ・ジスリング [西アジア]

Sefi Zisling  BEYOND THE THINGS I KNOW.jpg

やっぱり書いておこうかな。
なんだかんだで、もうふた月近く、ずっと聴いてるんだから。
去年いくつか買ってみたイスラエル音楽の新潮流が面白かったことは、
すでに書いたので、これはもういいかと思ったんですけれども。

イスラエルで引く手あまただというトランペッター、セフィ・ジスリングのソロ・アルバム。
ロウ・テープスのプロデューサー、リジョイサーとともに作り上げた作品です。
リジョイサーが奏でるウーリッツァーの甘美な音色は、
バターリング・トリオで経験済ですけれど、
独特のコード感が生み出す浮遊するサウンドと、たゆたうグルーヴが、
とにかく心地よいったら、ないんですよ。

演奏の基本は、セフィとリジョイサーの二人で作り上げていて、
曲によって、ヴォーカル、ベース、ドラムス、ギター、コンガ、
サックスとトロンボーンが加わるというプロダクション。
そのサウンドはアーバンなムードに溢れていて、オシャレでもあるんですけれど、
その低体温ぶりには、フュージョン的なニュアンスがまったくなく、
エレクトロニックなオルタナティヴ・ジャズという装いになっているんですね。

プログラミングが、どうしてこんなにオーガニックに響くんだろうなあ。
生演奏とプログラミングを、こんなふうに絶妙に溶け合わせることのできる才能って、
まさに新世代ならではと思えますね。
それともうひとつ、多様な音楽の消化のしかたも。

パンデイロがサンバのリズムを叩いていても、ドラムスやベースは、
サンバとまったく違うアクセントでビートを鳴らす2曲目や3曲目、
リジョイサーがプログラミングした親指ピアノのフレーズのループの上を、
セフィのトランペットがゆうゆうと泳ぐように吹く7曲目に、いたく感心しました。

音楽家が吸収してきた多様な音楽要素が、ごく自然ににじみ出ているんですね。
サンバやアフリカ音楽をやるつもりはさらさらなく、
自分の音楽に参照しているだけなので、
フェイク、インチキ、ツマミ食いといった悪印象を受けないんですね。
こんなところに、世界の情報にアクセスできて、
さまざまな音楽を容易に習得できるようになった、インターネット世代を実感します。

Sefi Zisling "BEYOND THE THINGS I KNOW" Time Grove Selections no number (2017)
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イスラエル人ロッカーと古典アラブ歌謡 ドゥドゥ・タッサ&ザ・クウェイティス [西アジア]

Dudu Tassa & The Kuwaits 2011.jpg   Dudu Tassa & The Kuwaits  ALA SHAWATI.jpg

写真家/音楽評論家の石田昌隆さんが、
「ミュージック・マガジン」1月号に書かれたイスラエル訪問記は、
ひさしぶりに音楽好奇心を思いっ切りくすぐられる、刺激的な読み物でした。

最近何かと話題になるイスラエルですけれど、
石田さんが取材されたドゥドゥ・タッサという音楽家にガゼン興味がわいて、
記事に紹介されていたCD2枚を、イスラエルにさっそくオーダー。
年末をはさんだせいか、ひと月近くかかりましたが、無事到着しました。

ロック・シンガーというドゥドゥ・タッサが、
普段どんなロックを歌っているのかはまったく知りませんが、
今回手に入れた2枚のアルバムは、30~40年代にイラクで人気を博した
サレーハ&ダウード・アル・クウェイティ兄弟の曲を現代化してカヴァーしたものです。
サレーハはドゥドゥの大叔父で、ダウードは祖父なんだそうです。

ドゥドゥ・タッサはイラク系のイスラエル人で、
アラブ世界をルーツとするオリエント系ユダヤ人、すなわちミズラヒムなのですね。
多数派アシュケナジーのイスラエルで、
ミズラヒムを標榜するような音楽をやるのが困難だった時代は、
ようやく終わろうとしているのを実感します。
クォーター・トゥ・アフリカの登場といい、なんだか感慨深いものがあります。

その昔、人気女性歌手のゼハヴァ・ベンが
ウム・クルスームのカヴァー・アルバムを出して、
コンサートを開いた時も、大騒ぎになったもんなあ。
日本の新聞にも記事が載ったほどですからね
それぐらい、イスラエルでアラブ音楽をやることは、はばかれたということです。

Zehava Ben  LOOKING FORWARD.jpg   Zehava Ben  SINGS OUM-KALSOUM.jpg

じっさいゼハヴァは、いくつかのアラブ諸国からボイコットも受けていましたしね。
ゼハヴァ・ベンは、モロッカン・ジューイッシュの家系のミズラヒムで、
デビュー作の表紙にも、“Hebrew Arabic Maroccan” とくっきり書くほど、
ミズラヒムのシンガーであることを内外に示して登場した、肝の据わった人でした。
ウム・クルスームに敬意を表して歌うことは、彼女だからこそでしたね。

石田さんの記事によると、ドゥドゥ・タッサはアラビア語を話せないものの、
アラビア語で歌っていて、その無頼な歌いっぷりは、
シャアビやライのシンガーを思わす味わいがあって、ゾクゾクしちゃいました。
11年作の7曲目や15年作の4曲目なんて、まるでハレドみたいじゃないですか。
いやあ、いい歌い手ですねえ。
アラブふうのこぶし回しも、なかなかのもので、
ほんとにイスラエル人?とか思っちゃいました。

パレスチナ人3人を含むバンドのザ・クウェイティスは、
いにしえのアラブ歌謡に、ロック・バンド・サウンドをアダプトして聞かせたり、
ウード、ヴァイオリン、カーヌーンといったアラブの弦の響きをいかした
さまざまなアレンジで、古きアラブ歌謡の味わいを濃密に抽出します。
これほどアラブ音楽の核心を捉えて、現代化に成功した作品もないんじゃないかな。
ラシッド・タハの『ディワン』を軽く超えちゃいましたね。

変則チューニングのギター伴奏で歌う曲では、
スラックキー・ギターのようなサウンドに耳を奪われたり、
アラブ古典の弦セレクションとコーラスを配した
アラビック・レゲエが、途中でバルカンに越境するような曲があったりと、
多彩なサウンド・カラーリングにも才能を感じさせます。
アレンジがどれも小手先の器用さではなく、
濃厚なアラブの味わいがドロリと滴り落ちてくるところがスゴイ。

すごい人、見つけてきたなあ、石田さん。さすがです。

【追記】2018.2.2
深沢美樹さんからサレーハ&ダウード兄弟のCDの存在について指摘いただきました。
すっかり忘れていましたねえ。ミュージック・マガジンの2008年10月号で、
単独復刻のARC Music盤を深沢さんがご紹介されていたのでした。
ほかにも、ダウードの録音が、Renair盤とHonnest Jon's盤にも収録されています。
深沢さん、ありがとうございました。

Daoud & Saleh Al-Kuwaity.jpgShbahoth.jpgGive Me Love.jpg

Dudu Tassa & The Kuwaitis "DUDU TASSA & THE KUWAITIS" Sisu Home Ent./Hed-Arzi 64989 (2011)
Dudu Tassa & The Kuwaitis "ALA SHAWATI" Sisu Home Ent./Hed-Arzi 08650562H (2015)
Zehava Ben "LOOKING FORWARD" ABCD Music CD010 (1994)
Zehava Ben "SINGS OUM-KALSOUM" Helicon 88105 (1995)
Daoud & Saleh Al-Kuwaity "MASTERS OF IRAQI MUSIC" ARC Music EUCD2154
Hagguli Shmuel Darzi, Selim Daoud, Yishaq Maroudy, Shlomo Mouallim, Israelite Choir
"SHBAHOTH : IRAQÍ-JEWÍSH SONG FROM THE 1920'S" Renair REN0126
Sayed Abbood, Salim Daoud, Said El Kurdi, Hdhairy Abou Aziz, Sultana Youssef, Mulla Abdussaheb and others
"GIVE ME LOVE : SONGS OF THE BROKENHEARTED - BAGHDAD, 1925-1929" Honest Jon's HJRCD35
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